第三話 愚図で馬鹿と評判の実力
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最初は適当にゲームをして負けるつもりだった。でも、昔の孤児院で一緒でとある約束を「した一人の名前が出てきたら話は変わってくる。
瞼を閉じ心を落ち着かせて集中力を高めていく。そして、心の中でいつも本気でゲームや勝負事をするときに呟く言葉を呟いた。
さあ、戦争をはじめようか
そう呟いて目を開き目の前にあるボードに視線を向ける。今回のゲームは少し特殊な形だ。通常のものなら駒の特性のほかにそれぞれの役割があるはず。あとどの程度動けるのか機動力、攻撃力、防御力、工兵などの特殊性もあるのに説明をされていない。
ということは今回の勝負はまったくの情報なしで自分の想像で考えなければならない。あるとすれば相手部隊の種類による相性と地形把握が鍵になるはず。
後もうひとつ。これはおそらくだが戦略と戦術が求められる。マス目などもあるので動き方と特性だけで勝負するのだったらちょっとした駆け引きだけだ。しかし今回配置した後に相手の問答に答えなければならない。
ライは今まで説明された条件と裏にある目的を整理して盤上に駒を置いていく。
対戦相手であるクレイは配置を昨日の夜に展開していたとおりに置いているだけで、配置を変えるつもりはないようだ。
槍、弓、重歩兵を並べようとライがしたときに一つだけ疑問が浮かびクレイに問いかける。
「少しいいか?」
「ん?何だね?」
「そちらの陣が見えていることを知っていてなんですが、地形を利用する場合伏兵や工兵による計略の可能性を考慮しないといけない。ですが相手に見られている場合それを意味なさない。これはどういう判定にすればいい?」
先ほどからライの口調が変わっていく。集中していくと口調が冷たくなるのはライの癖だ。
「今回は君の考えを聞きたいだけなのだ。伏兵、工兵がいた場合どうしてそこに配置したのか教えてくれるだけでいい」
王国から命令されていたことは優秀な成績、優秀な頭脳を持っているものを探すのが目的。だからこそ、副団長という多忙なはずの人物がこうして辺境の町にやってきたのだ。
その点で優秀な成績かどうかはまだわからないが、クレイは目の前の青年がある程度の基準を持っていることを把握していた。ただ、そんなクレイをもってしても次の返答は驚くものだった。
「そんなのじゃ戦争とはいえない。ゲームですらない。こちらからいくつか付け加えていいか?」
「付け加えるといわれてもな、できるとは確証はできないが言ってみるといい」
「駒の配置をしている場合相手は後ろを向いて敵の駒配置を見ないこと。伏兵、工兵と配置させる場合周りに証人を立て、一度配置し証人に確認を取ってからその駒は手元に戻す。伏兵を動かすときは隠した場所、最初に証人に確認した場所に駒を配置する。伏兵などができる場所は平原以外。あと本陣も自由に配置できる。これでどう?」
「ほほう」
それはクレイは興味深く聞いていた。確かにそうすれば戦略の幅が広がる。これも結構面白いかもしれないと。
「ふむ、なら特例として付け加えていいだろう。証人はこちらの兵士を使わせてもらっていいかな?」
クレイの言葉を受けると一匹の猫が机の上に飛び乗った。それを見てライは昨日夜に出てきた猫だと思いつく。
「この猫が兵士?」
「そうだ、私の部下だ」
「ニャ~」
クレイの返事に呼応するように一声上げた。それを見てライは少し集中力を欠いたが、あれが部下というなら普通の猫ではないのだろうと思い不正はないと信用することにしこの遊戯の集中する。
「かまわない。あと一つ条件を加えるではなく要求なんだが」
「条件ではなく要求とな」
「将軍、あんた本気でやってくれないか。そんな答えが用意されている陣形じゃなくて自分の考えで」
これにはクレイの周りにいた兵士達が殺気を放つ。それはそうだろう、言葉のとり方しだいでは相手を侮辱しているとも取れるのだから。
殺気を放つ兵士をなだめクレイは理由を聞く。
「要求を呑む前に一つ、なぜ答えが用意されていると?」
クレイは関心したようにライの目を見た。ライの本心を覗きこむように
「その陣形は本に載っているお手本のような陣形だ。しかも地形的に有利な山側、奇策や兵種、兵数、『武器と防具の種類』が違うならまだいいが今回は条件は同じ。しかも特別な奇策は駒の配置から相手に知られるから役に立たない。だからこのゲームの答えはどうやって勝つかではなく、どうやって負けないかのゲームだ」
「……なるほど、そこまでわかっているのなら私『自身』が相手をしよう。それでいいのだな?」
「ああ」
相槌を打つとクレイの雰囲気も急激に変わる。どうやら高みの見物ではなく本気でこちらの相手をするつもりのようだ。
クレイ自身もここまで言われては引けないというプライドもあった。だが、それだけではなく
(私相手に勝てなければこれから先のことも生き残れないか)
相手がついに王国が見つける人物かもしれないとクレイはライに期待せざるおえなかった。。
「では早速はじめよう。先手は譲ってもらえるかな。このゲームを幾度となくやっている私は慣れている多少陣形を見られたところで問題ない」
「そうか?ならお言葉に甘えて後ろを向いておくよ」
そういってライは後ろを向く。
クレイは後ろを見たのを確認してから素早く駒を配置し始めた。
今回重要なのは伏兵という観念。伏兵を配置するのに適している駒は工兵だ。工兵の役割は本来色々とあるがそれは各自が決めるもの。
この駒にどういう役割を与えていくかによって優劣が決まる。ゆえにこの駒がこのゲームでおそらく一番重要な駒だ。
クレイは工兵の役割を山近くにある落石という役割を担わせる。自分のいる場所は山に囲われ近くには森もあるが必ず本陣を落とすにはとおらなければならない。ならここに配置しておけば一部隊を壊滅できる。
工兵の役割を決めた後は、重歩兵、槍、弓、騎兵、剣を伏兵として平原中央に配置、工兵は落石をおこせる場所に配置。とりあえずこれでいいだろう。
クレイは最後に本陣を山の手前において兵士に伏兵などの場所に確認を取るとライに声をかける。
「よし、こちらは終わった。今度はそちらが配置するといい」
そういってクレイは後ろを向く。それに対してライは駒を受け取り敵の陣形を見て、すぐに駒を置いていった。そして猫に確認を取る。
「ニャ、ニャ~?」
何を言っているかわからないが猫が戸惑った鳴き声をあげる。しかし、これでいいとライは構わずに頷きクレイを呼ぶ。
「こっちは終わった」
クレイは自分が配置してからほとんど時間がたっていないのに疑問を持つがすぐにその疑問は吹っ飛ぶ。
「どういうつもりだ?」
「これがこっちの陣形です」
そういって置かれているライの駒は重歩兵のたった一つだけだ。その後ろに本陣があり川を背にしている。
クレイは慎重に相手の思考を読む。
(さっき彼は勝てないゲームだといった。こちらが負けないゲームだと。だが彼の場合本気で勝ちに来るはず、なら勝とうと思えば平原や丘、森に伏兵を配置して進軍してきたところを撃破するというところか)
確かに奇策ではあるが理には適っているかもしれない。相手が有利なら正面から戦うことよりはましだろう。
しかし
「まだまだ甘いな」
クレイは呟きライの考えを読みきってから駒を動かし始めた。動かした駒は……工兵以外のすべてだ。
(各自で左右から伏兵として攻撃されたとしても遊撃として出ている騎兵で防がせる。しかも今回は相手にいたるまでの道筋がわかるのだ。おそらくの伏兵場所はわかる。ならすべての駒を動かして重歩兵しかいない敵を突破し本陣を討てばいいだけだ!)
奇策とは少しのほころびでもあればすぐに瓦解してしまうのだ。奇策は諸刃の剣、最大の好機を生むが最大の危機も生むものなのだ。
うかつだったなとクレイは少し笑みを浮かべた。
これでこちらの勝つのも時間の問題と思ったクライにライは一言。
「頭は回る見たいですけどお手本どおりですね」
そういってライは手持ちである駒を配置し始めたすなわち伏兵を動かしたのだ。
一体平原のどこに隠されていたのかと配置場所を見て待っていると騎兵を平原の丘に配置してこちらに照準を合わせていた。
「ふむ、確かにこちらはお手本どおりかもしれないがそれでは私の兵は撃破しつくせないと思うが?」
「確かにそうですね。でも撃破するつもりはないので」
そういって、残りの駒を配置していったライにクライは
「は?」
思わずそんな声を上げてしまった。
ライは平原を通り過ぎいきなり駒を山付近にある森、丘、山岳に配置したのだ。
「なっ!」
クライは驚愕する。山の本陣前に突如として、槍、弓、が出現したのだ。
(くっ!でもまだだ確かに目の前に敵が現れたのに驚いたがあそこには工兵がいる。落石で部隊を破壊できればこちらのかち)
「あとこれでこっちの勝ちだ」
最後にライは本陣後方に二つの駒工兵と剣兵を配置することで勝利宣言した。ライの言うように目の前の本陣にはすでに剣兵がいて、落石も前方にしか機能せずに剣兵に対抗するすべはなかった。
「一応こっちの勝ちですがルール違反とか何か文句とかありますか?」
周りから見ればライの行動は違反行為ととられるかもしれない。本当の戦争ならこんなすぐに敵のそばによることはできないのだから。いきなり相手の近くに大部隊を展開させて発見されないのはありえない。でも
「いいや……私の負けだな」
クレイは素直に負けを認めた。そもそもこのゲームを理解しているのはこちらなのだ、にもかかわらずほとんど説明せずとも理解し、もっと多くの戦略性をもたせるための条件追加、ゲーム範疇による戦いを見せられたら文句を言う気にならなかった。
「ライ君、いやライ殿、仮定の話をしてもいいかな?」
クレイはライの力を認め対等の立場として話しかける。
「答えられることならば」
「もし私と君が逆の立場だったらどうしていた?」
「逆だったらまず堅実に行くなら周りを固めて伏兵の捜索、各個撃破しますね。相手が平原で伏兵を用意しているならこちらから攻撃しない限り出てこないのですから、ゆっくりと捜索して全軍でクレイ将軍と同じように前に出てました」
「なるほどな、なら堅実じゃなければ?」
「工兵を使い即効で本陣を撃破ってところです」
「工兵?でも工兵で本陣を撃破するとは一体どうやって」
「簡単ですよ。工兵を海賊に仕立て上げればいい。船で川を下り後ろから攻撃って感じですか」
ライの考えを聞いて自分で考え付いたかと自問自答したが決して思いつかなかった。工兵にさせることといえば落石や妨害、進路の確保、情報をさぐるしか考えておらずまさか工兵を海賊、船を使う部隊に変化させて使うとは思わなかった。
「あはは、こちらの完敗だ。悔しいがそなたの勝ちだな」
そういわれて回りはざわめき始めた。周りの住民達では勝てなかった相手に愚図で馬鹿と評判がまさか勝ったのだから。
だがライにとってはどうでもよかったそれよりも
「クレイ将軍約束どおり彼女の、ティアリス・フロレンスの情報を」
「まあ待つんだ。今少し時間がほしい、周りのざわめきや出立の準備などやることがたくさんあってな。後で話しに行くから家で待ってくれないか?そのときに褒章などの話もしたいしな。仕事のことなら村長に私から言っておこう。ではまた後でな」
クレイ将軍はそそくさと椅子を立ち去っていった。
早く情報はほしいがこれでは聞けないなぁーと思い自分も椅子を立ち家に帰ろうとすると
「「「……」」」
先ほどまで騒がしかった住民の視線が突き刺さってきている。
(目立っちゃったな)
幼馴染の情報をと思い素をだしたが後のことまで考えていなかったことに気がつく。
(これはまたどこかに移動かなぁー。誰も干渉しなかったから楽だったんだけど)
今後のことを考えながらライは自分の部屋の中に入っていく。
ライが家の中に入るまで全員の視線は一人の青年に注がれていたのだった。