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三日目・3

 どれほどの時間が経ったのだろう? 目を覚ました時太陽は真上にあった、まだ日が高いのでそれほど経っていないのか、私にとっては悪夢のように長く感じるが……


 ドレスは引き裂かれ、武器である鉈も失い、周囲は屍人の群れ、動きが遅いがとにかく数が多く、中に体高5メートルはありそうな巨体―――額の角から察するにオーガだろう―――の屍人まで複数存在していた。


「ゲヘッ! なっ泣いて許しを乞え……おっおっ俺のように惨めなすっ姿を晒してみっ見ろ!」


 表情など存在しない筈の、妄執に塗れた屍人の目と声色には怖気が走る情欲を孕んでいた。


 声の出どころが司令塔だと判断し、探して突破口を開こうとしても、魔法が使えない私には邪霊を討伐する手段は無い。


「黙れ下衆!」


 屍人の一体を蹴倒し、廃屋で鍬を拾った鍬を振るって頭を潰す、背後から数体掴みかかろうとしてきたが遠心力を効かせた鍬を頭部に当て、隣の屍人も巻き込み転倒させる。


「ハァハァハァ……」


 逃げ道はどこだ? 屍人は何体だ? 私の体力はどこまで続くんだ? いやそもそも……


 ―――パンッ!


 顔を叩き、諦めようとする考えを叩き出す、幸い大半の屍人は敵ではない、問題はオーガの屍人だが、巨体な分動きが鈍重で避けるのは難しくない。


 大元の邪霊は私を殺そうとはしてないので、囲むだけで攻撃の手は緩い、妄執だけで動く邪霊に罠や動きの誘導などの戦略性はありえない。


 幸い一度憑依した屍人を倒せば別の体を乗っ取るのに手間取るようだ、その間周囲の屍人は棒立ちとなるのは戦いながら気がついた。


 距離を取らなくては、私は重い足を引き摺るように南を目指す、向かうべきは冒険者の集う最寄りの町エトナシーカー。


「あっあっ諦め……ろ、命だっだけは、助けてやる……だっだから命ごっ乞いしろ……フヒッフヒヒ」


 少し離れたところで、再びどこからともなく響いて来る不快な声を聞き嗤う、敵を嗤う事で、萎えかけていた闘志に再び火を灯す。


「女の口説き方として論外ですわね、まぁ女性と交際した経験がないのが、言葉の端々から下品さと卑屈さを見ればわかりますわ」


 挑発し尚も嗤う、こんな下衆に屈してなるものか、こんな奴に屈して汚されるくらいなら、舌をかんで自害しようか? 少なくとも誇りは保てる。


「きっきっ~~~~~ッッ!」


 私の嘲りの言葉に、どこからともなく聞こえる邪霊の声に怒りが混じる、これで屍人の攻撃は激しくなるだろうが、敵が感情を―――特に怒りを―――露わにしていれば……


「猿の真似事ですの? 可愛らしいお猿さんへの侮辱するのもいい加減になさい、害虫の鳴き声を真似た方が相応ですわよ」


「貴様ぁぁぁ! こっこっこのおっ俺を馬鹿にしっしたな!」


 癇癪を起こした邪霊が取り付いてるのは、屍人の中で唯一憤怒の表情を浮かべている、目立たない場所で立ってるだけの屍人。


 攻撃を受けないために、身を隠す程度の知能はあったようだが、挑発によりあっさり前に出てくるあたりが、妄執だけの邪霊と言ったところか、意外と近くに居たのが幸いだ。


 疲れきった足をなんとか動かし、駆ける、進路を塞ごうとした屍人は、簡単なフェイントに引っかかる。


 容易く脇を抜け、癇癪を起こし地団駄を踏む小柄な屍人に肉薄、予想以上に頑丈な作りをしている鍬を振りかぶり、頭部を破壊する。


「がぁぁぁ! おっおっおのれおのれおのれぇぇぇぇぇ!!」


 邪霊は肉体の外に出るだけで弱るのだから、肉体を壊されるのは痛手のはず。


 ―――ガァァァァ! こっ殺す! ぐちゃぐちゃにしっしてやるぅぅぅ


 喚く邪霊を無視して遮二無二駆けた、多分に願望が混じってるのかも知れないが、どうも憑依してから動き出すまでの時間が延びてる気がする。


 この延びた時間は邪霊が弱ったという事なのか?


 このまま他の屍人に指示を出されるまでに、可能な限り距離をとり、奴の視界の外に出れば多少は光明が見えるはず。


 ……オーガの屍人が私を囲むように配置されていなければ。


 その巨体に道が塞がれてしまっては、どうしても足は止まってしまう。


 ―――ぶっぶっぶっ殺す! 虫みたいにつっ潰してやっやる!


 憤怒の表情のまま、オーガの囲いの外―――しかも随分と離れた場所―――で、別の屍人に取り付くよりも、オーガの屍人に指示を出すことを優先したのだろう、むき出しの霊体のままに邪霊は喚きたてている。


 オーガの拳がまともに当たれば、私など即死だろう、まぁ戦って討ち死になら、汚されるよりも騎士の娘として、軍を統べる父の子として私の誇りは守られる、だからそれまでは、せめて精一杯の抵抗をする、そう気を引き締め―――


 ―――私は空から降ってきたドラゴンに食われた。




   ~~~~~




(だぁぁ臭ぇ! ゾンビか! やっぱゾンビがいるのかよ! ド畜生! 鼻が良いんだよドラゴンはよぉぉ!)


 正直悪役ロールやってる余裕は無い、極力鼻で息しないように上空を飛ぶ。


 人が住んでいないであろう村にはゾンビの群れ、しかもなんか角の生えたデカいのが何匹か固まっている。


 そのデカいゾンビが集まる中央には、女の子がいた。


 最初に目に付くのは腰まで届く綺麗な金髪、高級そうなドレスが破れているせいで露出している白い肌、そしてグラビアアイドル真っ青なプロポーション。


 少女は絶望的な状況にありながらも、毅然とゾンビの群れを睨みつけていた。


 どうするべきか考えるまでもなく、女の子を助けるべく羽ばたく。


 俺は上空から一切の躊躇もなくゾンビの群れに突っ込む、鼻が曲がりそうだが、そんな物で怯んでちゃカッコ悪いだろ、女の子が襲われてんだぞ。


(ゾンビって耳が聞こえるのか知らんが、出来るだけ音を立てないように近づく)


 かなり上空を飛んでるおかげか、ゾンビの群れは俺に気づいた様子はない、まぁ目の前に金髪縦ロールのお嬢様風美少女が扇情的な姿を晒してれば、遠くの羽音なんて遮断されるだろう、少なくとも俺は一切気が付かない自信がある。


(ちょっと怖いが女の子の為だ、森の中で綺麗な川があったから、蹴散らしたあと丹念に体洗わないとな)


 羽ばたきを止め、翼を折り畳む、場所は少女の真上……風のせいで少しずれるが翼で着地地点を微調整しつつ高速で落下……


 ―――ズンッ!!―――


 砂埃を巻き上げつつ、女の子を守るように翼で周囲を覆う、イメージ的に四つん這いの状態で、俺の腹の下で女の子を守るように着地。


 同時に尻尾を振り回し大型ゾンビ共を薙ぎ払う。


 この転移のメイスは、痛みで怯ませて、転移の魔法に抵抗できないようする仕組みで、痛みを感じないと思われるゾンビに通用するか不安だったが、そもそもの魔法防御力が全く無いらしく、彼女の周囲を囲む角付き5メートル級ゾンビは消え去った。


 俺の巣に臭い残らないだろうな? 消臭剤を作ってもらうべきか。


「なっ!……え? ……ドラゴンですの? オ、オーガが一撃で消えた?」


 女の子は何があったのか理解が追いつかないのか、唖然とした顔で俺を見る。


 デカイと思ったがオーガのゾンビだったのか、なんでそんなのに一人で襲われてたんだか知らないが、とにかくこの子を連れて逃げないと、呆然としまま動かないのでそっと掴もうとしたが……


(げぇ! 手にべっとりゾンビの残骸がくっついてやがる、やべ、着地の拍子にゾンビ踏んづけちまったよ汚ぇな)


 まいったな、こんな手で女の子を掴んだら可哀想だ……緊急事態だから仕方ない咥えて空を飛ぶか。


 少女は硬直しているので、ゆっくり慎重に胴体の部分に牙が触れないよう注意し優しく口に含む、噛まないよう細心の注意を払いながら、大きく羽ばたき上空に一旦退避する。


 ゾンビは動きが遅く、体も脆いとは言っても数に任せて襲われ、この子が傷つきでもしたら、臭いのを我慢した甲斐が無くなってしまうからな、一旦退避だ。


 安全な場所に連れて行って、その後俺はゾンビ共を始末……安全な場所?


(安全な場所ったって何処にあるんだそんなもん)


 候補1、森の中……魔物が多い、だいぶ間引いた場所はあるが、それでも女の子を一人で放置は論外。


 候補2、人里を上空から探す……ゾンビはこの子を狙ってると思われる、俺が戦ってる間、別働隊に人里を襲われたら無関係の人も襲われるかも知れない、そもそも人里近くにドラゴンが出現したら大騒ぎ間違いなしだ。


 候補3、勘で遠くに飛ぶ……見渡す限りどこかしらにゾンビがいる、相当広範囲に発生してやがる様子なので、安全地帯が分からない、置いてった場所が魔物の生息地だったら目も当てられない。


 後は俺のダンジョンか? まぁ安全だけど完全に誘拐だよな、勿論後で家に帰してあげるけど。


 マリエルさんに勘違いされて、軽蔑の目線で見られたら、多分俺立ち直れない……じゃなくて今から帰ると急いでも多分夕方、今日は積乱雲が無いとは言っても、山頂は低気温と低気圧で、普通の人は下手すると死にかねない環境なんだよな。


 考え事をしつつ、尻尾が届く程度の高度にホバリングして、ゾンビを減らしていく、土地勘がないのでどうすれば安全なのか分からない。


(ある程度の防御力を持った都市があれば送り届けるんだけどなぁ……あ、少し離れてから彼女に聞けば良いのか)


 そう思い、彼女に思念を送ろうとした瞬間。


「あっ危ない!」


 考え事をしてて注意が散漫だったのか、彼女の声でいつの間にか接近されていたことに気づく。


 身長十メートルを超える巨大ゾンビに。


(なっ! いくらなんでもこんなデカブツに気付かないなんて……)


「おっおっ俺から花嫁をうっ奪うんだな? おっ思いしっ知らせてやる」


 巨大ゾンビの手にはその巨体に相応しい大斧が握られており……その目はゾンビであるというのに血走り、明らかに正気ではなかった。


「後ろに飛んでぇぇぇぇ!!」


 尻尾を巨大ゾンビに叩きつけた反動で大斧の間合いから離れようとする。


 しかし、巨大ゾンビは、その身の丈相応な巨斧をを軽々と振りかぶる、その迫力は巨体を更に強大な姿に錯覚させた。


 ―――ゴウッ!!


 大質量が高速で落ちてくると表現すればいいのか? 空気が歪む、空間が軋む、圧倒的な速さを伴った大斧は俺を両断するべく振り下ろし。


 巨人の斧は俺の身体を切り裂き、勢い余って地面諸共少し離れた建物数棟を両断する。


(グッガァァァァ! 噛まない、口に絶対力は込めねぇぇ!)


 切り裂かれた痛みが全身に走るが、根性で歯を食いしばることだけは止め、長い尻尾で地面を『蹴り』更に後方へ跳躍。


 体を捻ったのが幸いしたのか、肩口から脇腹まで切り裂かれ大量に出血するが、幸い急所には届いていなかった。


「ゲヒッ! おっ思いしっ知ったか! 俺はつっ強いんだ! ばっバカにするやっ奴みっみっ皆殺しだぁぁぁ」


 血走った目でもう一度俺に切りかかろうとする巨大ゾンビだったが、間一髪斧の届かない上空に逃げた、大斧を投げつけられたら危なかったが、奴に武器を手放す気はないようだ。


(この巨人ヤバイ! ゾンビなのに早いしパワーも桁外れだ、巣に一旦退かないと!)


 胸元の痛みに耐え、歯軋りしたい衝動を抑え、俺は巣に向かって全速力で飛ぶ。


「どっドラゴンすらにっ逃げるのか、ヒヒッ俺はドラゴンすら逃げるくっくらいつっ強いんだ!」


(あたりめぇだ、なんで好んで気狂いと関わり合いたいもんかよ)


 そう思ったが、万が一この気狂いが人の住んでる場所襲うのは放っておけないよな。


なお、レナを助けに向かう途中の主人公の脳内掲示板では『女の子を助ける』でほぼ統一されてましたが一部『ウ=ス異本展開キター』とかいう

レス(煩悩)が入るものの理性(運営)により削除されてた模様


読んでくれた皆様ありがとうございました



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