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鬼、封印される

「……ここで、終りか」

「ああ、終りだ鬼よ。ここで終わらせる」


俺は血溜りの中に膝を突いている。俺の血によってできたものだ。

大正の世まで生きた鬼の成れの果てがこれか。

目の前には4人組の退魔師たちがいる。

若くいい目をした奴等だ。


「やはり、貴方達はここまでせねば止まってはくれないのですね」


からくりによる巨大な鎧に身を包んだ娘が悲しそうに言う。

こいつは本当に強かった。からくりの拳は俺の拳と比べても遜色が無かった。


「悲しむな。鬼とはそういうものだ。死ぬ前に一花咲かせられた。悪くはない」


俺は笑う。本当にいい日だ。正面から鬼と戦って打ち負かすような奴らと出会えたのだから。


「君の死に花を咲かせるために僕らは戦っていたわけじゃあないんだがね。

雄雄しく散りたいなら戦争にいけばよかったんだ。この前の露西亜との戦争とかさ」


帽子に黒コート姿の陰陽師が冷たく言う。

こいつも陰陽師にしては卑劣な手段をとらなかった。

いや、俺の手下共がああもたやすく散り散りにされたのは間違いなくこいつの策だろうが。


「今の戦には妖の居場所なぞなかろうさ……」

「そうでもありませんよ?現に軍の一部はあなた方を利用しようとしていたではないですか。

身の振り方はいろいろありましたでしょうし、今もあると思いますがね」


青いスーツを着た西洋人の魔術師は言葉巧みに俺を惑わした。

実際、一時はこいつの誘いに乗ってもいいかと思った。

腹黒な紳士面をしているが、こいつが一番イカレている。

誠実であるからこそ狂っているのが一番質が悪い。


「悪いな、貴様のたくらみに乗ってやっても良かった。

お前みたいな大風呂敷を広げてみせたのはお前が始めてぞ。

鬼を前にいい度胸だ。狂いの呪い師よ」


魔術師と陰陽師はため息をついて呪いを練り始めた。

そして、俺をここまで追い詰めた剣士を見やる。

軍服に軍刀。烈火の如き気迫と剛剣。

その目その剣は清廉で斬り合って楽しい漢だった。


「待たせたな。最後の侍。貴様のような益荒男がまだこの浮世にいたとはな!

さあ、始めようぞ。俺はまだ負けてはおらん!やるならば最後までだ」

「ああ、俺もそのつもりだ。道連れにされる気は毛頭ない。

尋常に、勝負をつけよう。多勢に無勢で心苦しいがな」

「かまわん、行くぞ!」

「来い!」


俺は雄叫びを上げながら剣士に切りかかる。

魔術師と陰陽師による呪いが雨あられと注ぎながらそれでも俺は前に進む。

拳を振り上げ、下ろす。剣士と俺が交差し、倒れたのは俺だった。


「……残念です」


娘のからくりによる拳が迫る。俺の頭蓋が壊れていく音がする。

終りだ。


死に飲まれる一瞬、あの魔術師の声を聞いた気がした。


「不生また不滅、不常また不断、不一また不異、不来また不出。

能く是の因縁を説き、善く諸の戯論を滅す、我れは稽首して仏を礼す、諸説中の第一なり」


これは、経か?鬼に経を捧げるか……


「輪廻転生の法、あなたにも通じますかな?また会いましょう。

いずれ、遠い未来で」


殊勝な奴だと思えばこれだ。やっぱり、ろくな、奴じゃない……


tips:あなたは封印されました。

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