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一日目・4

やっと、キーワードのチートおっさん×2登場

 ダンジョンコアが設置されている中枢部屋では、山のように木材やら石材が積み重ねられていた。


 いや、むしろ積み重ねたのは俺。宝物庫には、ダンジョンルームを自分好みにカスタムできるよう、資材が豊富にあったので、指示されるがままに取り出し、延々と言われた通りの場所に運び続ける。


 はて、ダンジョンの主の筈が、なぜ荷運び用の重機扱いされてるんだろうか?


 ―――ゴトッ……パキン、あ、角が欠けちまった。


「何やってんだ大将! 石材はもっと丁寧に置きやがれ! 仕上がりが悪くなんだろうがぁぁぁ」


 俺に資材運搬の指示を出してるのは、筋骨隆々、身長2mを超えた禿頭の巨漢。


 ヤクザも泣いて逃げそうな強面で怒鳴りながら指示を出すので、怖いったらありゃしない。


「ガウッ(あ、はい、ごめんなさ、痛ぇ!)」


 平身低頭、工事現場の新人バイトのような心境で、現場監督に怒鳴られ、ゲンコツ(投げハンマー)いただきました。


 この人ミスるたびに俺の頭にハンマー投げつけてくるんだもの、木製のハンマーなのでダメージは無いが、衝撃が内部に浸透してくる謎の高等技術によってかなり痛い。おかしいな俺ってこの迷宮で一番偉い筈なのに……


「かぁぁ! 不器用だなおい! デカイ図体して荷物運びも満足にできねぇのかい!」


(すいません、図体がデカイからこそ不器用なんです!)


 ああ、偉いのに、あまりの迫力につい敬語になってしまう。


 怒鳴り声が聞こえたからかは知らないが、居住区と繋がってる扉から男が入ってきた。


「おう! 来たか根暗! さっき言ったモンは出来てるか!」


「…ん」


 部屋に入ってきた男は、怒鳴り声も気にしてないようで、軽く頷きゆっくりと歩み寄ってくる。


 彼も禿頭の巨漢ほどではないが、かなり背が高く筋肉質だ。マリエルさんが大体150cm前後なので大雑把に見て180cmはある。


「ダイダロス……作った……確認しろ」


「ったく! 大の大人がボソボソ話すんじゃねぇ! おら見てやるから、こっち持って来いやヴィーラント!」


 そう、この二人は俺がついさっき召喚した英霊なのだ、禿頭の巨漢がかのミノタウロスの迷宮を建築した名匠ダイダロス。


 そして無口な男がニーベルンゲンの歌に登場するヴィーラント。ウェーラント・スミスとかヴェルンドとか、色んな呼び名で多くの神話や伝承に優れた鍛冶師として登場する。


 どちらも神話の人だからか、本人の気質なのか、俺がドラゴンというのをあまり気にしてないようだ。


 ヴィーラントさんは巨人やら人魚やら妖精やらの血が混じった割と人外だし。


 ダイダロスさんも先祖にヘパイストスがいた……と思うので―――まぁギリシャ神話の人って大抵誰かしら神の血入ってるし―――ドラゴンだからと言って遠慮はないんだろう。


 さて、なんで俺が怒鳴られながら荷物運びをしてるかというと……




   ~~~~~




 召喚した当初、ダイダロスさんにはダンジョン設営の補助を、ヴィーラントさんには役に立つアイテムを創って貰う予定だった。


 勿論、バリバリ働くのを期待して召喚した訳だが、流石に初日から即仕事というのもアレなので、食糧庫にあったお酒でも飲んで親睦を深めようと提案したんだよ。飲ミニケーションは古今東西、有効だと思ったし。


「それじゃ色々用意しますね」


 マリエルさんがパタパタと食糧庫に飛んでいった。キッチンで二人用のおツマミを作ってくれるそうだ、家事を率先してやってくれるマリエルさんマジ天使。


 後、俺の図体だと丸焼きくらいしか出来ることはないらしい。まぁそもそも盛るための皿すらないからな。


 俺の食料事情はともかく、当初二人は喜んでくれた、ダイダロスさんは大笑いして話の分かる雇い主だな、とか言ってたし。ヴィーラントさんも言葉は少ないが、ドラゴン用の食器でも作ろうか? とか言って乗り気だった。


 ……が、居住区にある食堂に巨体のせいで入れず、廊下から長い首だけ出す俺を見て、ダイダロスさんが切れた。


「だぁぁぁ! 迷宮の主が廊下に座って飲み食いとかありえん! もっと広い場所に行くぞ!」


(そうは言っても居住区に俺が入れる場所は少ないですし、体を伸ばせるとなると……ダンジョンの大部屋くらい?)


 俺が言うと、ダイダロスさんは、おツマミを運んできたマリエルさんを睨んで。


「ごらぁぁ! 主が入れん居住区たぁどういう了見だ!」


「ひぃっ! すすすいません、ダンジョンに住むのって人間サイズが基準でして……サシュリカさん程の巨体は……その……想定してないんです」


 ダンジョンの主として、生まれ変わり先の決まってない人を魔物に転生させるのは、俺が最初のケースなので、居住区が狭い件は、ダンジョンを創って初めて判明したミスである。


 そのへんは既に報告してあるので、もう少しすれば別の人が俺と同じ状況になっても専用居住区は用意できるらしい。


 まぁやってみて初めて分かる不具合なんてのはよくある事だ。マリエルさんはもうしばらくの辛抱です、と申し訳なさそうに謝ってくれたけど、あまり気にすることはないと思ってる。俺としては対応してくれるだけでも有難い。


(あの、頑張れば人に変化できますし、あんまりマリエルさんを責めなくても……)


 ダンジョンの設定に関わってない、サポート役の人に怒鳴っても、好転することはないので、怯えるマリエルさんを庇う。


「駄目だ駄目だ駄目だ! 良いか、お前さんはこの迷宮の主。言ってみれば一つの城を治める王も同然だ!」


 あまりの迫力にマリエルさんはその場で正座、俺もつい頭をマリエルさんと同じ高さまで下げる。ちなみにヴィーラントさんは、ダイダロスさんに賛成なのか、ツマミを齧りながら頷いてる。


「酒飲んでる場合じゃねぇ! 中枢部屋の手前に大部屋があったな? そこと中枢部屋を統合して今から大将が休める部屋に改装するぞ!」


「統合して改装って…ダンジョンルームを弄るには相当慣れてからでないと……」


 話を進めるダイダロスさんにマリエルさんは待ったをかけるが、当のダイダロスさんはフフンと笑い。


「俺を誰だと思ってやがる、この名匠ダイダロス様にかかれば、晩酌前の片手間仕事よ!」




   ~~~~~




 ダンジョンの壁は、それこそ最高格のドラゴンが全力で攻撃して、やっと壊せるレベルの強固なモノです。英霊といえども人の身でダンジョンの壁を壊すなど不可能だと思ってました……


「中枢部屋だけは動かせないんだな、それじゃ大部屋の方を中枢に被せる形に……


(ダンジョンルームの移動じゃ部屋同士を被せることは出来ないみたいですから、隣接する感じでいいですか?)


「そうか? それじゃそんな感じだな」


 ダイダロスさんはサシュリカさんにお願いして、中枢部屋と大部屋を壁一枚だけ隔てるように隣接させました。中枢から扉を開ければすぐ大部屋になります。


 大部屋の扉の前でサシュリカさんが休めるよう、ドラゴン用のソファでも造るのでしょうか?


「そんじゃ始めっから、大将と嬢ちゃんは下がってな……おらぁ!」


 ―――ドゴッ


「なっなぁぁ! なんでっ?!」


 なんと、ダイダロスさんが木製のハンマーを叩きつけただけで、大部屋と中枢を隔てる壁一面全てが砕けてしまいました!


(なんか、ダイダロスさんって迷宮を造るというか、好き勝手に弄れる【迷宮作成】って技能(スキル)を持ってるんですよ)


 な、なるほど、サシュリカさんが真っ先に喚ぶのも納得です。地球製のゲームは詳しいんですけど、こういう伝承とかは全く不勉強でした。


「どれ、この白い珠が置いてある辺りは重要なトコだから大理石で飾って……大将の座る玉座を照らすように配置を工夫して……」


 彼は辺りを見渡しながら、ブツブツと考え事をして、時折紙に定規も使わず一筆書きで何かを図形を描いてます。設計図? でもそういうのって長さを測ったりとかするんじゃないですか?


 なにか手伝うことはないかと尋ねても『ちょっと待ってろ』としか言わないので、暫くは考え中なのでしょう。


(俺たちがいても邪魔ですから、端っこで待ってましょう)


「そ、そうですね……」


 サシュリカさんが、のっしのっしと移動する脇で、飛びながら随行します。なんとかサシュリカさん限定で近くを普通に飛ぶくらいはできます。


 この世界で魔素収集の任に就いて、大型の魔物に食べられそうになりながら、必死に逃げていた頃だったら、もっと距離を取ってたでしょう。


 こんな有様では駄目だ、魔物の強大化によって予定は大幅に狂ってしまったが、魔素収集はこの世界の安定化の為に絶対に必要な使命なのです。冥府の法との照らし合わせの為に、ヒトの魂を転生させ危険な任務を押し付けてしまったのだから、サポート役に甘んじることなく、彼を支えなくてはならないのです。そう! 人を導く天使として、頼れるお姉さんとして!


 折角サポート役に抜擢していただいたのですから、せめて面と向かってお話しできるようにならなければ! 私は前世が人間だったサシュリカさんより年上なんですから、気を使ってもらうなんて、天使の名折れです。


(あの、マリエルさん? マリエルさ~~ん)


 私の怯える姿を見て、彼は傷ついたに違いありません。これでは頼りにされるなど夢のまた夢、頼れるお姉さんと思ってもらうには、トラウマ克服しか……


 ―――ごつん


(だ、大丈夫ですか? なんで壁に向かってまっすぐ飛んでいくんですか)


「大丈夫です! 私負けません!」


 くっ! 考え事に夢中で前方不注意でした、サシュリカさんは心配そうに宝物庫から怪我を治すポーションを取り出していた。大丈夫です、壁に頭ぶつけただけで怪我はしてないですから。


 心配する彼をなんとか宥めながら、暫く待っていると、ダイダロスさんがこちらに向かって手を振っている。


「おぉぉぉい! 大将、ちょいと重いモン運んでくれや」


 考えが纏まったらしいダイダロスさんの大声が響く。


「私に何か手伝えることは?」


 テキパキ働いて、仕事の出来る天使だとサシュリカさんに見てもらわなければ!


「危ねぇから、台所で飯でも作ってな」


「うぐっ」


 さっきの『ごつん』を見られてたんですね、くっ! まだです、まだなにかやれる事は、そうだ!


「あ、でもさっきヴィーラントさんに頼みごとしてましたよね、私はそちらのお手伝いでも……」


(居住区に設置した鍛冶場にいると思いますけど)


 そういえば鍛冶屋さんって言ってましたね、色々と細かい金具を作ってるんですね。


「やめとけ、鍛冶場に女が入るもんじゃねぇ」


(女の人どころか誰も近寄るなと念を押されたので、近づくと怒られちゃいますよ)


「……はい」


 ううう、そうですよね、職人さんの仕事場に素人が入ると困りますよね。


 きょ、今日のところはお料理を頑張るとしましょう。




   ~~~~~




 マリエルさんと二人、部屋の隅で神話の職人二人のやり取りを見ていたけど、話が終わったみたいなので声をかけてみる。


(居住区に用意した鍛冶一式、初めて使う筈ですけど大丈夫ですか?)


「ん、問題無い……」


 鍛冶一式は居住区に付けられるオプションの一つ、50マナで設置できたが、特殊な金属や強力な魔物の素材を加工するには、強度が足りないらしい。しかし設備が足りない部分は腕で補うと、実に職人らしい頼もしいお言葉を頂いた。


 ダイダロスさんに必要になる金具の作成を指示されたらしいヴィーラントさんは、ちょっとした説明だけで頷き、居住区に設置した鍛冶場に歩いていく。


 そして俺は言われた通り荷物運びを始め……冒頭の状況になる。


(正直俺には何に使うのか分からん形の金具ばかりだけど。すげぇな二人共パズルみたいに資材を組み立てて、単なる石の部屋がなんか謁見の間とかそういう感じになっていく)


 荷物運びですら戦力外通告された俺だったので、隅で二人の仕事ぶりを見学してるとダイダロスさんが声をかけてきた。


「チト不満だが、今の手持ちだとこんなもんか。大将ちょっと座ってみな」


 ダンジョンコアの正面に置かれた石造りの台座には、いつの間にかドラゴンを象ったレリーフが彫られており、まるで祭壇のような荘厳さを感じる。


 試しに乗ってみると意外と柔らかい、どうやら台座の外周だけが石でできており、俺が座る部分は木と獣皮を組み合わせたクッションのようになっていた。


(おお! 柔らかいですね、魔法でも使ったんですか?)


「はっ! バカ野郎、そんなつまらねぇ手品使うかよ、普通に手持ちの資材を組み合わせただけさ」


 俺の驚いた声に気を良くしたのか、笑いながら答えるダイダロスさん。台座の内部で素材を組み合わせ、体重が分散されるように計算してあるだけらしい。


 簡単そうに言ってるが、素人からすれば、魔法と言われても納得の超技巧である。


 座り心地が良いだけでなく、尻尾を伸ばせばダンジョンコアに触れられて、座ったまま【迷宮の主】スキルを使用できるのが素晴らしい。


 少ない資材であっても見た目豪華で尚且つ実用性と利便性を兼ね備えるとは……神話の名匠恐るべし、職人の鑑だね、マジで。


「おっし! 大丈夫みたいだな、まぁドラゴンは放っておいてもすぐデカくなるから成長する毎に、もっと良いモノ造ってやっから、資材良いの集めとけよ! おぉい小娘、さっきの続きをするから酒と肴を持って来い」


「はーい、お待たせしました、お二人の分だけでなく、サシュリカさん用にも色々工夫してみましたよ」


 キッチンから飛んできたマリエルさんの周囲の空間が歪み、次々と料理が並べられる。見れば俺用と思われる巨大な皿も次々と現れる、量が量なので手早く作れるモノばかりだが、丸焼き以外の手料理は正直嬉しい。


「へっ、仕事の後の酒ほど美味いもんはねぇ、大将、早いとこ音頭をとってくれや」


(分かりました、皆さん飲み物をお手に)


 俺以外の三人が持ってるのは木製のジョッキ、俺は蓋を取った樽そのままが置いてある。


(それでは、この迷宮の明るい前途を願いまして、乾杯!)


「「「乾杯!」」」


 そうして、俺がこの世界に産まれた記念すべきこの日、俺、マリエルさん、ダイダロスさん、ヴィーラントさんの4人は酔い潰れるまで飲み続けたのだった。


読んでくれた皆さん、ありがとうございました。

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