三日目・14
暑さにだれてしまって投稿が遅れて申し訳ございません
「殿下、エトナシーカー周辺における屍人の群れは兵たちの尽力により全滅、被害も巨人との遭遇以外ではほぼ無傷でございます」
砦の応接間で報告を上げるのは腹心のレヴィン・スプリングガーデンだ、態々大将軍である彼が私に報告に来たのは……まぁ内密の話があるのだろう、内容は予想がつくが。
あと若手の従騎士では緊張でまともに報告できないと思ったからか?
だったら私に押し付けずお前が彼の歓待をしろと言ってやりたい、小心者の私がこの方と二人で歓談などなんの冗談だ? 顔に出さないだけで精一杯なのだぞ、まだ30だというのに私をストレスでハゲさせる気か!
「グレン殿の兵は中々精強であるな、よくぞあの混乱においても連携を保てたものだ」
私の目の前にはストレスの元凶である一人で軍隊撃退できそうな―――実際勝てるビジョンが浮かばない―――老境の偉丈夫、スラウエスト王国のスベント王は寛いでいた。
私はこの国の王太子で、この砦の総司令官だというのに、客観的に見て彼のほうが砦の主に見えるだろう、ただ座っていてもなお放たれる武威の前に肩書きなどなんの意味もない。
「は、はは……歴戦の勇者であるスベント王に褒めて頂けるとは光栄です」
……胃が痛い、なんでこの国に居るのだとか、なんで国王がホイホイ越境してるのとか、そもそもなんで一人なんですかとか、色々問い詰めたいのだが聞いてもまともな答えが返ってくるとも思えない、恐らくだがノリと勢いと他人に理解できない自己規範に忠実な方だと見ている、『稀によくいる』タイプだから間違いないだろう。
そう言えばこういうタイプが部下にもいたなぁ、親に無理やり軍隊入りさせられて、ある程度は我慢していたようだが、ちょっとした諍いの泥を自ら全部被り、嬉しそうに軍を去ったっけ、今では楽しそうに冒険者やってるはずだ。
それはともかく白い竜が去った後、残敵の掃討が一段落したところで、私に話しかけてきた冒険者風の老人に対する周囲の驚愕は凄まじかった。
彼の獅子奮迅の戦いぶりを見た誰もが、老人が何者か興味を抱いていた、そこに巨人殺しの大英雄スベント王だと堂々と名乗るものだから、将兵たちはまるで蜂の巣を突っついたかのような大騒ぎだ。
「おっと、儂はすでに隠居した身であるぞ、そう堅苦しくせずとも良い」
度数の強い蒸留酒をまるで水か茶のように飲みながら、機嫌よさげに語りかけてくる……いや堅苦しいというか、多分巨人より強いであろう人間(の形をした猛獣)を前に緊張しているだけですから。
とにかく気持ちを切り替えなければ、私はレヴィンに目線で報告を促した。
「巨人に関しましては、白竜が飛び去ってから一切姿を表さないことから、巨人の屍人は討たれたと思われます、念のため王都周辺にて哨戒を続けております、また、戦闘が起こったと思しき場所では途中の街道はほぼ全壊、地面は一切溶ける気配のない魔法の氷で覆われており復旧にも時間がかかる見通しです。」
「地面が凍結か、白竜殿の仕業か? 杖を構えた戦乙女様かも知れんが」
中間報告は何度か受けているが街道が全壊とはまた恐ろしいな、なんでも街道のありさまは酷いもので、平地であった場所が馬で移動はおろか、身軽な冒険者であっても進むのに難儀するほど地形が変わってしまったらしく、巨人と竜の戦いの凄まじさを物語っていた。
「もう一つ、エトナシーカーと王都の中間地点にて、屍人の群れが出没したそうですが、冒険者を率いてこの町へ向かっていたシャガード殿下の一党に討伐された模様です、明け方には町に着くでしょう」
意外な名前を聞いて少し驚いた、確かに弟は同じような立場の跡取りになる可能性が低い貴族の子弟達と共に、様々な取り組みに精力的に挑戦している、恐らくは父に認められたい一心であろう、今度の件は武勲が欲しかったのだろうか?
「シャガードの奴、緊急事態だから不問にはするが、許可なく手勢を率いて戦闘など普段であれば厳罰ものだぞ、少し厳しく叱ってやらねば」
世継ぎの目が無いからこその無茶だろうが、これが普通の貴族なら揚げ足を取られ後々痛い目に遭うであろう軽挙だ、罰しはしないにしても少々灸を据える必要があるな。
「お待ちください、少年らしい功名心でしょう、頭ごなしに叱責すれば反発するでしょうから、屍人を討伐した事実と、殿下の心意気を褒めつつ、注意を促すのがよろしいかと」
レヴィンの諌めに少し考え直す、確かにシャガードは叱ればその分反発する性格をしてるな、押し掛けとは言え援軍に来て功績を立てた者を最初に叱っては反感を買うだけか。
そこに大人しく報告を聞いていたスベント王が、声をかけてきた。
「ふむ、その王子は普段から連絡を密にしておるのかな?」
「いえ? 王族とは言え弟は無役の身、我々から特に連絡を回すということは……」
「随分と準備が早いのまるで予め知っていたかのようじゃ」
声だけは穏やかに、静かに話すスベント王だったが、目は笑っていなかった。
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地球では到底見ることの叶わない、巨大な月と宝石を鏤めたかのような星空の下、俺たちは巣に向かって飛んでいた。
行く時は時間がなかったから、脇目も振らずに飛んでいたが、帰り道ではのんびり夜景を眺めつつも、賑やかに飛んでいた。
「屍人の討伐数は私が一番だったんですよ」
最初は渾身のドヤ顔で俺に話しかけてきたカクシちゃんだった、彼女は刺突剣が武器だけに攻撃速度は、鉤爪を使い体術に秀でたセイちゃんとツートップ。
しかしセイちゃんにはないリーチの長さを存分に使いこなしキルカウントが物凄いことになったそうだ。
「ふふ~ん、あんな弱いのなんていくら倒しても武勲にならないよ、私なんて集落一つを助けたもんね」
俺を挟んだ反対側でカクシちゃんを挑発するのはユフちゃん、彼女は自分の身長くらいある弩弓で集落を襲おうとしたゾンビの群れを全滅させたそうだ。
飛びながらああだこうだと言い合い、それに他の娘も乗っかるので俺の周囲はあっという間に騒々しくなった、まぁ険悪な雰囲気はなく自分の頑張りアピールな感じなのでなんだか微笑ましい、見ればヘルヴェルさんも楽しそうに微笑んでる、彼女からすれば幼い妹達がじゃれあってるようなものだろう。
「皆頑張った様で嬉しいデスよ、集まった信仰がその証デス」
ん? 信仰? そんなの分かるの?
「敵が広域に散らばり、民衆の目に触れたせいか、それなりの人数が信仰してくれたようです」
ユクシちゃんによると夜間にも関わらず、いや夜だからこそ白く光る翼が目立ち、どうも場所によっては女神だの妖精だの呼ばれて拝む人までいたようだ。
王子さんもなんか女神とか言ってたし、兵士達の彼女達を見る目は完全にアイドルに対するファンのそれに見えた。
(信仰されるとどうなるの?)
「簡単に言えば信者が多ければその分強くなるのデス」
神に近い性質を持つ彼女たちに限らず冥府の住民の殆どは、祈りを捧げられるだけで経験値が得られ、技能も習得できるそうだ、ただ反面祈りが歪んでたり、邪悪な存在として信じられてしまうと、自身の性質が引っ張られてしまうそうだ。
ヘルヴェルさんは確固たる自我を持ってるけど、まだ幼い戦乙女達は影響は大きそうだな、彼女たちが悪く思われないように気を付けよう、皆を悪堕ちさせるわけにもいかないからね。
(ヘルヴェルさんとか派手に動いてましたけどレベル上がりましたか?)
「千人にも満たない信仰だとレベルが上がるほどでは無いデスね」
レベルの高い彼女は兎も角、他の娘達は何人かレベルアップしたそうで、俺と一緒に目立ったカハちゃんなんて技能まで覚えたそうだ。
(技能か、そういえば進化して覚えた竜語魔法の検証どうしよう)
「魔法ならヘルメスが適任かと……ってヘルメスはどこにいるのデスか?」
実はヘルメスさん、エトナシーカーに拠点を作るとか言って、冒険者引き連れて町に潜り込んでいた、ワープゲート造る為に資材の無心されたんだよ。
「ダメじゃないデスか! ああいうのを自由にさせておくと禄な事にならないデスよ!」
信用ないなヘルメスさん、だがまぁ彼女の懸念も尤もだけど、元々束縛する気無いんだよ?
(目的があるならそっち優先にしても構わないと皆には言ってますよ、勿論目的に反しない範囲でダンジョンに協力して貰うと……召喚して即ヴィーラントさんとイチャついてたから聞き逃しましたか?)
「だ、旦那がサシュリカ様のお話を遮ったのが悪いんデス!」
ちょっとバツが悪そうに、顔を赤くしたヘルヴェルさんは俺を追い越してさっさと先に飛んで行ってしまう。
そんな彼女が去った後、ユクシちゃんが俺の傍にやってきて、とても生真面目な声で……
「私たちはサシュリカ様にお仕えするのが望みですから」
ありがとう、けどそれだけじゃ楽しくないんじゃないかな? まぁ自我が芽生えてまだ一日経ってないんだから仕方ないけど、これから色々な経験をして自分の目的……いや、そんな大層なモノじゃなくても、趣味でも見つけて人生楽しんで貰えると召喚した甲斐があるね。
趣味じゃなくても恋愛とか……ウチの娘が嫁に欲しくば俺に勝ってからにしてもらおう、ちょっとハードル高いかな? よし各神話のトップレベルの英霊を沢山喚んで、10人抜きくらいしたら認めてやらんでもないな。
「あ、あの……どうかなさったんですか?」
投槍を持ったネリャちゃんが俺に見られてるのに気がついたのか、照れつつ声をかけてきた。
(ああ、ごめん、ダンジョンに冒険者や騎士が来るようになったら、皆のことは男どもが放っておかないだろうなと思ってね)
「ははっ、私に勝てる奴なら考えなくも無いですね」
獰猛な笑みで物騒なことを言うコルメちゃん、全員似たような考えなのか周囲の娘達は頷いてる。
(おっと君たちに勝てるだけで良いのか? 俺は英霊10人抜きくらい考えてたけど)
「うふふっ……そんな大英雄に求婚されたら戦乙女冥利につきますね」
さて、そんな戦乙女の嫁入り条件で盛り上がってるうちに、我が家の入口が見えてきた。
ふぅ、今日は忙しかったな、ゆっくり休もうっと。
―――その日、竜は生贄の少女と出会った。
―――少女はわが身と引き換えに、故郷を救うよう願う。
―――願いに応えた竜は、白く輝く翼を以て悪しき者共を討ち祓う。
―――悪鬼は勇猛であり、さしもの竜も傷つき血を流す。
―――九つに飛び散った白い鱗は、翼持つ乙女となり、流れた血は大地を浄化した。
―――少女は竜に仕える巫女と成り、故郷の安寧を祈る。
―――これが三日目の話
ミリス王国資料館に保管された古書、『躍進期』の一文
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