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鬼、土蜘蛛さんと戦う

成り行きだが土蜘蛛の役人と戦う事となった。

愚連隊の連中とはまるで違う。少しは楽しめそうだ。


「ああ、阿波野さんは少し離れてて、っていうかぶっちゃけ避難してもらったほうがいいわ」

「ひゃああーっ!」


土蜘蛛の娘はリコに声をかける。リコは林の奥に逃げていった。

よし、これで存分にやれるというものだ。


「ずいぶんと余裕があるな?」


俺は土蜘蛛の娘に向かっていく。1歩の踏み込みで距離をゼロにする。

振りかぶった拳は当たらずに娘の手前で止まった。僅かに痛みがする。

皮膚を卸し金でおろされたようにかすり傷が無数についていた。


「なるほど、糸を編んで作った網か。こんなもので俺の拳を止めるとはな!」

「蜘蛛が糸吐いて悪いかしら?」


その間にも娘は流れるような動きで俺の拳による連撃を交わし、柔術めいた技で俺の背後を取ると腰から拳銃を抜いて二発撃った。

だが弾丸は俺の筋肉に阻まれて浅い所で止まっている。


「不動明王火界呪!」


娘が俺の攻撃を避けながら素早く印を結び呪を唱えると俺の首と背中に刺さった弾丸が爆発し燃え盛る。


「弾に何ぞ細工をしておったか。なるほど、面白い」

「仮にも不動明王の炎を借り受けてるんだけどね……面白いで済ませちゃうあたり、さすが古代の鬼なのかしら」


俺は妖気を吐き出して炎を散らす。


「まだ何ぞ術だのあるのだろう。やって見せろ。楽しませるがいい」

「言われなくても、よ!」


娘が糸を引くような動作をすると岩やら木やらが一斉に飛んできた。

俺は木の一本を掴むと木を振り回して岩を散らす。


「我、土蜘蛛八十女つちぐもやそめの連座に加わる者。

この血を以って我が祖の業を使わしめたまえ!

この地の土、岩、我が意に沿うべし!」


また呪が紡がれた。払ったはずの岩が再び俺に襲い掛かってくる。

地面が氷柱のような形になって俺の足元を刺そうとしてくる。


「なかなか面白いではないか小娘!だが喧嘩の本尊は拳よ!」

「気が合うわね!私も同意見よ!」


土を蹴り払い、岩を打ち砕き俺は娘に拳を叩き付けんとする。

だが今度は糸に引っ張られるように僅かに狙いが反らされる。

その隙を突いて娘が抜き手を俺の顔に容赦なく突き刺さんとする。

だが遅い、間合いから外れている。避けるのはたやすい……はずであった。

目に鋭い痛み。たまらず目を瞑ると俺の視界は半分になっていた。

娘が手に持っているのは……俺の目玉か。


「はいここまで。首に5重に糸を巻いているわよ。それ以上動いたら首が飛ぶわ」


良く見たら奴の手からも糸が出ている。間合いの外からも突きが通ったのはあの糸のせいか。


「舐めるなよ小娘。この程度の糸、引きちぎれんと思ったか?」

「その前に私が首を絞めるわ」

「ほう、だが俺の目玉を持っていたのは失策であったな。喝!」


俺の目玉がウニのように刺だらけの形状になって娘の手に刺さり侵食を始める。


「さあどうする!ほうっておけば心の臓腑を潰すぞ!」

「決まってるじゃない、こうするのよ」


娘はあっけなく自らの手首を糸で切り落とした。

なんと胆力の在る娘か。良いぞ、こういう奴は面白い。


「楽しくなってきたな!さあ続けるか!」

「ここまでよ。勝負は引き分け。

っていうかそこの女の子気絶してるじゃない」


土蜘蛛の娘が指差す先には気を失って倒れているリコがいた。

土蜘蛛はさっさと切れた手首に呪符らしきものを張って止血をしている。

よほど優れた呪符なのかすぐに血が止まって再生が始まっている。


「MOASより発動。JMS-0091「クイックエイド」」


土蜘蛛が「まおす」とやらいうあの板をなにやら触るとあっという間に手首が元に戻る。

まるで空気中から粒子が集まって手の形になったようだった。実際、何らかの力が集まっているのは見えたしな。

だがこうも露骨に戦う構えを解かれてはやりづらい。


「ふん、興がそがれた。まあいい楽しめたのは真よ。それで、役人が何の用だ?鬼退治、というならばあそこで止めはせんだろう」

「ええ、そうね。繰り返すけど私は別に討伐をしに来たわけじゃないわ

ざっくりと言えばあなた、浦島太郎みたいに今の世の中の事がわからないでしょう?だから私が案内役を勤めるわ」

「それだけではあるまい?正直なところを話せ」

「あら、女連れだと気が休まらないかしら?まあ事情がわからないままあなたに暴れられると困るからよ」


ふむ、この辺が落としどころか。あまり煽って役人とやらから目をつけられても困る。


「そんな所であろうな。ふむ……あれほどの武芸者ならば少しは楽しめるかもしれん。よかろう」

「そう、それはよかったわ。ところで目は大丈夫?」

「ああ、仔細ない。もう治った」

「流石は純血種ってところかしらね。100年は年経てないと無理な芸当だわ」


ふむ、たしかにそのとおりだが俺の時代の鬼は皆出来たぞ。

考えるに妖が大手を振って歩けるようになった分混血が進んでおるのだろう。

それが良いことなのか悪いことなのか解らんがな。


「阿波野さん、阿波野さん!起きてちょうだい。こんな所に倒れてると危ないわよ。

ええい仕方ないわね。『まさに慎むべし 衆生しゅじょう めいを以て入覚し 一旦に豁然かつぜんす!』」

「道術か」

「ええ、とりあえずこれで起きるでしょ」


なかなか芸達者な娘だ。神道に密教、果ては道術。陰陽道の元になった3つだが、そのどれも収めているとはな。

この時代はそれだけ魔術が栄えていると言う事だろう。

土蜘蛛の娘が呪文で活を入れるとリコは少しうめいた後目を覚ました。


「う、うーん……はっ、喧嘩はだめだぁ。見てて怖いだよー」

「おい土蜘蛛の。この時代の妖とはこんなものか?」

「荒事慣れしてなきゃこんなものよ。リコさんもう大丈夫よ。ちょっとじゃれあっただけだから気にしないで」


土蜘蛛のはリコに優しそうな笑顔を向ける。なかなかすがすがしい笑顔だ。

仕事が4割、素が6割と言った所か。情が深いのは土蜘蛛であるせいか。


「うむ、リコよ。妖らしくとはいわんがこのくらい慣れておかんと世の中生きづらかろうぞ。なに気にするな。もう治った」

「と、都会の人は怖いだぁー……」

「大丈夫?立てるかしら。ご苦労様、もう家に帰って休んでいるといいわ。

後で証言を聞きにいくかもしれないけど形式的なものだから大丈夫よ」

「そうするだよー……それじゃあ、鬼童丸さんさよならだあ」

「うむ、気をつけるのだぞ」


リコはふらふらと歩いていったがまあ大丈夫だろう。


「さて案内人とやら。まずは町を見せてくれるか?」

「いいわよ。ただし荒事は避けてちょうだい。今の時代はあなたの時代よりもややこしいのよ」

「構わん。どうせ今はまだこの時代の客人と言った所だからな。余所では派手に暴れぬくらいの分別は有る」

「そうそれは良かったわ。じゃあ行きましょうか。きっと驚くわよ、花の帝都がどう変わったか見せてあげる」


そう言うと土蜘蛛の娘は「まおす」とやらいう板を取り出してなにやら操作し始めた。


「JMS-0037『ポータル』スタンバイ。転移先はシンジュクゲートでお願いね」

「ほう新宿か。丘蒸気の駅と映画館のある所だったな。大正の世でも栄えていたハイカラな街だったぞ」

「今はそれ以上よ」


土蜘蛛は悪戯っぽい笑顔でふふんと笑った。


tips:現代を観光してみましょう。

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