鬼、ディンゴとなる
一通り今の自分が使える技を確かめた俺はディンゴの事務所とやらに向かう。
ディンゴの登録をせねばならぬからだ。
俺の視界に重なるようにして拡張現実のナビが見える。
視界の端に矢印と方位磁針が写っているのだ。それと脳裏には地図も。
うっとおしいほど便利だった。
レイアードとやらは予想に反して地味なビルだった。
もっとこう、派手派手しいものを予想していたのだが。
ふむ、受付は6階か。
中に入ると清潔感に溢れた受付があった。俺は良く知らんのだがまるで区役所か銀行のようだ。
「大江山鬼童丸という。網磯野イツマからの紹介で参った」
黄色い獣耳が見える妖狐らしい受付穣は事務的な笑顔で答える。
「はい、お伺いしております。ディンゴ登録ですね?
すぐに試験をお受けになりますか?」
「うむ、頼めるか」
「解りました。まずはこちらの事務所にお越しください。
そこで筆記試験を行います。その後実技試験です。
筆記用具はお持ちですか?なければお貸しします」
「うむ、ボールペン1本しかもっておらんのでな。頼めるか」
「わかりました。こちらへどうぞ」
俺は受付奥の事務所で試験を受けることとなった。
薄っぺらいがしっかりした紙に鉛筆で書くものだ。
マークシート式とやららしい。
「では、制限時間は1時間となっております。10分の休憩後、実技試験となっております」
「尋ねたいのだが」
「なんでしょう?」
「実技試験というのは要するに腕っ節を確かめるという事か?」
「そうご理解していただきますと助かります。怪我のないように細心の注意を払っておりますが、基本的には自己責任となります」
「構わぬ。ここで怪我をするようであればディンゴになどなれまいよ」
「ありがとうございます」
受付穣は無表情な笑顔で去っていった。さて試験とやらどんなものか。
俺は問題文を読み、すらすらと答えていく。
実際、わざと間違おうとでもしない限りは解るような常識的な問題ばかりだ。
だが、3枚目あたりから問題の性質が変ってきた。
なんというか、正解がないようなものばかりというか、こちらの好みを聞いてくるようなものだ。
良く見ると適性判断テスト、とある。ははあこれが世に聞く心理テストとやらか。
まあ思うように書いていけば良いだろう。
結局、俺は40分ほどで問題を解き終わってしまった。
残りは目を閉じ軽く瞑想してすごす事とする。
ふうむ、今までは感じなかった繊細な気や魔力の動きがわかる。
これも知識のダウンロードによるものだろうか?
「1時間たちました。終了となります」
「うむ」
「では実技試験は地下3階となっております。武器や防具の販売は2階で行っていますので、そちらもよろしければごらん下さい」
「気が向けばな」
エレベーターを使って下りる。出てきたのは巨大なドーム状の地下施設だ。
高さは三階建てほど、地面はコンクリート製で無骨な感じだ。
コンテナや丸太が無造作に積まれている。それが100畳ほどの広さであった。
「よう、ろくでなし共。試験に来たんだな?」
両腕を機械化した筋骨隆々の小男が出迎えた。たしか…どわあふ、とやらか。
「いかにもそうだ。お主が試験官か」
「ああそうだぜ。何も難しいこっちゃない。今から俺が出すゴーレムを制限時間30分以内に倒せ。
それを2回だ。ああ、術者の俺を狙うのはなしだぜ。このくらい正面から倒しやがれ」
「解った。試されよう」
ドワーフの男はハッと鼻を鳴らすと笑う。
「いい返事だ!じゃあ行くぜ!」
男が2、3呪文を口にすると5mはあろうかというゴーレムが現れた。
鉄くずやガラクタでできた巨人という感じだ。
「確かゴーレムの弱点は額に刻まれたemethの文字のeを削る事だったな」
額を仔細に見てみるが見えない、というよりコードや基盤でぐちゃぐちゃになっていて文字だらけでわからん。
「そんな古臭くてしゃらくせえ弱点、そのままにしてるわけがねえだろう?ちゃんと注意して見な」
「言われずとも!」
ゴーレムの腕が振り上げられ俺に叩きつけられる。
俺は鞭を振るうような動きでゴーレムの巨大な拳をいなし、叩き返す。
劈掛掌の技だ。
さらに俺は素早く踏み込みを行いゴーレムの柱のような足に貼山靠を叩き込む。
それだけでゴーレムの体はぐらりと揺れ、足にひびが入る。
俺は肘撃ち、震脚、手刀、そこからの連撃を加えながらゴーレムの体を駆け上る。
「弱点は額というが、頭ごと叩ききれば再生できまい」
俺は思い切り手刀を叩き込み首を叩き折る。さらに離れた頭部を肘打ちで粉々に破壊する。
ぐらりと俺が立っているゴーレムの肩が揺れ、俺が着地するのと同時に倒れ伏す。
「56秒か……まあまあのタイムだな!やるじゃねえか。
じゃあこれで最後だ。この雑魚共100体を残り時間で倒しやがれ」
今度は等身大のガラクタゴーレムが100体ほど。
中にはケンタウロスのように人身馬体のものや牛鬼のような蜘蛛型のもの。
武器を持った者もいた。
「ゆくぞ」
俺は加減なく鬼火を撒き散らした。火炎が扇状に広がってゴーレムを包む。
それだけで20体は減った。
俺は煙に紛れ次々にゴーレムを倒していく。振り下ろされる棍を軽く身を捻るだけで避け、手刀を叩き込む。
ゴーレム10体が方陣を組んで槍を突き出してくる。
「この時代だとマケドニアンファランクス、というのだったか?他愛なし!」
俺は槍を軽く避けて両肘で方陣の隙間に無理やり手を入れて肘打ちで吹き飛ばす。
さらに回し蹴りで周りの奴等を蹴り飛ばし肘打ちや手刀で首を叩き折っていく。
「油断するなよ?」
おっと危ない遠方から弓矢か。俺は矢を体ごと回転する腕で叩き落とし掴み、そのまま投げ返す。
さらに気散術で狙撃手たちを的確に打ちぬいていく。
その後も俺は大暴れを続け、ゴーレムをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……
5分もあれば片付いていた。
「99……100体!終わったぞ」
「5分35秒か。それなりにゃあ力があるようだな。認めるぜ、今この瞬間からお前はディンゴだ。
筆記試験もパスしたとよ。おめでとさん」
「うむ、礼を言う」
「上の受付に行って免許をうけとってきやがれ。後は好きに依頼を受けるんだな」
「ああ」
tips:依頼を受けましょう。