第二話 動き出す物語
いつもどおりに日常を過ごしていたライだったがある日、ランディス村に王国の騎士たちがやってきた。ランディス村は辺境の地にありめったに来客が来ることはない。それなのに王国のしかも騎士が来たことにより、村人達は大慌てすることになる。
こんな村に来るということは、税に関することかまたどこかと戦争が起こるので徴兵などろくなものではないと考えていたからだ。
村の代表であるジルド村長が騎士達がどのような理由で来訪したのかを聞くために一度家に案内するようだった。騎士たちも長旅の疲れからか素直に応じ村長の案内で家に姿を消していった。
ライがその光景を見たのがちょうど太陽が天辺に上る頃で、昼休憩の時間。しかし自分にはたくさんの仕事があるからとそんなことを気に掛けることなく仕事を続ける。
そして時間が過ぎいつもどおりライだけが村に遅くつき早く夕飯を済まして読書を考えようと思っていた矢先、ふとなにやらいつもと様子が違うもの が目に付いたのだ。
一体なんだろうかと村の中央広場を見るとそこには机が一つに椅子が二つが置いてあった。こんな場所に一体誰が何の目的でと最初は首を傾げたが次に机の上においてあるものに気がつくとどうやら、これを村の中心でやるために持ち出したということに結論が収束した。
なら、もう用はないかといつもなら家に帰るか・・・となるはずがなぜかライの視線は机の上にある物に興味を持つ。
机にあったものはまず机の上に地形を表す図と思われるものが表示されていた。左上には山、右下には川、中央は平原でところどころ林や丘、森などが描かれており、それぞれマス目で区切られていた。
その上に駒が数種類置かれていた。種類は槍を持った駒、弓を持った駒、騎兵、剣、重歩兵、ともう一つなんだか分からない駒が存在している。これは戦略と戦術を競いあう遊戯なのかとふと思う。
おそらくこれは戦争を仮定した遊戯なのだろう。何かのルールに沿って戦っていたようだ。
だけどそれにしても
「これはひどい……」
ライは思わずそんな独り言を呟いてしまっていた。
左側の陣営は山を背に前に重歩兵、槍、剣、後ろに弓兵、遊撃として離れた場所に騎兵を配置していた。
これはライが呼んだことのある兵法書でみた大体お手本どおりの編成だ。しかし、右側の陣形を見ると思わず呟いた理由がありありと分かる。
右の陣営は川を背に本陣を配置し前方に兵を置いていた。ここまではまだいい。敵に背をとらせないようにするのは定石といえるからだ。
でも前線の編成が許せなかった。右側の人は何を考えたのか前線に剣、槍、騎兵、重歩兵、弓兵と縦に並んでいる。
おそらく相手の騎兵が本隊から離れたので一気に突撃して突破しようとでも考えたんだろう。でもならなぜ騎兵を編成の真ん中に配置してしまったのか、これでは折角の機動力が失われてしまうではないか。
騎兵の魅力とは機動力と突進力による攻撃力だ。本物の戦場では騎兵の有無で戦場の勝敗が決まるのではとさえ言われている。よって騎馬の通る道を確保していくことが戦場では重要となっていく。
なのに中央に配置させ仕舞には一番機動力を欠いている重歩兵を騎兵に後ろに配置するなど論外。
それでももしこの陣営を敷いたとして勝とうと思ったら…もう方法は二つほどしかない。
相手のミスを誘うかあるいは…
ライはその逆転の一手と思える場所に駒を配置して戦況を覆す想像を完成させていた。
ガタン
想像していたのを現実に引き戻すようにどこからか何かにあたる音が聞こえ、気を引き締め音がしたほうを注意深く伺った。
そして次の瞬間音がしたほうから出てきた陰は
「ニャ~」
猫だった。
人ではないことに安心して一息つくと素早く家にと戻っていく。今回は猫でよかったがこんなところを住民に見つかりようなものなら面倒この上ない。ライはすぐに帰路について早めに就寝するのだった。
しかし、ライは想像もつかなかっただろう。
突如現れた猫がライが立ち去った後に机に飛び乗り盤面を凝視していようものとは。
次の日
いつもどおり目を覚ましそろそろウォッグが来るであろうと準備を整え、待っていると時間よりも少し早くドアはノックされる。
だが、ノックされたドアは激しくなにやら焦っているような叩き方だ。
ゆっくりと立ち上がりライはドアを開ける。するとそこには予想通りウォッグの姿があった。表情が怒っていなければいつもどおりなのに。
「一体どうしたの?また仕事の話ならあの量は無理だって昨日も」
「そんなことはどうでもいい!」
ウォッグのこの言葉にライが驚いたのも無理はない。怒鳴られることは毎日にのことでも仕事の話をどうでもよいといわれたのは、この村に来てはじてだったのだ。
それほどに焦っているウォッグの様子にただ事ではない雰囲気を感じ静かに次の言葉を待っていると、ウォッグは言葉ではなくライの腕を掴み
「ちょっとお前こっちに来い!早く!」
と理由も話さずに連行されてしまった。
連行された場所は村の中央広場。例の駒と地形が描かれたボードが置かれている場所だ。
周りには多くの村人と村長、昨日昼に見た王国の兵士達が勢ぞろい。
一体何をと思いつつ、腕を引かれるままやってくると騎士たちの目の前にまでやってこさせられ突き出されてしまう。
突き出されたライはいつもどおり、おどけたように周りに事情を聴くことにした。
「一体どうしたんです?こんな所に皆さんおそろいで」
目線をしばらく彷徨わせて反応を伺い、反応がないことを確認すると村長に理由を説明するように視線で突き詰めた。
するとどうやら説明をするつもりはあるようでゆっくりとした口調で話し始める。
「お主に来てもらったのは他でもない、そちらにおられる騎士様たちに合わせるためだ」
「自分を騎士様に?一体どうしてそのようなことを」
「お前に限ったことではないんじゃ。すでにこの村にいるすべてのものは騎士様にあっておられる。この村でお会いしていないのはライ、お前だけじゃ」
「はぁ、そうなんですか。でも一体わざわざあわせるだけで呼んだんですか」
意味が分からないというように首をかしげるとその態度に苛立ちを覚えたのかウォッグが怒鳴り始めた。
「あぁ!やっぱりこいつを呼んでもいいことなかったんですよ!こんな馬鹿で愚図な奴を騎士様に合わせるなんて村の品格が下がっちまう!」
「これ!騎士様の目の前で言うのはやめるのじゃ!」
広場の全員に聞こえるようにわざとらしく言うウォッグをすぐに村長が諌める。これを聞いてライは騎士がいなかったら黙認するんだろうなという予想して苦笑しか出なかった。
大人しくなったウォッグを確認すると再びライに向き直り、説明を開始する。
「それでな、お主の言うとおりただ来てもらっただけではないのじゃ。とある遊戯をしてほしくてな」
「遊戯ですか」
「そうじゃ、机の上にある駒と図面が見えるじゃろ、それを使った遊戯じゃ」
「はぁ、まあそれは確かにありますけどこれをやったとして意味があるんですか」
昨日は村の誰かが遊びで外から持ってきた遊戯を使い遊んでいたと思っていた。でもどうやら違うようで、話からするに王国の騎士が持ってきたようだ。だがならやる意味が分からず結果でどうなるの質問したのだ。
「ここからは私が説明するのが筋だろう」
説明を再開しようとしていた村長に代わり立派な甲冑を着た騎士がライに話しかけてくる。
「はじめまして、私の名前はフェレス王国第三師団 副団長 グレイ・アスライドという」
「ご丁寧にどうもです。自分の名前はライです」
「おや、ファミリーネームはないのかな」
「……とにかく仕事があるんので早く用事を済ませたいんですが」
周りでは騎士様になんて言葉使いを呟いていたがライは関係ないという態度を崩さない。
クレイも一瞬びっくりしたような表情をしていたが何がおかしかったのかすぐに大声を上げて笑い始めた。
「わははは。いや、元気で何よりだ。それに仕事の時間を奪っているのは確かだ、すぐに用件に移ろう」
気にするどこかなぜか好印象を与えたようなクレイは中央にある椅子に座り、盤面を指差す。
「話は簡単だライ君。私と一緒にこのゲームをしてほしい」
「自分は能もない普通の一般人ですよ?なのに王国の騎士のしかも副団長さんと戦うと?」
「ふむ、確かに君の噂は他の村人から聞いている。村では一番のお調子者で、仕事は遅く、馬鹿で愚図と」
「ならなんでわざわざ」
「これはフェレス王国でお達しがあってな。すべての国民に参加するようにということだ、このランディス村でもすでに全員が参加してもらった。それで君が最後というわけだ」
実はクレイは昨日の時点で村の全員が参加したとウォッグとやらには聞いていた。それを信用して宿で休んでいたところ、朝になり『見張り』のものからまだ人はいると聞いたのだ。
それを村長に聞くと観念し(税率などちょっとした脅しもかけた)ライを連れてきたのだった。
もちろんたった一人参加していないだけで脅しをかける無茶などクレイはしない。しかし、朝改めてみた盤上の駒配置をみたクレイはここに駒を配置した意味が分からず早急につれてこさせたのだ。
「さて、では説明する。盤上にはそれぞれ地形が存在する。私が山を背に配置したとしよう。この陣地に対して君ならどう駒を配置するかを問う。そして、こちらが駒を動かしたらどうやって対策をするかを答えてもらおう」
無言で次の説明を聞く姿勢を見せているライを一度見てクレイは説明を続ける。
「でだ、肝心の配置させる駒の種類だが今回は全部で六種類ある。剣兵、槍兵、弓兵、重歩兵、騎兵、工兵だ。では早速配置してくれ」
説明をすぐに切り上げ行動を促すクレイ。実は色々と説明をわざと省いていることに昨日いなかったライ以外は全員知っていた。
説明していないのはそれぞれの駒の動きと役割をだ。
村人達はこれをライの評判を聞いての対応と思っていた。本人であるライですら一瞬そう思い適当に配置して負けようと、駒を手に取ろうとした瞬間。
「ちなみに本気でやらなかった場合やりたくはないが、ある程度の制裁をさせてもらう」
先にこちらを封じる言葉を投げかけてきた。少しだけ恨みがましい視線を向けるとクレイは苦笑いし
「まあ、嫌々で本気を出されても困るのはこっちもだ。君が勝った場合の条件も付け加えておこう」
どうせ金品とか何かだろうと考えていたが次の言葉を聴くと驚くことになる。
「君が勝った場合、成績によるんだが褒章とは別に、ティアリス・フロレンスがどこにいるか教えてもいいんだがどうかな?」
「なっ!?」
どうして、なぜ副団長という人物がティアリスの名前をしっているのか。しかもその人物と繋がっていると知られている。
孤児院にいたときに一緒に約束まで交わした幼馴染、孤児院がなくなってからは行方知れずで足取りもなかった赤髪の女の子。
その情報をこの目の前の男は持っているという
「……」
ライは徐々に冷静になっていき心の芯が冷えていくのを感じていた。目を細め相手の一挙一動を見逃さず観察し、それから真意を汲み取ろうかとするように。
明らかに空気が変わったことにクレイは満足という反応をして椅子につく。
「ではゲームを始めようではないか」
クレイに促されるままライは椅子に座り、盤上を見つめ駒を見つめる。ライは内心で呟いた。
さあ、戦争の始まりだ。
どうも今回は4600文字と前よりは長くなったと思います!ゲームを始めさせようと思ったのですがそれは次回になってしまいました早いうちにまた更新しますのでできればお気に入りとかよろしくお願いします!