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この日記はフィクションです。  作者: 和洲さなか
1/9

1 はじまり

6歳の頃からずっと日記をつけている。

三行日記というものだ。5歳の時に亡くなったおばあちゃんの遺品から出てきた物で、豪華な装丁の割に何も書かれていない罫線の入ったA4の普通のノートだったので、丁度字が書けるようになった私が貰い受けたのだ。22歳になった今でも使い続けている。

私の記憶に依れば、6歳の私が毎日本棚から取り出していたのだからこんなに分厚くはなかったはずなのだが、重ための辞書くらいの重さがある。ずっとそうだった気がするし実際買い替えてはいないのだからそうだったのだろう。

おばあちゃんも毎日日記を書いていたらしい。私がおばあちゃんの遺品を日記にしているのを知ってお父さんが言っていた。同じような、刺繍布貼りの分厚い日記帳。若い時も、死ぬ前の日も、寝る前に必ず書いていたらしい。亡くなる直前の事、おばあちゃんの病室にお父さんがかけつけた時、寝ているおばあちゃんのテーブルに日記帳が開かれていたそうだ。「最期、自分の人生に思いを馳せていたんかなぁ」とお父さんは言った。おばあちゃんの日記帳はお棺に一緒に入れたという。


この日記にはルールがある。多分、私が決めたルールだと思う。書いた覚えは無いのだけれど、表紙の裏に、鉛筆の汚い子供の字で書いてあるから。


マイニチカケバマホウガツカエル


毎日書けば魔法が使える。どんな魔法が使えるのか?わからない。

私は毎日、三行の今日を書く。今日が昨日より成長した証となるように、毎日生きていくために。




こうして毎日日記をつけていると、人生を読み返す事が出来る。その日、その頃何があったか...三行では思い出せない日もあるけれど、例えば7歳の時、私は小学校で漢字の先生だった。日記を書く時にわからない字を調べていたから。

11歳の11月、日記を見られて、お母さんと喧嘩した。ふてくされたまま近所のファミレスに行ったっけ。車の中で寝ちゃったな。

中学の時は部活に夢中。引退後は友達と一緒の学校に入りたくて、受験勉強頑張ったっけ。

高校は...好きな人が出来て、毎日その事ばっかり。正直この辺りの日記は消してしまいたいくらい恥ずかしい。でも、勇気が出なくて結局2年の時告白してきた奴と付き合った。最初は良かったけど大失敗だった。本当に後悔してる。

その時の付き合いのせいで大学受験の頃には成績なんてめちゃくちゃ。その頃、友達の友達ですごく良くしてくれた人がいたっけ。色々相談にのってくれてすごく助けられたのに、今はもう連絡先すら知らない、何でだっけ?

彼が今、居てくれたらなあ。どん底の時の方がまだ良かったのかも。

就職もしてない。フリーターで自由でいいと思ったけど、一日の時間と引き換えにお金をもらって使うだけ。もっとちゃんと勉強しておけばよかった。同級生が就職したって噂が聞こえてくる。でももうやりたい事なんて無かったし。結婚する人もいるんだって。どうせ離婚するでしょ、私みたいに。

そう、今の私は何も成長してなんかいない。昨日より今日が良かった日なんて無い。中学生の私に戻りたい。昨日の方がまだマシだった。去年の方がまだマシだった。あれさえなかったら、あの時間違えjなかったら、あいつさえいなければきっとこんな事にはならなかった。

違う。私が私でさえ無かったら。

心配してくれる家族や友達が煩わしい。

世の中の幸せそうな人はみんな妬ましく思える。不幸な人はいい気味だと思う。

こんな私は死んでしまえばいいと思う。


今日で日記は終わり。いつものように三行書いた。


6月23日(月)

ごめんなさい。

さようなら。

あの頃の私に戻りたい。


あの頃...あの頃っていつ?

そうだなあ、一番輝いていたのは小学生の時。あの頃は楽しかったな。

6歳の一番はじめのページから、読み返してみる。字が汚くて読めたもんじゃない。入学した喜びに溢れてる。世界のすべてを知りたくてわくわくしてる。毎日楽しいことばっかり。3年生...4年生...ああ、ああ、眠い。



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