一日目・2
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(ダンジョンですか? 罠があったりモンスターが湧いてきたりする)
俺の中でダンジョンというとRPGの洞窟や塔、ボスのいる城とかのイメージだ。ドラゴンの巣がダンジョンというのは分かり易いが、氷しかないこの場所にダンジョンが出来ると言うのがよくわからない。俺の疑問にどこからともなくホワイトボードを取り出したマリエルさんが、詳しく説明してくれた。
曰く、ダンジョンとは、効率良く魔素を収集するアイテムである「ダンジョンコア」を防衛する為の施設である事。
「ダンジョンコアは―――長いので私達は単にコアと呼んでますけど―――放っておくだけでも広域の魔素を集め、マナに変換、保管する装置なんです……ですが、膨大なマナを内包してるせいで、なんの対策もしてないと食べられちゃうんです」
大量のマナはモンスターにとってご馳走らしい、ご馳走というより経験値の塊という意味で。ダンジョンコアを食べた魔物は、マリエルさんたちにはどうしようもないほど、巨大で強靭な存在に生まれ変わったという。
「そのせいで現在魔物の強大化と言う、シャレにならない事態になってるんですよね。あ、生き物に取り込まれた時点で魔素収集機能が壊れるセキュリティはされていたので、無尽蔵に強くなるとかはありませんからご安心ください」
つまり、今の事態はセキュリティの不備が原因ってことか。まぁ対策を考えるのは神様でも上の方だろうし、俺は俺の仕事をしっかりこなす事に集中しよう。
「そこで、防衛機能としてのダンジョンなんです。マナを用いて守護者を召喚したり、創造したり、魔物を使役したり、勿論迷路や罠とかも造れます。魔素を集めれば集めるほど不可侵なダンジョンに出来るんです」
(マナとか還元しないで使って良いんですか?)」
「この世界の住民が使用する分には自由ですよ、壊れたりすればマナに戻りますからね」
そう言ってマリエルさんは壊れたゴーレムがマナになって、そのマナを使って別のゴーレムを造るサイクルのイラストをホワイトボードに描いてくれる。なんか某有名RPGのゴーレムだ、天使も日本のゲーム知ってんだね、しかしマリエルさん絵が上手いなぁ。
「ただ……ダンジョンに入った瞬間に生き物が死亡するなんて凶悪なのは設置しないでください。可能であれば程々に魔物や人が入って、そして出て行って貰えるようにして欲しいのです」
変換したマナを溜めたままにしないで、出来れば周囲に拡散するのも仕事の一つ。ダンジョン内で生産したアイテムや魔物を倒して吸収したマナを持ったまま、各地に散って貰うのが理想なんだそうだ。
そうすることによって、人に取り込まれたマナは自然に放出され、ゆっくりとマナが世界に浸透し循環するのだ。その結果土地は肥え人が増えると言う寸法だ。
一瞬マナで作られたアイテムを、俺が飛んでバラ撒くってのも良いかもしれないと思い、言ってみると止められた。
いくらドラゴンでも一人では回りきれないし、それ専用に魔物を使役したとしても、不要な争いの種になる。何よりもこの世界の住民が動かず、豊かさだけ享受するようでは、文明の発達を阻害し、長い目で見れば害になるそうだ。
例えば、多くの人が力を合わせ肥沃な土地に棲む魔物の縄張りを勝ち取り、街を造り上げた場合と。なんにもない近所の荒地を、仮に俺がある日突然豊饒の地にしてやった場合。
前者は問題ない。団結して困難を成し遂げた人々は協力して、肥えた土地に田畑を作り、家畜を育て、豊かな土地故に人は増え文化を育むだろう。
後者の場合……俺は感謝されるかも知れないが、血みどろの抗争待ったなしである。強い奴が土地を得たとしても、間違いなく恨み辛みが残る、コレが特に冥府的によろしくない。なぜなら憎悪を残した魂は、アンデッドモンスターに生まれ変わってしまう可能性が高く、生まれ変わるべき魂が減ってしまうからだ。
「それに、サシュリカさんにそんな果てし無く続くような苦行させるわけにはいきませんよ。お仕事には程々の息抜きが必要ですよ?」
輝くようなエンジェルスマイルで優しい言葉をかけられ、彼女への好感度と信頼度は急上昇である。
「そんなわけで、ダンジョンの主であるサシュリカさんが快適に過ごせるように、迷宮を造る機能を応用した居住区は、お好みに合わせたバリエーションが充実してます。冥府に住んでるインテリアデザイナーが考えた機能的な造りなんですよ」
それは良いですね、俺はともかくマリエルさんにはちゃんとした場所で休んでもらわないとね。
「それとマナや供物と引き換えになりますが、ある程度要望があれば然るべく努めさせて頂きます。冥府経由で地球に買い出しって役得がありますから」
イタズラっぽく微笑むマリエルさん、そっか、本当は休日にしか駄目だけど、サポートの買い出しって名目があれば堂々と地球―――もっとも、地球以外にも文明の進んだ異世界が幾つも存在するらしいが―――に行けるのか。厳格なイメージあったけど、意外と緩いんだな冥府、まぁそういう事なら遠慮なく頼らせてもらおう。
もっとも、これはマリエルさんの気遣いの可能性もあるな、こう言っておけば俺もお願いしやすいし。
「なんでも良いんですよ? 魔法を使った発電機もありますからオーディオでもゲームでも、ホームシアターだって可能です。是非とも設置をお勧めします、天使って規則が厳しくってゲームは1日1時間しか許してくれないんですよ!」
訂正、マリエルさん俺の居住区で遊ぶ気満々だ、別に良いけどね。マリエルさんは可愛いから全てを許します。
(俺が人に変化可能になったら一緒にゲームしましょうね)
俺の言葉に嬉しそうに俺の周りをパタパタと飛び回る……が、俺の顔に近づくと涙目で遠ざかる。
(ぐすん……)
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいサシュリカさん! ああ、私ったらなんて事を……」
嬉しそうに飛び回ってた顔から一転、見てるこっちが申し訳なくなるくらい謝ってきたので、怖い思いしたんだから気にしなくて良いですよ。と念話で伝える【思念会話】は嘘は言えないので、こっちが気にしてない事もちゃんと分かるはずだ。
「ううう……ありがとうございます、サシュリカさんの寛大なお心に感謝致します」
ちょっと傷ついたのは確かだが、顔を真っ赤にしつつ涙目な美少女天使の姿は実に癒される。ああ、この心の奥底から沸き立つ感情……これが萌え、いつまでも見ていたい欲望が鎌首をもたげる。
だが狙って彼女を怖がらせるのは駄目だ。紳士にあるまじき所業だし、何よりも、お仕事を頑張る女の子が、些細なアクシデントで涙目になるというシチュエーションこそが萌えなのだから……
「話が逸れてしまい失礼、次に便利なダンジョンの機能である『魔法の部屋』の説明します」
コホンッ! と、ちょっと恥ずかしそうに咳払いしながら説明を続ける。
「魔法の部屋とはダンジョンの主であるサシュリカさんと空間的に繋がった部屋です、例えばこのように……」
マリエルさんは何もない空間から、直径で50cmくらいの真っ白い球体を取り出す、役人さんも同じような事やってたな、ひょっとして神様の標準装備なんだろうか?
「こちらが冥府の備品管理室から取り出しましたダンジョンコアです。サシュリカさんが主であると認証するので、説明が終わるまで触れていて頂けませんか」
(え、でも俺ウロコがギザギザしてますから傷ついたら拙くないですか?)
「思い切り噛み付いても壊れませんから安心してください。触ってさえいれば良いので、えーと尻尾を丸めてソコに置いときましょう」
言われて尻尾でダンジョンコアを包む、意識してなかったけど尻尾の先っちょは5本に枝分かれしてて、それぞれかなり器用に動くから、片手でする感覚で色々な作業が出来そうだ。枝分かれしてる部分は、大体マリエルさんの足くらいの太さと長さで、先端部分は硬く、鈎爪のような形状をしているから、細かいことはできないだろうけど。
「こんな感じで使用できる魔法の部屋は基本として、『宝物庫』『食料庫』の二つで、他にもダンジョンの運営に便利な色々な部屋があります。この辺はサシュリカさんのお好み次第ですね、基本の二つはダンジョン内で倒れた魔物を自動的に回収し、魔石、爪、牙、骨等、素材として活用できる部分は『宝物庫』に収納。そして肉などの食用部分は『食料庫』に自動的に仕分けされ保管されます」
(使えない、素材にならない部分とかはどうなるんですか? ダンジョンの外に破棄とかですか?)
「魔物の素材は基本無駄になる部分はありませんが、質の悪い素材というのは確かにありますね。そういうのはダンジョンに魔素として吸収され、マナに変換されます、いらない素材を魔素にしてしまうなんてことも出来ますよ」
ダンジョンに吸収されると、僅かながら魔素として蓄えられるようだ。俺が納得したように頷くと、彼女は魔法の部屋の説明を続けてくれる。
「保管された素材や食料ですが、魔法の部屋なので劣化や腐敗とは勿論無縁です。後、外部から持ち込んだ食料、貴金属、武器防具、日用品なども保管されます。言うまでもない事かも知れませんが、人間としての意識があるサシュリカさんに配慮して、人間や亜人達は素材と認識されずダンジョンに回収されないよう、機能を削除しております。その分余った容量は食料庫の拡張に使われてます」
(便利ですねぇ、他にはどんなものがあるんですか?)
マリエルさんはホワイトボードに箇条書きしながら説明を続けてくれる。
「そうですね、魔法の部屋の種類は多いですが、使用頻度が高いと思われるのが幾つかあります。『秘宝作成陣』『秘宝保管庫』『魔石作成陣』『召喚儀式陣』『経験値保管庫』ですね」
そう言って一つ一つ詳しく説明してくれる。
『秘宝作成陣』:宝物庫の素材やマナを利用し、様々な効果のある魔法の道具を創れる。素材とマナを適当に放り込みランダムで作成するか、ある程度の指針だけを与えて、お任せで秘宝を作成できます。この場合宝物庫の素材を勝手に使用するし、素材が足りなければ効果がヘッポコな秘宝が出来て素材だけ消費、なんてこともありえますので注意が必要ですよ。秘宝はダンジョン運営に非常に便利ですが、多用しすぎると宝物庫がスッカラカンなんて普通にありえます。
『秘宝保管庫』:魔法の道具である秘宝を、離れた場所で何時でも使用できます。例えば傷を治す秘宝が保管庫にあれば、秘宝を取り出さずとも傷を治せ、経験値を増加させる秘宝があれば、装備しなくても得られる経験値が増えると言った具合です。勿論、保管庫から取り出し第三者に与える事もできます、創った守護者に秘宝の武具を装備させ倒した者に与えたり、ダンジョン内に宝箱を設置し見つかった秘宝は、持ち帰られ世界中にバラ撒かれることでしょう。
『魔石作成陣』:魔石とは魔物の体内で魔素が変換されマナとなり、それが凝縮した結晶体で、魔物のエネルギーであり、身体能力を高めるブースターです。強い魔物ほど格の高い魔石を持ってます、この魔法の部屋はダンジョンが収集した魔素から魔石を作り出せます。砕いて足りなくなったマナを補充したり、秘宝を作る素材として利用する他、様々な用途があるので魔石のストックは必須ですよ。
『召喚儀式陣』:本来はこの世界に干渉が難しい神々―――又は悪魔や精霊、英霊など―――ですが、分身体に魔石を核とした仮の肉体を与えることのできる魔法の部屋で、ここだけは直接この部屋で儀式を行わないと召喚はできません。彼らにとっては肉体を持って現世に干渉出来るだけで報酬になるので、余程の非礼を働かない限り、協力してくれると思われます。現世に派遣される私のような神は、基本善行を積んだだけの元一般人ですが、召喚される者たちは伝説に語られる存在、その能力はとても頼りになるでしょう。
『経験値保管庫』:魔物が倒されることで”生物が吸収しやすいマナ”が発生し拡散します。これが経験値と呼ばれるもので、体内に吸収することでレベルアップするのですが、拡散する以上、大部分がロスしてしまいます―――周囲の土地に吸収されるので無駄ではないんですが―――そこで、迷宮内に限り吸収しきれなかった経験値を回収、保管し、自分自身か仲間に自由に分け与えレベルアップを図れます。
(お疲れ様です、ホント参考になりました)
「いえいえ、これもお仕事ですから、それでは認証が丁度良く終わったので、サシュリカさん、ダンジョンコアに意識を集中して【迷宮の主】のスキルを使ってみてください。集中してスキル名を念じる感じですよ」
(了解ですマリエルさん……むぅん! 【迷宮の主】!)
その瞬間、ダンジョンコアから眩い輝きが放たれ、周囲の空間が変貌する。
―――彼は天に最も近き、聖なる山にて誕生した
―――彼は穢れなき白い鱗を纏い、天をも覆い尽くす翼を持つ竜であった
―――彼の産声に邪なる者どもは、恐れ慄き、忽ち姿を消してしまう
―――天の祝福として美しい翼の乙女が彼の前に跪き名を捧げた
―――大地の祝福として、聖なる山は彼の宮殿と定められた
―――これが一日目の話
ある未開の部族の集落で発見された、石碑の一文より抜粋
作中でも書かれてますが、主人公サシュリカの姿のイメージとして
・先ずキン○ギドラを想像してください
・左右の首を鉈のような爪が生えた腕に脳内変換
・色は白で、全体的にスリムにした感じ
・翼が大きく、尻尾が長くなった
そんなドラゴンがモンスターの群れに突っ込んで無双するのが本作のイメージです