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鬼、キャラメイクをする

 3日目の朝が明けた。

俺はイツマに「少し山にいく、必ず宿に戻る故心配は無用」とメールを打つ。

おかしなものだ。わずか一日でこれだけ文明の利器を使えるようになるとは。

なるほど、便利なのだろう。だが少し恐ろしい気もする。


俺は貴船の山の中で技を試す事とした。

とりあえず主観的にでも今の実力を知っておかねば。


まずは一通り突きや蹴りを放ってみる。

空を切る音が心地よい。うむ、格段に鋭くなっている。

封印の間で威力はやや衰えたが技のキレが段違いだ。

武術など我流でしかやっていなかったがきちんとしたものを習うとこうまで違うか。


さて次はいよいよ魔術だ。

俺の中に入ってきた知識は鬼には使える術が限られているという事が解る。

まず西洋魔術はだいたい相性が悪い。神に祈る術だからだ。

神道はまだゆるいが同じ理由で多少使う術が限られてくる。


となると最も相性が良いのは気功術だ。

ここまで思い返して気づいたがダウンロードされた知識はいわゆる座学で実践となる技術はダウンロードしないといけないらしい。

とりあえずいくつかダウンロードしてみる。


<「気散術」verサタスペ8,5をダウンロードしました>


まずは試してみるとするか。

適当な木に向けて手の平を向け、気を練って撃ち出す。

すると衝撃音がして手の平の形に木に穴が開いて貫通した。

指鉄砲の形で撃ち出してみると木に穴が開く。ああ、愚連隊共がそういえばこんなのを使っていたな。


「なるほど、面白い」


今まで使えた術の確認もしておくか。

まずは鬼火。これは簡単にできた。手足を動かすくらい簡単に握りこぶし大の炎がいくつも出せる。


「少し工夫してみるか」


身に着けた陰陽道の知識で気の込め方を変えてみる。

たちまち炎は身の丈ほどの大きさに変る。

さらに高温に、身に着けた科学で。

赤い炎は青白く、さらに白く。少し遠くに離しても肌が焼けるように熱い。

岩にぶつけてみると一瞬で解けて消えた。


「知識を身につけるだけでこれほど効率が変るとはな。

人の知、馬鹿にしたものでない、か……」


正直、ここまで簡単に技や知識を身につけられるこの時代に違和感がないといえば嘘になる。

だが俺はすでに使ってしまった。もはや一線は越えてしまったのだ。

そしてこの時代に生きる以上は必要だったことだ。

ならば悩むのはやめておこう。


「さてどうしたものか。俺自身をどう作っていくかが問題ぞ」


ダウンロードできるプログラムは無数にある。だが俺の脳は有限だ。

故に技の構成には慎重にならねばなるまい。


「あまり頼りたくはないが仕方あるまい」


こういった事を相談できそうな相手はイツマしかいない。

曲がりなりにもプロだったのだからきちんとしたアドバイスができるだろう。

だが頼りすぎはよくあるまいし、俺自身の矜持にも関わる。

早急に人脈を作る必要性があるな。


「イツマか。鬼童丸だ。今時間はあるか?少し相談したい事がある」


俺はMAOSから電話機能を起動させイツマに電話する。


<はあい何かしら。電話でなら少しは時間あるわよ>

「うむ、俺自身の技の構成に悩んでな。ある程度草案はあるがお主にも意見を聞きたい」

<ふうんなるほどね。何をしたいかにもよるけど、それは決まったの?>

「うむ、ディンゴになり立身出世を目指す。俺にはやはり荒事が向いているようだからな

なにより、冒険がつきものの職業というのが気に入った」


イツマは少し黙って聞いていた。


<……そう、面白い職業であるっていうのは保障するわ。

つぶしが利かないわけじゃないし。戦闘スタイルは決まっているの?>


それはすでに考えてあった。やはり元々あったものを伸ばしていく方向で行く。


「やはり殴る蹴る斬った張ったでいこうと思う。補助にいくつか妖術は使うがな。

そこで気功術を中心に組み立てる。そうだな、身体強化系の術と攻撃系の術を取ろうと思う。

今リストアップしたものだと硬功に軽功、気散術に気刀術、あとはそうだな、中国拳法で何か良いのものがあれば知りたい」


俺はチラシの裏にメモしためぼしい技を読み上げていく。

気刀術とは身にまとう気を変化させて刃とする技だ。

振った刀から斬撃を飛ばしたり、素手で物を切り裂いたりできるらしい。

極めれば全身刃物と化して触れるだけで相手を倒せるという。


<そうね、その技の構成なら……劈掛掌に八極拳を中級で取っておけば十分よ。

ああ、あと飛行術と射撃術は絶対に必要ね。得意じゃなくっても飛んで撃ちまくる場面は必ず有るから。

それに劈掛掌なら苗刀術は取っておいたほうがお得よ。あれがあれば日本刀も使えるようになるわ。

そんな所かしらね>


イツマからのアドバイスをメモする。なるほどさすが経験者だけあって実践的だ。

いきなり相談されてスイと答えられるのもすばらしい。


「ありがたい。それで行こうと思う」


ここでイツマは諭すように声を落とす。


<ああ、でもそうなると戦術には偏りがでるのは割り切って頂戴。

あなたがそれでできるようになるのは目の前の一人を斬って殴るだけ。

手の届く範囲では無類に強いだろうけど、遠距離戦では不利よ>


たしかにそうだ。俺に出来る事はせいぜい殴ることだけ。

それで解決できない状況もあるだろう。

遠距離の敵を相手にすることもある。


「気散術と射撃術のシナジーだけではやはり不利か」

<銃がそれなりに使えのと同じ程度ね。雑魚相手なら十分よ。でも一流には通じないと思うわ。

だからあなたがするべきはいかに近づいて一対一の体術勝負に持ち込むか。

そこで飛行術が必要になるの。三次元的な起動でとにかく近づくしかないわ>


イツマから動画ファイルが送られてくる。見てみるとそれはディンゴの戦いを写した映像だ。

ものすごい速度で弾雨の中を滑るように飛びながらすれ違いざまに次々に敵を斬りつけていく。

豆粒くらいの敵が一気に等身大になる、敵が残像のようにしか見えない、そんな速さのわけのわからん軌道で一刀の元に切り伏せる。


「なるほど……このような戦法が必要となる、か。想像の斜め上をいくな。

だが面白い。必要とされるべきは体術に持ち込む速さか」


その動画は俺の想像する戦いとは違う次元のものだった。

こんな航空機のような速さですれ違う刹那に斬りあう戦いもあるのか。


<そういうこと。あと、受ける依頼も最初のうちは体術で片付く簡単なものが良いわ。

ディンゴにはいろいろなスタイルがあるの。後方の情報処理担当、情報収集と斥候担当、魔術解析担当、広域殲滅担当。いろいろよ。

あなたに必要なのはそれらあなたの火力を十全に生かせる仲間を作ることね>


そうだ、結局は俺に出来る事は少ない。殴るだけだ。

ならば調べ物をしたり呪を解き解いたりする仲間も必要となってくるだろう。


「うむ、人脈はいつの世においても必要ぞ。調べた所によればディンゴになればチームを組むものだという。

それのマッチングサイトもあったな?仲間を見つけるのはああいった所からか」


実際多くのディンゴは仲間で組んで戦うらしい。俺に早急に必要なのは仲間だ。


<そうね、ああいうサイトで仲間を見つけるか企業に所属するかね。

まあ、はじめのうちはサイトで仲間を見つけてみたら?私も協力するわ>

「世話をかけるな」

<いいのよ。あなたの仕事を見てみたいしね。まずはダウンロードが終わったらディンゴ登録を受けてみたら?

電脳に最寄の事務所の地図を送るわ。話と書類は通しておくから名前だけ言えばわかるはずよ>


俺の電脳にいくつかのファイルが送られてくる。最寄の事務所の地図だろう。

今日中に登録に行くとしよう。


「うむ、ダウンロードを終え情報酔いが覚めたらな。すまんな恩に着る」

<構わないわ。ほかに相談はある?ないならまたね>

「いやない。助かった」


さてさっそくダウンロードするか。俺は木陰に座って電脳を操作する。


<気功術:硬功を初級で習得しました。

気功術:軽功を初級で習得しました。

中国武術:劈掛掌を中級で習得しました。

中国武術:劈掛掌の苗刀術パッチを取得しました。習得しました。

中国武術:八極拳を中級で習得しました。

仙術:飛行術を初級で習得しました。

射撃術を初級で習得しました。>


若干の混乱とめまいがあったがすぐに治る。

この違和感のなさには相変わらず驚愕を覚えるが。

立ち上がるだけで今までとは違うと解る。体幹がすっと伸びている。姿勢すら変っている。

歩くのも段違いに安定感があった。


試しに形稽古をやってみる。基本の小八架からだ。

まずは起式。拳を握り両腕を伸ばし膝を軽く曲げる。左足から右足へと軽く蹴るように。

そこから肘撃ち。頂肘、というのだったか。

さらに俺の体は滑らかに動く。二郎掴人、單插掌、青龍背、避襠捶……

俺の踏み込みは地を揺らし、空を切る拳は破裂音を響かせる。

熊の如く歩き、虎の如く叩く、だったか。


俺は呼吸を落ち着かせ、形を終える。なんともあっけなくそれなりの動きができるようになったものだ。

強くなったような気がするが、この程度で手に入る強さというのは底が知れているのだろう。

毎日続けて自分のものにしていかねばならんな。


tips:ディンゴ登録をしましょう。

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