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第一話 生活の変化はすぐそこに

 一人の少年が自分の部屋で目を醒ます。


 目を覚ました少年はしばらく空中を眺めていたが徐々に意識が覚醒していきベッドから立ち上がった。


 黒い瞳の目元は眠そうにだらんとしており、黒髪はぼさぼさ、服もヨレヨレでやる気がほとんど見えないこの少年の名前はライという。


 早くに親を亡くしており小さい頃ということもあって、両親の顔もあまり覚えていない。 覚えているのは大きな背中を見せていた父親の姿だろうか。


 ただ、親のことを覚えていなくても形として残っているものがあった。


 ライはボサボサの頭をかきながら壁に目を向け過去を振り返る。


 そこには銀色に輝く二対の篭手。


 これは鍛冶職人だった親が形見として渡してくれたものらしい。


 ライが幼少の時にお世話になっている 孤児院の管理人に聞いていたからだ。

 話を聞いた限りでは親が死ぬ前に頼んでいたのが この孤児院だったのだ。

 

 引き取られたライは最初のうちは何も分からないところに 連れてこられ、心細い思いをしていた。

でも、管理人が持ってきた本から知識をどんどん吸収することにより没頭し始めてそんなことが気にならなくなるぐらいはまっていた。


 今思えば何であんな本を管理人は持ってきたのか意味不明だ。


 とまあ、幼い頃にあった経緯。これが大体7年前になり、もうすでに孤児院はなくなってしまっている。


 なくなった理由は経営困難。どこにでもありふれている理由、でもこの言葉の前に陰謀というのがつけば話は変わってくる。


 色々と考えながらも昔のことを思い出していると、外から扉を叩く音が聞こえてきた。


 誰かが自分を呼びにきたのだろう。


 「少し待って」

 

 それだけ言うと、朝食もとらずに身だしなみを整えて扉に向かう。

 今日もまた同じ日々が始まるのだ。


 扉を開けて戸を叩いた男に愛想よく話しかけた。


 「どうしたの?なんだか慌ているみたいだけど?」

 「慌ててるみたいって、お前が昨日要領悪く仕事が終わらなかっただろうが。だからこうして早く呼びに来たんだろう? まったくこれだから愚図は」


 いきなり悪態をついてくるこの男はウォングといって、ライが住んでいるランディス村の同じ住人だ。

立場的にはライの上司に当たる。


 「まあまあ、そんな慌ててもしょうがないよ。それにあんな量一日でできるはずないじゃないか」

 「なにいっているんだ! 他の奴は全部余裕で終わらせているだろう!なのにお前に限っては!」

 「他の人って優秀なんだね」

 「お前がただ愚図で馬鹿なだけだ!」


 ウォッグはこういっているが正確には違っていた。

 確かに他の若者が仕事を終わらせているし、ライが終わらせていないのも事実ではあるのでウォッグの言い分は正しい。


 でもそれは、若者とライの仕事量がまったく一緒だった場合の話。


ライ達の仕事は村から少し離れた場所で農作物を育てたり、時には薪を作るため木を切ったり、はたまた散らかる倉庫を整理したりと、生きるために必要なことは何でもやっていた。


 しかしそんな中、仕事の量という観点から言えば平等ではない。


 若者の仕事量が1と考えた場合ライの仕事量は二倍にされている。同じ量だったら『普通の状態の』ライでも終わらせられる。

これは、若者達の嫌がらせとともに上司であるウォッグの嫌がらせ。


 簡単に言えばライはこの村のいじめの対象となっていた。

 どの村にも必ず標的になる人物はいるだろう。


それが数年前に村に移り住んできた新参者で、誰も知り合いがいない人物なら自然と標的になるのは時間の問題だった。


強く言い返さないライにも原因があるかもしれないが。


 「まあ、落ち着いて。周りの家の人たちの迷惑にもなるし」

 「お前がしっかりやれば大丈夫なんだよ!」


 しっかりやっても来るんでしょ。


 つくづく嫌味しか言わないウォッグにライは毒づきつつも表情には表さない。


 ウォッグが朝早くきて怒鳴り散らすのは、嫌がらせとともに周りの住人達に印象を与えるため。


 ライみたいな馬鹿で愚図な男でも見捨てず

朝早くから家を訪れる理想の上司。


 この肩書きを誇示するためだ。


 ウォッグの説教を聴きながらライはなだめるように言いつつ仕事場についていく。その間も罵りは続いていた。


 それからは昨日残していた仕事と再び一人では到底できないであろう仕事量を押し付けられて、残業を少ししてから切り上げて帰宅する。


 これが朝起きてから帰宅するまでの日常。


 それから料理を作り、水で汗を流して一息つくと棚に閉まっておいた本を取り出し読書を始める。


 ライがこの数年間日課となっている行動。それがこの読書だ。


 呼んでいる本の種類は様々だが、一番多いのが軍略書で、兵の運用、策略、計略、政治から内政までと、ありとあらゆるものをよんできた。


 このようなものを読むきっかけが孤児院で渡された一つの軍略書。


 最初のうちはなんだろうと思いつつ見ていたが、徐々に頭の中でどのように動けばいいのかを想像し、仮想の敵を生み出してどうすれば相手に勝てるかを考えていくうちに楽しくなり、あれもこれもと読み始め日課となっていった。


 正直ライは村人達がいうように馬鹿で愚図ではない。


 本気を出せば村人達を全員相手にしても勝てる知識は持っている。体力や肉体勝負になるとライには見た目では、あまり勝ち目はないのは言うまでもないが。

 

 でもライは知識を表に誇示しようとはしない。

 

誇示すれば村人に好印象を与えられたとしても、いじめに近いことがなくなるとしてもやらない。


 理由は昔に約束した、とある少女達との約束を守るため。それには力を隠し目立たないようにしないといけない。


 目立てばそれだけ危険にさらされ、動こうとするときに邪魔にしかならないからだ。


 夜中まで読書を続けていたライは窓から降り注ぐ月の明かりを覗きいい時間だと判断して本を置きそれから床に就いたのだった。


 これがライの日常。約束が果たされるまで続くであろう日々。


 でもそんな日々を送っているときこの村にとどまらず国という単位で変化がおきる。


 それはこの国を治める王からの次の条文が伝えられたからだ。


 『国に住まうすべての住民に告げる。これからとある競技を町、村でしてもらいたい。また、この競技で優秀な成績を上げたものには褒章を約束しよう』


 最初は何の冗談だと笑ったものもいたという。しかし、王国の兵士達が動き王都でも盛んに行われているという噂が流れ始めると人々は競技に熱中していった。


 そんな熱は、しばらくの時間をあけてこの村ランディスにも伝わってきたのだった。


 

 

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