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女騎士は語るⅢ

次回から主人公にもどりますたぶん。

 誰もが、これから起こる”こと”を固唾(かたず)をのんで見守る。


 他ならぬミリアも、それは例外ではなかった。


 部屋の中央に設置された儀式用の魔道具が詠唱を受けて起動し始め、魔方陣が形成されていく———。

 それはやがて眩く輝きだすと、玉座の間を覆い始める———そして、次の瞬間——————。


 カッ——————!!


 一際力強く「光」が弾け(・・)周囲に迸った。


 その膨大な光の奔流に誰もが目を庇った。そして、無意識のうちに身震いをする。


 その膨大な光は魔力で形成されていた。


 そこには、圧倒的な意思が宿っていた。


 本来、魔力とは可視化できるものでは無い。

 しかし、ここにいる誰もが、その光の奔流(まりょく)を視た。

 この儀式を行ったのは国が誇る魔術師の最高峰たちだ。

 それが一斉に魔力を限界にまで投じて行う儀式。魔力が可視化できることに違和感はない。



 だが。



 これを行う者達でさえ、この時は———その圧倒的な光の奔流に吞まれていた。

 後にこれらの儀式を行った者達は語る——————。

 あれは、私たちだけの力ではない。あの時、見えざる何かの———意志と力が加わっていた、と。



 それは思いのほか時間も経たずに、何事もなかったかのようにすぐに終息した。



 失敗か―――———。


 ミリアが気を取り直し、その中心を見据えると——————何時からそこに居たのか、そこには一人の少年がいた。


 目を疑った。


 咄嗟に腰の剣に手を伸ばし、目を凝らす。

 反対側に居た近衛騎士団長に至っては一歩踏み出し、王を守るかのように構えてすらいる。

 周囲もその事実に気づき始めたようすで、数泊遅れてザワザワし始めた。


 少年はどこか幼い面立ちをしていた。

 髪は漆黒———少なくともこの国、いや、大陸では見た事もない色である。

 髪質は寝起きであるかのように”ぼさぼさ”ではあるが、とくに不快感は無い。

 しかし、その(まなこ)は鋭利な刃物のように鋭く、冷たい印象を受けた。


 その眼と一瞬目が合った。


 その迫力に無意識のうちに気圧されたのか、手に汗をかいていることにミリアは気づき、愕然とする。


 自慢ではないが、ミリアは齢18にして平民の出でありながら、近衛副騎士団長にまで上り詰めた女傑である。

 その腕は団長ほどではないにせよ、国の最高峰の一角といっても差し支えない。

 その自負も少なからずあった。

 そんな自分が気圧されている。

 その事実に愕然としたのだ。


 冷や汗が首を伝う不快感にコクリと唾を飲み下して、ミリアは少年の一挙手一投足も見逃すまいと手に力を込めた。

 カチリと慣れしたんだ愛剣の重さを感じて、何とか平静を保つ。


「———ぉ……おお…おお……!!」

 そのような中。すぐ側で、陛下は感動した様な声を漏らした。


 まるで——————彼が勇者であると確信しているかのように。


「待っていた……。そなたが———勇者だな」

 その推測を裏付ける言葉は他ならぬ陛下自信によって放たれた。


「ええ―――そう……です」

 少年は一度目を閉じたのち、そう簡潔に答えた。


 ザワッ


 周囲がざわめき始めた。


 ———成功したのか!


 ———本当に彼は魔王を妥当しうる勇者なのか。


 それぞれの思惑を載せた言葉が錯綜しはじめた玉座の間を―――陛下はしばしの間遊ばせ、頃合いを見計らって留める。

 そんな陛下を感心したように見つめる彼は—――緊張した様子がなかった。

 むしろ、値踏みするかのように陛下を見つめていた。


 おそらく、このような場に慣れているのだろう。


 その堂々とした佇まいはただモノではない。

 ミリアは警戒心を強めた。


 陛下もそれに気づいているのだろう。そのうえで真剣なまなざしを彼に向け――――――。


「……この度は我が国の召喚に応じてくれて誠に感謝する。そして…いきなりこのような場所へ召喚して申し訳なくも思う」


 頭を下げた。


「陛下!?」

 ミリアが思わず声を上げてしまったことを一体誰が責められようか。


 ミリアだけではない。


「頭をお上げください陛下!!王たるもの、軽々しく頭を下げてはなりませぬ!!」

 大臣も、この対応には唖然としているのか、その言葉はどこか己に言い聞かせているようにみえた。


 周囲も、大臣の言葉にしきりにうなずいている。


 しかし、そんな陛下に対して—――。


「…………」

 彼が何かをいう事はない。


 むしろ黙って陛下を見るその姿は、どこか睨みつけるようですらあった。


 その眼光鋭い無言の眼差しに気づいた周囲はおろか、国王本人でさえも、じっとりと汗をかいている。

 やはり、彼は勇者などではなく、我々の敵ではないのか――――。

 静まり返った異様な空間のなかで、そんな疑問をミリアは抱く。


 ピリピリとした空気のなかで、また、彼と目が合った。


 その眼光は鋭く、先ほどよりも細められた目元に威圧されたミリアは怯む。

 そんな自分を叱咤するかのように、さり気なく汗を拭った手を再び柄尻に添える。


 どれほど、時間が経ったのか―――そんな異様な空間は、一人の兵士が扉を勢いよく開く音によって打ち破られた。

 バンッ!!と大きな音が部屋中に響き渡り、周囲の注意がその発生源へと逸れる。


 彼を除いて。


 まるで、あの兵士の存在を感知していたかのように。


 彼は動かない。

 その視線も依然とこちらから動く事無く―――。


 彼は私たちを黙って見つめていた。


 その眼光は今もなお変わることなく鋭いが—――打って変わってどこか不思議そうにも、その時のミリアにはみえた。


 気づいてなかったのか?と。

 そう問われた気がして、羞恥に頬を染める。


 本来であれば、陛下の身辺を警護する身であるミリアにとって、それはあってはならないことであった。

 他人よりも気配に敏感でなければここには立てないことをミリアは知っている。

 しかし、今は、この”イレギュラー”とも呼べる少年に意識の大半をもっていかれ、周囲の警戒がおろそかであったのだ。


 それを会って間もない彼に諭された気がして―――ミリアは羞恥した。

 屈辱だと怒りも沸いた。


 それも無理はないことではあるのだが、生真面目なミリアはそれを許さない。


 己を恥じた、同時に密かに気づかせてくれた彼にも感謝し、ミリアは扉を開け放った兵士に誰何する。


「貴様!今は大事な謁見中であるぞ!コトと次第によっては———」


 そう、いまは大事な謁見中であると言っても過言ではない。


 そして、自分は近衛副騎士団長である。

 それを示すべく、傲慢に不遜に振る舞うことも時には求められた。

 ガラではないと自覚しつつも問いかけたその言葉を遮るようにして、兵士は叫んだ。


「大変です!!魔族が進行してきました!!」


 ミリアを含め、その言葉を聞いた者達は例外なく目を見開いた。



 これは運命の悪戯なのか。



 勇者召喚と同時に—――国の存亡を揺るがす大事が知らされた。









今更ですが、この作品は勘違いもの成分あります。


誤字脱字の指摘、ご意見ご感想お待ちしています。

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