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二日目・2

投稿時間を少し変更します

数話分ストックしつつ、話が完成したら投稿するトコロテン式で

寝る前に投稿しようと思います

 目の前で群れる極彩色の鳥―――色はともかく形はカラスっぽい―――を、遠くから鳴き声を聞いたときは、ただ不快な鳴き声としか思わなかった。


 しかし、近づきその姿が鮮明になると、全く別の印象を受けた、派手だなぁとか、煩いなぁとか一切忘れ、脳裏に浮かんだのは単純な欲求。


 ―――ゴクリ……


(ああ、なんて……美味そうなんだ)


 俺の意識としては、生き物を見て、しかも魔物の死骸に群がり、その臓物を咥えた極彩色のカラスっぽい魔物にそんな感想を抱くのは有り得ない事であった。


 だが、どうにも食欲が湧いてくる、見ているとどんどん腹が空く錯覚に陥る。


 俺の姿を視認したのか、てんでバラバラの方向に逃げ散る派手な鳥、―――仮称として派手カラス―――どもだったが、俺は翼に力を込め更に加速、1羽に噛み付き食い千切る……


 口内が血の匂いで満たされる。食われた部分をえぐり取られ、絶命した派手カラスは血を噴出しながら落下する。


 だがその前に、尻尾で掴みとり宝物庫に転送する。これを繰り返せば魔石も素材も食料もすぐ貯まるだろうが、そんなことよりも、俺の意識は口の中に集中していた。


 ―――ゴリ、ゴリ、ガリガリ…ごくん


 ドラゴンの強靭な顎と牙は骨ごと噛み砕き、すり潰し、喉を通る……その瞬間、体中が旨みに沸き立ち、滋養が体の中を染み渡るようだった。


 例えるならば体が冷え切ってる時に温かい生姜湯を飲んだ時のように熱が全身を巡るような。炎天下の中、汗だくになって帰宅した時にスポーツドリンクを一気飲みした時の爽快感のような。


 そんな、体が切実に『必要なモノを取り込んだ』感覚。


(美味い! スゲェ美味いぞ! カラスの生肉なのに、見るからに雑食で臭そうな肉なのに!)


 羽ばたき、必死で逃げようとする派手カラスに容易く追いつき、喰らいつき咀嚼する。新鮮な肉が喉を通るたびに、まるで活力が湧いてくるかのようだ。


 ―――バリ、ゴリ、ボリボリボリ


 ……うん? なんか心臓付近に石みたいのがあるな、まぁその周囲の肉が一番上手いから気にすることはないか。


(前世だと気持ち悪くなって腹を下しそうなもんだけど、ドラゴンにとっては普通の食事ってことか? そうだよな、俺みたいな幼竜はとにかく獲物を狩って食うのが仕事みたいなもんだ!)


 幼竜、つまり竜の子供だ、子供はいっぱい飯を食って、思いっきり運動するのが仕事みたいなもんだよな、仕事なら仕方ない、積極的にこなすのは当然だよな。


 こうしてはいられない、空を飛ぶのは確かに別格の快感だが、生き物は食事をしなければ生きていけないのだ。そうだ、ここは『空を飛ぶ』『食事をする』そして『獲物をダンジョンに送る』この三つを同時に行うのが、俺の頼まれた仕事を行う上で、非常に効率の良いやり方だろう……そして何よりも、この森って俺以外魔物しかいないよな。


(世界の為にも仕事上のモチベーションの維持は不可欠だよな! そうだよ俺はドラゴンなんだ、食事だけでなく、自由に振舞う楽しみがあっても良いんだ!)


 圧倒的なドラゴンの力、空を飛ぶ快感、そして俺を見て逃げ待とう魔物たち、それらを見て俺は……俺は……


「ギャオォォ(フハハハ! 我が名はサシュリカ、この大陸を制する新しき支配者よ! 我が糧となる名誉をくれてやろうぞ)」


 ダンジョンでは気を使って出さない、大声が森の中に響き渡る。ああ、なんて気持ちいいんだ、その瞬間俺は心の中で羞恥心と言う名の、心の拘束具を脱ぎ捨てる! 


 あまりの楽しさにテンションが上がってきた。人の言葉が喋れれば『ヒャッハー』とか叫んでただろう、その勢いのまま比較的近くで様子を見てた派手カラスを捕らえ、喰らう。


 咀嚼してる間も翼を動かし次の獲物に肉薄する、再び噛みちぎったら宝物庫に送る。食べれば食べるだけ腹が空くようだ、もっと食べたい。


 だが食欲にかまけて一羽一羽狙うのは効率が悪い。どうにかしてまとめて誘き寄せられないか考え……派手カラスが群がっていた魔物―――巨大な白い狼―――に目を向ける。


「グギャギャ(ふっ我に贄を差し出すとはカラスにしては殊勝ではないか、ククッ我が喰らう間に逃げるのならば見逃してつかわすぞ?)


 あの巨大狼……死んであまり経ってないのか、あまり臭わないな、それとも派手カラス共が群れで狩ったのか? 試してみるか、獲物を横取りされて怒らない奴は少ないだろう。


 近くに着地すると狼は予想以上に巨大で、頭部だけでも俺の体と同じの大きさだ。柔らかい部分は派手カラスに食い荒らされていたが、それ以外はほぼ無傷、試しに前足の部分を齧ってみる……が、噛んだらあまりの硬さに驚いた。それより冷たっ! なんだこの狼、逆にこっちの歯が痛いぞ! まるでガッチガチの氷を噛んだみたいだ。


「アンギャァァ(フンッ不味くて口に合わんが、毛皮は我が財宝に加えるに相応しいな)」


 誰が聞いてる訳でもないのに、とりあえず負け惜しみを言って、改めて巨大狼を見てみる。


 毛皮だけでなく獣皮、筋肉はドラゴンの鋭い牙と全生物中最強らしい咀嚼力(顎の力)ですら、なんとか食い込む程度で、骨に至っては文字通り歯が立たない。しかも周囲は極低温に覆われていて噛み付いた口の中が冷たくて痛い。


 あれ? この狼めっちゃ強い魔物なんじゃね? なんで派手カラス程度の餌? この巨体を支える骨が頑丈ってことは要するに無茶な運動量にも耐えるってことで……この狼生きてたら、今の俺じゃ空飛んで逃げるしかできないんじゃ?


 俺の主観だが、正直派手カラスは群れが厄介だと思うけど個々は弱い。カラスの爪や嘴が恐ろしく鋭利だった可能性もあるが、狼の口内や爪からは派手カラスの臭いはしない。


 まさか一方的にやられたとも思えないし……毒? 病気? それとも魔法か? 寿命だったのかも知れないが、巨大狼の死因を警戒した方が賢明だろう。


 空を見る、派手カラス共が遠巻きにこちらを窺ってる。横取りに怒って向かって来ることを期待してたが、狼を食う素振りをしたけど、いつでも逃げられる距離で飛んでるだけか。


 まぁ俺より遥かに巨体だしなこの狼は、食い終わり満足して帰るのを期待してるのだろう。


 それとも俺が食い散らかせば、可食部分が増えると期待してるのか?


 こんな強力な魔物の素材を捨ててくわけが無いだろうに。俺は巨大狼を宝物庫に転送すると……狼の死骸があった場所に何かが蠢いていた。


「グルル(ふむ? 腹の中に生き物でもいたか?)」


 狼が消えて、残った血だまりの中になにやら黒っぽい『なにか』があった。宝物庫に生き物は送れないので、狼の胃袋の中にいた生き物だろうとは思う。


 ひょっとしたら狼の死因の可能性があるので、離れて観察してみる。


 黒いスライム? なんかブヨブヨ蠢いてるけど、その場から動く気配はないな……観察を続けていると、様子を窺っていた派手カラスのうち1羽が黒いスライムに襲いかかる。


 手頃な餌と見たのか、それとも獲物を奪われたので、せめてスライムだけでもと思ったのか、嘴でスライムを咥えると……


 ―――バチッ! 


 スライムは一瞬発光と同時に弾けるような音を放つ。光が収まった後、極彩色の羽毛は見る影もないほど焼け焦げ、口から煙を吐いていた。


「ガオッ(ほう? 矮小なる分際で中々面白い能力ではないか)」


 狼の死因は分かった、あのスライムを丸呑みしてしまい、腹から焼かれたのだろう。電撃で内部から焼いてしまうのが、スライムの捕食方法なのか。焼け焦げたカラスはスライムに取り込まれ、見る見る溶かされ、その分スライムの体積が増える。


 異世界だなぁ、この森は強い魔物が多いとは聞いたけど、こんなスライムが普通にいるのか。触るだけで電撃放つスライムなんて放っておきたいんだけど……なんかスライムに派手カラス共群れて襲いかかって来てないか?


 少し離れたとは言え俺が近くにいるのに、スライムに襲いかかる、派手カラスに少し違和感を覚える。


 危機意識が無い? 野生でそれは有り得ないだろう。


 判断力がなくなる程飢えてた? さっきまで狼の臓物食ってたからそれはない。そもそも餌は豊富だろうこの森は。


 仲間の復讐? なんで俺に来ない。


 カラスの好物はスライム? 触ったら電撃を放つような生物、好物になる前に死ぬだろう。

 

 五感を研ぎ澄まし更に観察してみる、するとスライムから妙な匂いがしてくる……匂い? いやコレは香りだろう。てっきり狼の肉の匂いかと思っていたが、この香りが強くなったのは狼を宝物庫に送ってからの事、つまりこの恐ろしく食欲を刺激する芳香は、スライムから漂っている。それこそ危険を忘れてしまう程、食欲に本能が支配されていた。


 そう言えば……カラスが群がってたのは狼の胃があるあたり、生き物の体内からでも嗅ぎ分けられる芳香か……これ使えるんじゃね?


「ガァガァガァ(コレは中々役に立ちそうだな、クックック喜べ矮小なる者よ、我の役に立つ名誉をくれてやろうぞ)


 人間として意識があるのが幸いなのか、いい匂いとは言え明らかな危険物を食べたいとは思わない。だが魔物は釣られて、やって来る。


 これは使える、このスライムを飼えばもう獲物に逃げられるって事はないぞ。事実派手カラス共は我先にとスライムに襲いかかり電撃で葬られる。


 さて、ダンジョンに連れ帰るのは決定だけど、寄ってきた魔物をガンガン狩ってしまおう。派手カラスだけじゃない、他の魔物はどんな味がするんだろうな。


 俺は再び空に舞い上がり、いい具合に密集した派手カラスの群れに突貫する、入れ喰い状態、いや確変フィーバー状態につい声を上げてしまう。


「ギャオォォン(ハーッハッハッハ使えるではないかスライムよ、我に贄になるべく雑魚どもが寄ってきよる)」




   ~~~~~




 派手カラスの群れを食いつくし全滅させた後、しばらくしたら今度は多種多様な魔物が襲ってきた。


 角の部分が発光し、岩をも砕く破壊力の突進をしてきた鹿はカウンター気味に尻尾で殴り飛ばした。


 小型のガ○ラ? のような直立歩行の亀は、いきなり首が伸びて噛み付いてきた。咄嗟に派手カラスを取り出し盾にして、口が塞がったところを掴み、空に持ち上げて勢いよく地面に叩きつけ倒した。


 ハリ○ッド版ゴ○ラが如き、マグロが好きそうなトカゲ、いや巨大イグアナの群れで襲ってきた。噛み付かれたら多少痛かったが、俺の鱗を貫く程ではなく正面から薙ぎ払った。


 他にも多種多様な魔物が群れて襲ってきた……黒スライムに釣られたとも言うが。


 しばらくすると、どうやら周囲の魔物は全て倒したようだ。俺の分かる範囲に魔物の気配は無くなったので、俺はスライムを持ち帰る為、大きめの木を縦に割き、即席のスプーンを作る。


 とは言ってもどうにも俺は不器用なので、時間がかかってしまい、見れば既に太陽は西に傾き、空を赤く染めていた。


 俺はなんとか落とさないよう慎重に―――それこそ落としたら帰るのが夜になってしまう―――土ごと掬って帰路につく。


 あれだけ倒したんだ、魔石も大量だろうからダンジョンの拡張が捗るし、新しい魔法の部屋を設置したり戦力を呼んだりできるな。


 スライムを落とさないよう、慎重に飛行しつつ今後の予定を考える。


 先ず、ダイダロスさんとヴィーラントさんの妻子を呼ぶのはとりあえず確定、ずっとダンジョンで仕事をさせ続ける訳にもいかないからね。


 ダイダロスさんの奥さんのナウクラテーさんは、戦力としては到底カウントできないから、まぁ家事を頑張ってもらおう。


 息子のイカロス君は……どうしよう。空飛んで墜落したエピソードしか知らないけど戦力になるのかな? 有名ではあるけど。


 対してヴィーラントさんの家族だけど、今の迷宮レベルでヴァルキリーって喚べるのかな?


 英霊って言うか神だよな。確かヘルヴェルって名前だったと思うけど、喚べるとしたら間違いなくダンジョンの主力だな。


 息子のヴィテゲさんは……確か鍛冶屋じゃなくて戦士だから戦力としては期待できる。ヘタレっぽい逸話があった気がするが、戦力には違いない。


 後はお姫様のボートヴィルトさんだっけ? この辺は本人に聞いてみよう、逸話的に色んな説があるから、いざ喚んでから微妙な空気になっても困るし。


 ……まぁ帰って宝物庫の中を確認してから考えよう、そろそろ我がヘスペリデス大霊峰の麓に着く。


 上空から見る昼と夜の境目、茜色に染まる景色を楽し……めなかった、何故かと言うと、この山の中腹から山頂まで分厚く、真っ黒い雲に覆われていたからだ。


 形状からして入道雲(積乱雲)のような物だと考え、まぁ所詮雨雲だろう。


「ギャオォォォォン(ハーッハッハッハ! たかが雨雲に我が進撃を阻めるものか、雑魚どもの血糊を落とすシャワーがわりに使ってやろう)」


 ドラゴンの俺を阻むには足らないだろうと軽く考え、俺は一切の光を通さない雲の中に突っ込む。突入直前に某空飛ぶ城のメインテーマ曲を脳内に流し(オレ)の巣へ向かって羽ばたく……が。


 そう、俺はその時ドラゴンの力を過信していた、巨大な雨雲がどれほどの暴威かというのを侮っていたのだ。確かに上位のドラゴンなら積乱雲もものともしないで突っ切れるのだろうが……


「ギャァァァ(ギャァァ! 死ぬ! 死んじまう、だ~れ~か~た~す~け~てぇぇぇぇ!)」

 

 突入後にそっこうで後悔した、滅茶苦茶な乱気流に山肌に叩き付けられそうになり。


「アオォォン!(死ぬ! 衝撃波と言うか雷鳴だけで死ぬ! 雷に当たっても死ぬ!)」


 ドラゴンの視力でも見通せない暗闇の中は、暴風と雹と雷が荒れ狂い。もはや積乱雲を突破することは諦め、山を降りて機会を待つことにする。


 なんとかスライムを落とさないように気を付けながら、おっかなびっくり山を転げ落ちた俺は、状況が変わるまで山の周囲を―――勿論雲から大きく離れて―――旋回することにする。


 この山、どうやら雲に覆われるのは日中だけで、夜になると風向きが変わるのか積乱雲は徐々に散っていくようだ。完全に雲が消えたのを見計らい山頂へと飛んでいく。


「グルル(ふ、ふふ、闇に閉ざされた静寂にして深遠なるこの姿こそ、我がダンジョンのあるべき姿よ。さぁ暫し羽を休めると……ぎゃあ! スライムが凍っちまった!)」


 やばい、夜の山頂付近ってスゲェ寒いんだった! 急いでダンジョンで解凍しないと。俺は急いで山頂へ飛ぶ。


 なんとか頂上に帰ってくるとダンジョンの入口が開いた、どうやらマリエルさんが開けてくれたみたいだな。


「キュオン(さて……ただいま~マリエルさん、いやぁ雲の中って風が強くてまともに飛べないや、遅くなってごめんね)」


 再び羞恥心を心に纏う、捨てたんじゃないのかって? 脱いだんだから着れるに決まってるだろう。


 こうして、ヘトヘトになりつつ、俺の初めての狩りは無事に終了した。

読んでくれた皆様、ありがとうございます

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