二日目・3
小説タイトルにサブタイトルをつけて
あらすじをちょっと変更しました
(ただいま~)
入口を開ける為、中枢部屋にいたであろうマリエルさんがパタパタと飛んできた。
ああ、疲れて帰ってきてもマリエルさんにお出迎えとされたら疲れなんて吹き飛ぶね。是非とも若奥様ルックで『ご飯にします? お風呂にします? そ・れ・と・も……』とか言われたい!
「お帰りなさい、お疲れさまでしたサシュリカさん、随分と張り切ったようで……あら?」
俺が持ってるモノに気がついたのだろう、ちょっと困ったような表情だ。
「スライムですか? 食性次第では毒の空気を撒き散らす種もいますので、ダンジョンに連れ帰るならちゃんと調べないと危険ですよ」
色々種類があるのか、流石にこんな危険物はゴロゴロいないと思うけど。
俺の持ってるイメージだと、スライムは序盤の雑魚モンスターなんだけど、この世界においては違うらしい。
小さい生き物なら下手に触るだけで取り込まれ、体内で溶かされ消化されてしまう。
こちらの体が大きくても、踏んづけた拍子に足を溶かされたなんて話もあるそうだ。流石にドラゴンの俺くらいデカイのに踏まれると死んでしまうらしいが。
マリエルさんは、俺の目の前にスクリーンを出して、スライムについて画像付きで説明してくれる。
「対処法は体内の何処かにある核を傷つけるか、熱湯をかけるくらいですね」
急所を傷つけるか高熱に弱い以外、これといって弱点もない。なんだかんだとしぶとく生き残るのがスライムという種の特徴なのだとか。
外気温で凍りついてたけど、この黒スライムはダンジョンの中に入ったらすぐに動き出した。高熱に弱い以外弱点無しは伊達じゃないな、表面が凍っただけでは動かないだけで、気温が普通ならすぐに回復して動き出す、弱った様子は見えない。
さて、スライムに関してもう一つ重要なのが、環境次第で全く異なる生態に変化する能力。
「体内に取り込むのは全てのスライムに共通ですが、獲物を捕る方法が個体毎に違うんです。擬態して待ち伏せなんて序の口で、麻痺毒の霧を発生させたり、超音波で意識を朦朧とさせたり、酷いのになるとこれまで概念すらなかった未知の魔法まで使ってきます。親から分裂して最初に取り込んだ獲物によって、自身を変態させると言われてます」
(うわぁスライム怖い、なんかモンスターを匂いで誘き寄せて、電撃で黒焦げにする奴なんですよ。狩りに便利だと思って持ってきたんですが)
それを聞いたマリエルさんは『うわぁ』とでも言いたげな表情だ。
「またえげつない生態してますね、ちゃんと匂いを遮断するように封をしませんと」
魔物寄せの匂いを発するということは、下手をするとA級以上の魔物すら呼び寄せてしまうかもしれない。便利だからといってダンジョンに連れてきたのは考えなしだったか。
「ちゃんと厳重に管理しないと危ないですよ。後このスライムも分裂したら、全く異なる能力持ちが生まれますから」
そう言ってマリエルさんは、空になった水瓶を持ってきてくれた。強力な攻撃方法を持ってるスライムは、移動する能力を失ってる場合が多いそうで、こうして容器に入れて密封しておけば逃げる心配は無い、ちなみに酸欠になることも無いそうだ。
さて、スライムの利用方法は後で考えるとして、狩りの成果を確認しないとな。
~~~~~
中枢部屋の台座の上に座り、狩りの成果を、特に魔石がどれだけ増えたか、確認することにした。
「宝物庫にはD級魔石が100個以上ありますね、C級が15個に、なんとA級魔石が1個ありましたよ!」
俺の猟果にマリエルさんが尊敬の眼差しを向ける、多分あの巨大狼のだろう、運が良かっただけですよ、と、伝えるが美少女天使に褒められて悪い気はしない。俺が人型だったら多分ドヤ顔してるだろう。
死体を拾っただけだろうって? コレは世界の安定の為、懸命に働くこの俺の普段の行いが良いからこそ齎された幸運、つまり俺の手柄である。
どうやら大量に食い殺した派手カラスがD級で、スライムに誘き寄せられたのも大体D級、偶にC級が混じってたらしい。あれだけ群れてたんだから、もっと魔石があるかと思ったが意外と少ないな、派手カラスは大雑把に数えてたけど三百羽くらい送ったけど……
「魔石が採れない死骸が多かったですからね、具体的には魔石が取れる部分ごと食べられてましたよ」
しょうがないですねぇと言いたげな苦笑を浮かべるマリエルさん。そう言えばやたら美味く感じる魔物が大半だったけど、偶に普通の肉の味しかしないのがいたような?
「幼竜にとっては魔石が主食みたいなものですよ、お肉とかは調味料みたいな物です。勿論栄養も摂れますけどメインは魔物の体内にある魔石です」
ああ、あの心臓付近にある石っぽいのか、確かにアレがある辺りの肉は美味かったな。そうか、メインは魔石だったのか。
(そうだったんですか、やたら美味しく感じたので、てっきり竜になって生肉大好物になったものかと)
「人に変化出来るようになれば、お料理した方が美味しく感じますよ。ところでサシュリカさんご自身のレベルを確認しましたか?」
レベル? そう言えば俺ってレベル1だったな、派手カラス相手に無双してたから忘れてたけど、産まれて2日目なんだよな俺。
個体名:サシュリカ
種族:/幼竜(レベル18)
基礎技能:幼竜基本セット(レベル4)
肉体技能:巨体
精神技能:思念会話
固有技能:迷宮の主
(おお! なんかレベル18になって、基礎技能がレベル4になってます)
「レベルについて説明がまだでしたね、まず幼竜のように成長途上の種族だとレベル50が上限でそれ以上は上がらず、成長限界とも言われてます。次に基礎技能ですが種族毎に持ってる能力で、基本レベルが5上がるごとに上昇します、英霊とかの基本的に不変の種族だと成長限界はありませんけどね」
ふむふむ、つまり俺が成長するにはレベル50を目指すわけですね。
「竜の成長、つまり脱皮ですけど、コレはレベル30を越えると、体中が窮屈に感じるらしいです。普通の竜はそうなると脱皮して幼竜から仔竜に成長するのです」
とは言え折角レベルを可視化できるわけだし、クラスチェンジ前に最大までレベルを上げたくなるのは普通だろう。マリエルさんの説明から察するに、サイズの小さい服を無理やり着続けるような感じだろうか?
(最大までレベルアップしてからクラスチェンジした方が、より強くなって今後安全になりそうだと思うので、レベル30になる前にできるだけ魔石と、経験値を貯めておくことにします)
「それでは『経験値保管庫』の設置ですね、出来るだけ拡張しておけば色々便利かと」
マリエルさんが経験値保管庫の補足説明をしてくれる。この経験値はあくまでもダンジョン内部で倒し、拡散した経験値を集める装置なので、魔物の死骸を宝物庫に放り込んだところで経験値は回収されないそうだ。
(拾ってきたスライム利用してダンジョンに魔物集めます?)
「うーん、流石にA級B級がまとめて入ってくる可能性があるので危険ですね。英霊二人も戦闘は本職でないので厳しいでしょう」
やっぱり地道に魔石集めるのが良いのかなぁ……二人でそんな事を話してると、ダイダロスさんとヴィーラントさんが部屋に入ってきた。流石に日中休んでいれば二日酔いも治ったようだ。
(体調はどうですか?)
「いやぁすまねぇな大将、酒飲んで寝込むなんて恥ずかしいトコ見せちまったな」
「……面目ない」
ダイダロスさんは照れくさそうに大笑いしてるので、済んだことは仕方ないと割り切ってるみたいだ。一方ヴィーラントさんはかなり申し訳なさそうにしてる、真面目だなぁ。
二人にさっきまでマリエルさんと相談してた内容を伝える。この二人は出来ることの幅が異様に広いから、良いアイディアが有れば嬉しいんだけど……
「サシュリカ……僕が、ダンジョンに……生きたまま送る……武器を用意しよう……明日の朝には出来る」
おお! 頼るべきは神話の鍛冶師だね、そんな都合の良いアイテムをすぐ作れるなんて、ヴィーラえもんって呼んでいいですか?
なんか尻尾で掴んで振り回せるドラゴン用武器を作ってくれるそうだ。どんなのが良いかと聞かれたので、素人が無理なく振り回せるようにと金属バットの形を伝えといた。
通常強制転移は相手に抵抗されると失敗してしまうが、このバットで殴られると、ダメージを与え、その痛み魔法への抵抗から意識を逸らした隙にダンジョンに強制転移させる……しかし金属バットを振り回す自分の姿を想像するとあまり格好良くないので、やっぱりデザインお任せでメイスにするようお願いしておいた。
「おう、それなら魔物の強さ別に転送場所指定できるようにしろ。大将、出来るだけ広い大部屋3つ用意してくれや、この中枢部屋から直接出入りできる通路を造って、その上で特定の奴以外通過できない扉を俺が作る。そうすりゃ共食いさせても良し、新しいメンツを増やした時にレベルアップさせるのに使うのも良しだ」
名匠二人はあっさりと解決策を提示する、確かにそれなら経験値の件は解決だ。俺はすぐさまお願いした、そう言えばもう一つ相談があるんだった……
(英霊召喚でお二人の妻子を召喚できますが、どうします?)
その問いに真っ先に反応したのはヴィーラントさんだった。
「ッッッ~~~!! ヘルヴェルを呼べるのか!」
「ひゃん! いきなり大声出さないでくださいよ」
近くで大音響の叫びを聞いたマリエルさんが抗議し、ダイダロスさんが煩いとでも言いたげに睨むがヴィーラントさんはまるで気にしてない。
(メニューで確認したところ、A級魔石と5000マナがあれば可能のようです)
流石は戦乙女だな、必要な魔石とマナが半端ない。その分強いのだろうから文句を言う筋合いはないけど。
「A級……討伐は難しい……が、強力な秘宝を創れば……なんとか……」
なんかヴィーラントさんの中ではA級魔物討伐のプランが練られてる最中のようだ、涙目で睨みつつマリエルさんが補足してくれる。
「A級魔石は一個だけサシュリカさんが手に入れてくれましたし、百個以上あるD級魔石は砕けば50マナ得られるので、そっちも足ります」
―――ギュピーン!! おぅ……眼力半端ないですね。
物凄く期待のこもった目で見ないでください、なんか俺より巨大な存在から睨まれたようなプレッシャーが怖いです。ああ、そう言えばこの人って巨人の血を引いてたっけ。
(ちゃんと召喚しますから焦らないでください、でもA級魔石使うんですから戦力として期待して良いんですね?)
流石に造りたてのダンジョンで非戦闘員の為にA級魔石は使えない。砕けば5万マナにもなるし、留守を任せられる大英雄だって喚べるのだから。
「ヘルヴェルは戦乙女なのだから、戦力とするのは当然だし、僕の創った武具を纏えば正しく一騎当千だろう……ふっ、ヘルヴェルの武器防具であれば採寸さえ不要だ。手持ちの素材から最高のものを厳選し、僕の持ちうる全ての技術を……」
「お前さん普通に話せるんじゃねえか、普段からそうしろよ」
興奮してるヴィーラントさんは普段の無口っぷりは何処へやら、えらい饒舌になった。まぁそれだけ必死なんだろう、ここでダメとか言ったら、多分彼の精神技能【復讐心】が発動しかねないので、話が終わったら召喚することを約束する。ヴィーラントさんが落ち着いたところで―――奥さんの装備について悩みだしただけだが―――聞きたいことはもう一つ。
(お姫様と息子さんはどうします? 息子さんも戦力としては悪くないと思いますが)
流石にこちらからの質問には悩みを一旦脇に置き、少し考えていたが断ってきた。曰く、戦乙女は嫉妬深いのだそうだ。
(分かりました、迷宮内で修羅場は勘弁して欲しいので、そちらは見送りましょう)
「大将、こっちもいいかい? 俺の嫁のナウクラテーを呼んでくれるのはありがたいが、倅は多分呼ぶだけ無駄だ。あの馬鹿墜落したトラウマで空飛ぶの怖がってな、役に立たねぇよ。呼ぶんだったらテセウスあたりの戦力になる奴にしな」
高所恐怖症なんだイカロス、ここのダンジョンの入口って雲の上だから厳しそうだな。そうなると戦力として期待できるのはヘルヴェルさんだけか。
C級魔石はたくさんあるし、もうちょっと戦力が欲しいな。ギリシャ神話のテセウスも悪くないけど、どうせなら魔法に優れた人が良いかな? 二人に意見を聞いてみる。
「魔法……使いか?……何人か……思い浮かぶが」
「うーん……名前は思いつくがロクでもない連中だしなぁ」
(怪我とか病気とかを治せる薬を作るのが得意な人が良いですね)
「それなら錬金術師に絞って探しましょう。英霊になる程の術者なら、魔法の腕前も一流でしょうし」
(錬金術師として技能が高いなら、多少魔法使いや英霊としてのレベルが下がっても呼びたいですね)
俺の希望を聞いたマリエルさんは、目の前にスクリーンを出し、色々候補を選んで……なにか困ったような顔でこっちを見た。
「あ、あの、なんか立候補してきた方がいらっしゃるんですけど、あら? この方なんで私たちの話の内容知ってるんですか!?」
マリエルさんが気味悪そうに狼狽しつつスクリーンを見ていたが、唐突にマリエルさんのスクリーンが変色、いや別の物に変質した。
「ひゃぁぁ! なっなっなんで!?」
(マリエルさん! スクリーンを放してっ!)
俺の声に我に返ったマリエルさんは変質したスクリーンを投げ捨てる。壁にぶつかって床に転がったそれは……それはまるで、エメラルドで作られた石板のようであった。
読んでくれた皆様ありがとうございます
次回チートおっさんのその3登場
どんな英霊なのかは、伝説とか詳しい人にはわかると思います。