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どうやら最前線らしい



 ───魔族…ね。

 兵士の言葉を反芻する。

 ”それ”がここでは何を意味し、”どういった”存在を差しているのかはわからないが───。

 目の前にいる彼らの深刻な表情を眺める限り、それは、人類にとって忌むべき象徴なのだろう。


 まぁ、もっとも───。

 人類が魔族(かれら)にどういった仕打ちを受けて来たのかなんて、何も知らない俺が分かる筈もないけど。


 もちろん。ある程度の予想はつく。

 彼らの反応をみればだいたいの想像はついてしまう。


 善なのか、それとも悪なのか───。


 物事の本質を見るのであれば、この世界の確執を知らない俺のような人間(ゆうしゃ)が一番公平に判断できるのだろうさ。

 まあ、ここにとばしたあの野郎は魔王を悪い奴だと断じていたけどさ。

 戦争なんざ、どちらも己の信念を貫いているものじゃないのか?

 どこかで読んだ受け売りを思い出しつつも。


 さりとて───実感なんてそうそう湧くはずがないのも確かだ。

 ましてや、その事態を受け入れる?


 冗談じゃないぞ。


 死んだことも。

 いきなり召喚されたことも。

 勇者だってことも。

 その義務も。

 全部だ。


 俺みたいに小心者な奴はさ。

 そう簡単に物事を割り切れないんだよ。

 なのにさ。

 いきなり魔族だって?


 ふぅ……と溜めていた息を吐き出すようにして下を向く。



 ──────いやさ。



 いくらなんでも早いだろ!?


 まだ、召喚されて間もないぞ?


 それなのにいきなり”魔族”?


 え?死ねと?遠まわしにそうおっしゃってる?


 ただでさえ混乱している中でなんだって?


 いきなり魔族が進行してきました?


 ほんとこの世界俺に優しくないな!!

 いや、世の物語の転換なんてそんなものだっけか?

 ここ現実だけど…俺当事者だけど……!!


 空想(フィクション)と違って現実(リアル)はそう都合よくないってかちくしょう───!!


 下手したら現実でぶつくさ言ってた頃の方がマシだったんじゃ……?

 なんてそう内心荒んでいた俺は。


「…どの……勇者殿!」


「!?…ッはい」

 突然の大声で我に返り、咄嗟に返事をする。


 どうやら呼ばれていたらしい。


 見れば、室内の視線が俺に集中していた。

 勇者って俺のことだもんな。

 一社会人の俺とは程遠い称号だよ全く。

 こんなに注目されたのは何時ぶりだろうか。

 さり気なく手汗を拭きつつ、声の主である王様を見やる。


 王様は、魔族の報せを受けたせいかどこか身を強張らせているが、それでも毅然とした態度を崩してはいない。むしろ緊張感漂う部屋内部の気迫も相まってより鋭い眼光で、なぜか俺を見つめてくる。

 目を逸らしたい。だけど逸らせない───そんな眼光だ。

 まあ、さっきから一歩も動いていないんですけどね。


 あの、状況が緊迫してるってわかってますけど、もう少しお手柔らかにお願いします。

 何がとは言わないけど、そろそろ本当にちびりそうだ。

 さすが、一国の王と呼ぶべきか。その眼力だけで魔族を殺せるんじゃないですかね。

 内心めっちゃビビッて王様が話すのを待つ。


 どれくらいこの息苦しさが続くのか―――なんて現実逃避気味に考えている俺の視線の先で、しかし、それはすぐに安堵へと変わる。なんだ、どうしてそんな急に相好を崩すんですかね。

 なに周囲もそれと同時にこれなら百人力だ、だの、勇者様が受けて下さったぞだの、言ってらっしゃるんですかね。

 待ってくれ。俺まだ何にもいってないぞ!勇者かどうかしか聞かれていないぞ、うん間違いない。

 いままでのやり取りを思い返しつつ、なんで、どうしてと混乱しているなか、どんどんと話は進んでいく。

 さっきまでの緊張感漂う物静かな空気は一体どこへ行ったんですかね。なに、この燃えるような熱気。


 え、もしかして勇者だから戦ってくれるとかそんな感じなんでしょうか。

 いやいやいや。間にもうひとクッションあってもいいんじゃないかな。


 例えば、一緒に戦ってくれぬか?みたいなさ!

 いや、やるって決意したし、受けるのは(やぶさ)かじゃないさ。

 ただ、魔族来る速さにちょっとびっくり、いやかなり驚いていただけだし?

 別にビビっていた訳じゃないし?


「早速だが、この国は魔族に侵攻されておる」

 知ってます。

 たったいま、そこで息を切らせた兵士の方が大声で叫びました。

 そうじゃないって?わかってるよ!


「ことは一刻を争う、我らの準備が整い次第すぐにでも向かっていただきたい」


 そういって俺の目を見つめる瞳は力強く、まっすぐであった。

 正面から射抜くようにして言われたその言葉に気圧された俺は―――気がつけば「はい」と答えていた。


 後に、その例えばなもうひとクッションが挟まれていたんだと、密かに知って乾いた笑いが出ることを、この時の俺はまだ知らない。


●●●●



 そして、あれよあれよという間に、気がつけば。

 俺はいま、王都【アルカサレ】の入口に決死の覚悟を決めた騎士団と、傭兵のようないで立ちをした方たちに囲まれながら、遠くから迫りくる集団を見ていた。

 なんだこれ。


 これに伴い、現在の俺の格好は着慣れたスーツじゃなくなっている。

 戦闘服って面じゃ一緒か?いまからすることは本物の戦闘だけどな。


 生まれてこの方喧嘩も碌にしたことない一般人こと俺は、騎士団たちの鎧を着込んだら動けなくなったので、周囲にいらっしゃる傭兵たちみたいな要所を最低限守り、機動力を重視した革鎧を申し訳程度に着こみ、これまた騎士団の所で借り受けたロングソード———は重かったので彼らのサブウェポンに当たる刃渡り三十センチくらいあるナイフを腰に差していた。

 もう一度言わせてほしい、なんだこれ。


 とりあえず、皆緊張した面持ちで大した会話もなく、全体的にピリピリした空気を醸し出している現在。

 俺は割と本気でこの場所から逃げ出したかった。

 場違いにも程があるだろ…!!


 皆日頃から鍛えているのだろう。凄くガタイがよく筋肉質だ。

 そのような集団のなか、それも王国の騎士団の最前線に立つ俺の体格は荒事とは程遠いようなひょろい体系である。

 周囲から凄く浮いていた。

 それを証明するかのように、つい先ほどまで、傭兵たちや末端の兵士たちに『なんだこいつ』って目でジロジロみられていた。

 その眼が正しいと思うよ本当に。


「どうして」


「なぜ、なのだろうな」

 ぼそっと呟いたその言葉は隣にいる眼光鋭い騎士に拾われた。

 何を隠そう、先ほど俺に剣をちらつかせて威圧して来た怖いお姉さんである。 


 まあ、俺の呟きは、『どうしてここに俺がいるんだろう』という現実逃避気味の言葉だからきっと伝わってはいないのだろうけど。

 そして彼女は「なぜこのタイミングで我が国が狙われたのだ…!」と続けていた。

 そこに関しては同意したい。

 本当に、なんで”いま”なんだよ。

 タイミングが良いのか悪いのか。本当にやめてほしい。


 そして、そんなやりとりを経てまもなく、それは来た。


 魔族だ。

















明日中にもう一話くらい書きたいな(願望)

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