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二日目・1

少しずつブックマークが増えていくのが嬉しいです。

 昨日造ってもらった台座の上で、目を覚ました俺は、軽く体を伸ばし外の様子を見てみる。


 迷宮内部ではどうも昼夜の感覚が鈍ってしまうので、ダンジョンの基本操作で外の様子を見てみると、外はまだ暗いが、東の空が僅かに白んでる。


 昨夜の歓迎会は、割と早い時間に解散したから、他の人もそろそろ起きるかな? と思ってたんだけど、朝の早い職人であるはずのダイダロスさんとヴィーラントさんが起きてくる気配は無い。


 まぁ、別に酔いが残ってるなら朝寝坊くらい気にすることはないね。欠伸をしつつ、外の風景をのんびり眺めてると、マリエルさんが入ってきた。


(おはようマリエルさん)


「おはようございますサシュリカさん、さっき様子を見に行きましたけど、二人共今日は使い物になりそうにありません。二日酔いで苦しんでましたよ」


 ありゃ? 飲み慣れてそうな二人だったのに意外だな。


(お酒に強そうな二人が二日酔いですか? 限界くらい弁えてそうでしたが)


「それがですね、冥府にいると忘れがちですけど、受肉して深酒が過ぎれば当然ですよ」


 冥府だと病気とは一切無縁なので、当然二日酔いもしない。あの二人がダウンしたのは、冥府にいる頃と、同じノリで飲んだからだそうだ。


 呆れたような表情で溜息をつくマリエルさん。彼女も同じくらい飲んできたような気がするが、顔色一つ変わってないところを見ると、天使はお酒に強いのかな?


「私は受肉してませんからね、分かり易く言うとマナで作った人形を冥府から遠隔操作してるんだと思ってください」


(ああ、それなら二日酔いになるはずないですね。でも遠隔操作なのに大型の魔物が怖いって……)


 俺がそう言うと、彼女は思い出したかのように体を強ばらせる。


「五感を完全にリンクしてますからね、お陰でご飯やお酒の味は分かるんですが、魔物に相対したら迫力はホラー映画なんて比じゃない上に、噛まれれば本当に痛いんですよ。大声にびっくりすれば、冥府に存在してる本体まで気絶しちゃいますし……」


 俺の大声で気絶した時、割と早く目が覚めたのは、冥府にいる大元のマリエルさんを他の人が起こしてくれたからだそうだ。


 俺は他の天使たちと一緒にオペレーターやってるマリエルさんが、ヘッドフォンの大音量で気絶して、周りの人が慌てふためき介抱してくれる情景がありありと浮かんだ。


 少し思念が漏れたのかもしれない、マリエルさんがジト目で可愛らしく頬をふくらませてる。


「なんか失礼なこと考えてませんか?」


(マリエルさんのドジっ娘っぷりにちょっとほっこりしてました)


「酷いですよサシュリカさん! ちょ、ちょっと予想外の事でびっくりしただけじゃないですかぁ!」


 俺の背後を飛び回って、抗議してくるマリエルさんは、ヴィーラントさんがシャレで作ったピコピコハンマーで俺の頭を叩いてくる。名匠特製は伊達ではなく、本来叩かれたことすら気付かないはずが、叩かれた部分がちょっとくすぐったい。けどマリエルさんが可愛いので、動かずにされるがままにしておく。


 叩かれてるうちにふと思いついた……


(召喚は分身体に仮の肉体を与えるモノだと、説明にありましたけど、なんであの二人二日酔いになってるんですか?)


「え? ああ、英霊は天使と違って、世界を超えて意識を飛ばすような真似は出来ないんです。なので冥府にある本体が丸ごとやってきて、肉体を得た形になります。分身体なのは神とか高位の天使や悪魔ですよ、仮に最上位の天使本体に肉体を与えるとしたら……この大陸のマナが枯渇するんじゃないでしょうか?」


 相当力を削り落とした分身体でもギリギリなんですよ。と、マリエルさんの言葉に神様上位陣の規格外さを再認識した、まぁ召喚不可なものは気にしたって仕方ない。


 それより英霊は本体そのものがやってくるなら、事故があったらどうするのかと思ったが、英霊の魂は恐ろしく頑強なので、肉体が停止―――寿命その他に理由で死亡―――しても再び冥府に戻るだけなのだそうだ。


「彼らは既にれっきとしたこの世界の住民であり、人間なんです。もっとも、別世界の事を触れ回らないよう制限が掛かってますが」


 神話の人間なので、二人の事はどこかマリエルさんのような天使と同じような目で見てたけど、カテゴリ的には人間なのか。


 いくら超絶的な技能を持ってても、決して万能の超人ではないってことだ。さて自業自得とは言っても、同じ迷宮で暮らす仲間なのだから、お見舞いとして水と果物でも持って行ってあげよう。あと必要そうなのは……


(そう言えばポーション以外に薬とかありましたっけ?)


「すいません、ドラゴンであるサシュリカさんには無縁ですから、その手のお薬を除く代わりに、食糧と資材増やしてるんですよ。状態異常を治すポーションはありますけど、流石に二日酔いに使用するのは勿体無いですよね」


 困ったな、それじゃ今日の予定を変更することになるかもしれない。別に綿密なスケジュール組んでるわけじゃないから、一日のんびりしてても構わないんだけどね。


(う~ん、今日は外に出てみようと思ったんですが、その間迷宮の留守番どうしましょう? 俺がいない間に魔物が入ってきたら、ダンジョンコアは勿論ですが、マリエルさんが危ないですよね)


 ダンジョンを拡張するにはマナが必要不可欠だ。ドラゴンの能力を試すのと、魔物の魔石を集めるのに周囲の魔物を狩ろうと思ってたのだが。


 頼ろうと思ってたダイダロスさんとヴィーラントさんが動けないんじゃ予定を変更せざるを得ない、一応ステータスを確認したところ二人共、囲まれさえしなければ魔物に遅れを取らないんだよね。




個体名:ダイダロス


種族:/英霊(レベル10)


職業:戦士(レベル10)/大工(レベル50)/芸術家(レベル10)


基礎技能:英霊基本セット(レベル3)


肉体技能:/戦鎚使い/他建築、生産に関わる技能多数


精神技能:


固有技能:迷宮作成




個体名:ヴィーラント


種族:/英霊(レベル10)


職業:戦士(レベル10)/鍛冶師(レベル50)


基礎技能:英霊基本セット(レベル3)


肉体技能:/武器全般使い/他作成、錬金に関する技能多数


精神技能:道具鑑定/復讐心


固有技能:秘宝作成



※英霊基本セット:対魔優位 知覚拡大 魔法耐性 精神干渉無効 職業技能取得



 両名とも本来はもうちょっと英霊、そして戦士としてもレベルは高いのだけど、マナを抑えて召喚したから仕方ない。


 それでも迷宮内で防戦する分には十二分に戦力になる。【対魔優位】スキルは魔物全般に対して強くなるから魔物相手に別に心配する必要はないそうだ。


 尚、ダイダロスさんに投げられたハンマーが妙に痛いのは、この【対魔優位】スキルがあるからだ。コレが竜殺しの逸話がある英霊とかだと、【対魔優位】に【対竜優位】とかいうドラゴン涙目のスキルが上乗せされ、更に酷い補正が入るとのこと。


 はい、俺の心の中で喚んでみたかった英霊リストからジークフリードさんは除外されました、怖いから仕方ないね。


 ついでにヴィーラントさん作の武器防具を装備していれば、更に補正は上昇。レベル10と聞くと頼りなさげな数値だが、そんなものを軽く覆せる程戦力アップを齎すのが、通常の魔法道具とは一線を画す、神話の名匠が作り上げた武器(秘宝)


 だから、ダンジョンの入口を開けっ放しにしても良いのか? と、聞かれても、答えはノー。


 マリエルさんに聞いたところ、ダンジョンの周囲はかなり魔素が濃い地域らしく、当然魔物も強い。


 体内に存在する魔石の格で魔物の等級―――現地人の言葉を借りれば討伐難易度―――が決まり、周囲の大森林にはA級からD級の魔物が彷徨いてるそうだ。


 一般的な区分としてE級は単体なら一般人でも倒せる、けど群れられると危険。例として子供ほどの背丈のゴブリンや、小動物型の魔物が大半を占める。もっともこのダンジョン周囲では、食物連鎖最下層にすら捕食され、ほとんど存在しない。


 D級だと、戦闘訓練を積んだ兵士が一人で辛うじて勝てるというレベル。大森林で群れを作るのは殆どこの等級で、石を投げればD級魔物に当たるくらい沢山いるのだ。


 C級は下手をすれば一匹で小さな集落が全滅しかねないレベルの魔物だ。倒すには対魔物専門の訓練を積んだ兵士が10人がかりなら安定して狩れるだろう。


 B級となると、精鋭の騎士数部隊が、密に連携をとった上で、ちゃんと情報収集と準備を怠らなければ打倒可能であろう。


 A級は地域のボス的な存在で、討伐には入念な情報収集と準備、そして大規模な動員人数を必要とするほどの、国レベルの対策が必要な大物。


 さらに上のS級とかは、ダンジョンコアを食べて強大化した魔物を指すのだろうから、人間にどうこう出来るものじゃない。他にはドラゴンやら巨人やらのレベルが高い連中がこのカテゴリに入る。


 この中でS級、A級、そしてB級の上位に位置する魔物は、基本縄張りを張っていて、あまり動かないそうだ。必然入口を開けて入ってくるのはD級、C級そしてB級の下位となる。


(ちなみに俺は?)


「サシュリカさんというか、『幼竜』の脅威度としてはB級下位ですね。ただし、普通の幼竜は食欲優先で視界にあるもの全てに襲いかかる文字通りの獣です。そのせいで幼竜の約半数は敵に囲まれて命を落としたり、罠にかかって倒されたりするのです。その点サシュリカさんは体躯に恵まれてますし、前世の記憶を持つことにより理性もあります、その辺を考慮してB級上位ってトコですね」


 勿論レベルが上がったり、仔竜に成長したりすれば等級は上がるそうだ。とは言え俺から魔石をえぐり出して確認できるはずも無く、あんまり気にすることは無いと言われた……分かってないなマリエルさん、B級を装って実はA級だのS級だった~とか実にロマンがあるだろう。


 完治したはずの中学二年生頃に患った病気が鎌首を……ううう、俺の中に眠る竜の血が、くっ静まれ……


「まぁサシュリカさんの雄叫びで森の魔物が逃げちゃったくらいですから、外に出るのは問題なさそうですが、油断は禁物ですよ? 二日酔いが治れば、あの二人で十分対処可能です、戦いの専門家でなくても、英霊である以上、並の人間とは基本となる能力が隔絶してますからね」


 人間のワンランク上―――人間や亜人と呼ばれる人たちも、レベルが上がり特殊な条件を満たすと英雄(英霊)にクラスチェンジするらしい―――の存在である英霊の二人であれば、戦闘職でない職人でしかもレベルを下げた状態であっても、C級の魔物には危なげなく勝てる。が、流石に万が一にも群れで襲われたら、負けないにせよ抜けられるかもしれない。ダンジョンコアを食べられてしまっては、大惨事が待ってる。


 その上今は二日酔いで調子が悪いのだから、ダンジョンを開けたままにはしたくない、その事を伝えると。


「では私がダンジョンを開けましょうか? サポートの範疇として基本操作なら私も出来ますので」


 マナを使ったりとかの決定権は俺しか持つことはできないが、基本操作はマリエルさんもできるらしい。ますます俺の秘書的なポジションだな、小柄で胸大きくてしかも可愛い天使が秘書とか……最高だな、異世界に来て良かった。


(それならお願いします、そうですね、日が落ちる頃に帰ってくるので、外の様子を見ててください)


 基本操作にはダンジョンの外の映像を見れる機能がある、流石に俺の図体を見逃すことはないだろう。


「分かりました、宝物庫はダンジョンが閉じていても使えますので、傷を治すポーションや解毒のポーションは躊躇なく使ってください。それと倒した魔物は同じように宝物庫に送ってくれれば、自動的に解体されますからね、まだ二日目なんですから無茶しないでください」


(分かりました、今日は小さいのしか狙いませんよ)


 そう言ってダンジョンの入口へ向かう。




   ~~~~~




 ダンジョンの入口はヘスペリデス大霊峰の山頂、入口から一歩出ると相変わらず白一色の氷しかない。


 しかし世界に産まれた時の星空には感動したけど、今は丁度日の出の時間。東の空が白み始め、山頂から見下ろす色鮮やかな大森林を眺めると、ああ、世界が違うんだという事を改めて思い知った。


 ただし青空は見えない、どうやら麓から吹き上げる風によって、徐々に山頂付近には雲が集まってきている。


(まず最初は空を飛ぶ練習だな、ダンジョンの中じゃ翼を広げられなかったから、思いっきり動かすぞ!)


 羽ばたくと周囲に凄まじい風が吹き荒れ、俺が砕いた岩の欠片が飛び散る……が、一向に体が浮く気配がない。


 そこでダンジョンを創った時と同様、意識を集中し、スキル【飛行・翼】と念じてみると効果は劇的だった。俺の巨体はまるで重さが無いかのように浮き上がり、凄まじい速さで上昇、翼を動かし水平方向へ……


(飛んでる、俺は今自分の翼で飛んでる!)


 感動で涙が出そうだった、なんて素晴らしい風景だろう、俺の飛ぶスピードはどれほどか? 凄まじい速さで景色が入れ替わる。


 そんな速度で飛んでいながら、眼下の森で慌てて木の陰に隠れる魔物の姿を捉えていた。


(今日だけ、今日は魔物を狩る気なんて消えちまった……もっと飛びたい! この素晴らしい風景をもっと……もっとだ!)


 前世の俺にはスピード狂の気は無かったはずだけど、自分の翼で自在に、そして凄まじい速さで空を飛ぶ快感に酔いしれる。


 だが、そんな気分に水を差すように、癇に障る鳴き声が聞こえた。それは俺の前方には魔物のものと思われる臓物を咥え、趣味の悪いとしか思えない、とにかく派手な極彩色の鳥の群れが飛んでいた。

読んでくれた皆様ありがとうございます

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