表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

06. 旅に巻き込まれました。

「なんで、みんな裸なの?」

「……お、覚えてないの? というか、戻ったの! 何時?」

「何が?」

「何がって……」

「馬鹿な……」


 二人は呆然と少年を見上げる。

 昨日の夕刻、少年が青年に変身したのだ。決して夢などではない。完全に別の人格を持つ青年だった。彼は自分が呪いを受けたと説明し、茶菓子を振舞い自分達はそれを頂いてそして……

 乙女の口からはとても言えない事がおき……というか、正確には乙女じゃない。昨夜、乙女で無くなってしまった。他でもない目の前の少年の手によって散らされてしまったのだ。

 思い出した瞬間ボッと赤面し、次いで青くなった。


「ぼ、ボク……初めてだったのに……」

「……私もだ」


 二人はベッドに女の子座りでへたり込み、シーツを胸に掻き抱いたまま呆然と呟いた。


「どうしたの?」


 問いかける少年の声にも答える余裕が無い。 


 リルとアリエイラの目が合った。二人は揃って真っ赤になって顔を逸らす。

 昨日の痴態を思い出したのだ。

 お互いどんな顔になって、どういう状態に堕とされてしまったのか、覚えている。

 自分の声とは思えない淫らな声を上げてしまった。あんな声が自分の口から出るなんて知らなかった。あんな刺激がこの世界にあるなんて。自分の身体があんな風になってしまうなど今でも信じられない。

 とても顔なんて合わせられない。二人は昨夜、手を握り頬を寄せ合って一緒に責め立てられたのだ。

 相棒のあの様な痴態を始めて見てしまった。こっちも晒してしまった。なんと気まずい。


「ねえ。どうしたの? なんで裸なの」

「あ、いやな」

「え、ええとね…」


 どこまで話せばいいのだろうか。『君が大人になってボク達を襲ったんだよ』とでも言えばいいのだろうか。いや、自分達も合意したような様な記憶がないわけでもない。少なくとも途中からは完全に合意だった。競ってしがみついて、せがんだのを思い出した。思い出したら更に顔が熱くなる。蒸気が吹き出た。


(うわああああ、ボ、ボクなんて事を)

(わ、わたしは、そんなふしだらな女だったというのかっ)


 二人は真っ赤な顔で頭を抱えた。


「ねえ」

「「!」」


 どうすべきか。まず、この子には知られてはならないと思い至った。

 あの方は完全に別人だった。説明して怒れば素直なこの子の事、誠心誠意謝ろうとするだろうが、全然記憶が無いのならこの子を責めるのは筋違いた。八つ当たりになってしまう。

 それより昨夜の情交について、この子に説明しなくてはならない方が問題だ。


(じ、じょうこう……ボ、ボクがそんな言葉を使う様になるなんて)

(は、初めて会った方に、身を開いてしまったと説明するというのか。私が)


 揃って妙なところに頭を悩ませる。


((何もなかった事にしよう!))


 決意して顔を上げれば二年間一緒に居る相棒と目が合った。互いに同じ結論になった事を察知する。


「う、うん。何にもなかったのよ。うん」

「そ、そうだ。とくに何もなかった。ずっと眠っておったぞ。たー……ただ、身体が冷えていたのでな。我々でこうして暖めていたのだ。は、ははは」

「そうそう。あはは」

「そうなんだ。迷惑かけちゃたんだね、ごめんなさい。じゃあ、助けてくれたんだよね。ありがとう!」

「「ううっ」」


 無垢な感謝と笑顔を向けられて心が痛い。しかし本当の事を説明する訳にはいかない。というか、したくない。


「と、とりあえず起きようか」

「そうだな」

「うん。僕、おなかすいた」

「「……」」

「どうしたの?」

「「~~~っ!」」


 足腰が立たなかった。


「ち、ちょっと疲れてるみたい。午後まで休んでいいかな」

「わ、私もだ。疲れたかな」

「大丈夫なの!? お医者さん呼ぶ?」


 慌てて人を呼ぼうとするセージを宥めるのに凄い苦労をした。



             ◇


 セージが食事に出ている間、二人は話し合う。珍しく顔を突き合わせてではなく、互いのベッドで背を向け合って。もちろん理由は顔を合わせ難いからだ。

 まず、これからどうするか。

 忘れていたが、無事を確認できたので、少年は今日、この城砦都市を出て行ってしまうかもしれない。

 自分達はこのまま彼と別れ、昨夜の事も一夜の夢幻と忘れるのか。明日からまた今迄と同じ生活に戻るのかという話だ。

 忘れられる訳が無い。戻れる筈が無い。

 じゃあどうするか。引き止めるのは難しい。ギルド長も許さないだろう。では自分達の方が一緒について行かなくてはならない。

 元々自分達は流れの冒険者だ。この都市付近は魔獣のレベルも自分達に合っており、都市も居心地が良くて半年以上も滞在してしまったが、ずっと残らなくてはならない理由は無い。

 しかし、なんと言って彼に付いて行こうと提案すべきか。もちろん少年にではなく相棒にだ。

 自分達にも冒険者として、いや女としての矜持がある。軽薄にも一目会った男に身体を開いてしまい、そのままついて行きたい等とは口が裂けても言えなかった。


「昨日、我等が守ると、任せておけと言ったのだ。ここは一緒に同行し、その呪いとやらを解くのを協力すべきではないだろうか」

「そ、そうだね! そうだよ! このままお別れなんて悲しいしね」


 アリエリラが言葉を選んで提案すると、リルはすぐさま飛びついた。同じ事を考えていたので当然だ。


「確かに彼は強く、魔獣に害される危険は無いだろう。しかし、何分まだ幼い。誰かが同行し旅路を助けてやる必要があるではないか」

「そうそう。その通りだよ」

「商隊で命を助けて貰い、怪我も治療してもらった恩も返せていないしな。住み慣れたこの地を離れるのは寂しいが、ここは彼を助けるべきであろう」

「うん、決まりだね」


 あっさり話は纏まった。

 帰って来た少年に提案すると諸手を上げて喜んでくれた。決定である。


「じゃあまた何か出来たら、ご褒美におっぱい触らせてくれる?」

「「…………」」


 二人はこめかみを抑えて唸る。

 こんな時でもブレない少年が恨めしい。


 夕刻、動けるようになると宿屋の主人達に明日一緒に旅立つ旨を説明する。主人は残念ではあるが、子供について行こうとする二人に賛同してくれた。おかみさんも同意してくれたが、痛みで歩き方がおかしくなっている二人に気付いたのか目を丸くされた。

 何か言われる前に慌てて宿を出る。気付かれたろうか。勘の鋭い宿屋のおかみだ……これは、帰って来てもここの宿はもう使えないかもしれない。

 ギルドに向かい、セージが一日寝ていた事、特に問題は起きなかった事を報告した。そして明日、自分達も同行して旅立つ事を伝える。


「そうか。まぁ仕方ねえわな」


 ギルド長の了解も得た。他の職員達にも挨拶をして回る。皆名残惜しんでくれた。もちろん七割方自分達ではなくセージを惜しんでいるのだろう。ギルドを出て最寄の店等に挨拶している内に、話を聞いた冒険者達に掴まり呑み屋で盛大な送別会を開いて貰った。

 こんなに飲んだのは久しぶりという程飲まされた。自分達二人だけではここまで盛大にはならなかったろう。

 セージも飲まされ、顔を真っ赤にしながら女性冒険者や飲み屋の女性店員の胸に飛び込もうとして笑われていた。

 二人はそれを見て、とても複雑な心境になった。



 翌朝、支度を整えた三人は挨拶をして宿を出る。

 ろくに親しくもなかった泊りの客まで出てきて見送られた。少年の人望であろう。餞別がてら、おかみさんが訳知り顔で見たことも無い丸薬をくれた。リルとアリエイラは顔を引き攣らせて礼を言う……やっぱり、二度とここへは顔を出せないだろう。


「わーい! 嬉しいな!」


 同行者が増えた事に、セージは素直に喜んでいる。

 リルとアリエイラの手を取って嬉しそうにはしゃいでいる姿はかなり愛しい。とても体内にあの青年を潜めているとは思えない。


 とりあえず西に向かい次の町を目指す事になった。そして、旅を続けながら先日出会った青年について調べるのだ。

 次の満月に出会った際は自分達の貞操を奪った事について一言、言ってやらねば気が済まない。

 別にまた会いたいからではないのだ。確かに見た事も無い程格好良かったし、男前で器が大きそうだった。腕もかなりのものだろう。正直見惚れてしまった。

 でも違うのだ。乙女の大事な物を奪った青年に一言文句を言わずにいられないからだ。

 あの甘い紅茶や菓子には、きっと強い酒や媚薬が入っていたに違いない。酔わされて貞操を奪われたのだ。なんという非道だろう。文句を言ってやらねば。決して雰囲気に呑まれて致してしまった訳ではない。そんな事は認める訳にはいかない。そうでないと困る。とっても困る。自分が一目会った男とゴニョゴニョしてしまう軽薄な女だと認めてしまう訳にはいかないのだ。

 もう一度あの人に会いたいからじゃないぞ。もう一度して貰い……じゃなくて、文句を言う為だぞ。絶対に。


「……ル……リル! 声に出しているぞ! もう黙れ貴様!」

「はうっ!」

 

 気が付けば真っ赤な顔したアリエイラに肩を揺さぶられていた。

 台無しである。

 意味の判っていないセージが不思議そうな顔で見上げていた。リルは飛び退って必死に誤魔化す。


「あ、あははっはは! ご、ごめん。違うの、違うんだよ」

「いい、落ち着け」

「ち、違うよ。私が会いたいからじゃないよ。ちゃんと、どういう事か理由を聞きたいからからだよ。」

「わ、わかっている。私もそうだ」

「べつに又会いたいからじゃないからね!」


 リルの目がぐるぐる回っていた。同じ事を連呼する程錯乱している。


「わかっていると言うに。みなまで言うな!」

「そりゃ凄かったけど。思い出すだけで顔から火が出そうだけど違うの。胸がドキドキするけど違うんだよ!」

「やめんかあ!」


 アリエイラが涙目で咄嗟に大剣を抜いた。反射的にリルも剣を抜き返す。これ以上喋らせる訳にはいかなかった。ここで止めなければ自分もまったく同じ気持ちだと口走りそうで危ない。


「二人とも落ちついてよ」


 セージに足をすくわれ、揃ってすってん転ばされた。

 危うく二年も共に歩んだ相棒と人傷沙汰になるところだった。


「どうしたの二人共、少しおかしいよ?」


((だ、誰の所為だ……))


 二人ともそう思ったが言えなかった。四つん這いのまま脱力し、恨めしそうな目を向けるに留まる。立ち上がって咳払いし赤面したまま無言で相棒と握手。

 セージは満足そうに頷くと、駆け寄って来て間に入って両手を伸ばす。また三人で手を繋いだ。


「行こうよ」

「うん」

「そうだな」


 こうして三人は城砦都市ザウールを旅立った。向かうは西の都シャルレである。


「とりあえず、今日中に隣町のサマルに入りたいな」

「そうだね。サマルの顔見知り達にも挨拶しておきたいしね」

「うん。別に急ぐ旅じゃないしね」

「「……」」

「どうしたの?」

「い、いや」「なんでもない」


 少女二人は少年の頭上で複雑そうな目配せをし、そのまま歩き出した。いくならんでも勘繰り過ぎたろう。


「行くよっ」


 手を繋いだまま突然駆け出したセージに吊られて二人も駆け足になる。楽しそうに駆けるセージにつられて、二人も笑みを交わして駆け出した。


「行こう!」

「おう!」


 これから彼女達は少年と同行し、様々な冒険に巻き込まれる。幾度と無く満月を迎え、青年と再会する。二人共今は息を巻いているが、実際に会うと再び緊張して舞い上ってしまう。そして、その度にしっかり食べられてしまう未来が待っているとは思ってもいない。


 少女達のスリルと興奮と懊悩の冒険はこれから始まるのだ。




 了。

 これにて一部終了。

 気が向いたら、新たな少女達を生贄に加えて再開します。


 なんか、凄く酷いものを書いてしまった感が……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ