9 おわり
「早く、急いで実直さん」
「ちょっと待ってくれ、タイが締められない」
息子が学生のときに結んでやっていたネクタイの締め方を思い出しながら何とか結んでやる。こんなので良かったんだっけ?
「もう、洋風の結婚式なんて30年ぶり位だから」
外で車を待機させている長男が痺れを切らしている。留守番の修行僧がドアを開けて送り出してくれた。
「時間平気かしら」
「これでも早めに着くよ。もう、母さんはせっかちだよ」
カーナビを操作しながら長男がうんざりしたように言った。
「だって慣れない事ばっかりで大変なのよ。教会式でやるものだから、帰ってきたらこっちの方で御披露目会を準備しなくちゃいけないし。栞ちゃんがどうしてもウエディングドレスが着たいだなんて我儘を言うものだから…全く、あの二人は。それでなくてももう妊娠しているというのに」
「この期に及んでそれじゃあ、嫁姑問題になるのが見えるよ。太陽は坊主にならないんだから、あまり干渉しないほうがいいよ」
夫は歳を取ってすっかり日和見。久しぶりにスーツ姿を見ると新鮮だわ。若い頃はたまに着る事もあったけど。
「正直、あんた飲みすぎないのよ。私に似て弱いんだから」
「母さんは自分が弱いと思っているのが問題だよ。あんだけ飲むくせに」
「まあまあ、今日はお祝いの席なんだから」
予定より早く会場についた。式だけをしてお寺に移動するので、市の小さな教会。実際には結婚式用教会風の建物。
大丈夫、ここで間違いないわ。会場案内には、駒木家、金石家様とある。
あのウエディングドレスの中にいるのは、私の人生を翻弄してまで生まれてくる強い魔法の力を持った女の子。こんな私でも高祖母の力は受け継いでいるのね、そこにいるのがあなただって会った時にすぐわかったの。
この嫁を見るに、随分我が強くなりそうだけど。本当はね、いよいよ会えると楽しみで早く出てくればいいのにと思っているの。
今日は太陽と栞ちゃんの結婚式。御披露目には苗達も来てくれたわ。
沢山の人がお祝いしてくれるこの環境に幸せを感じます。
これが私の、最高の人生。