四日目・1
短編共々日刊ランキングに乗ってるの見て、不覚にも仕事場でニヤニヤしてしまいました、感無量です。
色々と忙しかった夜も明け早朝、外を見ればまだ積乱雲は出てこない時間帯だ、進化したせいで少し手狭になった俺専用の台座から降りたところで、マリエルさんとレナさんが入ってきた。
「おはようございます」
「サシュリカ様、おはようございます」
(二人共おはよう、レナさんは昨日の今日で疲れてるだろうから、ゆっくりしてなよ)
朝一で美少女二人に、朝の挨拶されると気分がいいね、今日も一日頑張ろうって気になってくるよ。
「お心遣い、誠にありがたく存じます」
背筋をピシッと伸ばし、この世界の礼法とか全く知らない俺ですら、綺麗だと感じる完璧な所作でお辞儀するレナさんだが、うーん、チト堅苦しいな。
(そういう固い言葉遣いはいらないよ、もう少し砕けてくれると嬉しいな、ほらガチガチな敬語ってなんか距離ある感じがするし)
俺の言葉にレナさんはちょっと困った顔をする、ん? ひょっとして素? ナチュラルにこの言葉遣い?
「サシュリカさんもこう言ってますし、仲良くなる第一歩と思えば良いんですよ」
「マリエル様……ですが」
(それじゃ命令ね、タメ口にしろとは言わないけど、いや俺的にタメ口でもいいけど、マリエルさんとかナウクラテーさんくらい砕けた感じで話してね)
二人もそんな砕けてるわけじゃないけど、マリエルさんは丁寧かつフレンドリーだし。
ナウクラテーさんはアレだ、常連客に対するホステスさん的な? あの人距離感掴むの物凄く上手いんだよな、あの偏屈変人のヘルメスさんとでも初対面で普通に会話してるし。
それはさておき、会話する人次第で言葉遣いを変えるのは、まぁ普通だろうけど、俺が硬い会話が苦手なのでできるだけ早く慣れてもらいたいものだ、ああ、お嬢様言葉は大歓迎だよ。
なぜなら恐ろしく似合う上に、俺が萌えるからな。
「御意のまま……いえ、わ、分かりましたわ」
顔を真っ赤にして言葉遣いを直すのが実にイイね! よくできました、後は時間が経てば慣れるだろう。
(俺が狩りに行ってる間とか自由にしてて良いからね、マリエルさんとゲームとかして遊ぶとか)
実はマリエルさんの私室には、地球から買ってきたゲーム機がたくさんあるらしい、人に化けれるようになったらお邪魔させてもらおう。
「やったー英霊の皆さんゲームとか興味が無いみたいで、一緒にプレイしてくれないから困ってたんですよ、レナさん今日は一緒にゲームしましょうね!」
物凄く嬉しそうですねマリエルさん、レナさんがちょっと引いてるよ?
(ヴァルキリーズとかどうなの? ゲームとか好きそうな子いそうだけど)
あの娘ら精神的にはまだ子供だし、ゲームとか好きそうだと思う。
「昨日は初陣で疲れてるだろうと誘ってないんです、けどちょっと彼女たちの部屋を覗いてみたら……」
(覗いてみたら?)
マリエルさんはちょっと疲れたような、呆れたような何とも言えない表情で語る。
「全員集まって反省会やってたんです、それは良いんですけど、それで、まぁ実戦さながらの模擬戦しててゲームしようなんて言える雰囲気じゃなかったんです」
このダンジョンの立場的にマリエルさんは俺に一番近い秘書というか、片腕ポジである、俺が不在の時はマリエルさんの指示に従うように言い含めてあるから、彼女が言えば反省会中断して付き合ってはくれるだろうけど、流石に訓練中に遊びに誘えるマリエルさんではない。
分かってはいたけど、何というかヴァルキリーズって個性はあるけど、漏れなく体育会系だね、格闘ゲームなんてやったらリアルファイトに発展するんじゃなかろうか? ド○ポンとか……はっはっは流血沙汰待ったなしだね、アレは文句を言ったり嫌味を言う程度なら兎も角、だんだん無言になってきて……やめよう不毛だ、思い出したくない。
「そういうわけでレナさんが来てくれて嬉しいです、二人で遊べるようなゲームを色々試してみましょうね♪」
「で、ですが主が留守の間遊び呆けてるのは……」
それなりに背の高いレナさんに小柄なマリエルさんが抱きついて、遊びに誘ってる姿は実に絵になるなぁ……美少女同士が仲良く触れ合ってる光景は最高だね。
嬉しそうに微笑むマリエルさんに、レナさんは照れてるというかちょっと困った顔して俺を見る、生真面目な彼女はあんまり遊んだりはしてないのだろうか? してないんだろうな、余暇を惜しんで勉強してるか運動してる感じだな。
(マリエルさんはこのダンジョンのナンバー2だからね、諦めて一緒に遊ぶといいよ)
うるさく言う人なんてダンジョンにはいないんだから四六時中気を張ってると、ストレス溜めるよレナさん? 俺がいない時くらい羽を伸ばしなって。
アレだ、専業主婦みたいな感じ……マリエルさんとレナさんが奥さんか……いいね! 超いいよ、なんかやる気が漲ってきた! これで古き良き三つ指ついてお出迎えとかされたら堪らんね、人に変化出来るようになったら速攻お姫様抱っこで寝室に……いかんいかん妄想が暴走してた、クールダウンしようクールダウン、仕事の話でもして空気を変えよう。
(それじゃ狩りに行く前に、ちょっとダンジョン弄りますね)
俺が言うと、喜色満面でレナさんに抱きついてたマリエルさんが、我に返ったように咳払いをしていつものスクリーンを表示してくれる。
レナさんは初めて見るダンジョンの機能に驚いてる。
(昨日の時点で結構魔素が溜まってますね)
今ダンジョンレベルが1だから、一分につき魔素が一点、つまり丸一日ダンジョンを開放してると60点×24で1440点の魔素が収集される。
昨日は約半日ダンジョンを開けてたのと、使わない素材を魔素として吸収したからそれなりに溜まってた。
あと魔物の死骸の中で使い物にならない部位は魔素としてダンジョンに吸収される、ゾンビとか弱くて使えない素材も捨てて魔素にできるあたりよく出来てる。
(先ず大量にあるE級とD級魔石を砕いて、ダンジョンのマナを満タンにしてレベルアップします)
「はい、昨日ヴァルキリーズが持ち帰った小さい魔石が大量に余ってますからね、これだけで一万マナ近くありますよ」
E級魔石は砕いても5マナにしかならないけど塵も積もればなんとやら、とりあえず大半を砕いてダンジョンをレベル2にする。
ダンジョン名《ヘスペリデス大霊峰》:レベル2
ダンジョンマスター:サシュリカ
保有マナ:0/20000
未変換魔素:1633/20000
居住区:レベル3
宝物庫:1600/3000
食料庫:1000/2000
大部屋:3
魔法の部屋:召喚儀式陣/経験値保管庫/魔法の書庫/真実の鏡
ダンジョン入口:閉
(それじゃ次はD級とC級の魔石を砕いて保有マナを二万まで貯めてください)
「C級魔石は砕かなくてもD級魔石が400個以上ありますからそれだけでレベルアップですね」
そういえば大量に送り込んだD級魔物はヴァルキリーズのレベリングに使ったんだよね、9人が無双すればそりゃ400個以上溜まるか。
早速レベル3に上げた、これでダンジョンを9階層まで増築できる、一つの階層を増やすのに必要なのは1000マナだ。
(中枢の上階に魔法の部屋とか保管庫をまとめて設置して、下に迷宮を作る感じにします)
「はい、マナ残量問題ありません、階層増設後、部屋の移動を行います。」
ダンジョンコアに触れて、操作すると一瞬の振動の後中枢部屋に階段が現れた、どうやら無事にダンジョンの増設は成功したようだ。
上の階層には宝物庫や食料庫などの魔法の部屋を移動させる、それと同時に幾つか目に付いた新しい魔法の部屋を設置する。
下の七階層はとりあえず大部屋だけ設置、細かい仕様は後でダイダロスさんを始め全員と相談して決めるとしよう。
おや、階層が増えたらなんか表記が変わったな。
ダンジョン名《ヘスペリデス大霊峰》:レベル3
ダンジョンマスター:サシュリカ
保有マナ:0/40000
未変換魔素:1633/40000
九層:宝物庫/食料庫/召喚儀式陣/経験値保管庫/魔法の書庫/真実の鏡/魔石作成陣(B級)/秘宝作成陣/秘宝保管庫/自動ポーション作成プラント
八層:ダンジョンコア/大部屋×3/居住区(レベル3)
七層~一層:大部屋×1
ダンジョン入口:閉
(帰ったら皆と相談しますから、案があったらその時言ってくださいね……そうだ)
「どうかしましたか?」
ゲームで思い出したけど、ダンジョンを造る参考資料として、往年の名作ゲーム『魔○村』をプレイさせるのはどうだろう? 『悪○城ドラ○ュラ』でもいい、別視点で『ゼ○ダ』や『マ○オ』もアリだろう。
俺が人の姿をしていたらさぞ黒い笑顔をしていただろう、あくまで参考資料の名目で思いついたゲームを職人二人にプレイして貰うように頼んだ……二人は器用だからきっとクリア可能さ、多分、きっと、めいびー。
タイトルで察しがついたのだろう、マリエルさんもまた、黒い笑顔とまではいかないが、意地悪そうな笑みを浮かべている。
一方、レナさんの頭上にはハテナマークが浮かんでいたが、俺たちが楽しそうなので口を挟む気は無いようだ。
「むふふ……サシュリカさんったら、意地悪ですねぇ」
宜しくねマリエルさん、それじゃ狩りに行ってきます。
「行ってらっしゃいサシュリカさん」
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
マリエルさんは笑顔で手を振り、レナさんは深々とお辞儀して送り出してくれた。
さて、一昨日は東、昨日は南に飛んだから、今日は西に行ってみよう、全体マップを見ると西側は湖とか大きな川が多い、昨日今日と肉ばっかりだから今日は魚だな。
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早朝の清々しい空気の中、大森林西側は巨大な湖を中心に網目のように大小様々な河川が流れている。
実はこの大陸、あんまり雨が降らない、何故か日中に風が大陸中心に向かって吹き、俺の住処であるヘスペリデス大霊峰に雲が集まってしまい、日中は常に晴天、偶に夜間にポツポツと降る程度らしい。
気流の関係なのか、それとも魔法的な自然現象かは不明だが、随分と昔からそういう環境のようだ。
雨が降らずにこんな大森林が形成されるのかとも思うが、雲に覆われた大霊峰から流れてくる水が大陸を潤している、山の土砂を含んだ雨水は豊かな森を育み、森から流れ出た川には豊富な栄養素、ではなく多量のマナを含み土を肥えさせる。
そう、山から流れてくる水にはマナが含まれており、森の中の湖なんてそりゃモンスターのパラダイスですよ? 極小の魔物なんて文字通り水だけで生きていけるし、豊富な餌目当てに魔物が集まる。
そして集まるから食物連鎖の頂点付近、いや中腹あたりのやつでもC級上位B級下位の連中がたむろしてるのを期待してやって来ました。
勿論縄張り張ってる魔物にも気をつける、いくら俺が進化しても、まだA級には及ばない、昨夜の巨人ゾンビは中身が残念だったからで、今巨人戦士と戦っても逃げたほうが無難だろう。
特に水場なんて強い奴が優先的に自分の縄張りにしそうだ、思いつくのは水棲の魔物か……よし凍らせよう。
「グルァァァァァ(さぁ我が吐息に飲まれ、凍えて滅びるがいい)」
上空から放つ氷のブレス、対巨人戦で分かった事だが、俺の口から放たれるブレスは、白い霧状の冷凍ガスみたいなもので、『体内から凍らせる』と言う生き物に対して極悪な仕様になってる。
多分氷の単一属性だったら氷柱とか氷の礫とかを広範囲に撒き散らす感じなんだろうけど、『氷』と『雲』の属性だからこんな感じなんだろう、というのがマリエルさんの予想だ。
冷凍ガスに触れた湖面は一瞬で凍りつき、見渡す限り真っ白だ、これで湖の底にA級魔物がいても不意打ちされる心配はない……心配はないので、ちょっと思いついたことを実行に移す。
即ち、凍った湖に向かって滑空し思いっきり滑る! 俺の体のうちで腹の部分の鱗はザラザラしてないのでブレーキはかからない、超速度で凍った湖面を滑るの楽しぃぃぃ! と思いきや完全に凍ってるので普通に地面と同じように摩擦がかかり、思ったほどスピードは出ない。
ならば濡らしてみせよう、昨夜はヘルメスさんが帰ってこないので詳しい検証はできなかったが、ある程度出来ることは掴んでいた。
竜語魔法・氷は文字通り氷や低温を操る魔法で、これは分かりやすい。
もう一つの竜語魔法・雲は簡単に言えば気象を操れる魔法だ、だがまぁあまりにも広範囲かつ大雑把な効果なので、狙った場所に雷を落とすくらいしか、これといって使い道が思いつかなかった。
……しかし、だがしかし! この状況なら大いに利用させてもらおう、即ち小雨を降らせ、凍った湖面を濡らす……成功だ、爪で触れた感じツルツルだ。
俺は再び空に舞い上がり湖に向かって滑空。
「ギャハッァ!(ヒャッハー!!)」
おお滑る滑る、今度ウチの娘たち連れてスケートしに来よう。
運動神経抜群のレナさんはあっさり滑れそうだけど、マリエルさんはどうだろう? なんかコケそうだドジっ子のイメージ的に、いやコケそうだったら飛ぶか、天使だし。
だがしかし、ここはおっかなびっくり氷の上で震えてるマリエルさんを想像してみよう、そしてコケて涙目の姿を……萌えた。
他の娘はコツを掴めばすぐに滑れるようになるだろう、可愛い女の子たちが青空の下楽しそうにスケートしてる情景を思い浮かべ……
―――ゴスッ!
痛ッ! なんだぁ? 何やら黒い石っぽいものをドテッ腹にぶつけられるが……飛んできた方向の見える範囲に生き物らしい影は見えなかった。
読んでくれた皆様ありがとうございました。




