第七話 二人の成績優秀者
こんばんわ、お気に入りが三人に増えていて喜んでいる作者です。
今回は国王にあってからの心理戦をテーマにしています。楽しんでいただけると幸いです。
王座がある広間にきたライは昔孤児院で別れたエミルと似ている女の子を目の前にして硬直していた。しかもその女の子が国王が座っている椅子の隣に座っており、これはこの少女が国王の王族であることを示していた。
「ちょっと、ライ?」
扉の前で呆然としていたからだろう、隣にいるティアが肘でつついてくる。
ライはそれで急いで現在の状況を把握し前でライが来るのを待っているクレイに続いた。
左右に並ぶ重鎮たちの間を行き、国王の前に行くとクレイは膝を折り頭をたれる。
「フェレス王国第三師団 副将軍 クレイ・アスライド、ただいま最終目的地の任務から戻ってきた所存でございます」
「うむ」
クレイが頭を下げる相手フェレス王国第四代目、ジギル・フェレス・ギリエルその人だった。年齢的には高齢で、外見は白髪に白い髭を蓄えているが、表情や体つきからは王者の貫禄というべきか覇気は衰えているようには見えず年齢に対して不釣合い。
そして印象に残るのがやはり瞳だった。隣にいる王女と思われる少女と同じ光を宿している青色の瞳。
その瞳がクレイを一度見たあと後ろにいるライに向けられる。
ライは今まで突っ立っていることに気がつき急いでクレイに続いて頭を下げていた、ティアはすでに膝を追っている。自分でも混乱しているんだなと自覚してきていた。
「お主が報告にあったライという若者じゃな。私がフェレス王国の国王をしているジギルだ。最初に良くぞゲームで優秀な成績を出したこと、まことに賞賛に値する」
「もったいなきお言葉です」
混乱していることを自覚できたおかげかようやくライは頭が回り始める。
「うむ、されどここにクレイ将軍が連れてきたということはお主がまだ一番ではないのは分かっておるな?」
「はい、おそらくクレイ将軍が最終目的地とも言っていたことからそれ以前に候補がいたのではないかと考えます」
「その通りじゃ。お主のほかにももう一人優秀な成績を出したものがおる。まあ、この者は既存のゲームの優秀者でそなたのようにまったく違うゲームの優秀者ではないがな」
ジギル国王の言葉を聴いていてそうだろうなと思い驚きもしなかった。逆にあのように兵士に条件を出しようものなら、下手したら相手の機嫌を損ね思わぬ損害をこうむるかもしれないからだ。ライの場合ティアの情報ということで食いついたが他の人がそこまで真剣にやっているとは思えない。
「そこでだ、クレイの報告しだいではその者に褒賞をと考えていた。しかしお主が現れたのだ。これで優秀候補者は二人になる。だが二人に褒賞を渡せても副賞と特権を渡すことはできん」
「副賞と特権?」
ここでライは初めて疑問に思う。そういえばクレイは優秀成績者には褒賞が出るとは言っていたが、副賞と特権に関しては聞いていなかった。
ジギル国王はライの反応を見てクレイに問いかける。
「クレイ将軍、彼にはなんと説明をしていなのだ?」
「はっ、ライ殿には褒賞が出るとまでしか。私のほうから説明をしてもよろしかったですが、副賞と特権のほうはまだ決定もせずに伝えないほうがよいと判断しました」
「ふむ、なるほどな」
「また、ライ殿はこちらにおります部下のティアリス・フロレンスとは機知の仲らしく、辞退することはないので私で伝えるより王自ら説明されたほうがよろしいかと」
「ほう、ティアリスと機知の中とな。では信用もできるようだ。なら副賞の内容を伝えても問題ないじゃろうな」
ようやく副賞と特権やらのことを聴けると思った刹那、突如声を上げる人物がいた。
「お待ちください」
声がしたほうをライが見るとそこには立派な甲冑に身を包む一人の青年がいた。年は大体ライより二つ上ぐらいだろうか。その青年は一礼してクレイ将軍の後ろで頭を垂れるとジギルの言葉を待つ。
「いきなり間に割り込むなど、よほどの事とは分かっておろうな?イウル伯」
イウルと呼ばれた青年は頭を下げながら言葉を紡ぐ。
「重々承知しております。ですが、副賞と特権を説明する前にどちらが優れているのか今一度吟味してから説明してもいいと思われます」
「だが、そなたは知っているのに不公平ではないか?」
「確かに不公平に値するかもしれません。ですが、それは身分が同じならばです。私は貴族であり騎士でもあります。この国に忠誠も誓っております。ですがそこにおります男は素性も知らぬ平民、もし私に負けて腹いせに情報を流されたら困るのではありませんか?」
このイウルの説明にライは自分のことを田舎ものだと馬鹿にされているにもかかわらず、少しだけ感心していた。
性格はともかく(もちろんライがいい思いをしているわけではないが)イウルというこの騎士が国王相手に怖気ずに、相手に情報を与えないようにしつつ論破しようとしているのだ。これならば、周りにもいざというときにどちらに味方をするかを聞かれたら、田舎の平民より、貴族で騎士であるイウルに賛同するだろう。ここまで相手を貶そうとはするのは、おそらくこのイウル伯がもう一人の優秀者みたいだ。
そしてイウル伯が言い出したことにより、最優秀者決定戦は盤外で始まっているようだった。すなわち、心理戦と空間掌握戦。どちらが多くの大臣や将軍、文官から好印象を取れるかの。
まあ、隣にいる一名が拳をプルプルさせて何かを堪えているみたいだけど。後でお礼言わないとな。
そんなことを考えている間にイウルの言葉を聴いてジギル国王はまず返事をする。
「イウル伯、お主の国に対する忠誠は十分承知しておる。じゃが、今回は身分は関係なくすべての国民に課したゲームの勝者を決めるもの。ライに対するその言葉は不適切ではないか」
「申し訳ありません。言い過ぎたことは謝罪いたします。ですが、私の言にも一理あることをお考えください」
一度だけ考え込むそぶりを見えながらジギルは今度はライのほうを向く。
「イウル伯はこう申しているが、ライは何か言うことはあるか?」
「特にはありません。勝った後に聞いたとしても辞退することはおそらくないと思いますから」
今度はイウル伯が眉毛をピクリとさせる番だった。
それもしょうがない、ライの言葉の解釈の仕方では勝つのが確定事項のように言われたのだから。
ちょっとだけ反論するとイウル伯は怒りながらもジギル国王に向き直り一つの提案をし始めた。
「国王、一つ今回の勝敗を決めるための提案をさせてもらってもよろしいでしょうか」
「うむ、いってみるがいい」
「ありがとうございます。では申しますが今回の勝敗を決める勝負では二本勝負でお願いしたいのです」
「ん?二本勝負とな?」
「はい」
「しかしイウル伯。二本勝負の場合両方一勝ずつしたとき引き分けになるのではないか?」
「そうなります、ですが副賞や特権、今後のことを考えればその時に人身を掌握しているのも重要です。ですからもし引き分けの場合、大臣、将軍の方々に多数決をしていただき勝者を決めると。ライ殿もそれでどうだろうか、とりあえず『必要はないだろうが』その時に多数決でいいとは思わないか?」
イウルとしてはしてやったりと思っていた。この方法は自分の勝率を大幅に上げる条件なのだ。何も知らない平民と大貴族で騎士である自分、もしあちらに意見が流れようとしても今後のことを考えれば自分を支持していたほうが賢明であると考えるはず。
なら、イウルは一勝するだけで勝ちも同然なのだ。逆にあの平民が勝つには二勝するしかない。クレイ将軍が連れてきたのだから頭は回るだろうが、それに対しても念のためにいくつかの策はあった。
いきなりイウルしてやったりと口元をライに見える角度で吊り上げていると、ライはなんでもないように返事をする。
「別にそれでいいですよ。ただそちらが提案したことなのでこちらからの条件をつけさせてもらってもいいでしょうか国王様」
イウルが話しかけては着ていたがすべてを決めるのは国王だ。ライはイウルを見るのではなく国王に質問する。
「条件とはなんだ?」
「一つだけですが人心を金策や計略で集めないこと。そんなことをされた場合民衆である私には勝ち目がありませんから」
「いいだろう。周りのものも聞いたな。引き分けだった場合自分の信念に従い、本心で多数決をするように」
すると周りから同意の声がいくつも上がる。賛同の声を聞いてライに問いかける。
「しかし本当によいのか?条件を聞く限りあまり有利とは言えないが」
「別にかまいません。それに全力でやる以上負けるつもりはありません」
またもイウルは顔を歪ませるが何とか平然を装ってジギルに進言する。
「ではこの戦いの決まりは決定しました。さすれば早速準備をしたいと思いますがよろしいでしょうか」
「わかった、では二人の最優秀者を決める戦いは二本勝負で、もし決まらなかった場合、各大臣、将軍からの多数決とする。両者依存はあるまいな?」
「「ハッ」」
二人とも返事をしてついに勝負の決まりが決まった。
すると様子を見計らって今まで推移を見守っていた王女が言葉を発する。
「お父様少しよろしいでしょうか」
「ん、どうしたというのだ?エミル」
「この二人の戦い私に審判役をさせてほしいのです」
この言葉にはジギル国王も驚く。
「何を言うのだエミル。審判役などと」
「ですがこの勝負は私にも少しは関係あるはず。それなら私にも少しは関わることを許してほしいのです」
「エミル・・・」
国王は少し驚いていた。今までこういう場では同伴していたとしてもこのような我侭を言ったことなかったエミルが、我侭を言ってきていることに。
国王は少しだけ考えて目を閉じるとしっかりとエミルの目を見据えて問いかける。
「この勝負はこの国の未来に関わるかもしれぬ。それを承知でいっておるのだな?」
「はい、お父様」
「そうか」
迷いがない瞳をぶつけられて決意を見て取れたジギル国王は決断する。
「わかった。エミルに審判役をすることを許す。だが審判役は他に用意する。もちろん私も審判役として同行する。これが条件だ」
「ありがとうございます、お父様」
二人の会話が終わるとジギルは二人のほうを向き大臣、将軍を見渡す。
「他に意見があるものはおるか?」
ジギル王の問いかけに帰ってくるのは静寂。
「ふむ、では公平を期すために試合は明日の正午に行うとする。二人はそれぞれ準備を、それと勝負方法はこちらで決める。第二戦目は一戦目が終わったときに内容を伝える。それでよいか二人とも?」
「わかりました」「それでかまいません」
「では今回の謁見は終了する。両方勝負には全力を出すように」
それを言葉にライとティアは退室をすることになる。クレイ将軍はそのまま残り、イウル伯は扉を出たとたんにこちらを睨むようにして舌打ちをし、ライとは反対方向のほうに歩いていった。
その様子についに限界に着たのかイウルの姿が見えなくなると爆発する人物がいた。
「もぉー!もぉー!もぉー!」
しかし、爆発が大きすぎるのか言葉に意味を成していない。
「ティアそれじゃあ牛だよ」
「もぉー!」
なだめたつもりなのに今度は唸りながらこちらをみて怒っていた。
「なんでライはそんなに平気なの!偉い人たちがいる前でライは馬鹿にされたんだよ!しかも、正々堂々と勝負するのかと思えば不利な条件を突きつけてくるし!あと、なんで簡単にそんな条件を飲んじゃうの!」
「まあ、落ち着けって」
「これが落ち着いていられると思う!?」
「ティアの言いたいことも分かるけど勝算はあるよ」
勝算があるとライが答えてようやくティアは落ち着きを取り戻す。
「勝算って?」
「さっき色々とイウルって言う人の言葉を聴いていたけど、所々つめが甘いんだ」
そう、イウル伯がどの程度の貴族なのか分からないが引き分けに巻き込んだ場合絶対に勝てると思っているのだろう。平民と貴族、今後のことを考えればイウル伯の考えどおり優位だ。
しかし、ここに貴族よりも上の存在。王の存在が出てくると計画は破綻する。たとえばライが明らかに優位だったにもかかわらず、わざとらしくイウル伯の擁護を行えば、それはすなわち王の言葉「自分の本心に従って」に反することになる。今度は貴族と国王を天秤にかけることになるのだ。これで不平等は小さくなるだろう。それでも擁護しようとする者はいるかもしれないからライは金品や計略を封じたのだ。
そしてもし自分がイウルの立場だったら、自分の力を使って賛同は求めていいのかと付け加えていただろう。とり方によっては財力や兵力も力だ。直接的な金品や計略はできなくても間接的にすることはできるのだから。
こういうとティアはでもと続ける。
「でも、国王にそんなことをしたら反感を買うんじゃ」
「確かにそうだろう。けど、それを上回るほどの魅力が今回の褒賞にあるんだろ」
でないと国王が喋っている間にいきなり割り込んでないだろう。
「とにかく今は自分にできることをするよ」
ライは早速準備などを仕様と考えたがそこで、あるメイド服に身を包んだ女性に止められる。
「ライ様とティア様でございますね?」
二人は足を止めて女性に頷く。
「少しお時間をいただいてよろしいでしょうか。とあるお方がお会いしたいということなので。あとティア様にその方から伝言がございます」
「へ?伝言って」
「そのままお伝えしますね。《いつまで待たせるの!こっちは待ちつかれたわ!》とのことです。こう伝えれば分かると仰っていたのですが」
一体何のことだろうとティアは考えて
「あ」
何か思い出したことがあったらしい。
「思い出した!そうだよ、ライにはこれから一緒についてきてもらうんだった!」
どうやらさっきは怒っていたから忘れていたようだ。
ライは幼馴染の慌てように苦笑しながら聞く。
「一体どこにいくのさ」
「エミルのところだよ!」
ライはそんな気軽に会えるのかと疑問に思いつつも、久しぶりの再開に興奮しているのだった。
いかがでしたでしょうか。構想ではエミルの会話シーンまで行きたかったのですが思わず長くなってしまいました・・・。
次はおそらくエミルとの再開と第一戦目を書きますのでお楽しみに!
・・・今日の夜にはあげるかも?です!お気に入りの方もよろしくお願いします!