89話 実践!
「やっと! 戻ってまいりました我が家~!! しかし…なじぇ私は戻りましぇんのん?」
あれだけ色々あったのに4日しか経っていないというべきか、4日も経ったと言うべきか。
しかし、私の体はいまだ小さいままというのはなぜに?
若返りの効力は3日では?
「戻るときはすぐにわかりますわっ」などと言われて現在私はメイドさんの進める新たなお洋服…もとい、狼のコスチュームを着ている。この姿で子犬ケルベロスを従える私は子犬の母か??
ちらっとメイドさん達を見れば、私とケルベロスのセットの姿にくねくねと体をくねらせ悶えていた。
そこっ、悶えない!
私とケルベロスの姿を見て悶えるメイドさんを睨むと、すっと目を逸らされた。しかし、その後も時折ちらっちらっと視線が飛んでくる。
犬萌えね…
まぁいいでしょう、そういうことなら存分に愛でるがよい! この愛らしきわが姿を!
むんっ胸を張って歩く私に、先程私が放った質問に答えたのはノルディークだ。
「可愛いからしばらくそのままでいてほしいって言う神様の思し召しってことだろうね」
にっこりほほ笑むノルディークを見つめれば、その瞳の奥に楽しそうなものが潜んでいるのがわかる。これは絶対何か知っていて隠しているときの目だ。
「ノルしゃん、私に何かしましゅた?」
念のため確認する。
「してないよ。僕はね」
スッと目線が別の方向へ動き、それを追えばそこには…
リアナシアおばあ様が…。
「・・・・わかりましゅた。そのうち戻りましゅね」
戦いを挑んだところでとても勝てる気がしないので、呆れ半分で呟けば、おばあ様ににこりと微笑みかけられた。その微笑みはノルディークに似ている。いや、ノルディークが似ているのか。
ノルディークの微笑みはきっとリアナシアおばあ様に鍛えられたのではないかと思う。
とりあえず、戻る日が決まっているというならダボダボ服は着なくて済むということで、私はケルベロスと共に意気揚々とエントランスをくぐり。
くぐったところで懐かしく感じる面々に出迎えられた。
「お帰り~。て、あら、やだ、シャナ縮んでる~! ぶふっ」
・・・・なぜここに我が悪友、爆発ウェーブヘアのシャンティが…?
そしてなぜに必死に笑いを堪える・・・。
私は胡乱な目で彼女を見やる。
「お帰りなさい皆さん。伯爵、父から手紙を預かってます」
いつもの友人ズに加え、この国の王子であり友人のルイン・セイル・クリセニアまでいる。
奴は黙っていると王子らしい気品に溢れるが、現在その目は笑みを浮かべ、私を見て笑いを堪えているではないか。
なんて失敬な王子だ。
「「あはははははは!」」
そして、さらにちょい筋肉質のアルフレッドに、そばかすのオリンまでいて…私を見るなり笑い飛ばした。
おにょれ・・・・小さいのは私のせいじゃないんだー!!
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「という訳で、我々は学園の代表として魔族対策を練りに参りました」
現在首やら腕やらに噛みつかれた痕があり、ズタボロ姿のルイン、アルフレッド、オリンの3人は、苦笑いしながら元々の用事を述べた。
ちなみに噛みついてやったのはこの狼シャナですとも。
人を笑わば歯形2つです!
それはともかく、彼等の突然の出迎えは、ストーカーセアンによって(どこで彼が魔族の話を聞いていたのかは謎だが)王様に報告があがったためのようだ。
本来ならその情報伝達のスピードに驚きたいところだけれど、私としてはセアンがちゃんと仕事してたことの方に驚いてしまって情報が伝わるスピードへの驚きは霞んだよ。
「その魔族対策なんだけどね…」
さっそく答えるヘイムダールが微妙な表情を浮かべる。
ふふん、そこはこの私が答えてやりましょう!
「吸い付くのでしゅ!」
胸を張ってどや顔で答えると、友人達の視線は私に集まり、全員が首を傾げた。
「あ~、まずは魔族の戦い方からだけど。魔力酔いは知ってる?」
混乱する生徒に初めから教えるのは先生の顔をしたヘイムダールだ。
だが、シャンティ、アルフレッド、オリンの三人はさらに首を傾げる。
まぁ、この三人は私と同じく頭はあまり使わない系なので、たとえ授業教えてもらっていても覚えていないだろう。
残るルインはそれなりの教育を叩きこまれているので余裕そうだ。
「確か、自分より強い魔力の者と魔力を共有した後、強い者の魔力に精神がかき乱される状態でしたね。まれに起こる現象だったと思いましたが」
・・・・私の知識より端折った感じがありますがおおむね合っているとみていいだろう。
「人間同士では稀だね。症状はもっとひどいと、魔力の強い人物の人格に近くなり、多すぎる魔力を吐き出そうとして魔力の暴走が起きることが今回分かったのだが、まぁ、それは置いといて。魔族はその強い魔力を使って人間に魔力酔いを引き起こし、洗脳するという戦い方を主にするんだ」
「えげつないわっ」
まさに私が思ったのと同じことをシャンティが叫ぶ。
「魔力酔いは確か時が経てば治りますよね…? でも、魔族との戦いの最中にそんな悠長に待つなんてことしてられるのですか?」
オリンの言葉にヘイムダールは眉間に皺を寄せる。
そんなとこに皺を寄せると癖になりますよ~とばかりに私はヘイムダールによじ上り、がしっと胴体を足で絞めつけ、指先でぐにぐにとヘイムダールの眉間を伸ばした。
「シャナ、これぐらいで皺にはならないから…」
ヘイムダールはそういうと私を抱き上げ、ため息をつく。
「今までは待つしか手がなかった。だが・・そこでシャナが言った吸い付くなんだけど…。どうやら、魔力酔いの魔力は吸い取ることができるらしい」
「「「へぇ」」」
さすがは我が友人、事の重大さは全く分かっていない。ちなみに私にもいまだよくわからない。
「やってみればいいんでしゅよ。四人とも私がいいと言ったらヘイン君に吸い付いてみてくだしゃい」
おいでおいでと四人を傍に寄せると、私はヘイムダールの中へ強引に魔力を流し込んだ。
これにはヘイムダールのみならずディアスや様子を見ていただけのノルディークもぎょっとする。
ケガをさせたりはしないのに…心配性ね皆。なんて思っていたら、視界ぐんっと下がった。
どうやらヘイムダールが膝をついたようだ。
「ヘイン!? 生きてるかっ!?」
ディアスが膝をついたヘイムダールに駆け寄り、ヘイムダールはぶるぶると震える手でディアスを掴む。
「これ…やばい」
何がやばいかはわからないが、魔力酔いにかかってるだろうか??
「よさげでしゅか?」
「いい…いや、よくないっ。でも・・・うっ・・とりあえず魔力酔いには…うぅ」
なんだかわからないが、まぁ、魔力酔いに近いものができたということで準備ができましたね。と私は悪友達を見やった。
「さぁ、吸い付くのでしゅ!」
「・・・・いいのねっ?」
シャンティの目がハンターの目に変わった。
さすがはシャンティ、分かってるようだ。
「まぁ、とりあえず腕にしとくか?」
「そうだね…。男に吸い付くって微妙だけど」
アルフレッドもオリンも気にせずヘイムダールの腕をとり、唯一ルインが遠い目をする。
「男一人に四人がかりで吸い付く絵って…」
「つべこべ言わずやるのでしゅっ。むっちゅぅぅぅっっとでしゅよ」
シャンティは嬉々としてヘイムダールの服の前をくつろげると、にんまりとほほ笑み、その鎖骨辺りに吸い付く。
あとの三人は男同士なので無難に腕だ。
ちゅっぽんっ
「「「ごちそうさまでした」」」
なんだかうちひしがれるルインはともかく、三人は私が教えた合掌ポーズをとると、目を輝かせた。
「なんだか肌が艶々するわ」
「あぁ、魔力って吸い取れるんだな。シャナ味が濃いけど」
「うん、シャナ味が濃い」
シャンティ、アルフレッド、オリンの三人が口々に感想を言い、一人うちひしがれるルインが呟いた。
「シャナ味…濃すぎる」
そして吸われたヘイムダールはというと、なぜかぐったりとその場に突っ伏した。
「・・・どうしましゅた?」
母様の時はすぐにきょとんとした母様が何も思い出せず辺りの様子を窺い、姉様の時は(もちろん吸いましたよっ)正気に戻った瞬間真っ赤になって隠れてしまったので、魔力酔いが覚めた時の症状は様々なようだけれど、ヘイムダールは??
「シャナの魔力に全身舐められたような感触が…」
その様子を見下ろし、ディアスは頷いた。
「…やはり侵入する魔力もシャナなのだな…」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・
褒められたのか?
ノルさん「褒めてないよ…」
シャナ 「またも心を読まれたでしゅ!!」




