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三日目・1

 俺は中枢部屋の台座の上でヘルヴェルさんとお喋りしつつ、寛いでいた。狩りに行こうにもまだ準備が出来てないからだ。


 朝から仕事してるダイダロスさんとヴィーラントさん。あと魔物の素材を宝物庫から持ち出し居住区に篭ってなんかやってるヘルメスさん。マリエルさんとナウクラテーさんは家事をしたり、素材の管理をしたりと意外と忙しくしてる。


 俺とヘルヴェルさんだけちょっと暇だった。訂正、ヘルヴェルさんはダンジョンの主である俺の護衛として傍にいるので、実際暇なのは俺だけだった。


 いや、仕事はしたんだよ? 朝起きて必要になりそうな魔法の部屋を設置したんだ。


 今後エルフさん(美人)とかケモ耳美少女(重要)とか配下にした時に、手っ取り早く戦力になるよう『真実の鏡』と『魔法書庫』をね。


 『真実の鏡』は所謂ステータスの確認ができる部屋だ。俺の使えるステータス確認だとレベルと技能だけだけど、こっちはより詳細に、本人も知らないような隠れた才能のようなものまで分かる。


 『魔法書庫』はそこに収められた書物の内容ならいつでも知ることができ、それこそ狩りの最中に魔物の生態とか調べられ、必要な知識が頭の中に詰め込まれるので魔法の習得の助けにもなる。折角の異世界だし魔法を使ってみたいからね。


 勿論普通の図書室としても使え、しかも自動的に翻訳される便利な機能がついている……もっとも今は一冊も本がないが。


(魔法書庫に漫画とか小説でも入れようかな……)


「良い考えデスね、私もサシュリカ様が好んだ娯楽を楽しんで見たいと思うデス」


 うむ、日本のサブカルチャーがあれば今後暇することはないし、会話のネタにも困ることはないだろう。


 後でマリエルさんにお願いしよう、彼女は今忙しい筈だからね。


 つい先ほどハリセン片手に、ヘルメスさんと追いかけっこしてたマリエルさんは見なかった。彼女はダンジョン運営のサポートで忙しいんだ。


「申し訳ありません、ウチの馬鹿がはしゃいだせいでサシュリカ様を待たせるとは、後で叱っておくデス」


 俺が狩りに行けないで退屈してると思ったのか、ヘルヴェルさんは少し申し訳なさそうだ。


(まぁまぁ作業開始が遅れたのは、ヘルヴェルさんと再会できて嬉しかったからですよ。ちょっとくらい時間がかかっても俺は気にしませんから、謝らないでください)


「しかしデスね、朝には出来ると大口叩いておきながら、もう昼デスよ、まったく! 職人として恥ずかしくないんデスかね!」


 俺の傍で直立不動で待機してるヘルヴェルさんは、夫が不甲斐ないと申し訳なさそうだけど、俺は知ってる。


 ヴィーラントさんが俺の武器を創り始めるのが遅れたのは、歓迎会が終わり解散した後、全員に割り当てられた個室―――首を伸ばして見てみたらまるで高級ホテルみたいだった―――での夫婦の時間のせいだと。


 なんで知ってるのかって? ドラゴンの聴覚は尋常じゃないんだよ! ダンジョン機能を使って防音仕様にするまで寝れなかったからだよ!


 さて、体力的には平気でも気分的に寝不足なので、欠伸をしてるところにマリエルさんが飛んできた。大口開けてるところを見られてちょっと恥ずかしい。


「サシュリカさん、ダイダロスさんから伝言で魔物を放り込む専用の大部屋が出来たので、サシュリカさんに確認をお願いしたいそうです」


 ダイダロスさんは流石に二日続けてダウンするなんて事はなく、朝からお仕事を頑張ってる。昨日の内に用意した大部屋三つを魔物を放り込むこと専用に造り、ダンジョンの住民以外に誰も通れないよう通路に仕掛け扉を設置してくれたのだ。


 一つ目はB級以上の部屋、これはとにかく放り込んで勝手に潰しあってもらうように、ヘルメスさん特製の闘争本能を刺激しつつ、食欲は減退させる効果を持った魔法の霧で満たされている。放り込めば勝手に経験値と魔石、素材が手に入るって寸法だ、ヘルヴェルさんが暇な時は放り込んで無双させても良いけどね。


 二つ目はC級の部屋、この部屋は俺が戦闘経験を積む為に用意した部屋で、ひたすら広大で天井も高い、その上倒した際霧散する経験値を吸収しやすくなるよう工夫が施されている。


 最後がD級以下の部屋、弱い魔物は食料と魔石以外特に必要ではないので、ヴィーラントさんが創った守護者やヘルメスさん特製のゴーレムがひたすら暴れまわれるよう、頑丈に造られている、新しい仲間が出来ればレベリングに利用しても良いだろう。


「あとヘルメスさんが外に出たいと言ってるんですけど、入口開放しますか?」


(もういっその事日中は開放しておきますか? ヘルヴェルさんが守っていれば魔物の心配はありませんし、第一積乱雲に包まれてるせいか入口がそもそも見つけられませんよね)


 俺の意見を聞くとヘルヴェルさんは元気よく『お任せ下さい』と敬礼をしてくれる。戦乙女だけに戦力として頼られるのは嬉しいそうだ、と言うか…





個体名:ヘルヴェル


種族:/戦乙女(レベル60)


基礎技能:戦乙女基本セット(レベル13)


肉体技能:槍使い/近接戦闘系技能多数


精神技能:魔法系技能多数


固有技能:※黄金の指輪



※戦乙女基本セット:対人優位 対魔優位 対霊優位 対不死優位 魔法耐性・強 精神耐性・強 飛行・翼 


※黄金の指輪:自らの魔力を以て、黄金に輝く指輪を創造できる、この指輪を装備する者に関して彼女は常時その位置や状態を知ることができる、他にもステータスを上昇させる等様々な恩恵を与える。


※かつて一時帰郷の時に旦那に贈った指輪を、他の女が身に付けてるのが分かったので、大人しく身を引いたつもりだったらしい、その後真相を知りガチ切れした模様。




 ……なんかこの人を入口に置いとけば、このダンジョン安全じゃね? まぁ日中守ってもらうのはともかく、夜まで見張りさせちゃヴィーラントさんが可哀想だし、何より恨まれそうだしね。


「ではそのように、でも一度に大量の魔物が入って来ても大丈夫なように、対策もしておきましょう」


 この山の過去の天候を見てみると、日中積乱雲が発生しない日は一年に5~6日程度で。ほぼ毎日山頂は分厚く黒い雲に覆われている。


 反面夜間は雲が散り見晴らしが良いのだけど、極寒と低気圧、刃物のような氷に覆われた地面は空を飛べない限り侵入不可能だ。このダンジョン天然の要塞すぎじゃね?


 とは言えC級以上で、厳しい環境に強い魔物ならやってくるかも知れない。ダンジョンコアの防衛はあらゆる可能性を考えなくてはならないのだ。


(ダイダロスさんと相談してみます、それじゃ一緒に大部屋の確認に行きましょう)




   ~~~~~




「おっ、来たな大将、ちゃんと大将は通れるな。7スライムは通れなかったからまぁ大丈夫だろう」


(あのスライム、自分で移動できたんですか? 俺が見たときは殆ど移動できないみたいでしたけど)


「ああ、魔物寄せの成分取り出す為に幾つか餌くれてやったんだよ.そしたら分裂してな、黒い方はそのまま動かないんだが分裂して生まれたもう一匹の透明な奴は、鶏肉を取り込んだ後変色して、なんか浮かびやがってな、襲ってきたから叩き潰しちまった」


 うーんフリーダムな生態だなスライムって、最初に取り込んだ餌で生態が決まるってホントだったんだ。餌によってはなんか役に立つ奴が生まれるかも知れないな。


 しかし、成分取り出すなんて専用設備もないのにできるのかと思ったら、黒いスライムの一部分を瓶詰めしただけだった。なんでもこれ自体が魔物を誘う匂いを発してるらしく、ビンから中身をこぼすだけで魔物が寄ってくるそうだ。


「今日の狩りに持ってきな、ヘルメスの奴が量産できるようにしたみたいだから、好きに使っても大丈夫だそうだ」


「現在宝物庫に100瓶くらい保管してありますね、使えそうなアイテムがあったら、それ量産専用のホムンクルスを造ってくれるそうです。まぁその代わり、マナや魔石の融通して欲しいそうですが……」


(働いて貰うならそりゃ対価くらい出しますよ、ダイダロスさんも欲しい物とかあったら言ってくださいね、冥府経由で取り寄せて貰えますから)


「おう、落ち着いたら何か頼むとするぜ、それじゃ俺ぁひと仕事終わったし、何の用事もないなら昼寝でもしてるぞ」


 彼は仕事が無事に終わり機嫌がよさそうだ、休んで貰っても良いんだけどその前に一つ相談してみよう。


(ダンジョンを開放してる時に一気に魔物が入って来れないようにしたいんですが、なにかアイディアあります?)


「私が入口を守る以上、魔物など恐れる必要はないデスが、数が多いと討ち漏らす可能性があるのデス」


 ふむ、と顎を撫でつつ考えをまとめるダイダロスさん、ヘルヴェルさんも夜は休みたいだろうから、開放するのは日中だけとは伝えた。魔素を収集すると言う観点からすれば、今後は常時開放するべきだろう。


 どうせ人間は入ってこれないし、魔物避けの結界とか考えたけど、これは維持費が馬鹿にならない。


「部屋と通路と守護者を増やせば何とでもなるだろうが……そうだなしばらくの間はD級以下の部屋を入口にしちまおう。まだ本格的に迷宮が出来てないんだ、ダンジョンコアの部屋に入れさえしなけりゃ良いんだろ」


「ああ、なる程、この扉はダンジョンに住む人以外通れない作りでしたね」


 扉といったが、ダイダロスさん作の個人認証型自動ドアと、ヴィーラントさん作のバリアのような防護障壁だC級以下の魔物では傷一つ付けることは不可能だろう。


 逆に言えばB級以上の、攻撃力に長けた魔物なら扉を破壊できるかも知れないが、B級以上の部屋と中枢に繋がる通路は罠満載の上に、小柄でないと通れない程、非常に狭く曲がりくねっている。


 勿論俺みたいなデカいのは物理的に通れないので魔物は扉までたどり着けない。


 ダンジョンの重要な施設―――中枢や居住区、宝物庫など―――を、この扉で守るって手もあるが、魔法を使われたら? 爆弾かそれに類するモノを使われたら?


「将来は色んな奴を迷宮に招き入れて、ここで作ったもんを世界中に散らすように仕向けないとダメ、それは分かるんだが入口は好きに弄れるんだ。誰が来ても平気なダンジョンにするまではその方針で良いだろう」


 ダンジョンレベル1の現状だと1階層しか作れないが。レベル2で4階層、レベル3で9階層とダンジョンを広くできる。


 ダイダロスさんが言うにはレベル5、つまり25階層まで造れるようになれば、ギリギリ麓に入口を造れるそうだ。それまでは階層が足りず、積乱雲の真っ只中に入口を造らざるを得ない。


(言われてみればその通りでしたね、それではD級以下の部屋を入口にして開放してしまいましょう。マリエルさんヘルメスさんに入口を開放したと伝えてください)


 頷いたマリエルさんは、居住区に飛んでいった、ダイダロスさんも昼寝すると言って居住区に向かう。


(うーん、今日はこのまま狩りに行っても良いかな? 武器はなくても狩りはできるし、今日は珍しく積乱雲が無い日みたいだし)


「サシュリカ様がそう仰るなら……」


 彼女はちょっと困った顔をする、確かに俺が魔物を送り込まないと、彼女は腕を振るう機会がない。かと言って彼女が外に出てもダンジョンに獲物を送る手段がない。


 なにか出来る事はないか? と考えていると、その時、扉が勢いよく開いてヴィーラントさんがやってきて、両手を広げてヘルヴェルさんに突進してくる。


「ああ、我が愛しのヘルヴェル、ひと仕事終えて清々しい気分の今、君の姿はヘブゥッ!」


「宿六、先ず仕事の報告を、主人に伝えるのが先デス! まったく! いきなり小っ恥ずかしいセリフデスッ!」


 蹴り飛ばされても、全く堪えていないのか―――痛いだけでダメージがないようだ、彼女が調整してるらしいけど―――彼は笑顔で立ち上がる。


「サシュリカ、昨日言っていた武器が完成したので宝物庫に保管しておいた、持ったまま空を飛ぶのは疲れるだろうから、狩りの際に取り出すようにな」


 嫁さんと話すとき以外でも、仕事の報告は饒舌になるのがヴィーラントさんらしい。傍で聞いてるヘルヴェルさんから『普段からこうなら』という愚痴が聞こえた気がするが気にしないことにする。


「形状はメイス、振り回してぶつかった相手をこのダンジョンに転送する機能がある。一応その身体に合わせてあるが、成長したとしても、それに合わせて大きさを変えるから問題はない」


 流石神話の鍛冶師、実にファンタジーな武器を作ってくれたものだ、なんでもこの手の魔法の武器において、使い手に応じてサイズを変化させるのは、当たり前の機能だとか。


(ありがとうございます、それじゃこのまま狩りに行ってきますね)


「ああ……それじゃヘルヴェル! 仕事は終わったし、居住区でゆっくり……」


「万が一扉を壊されると困るから、日中は中枢部屋で待機デス」


 明らかに落ち込むヴィーラントさんを尻目に俺はダンジョンの外へ飛び出していった……おおっ! 積乱雲が無いと素晴らしい眺めだ!


 今日の山頂は日の光が燦々と降り注ぎとても心地のいい天気。ああ、空を飛ぶには最高だ、積乱雲に突貫するのはもう懲り懲りだよ。


 よし、今日は昨日と違う方向に飛んでみるか、俺はなんとなく勘で南へ向かって羽ばたいた。

読んでくれた皆様ありがとうございました

次回ヒロイン登場

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