88話 魔族と戦うにはリップ必須!
更新時間間違えて深夜1時に設定してましたので慌てて更新~っっ
「入室を許した覚えはないぞカティア」
鋭い声がカティアに届き、彼女はびくりと一瞬震えた後、顔を上げる。
「申し訳ない兄上。ですがお怒りの前に確認を。外で皆を脅えさせる生首は塔の主の仕業か、それとも魔物の類か」
アデラ無視で続けるんだ…
思わず私はカティアの足元に転がるアデラを見てしまう。
ここまで放置されるといっそすがすがしいというか…いや、兄であるダレンにすら放置されているのだから哀れむべきかもしれない…。
アデラからダレンに視線を移せば、彼はものすごい勢いで着替えていた…。
「あぁっ、せっかくの美人しゃんっっ」
嘆く私を無視して彼は猛スピードで着替え、ついでに口紅をグイッと豪快に腕で拭ったために顔の横に口紅がはみ出してしまった。
「なんだか乱された後みたいでエロチックでしゅっ むっふ~っ」
「そこ! 現実逃避してないで手伝え!」
ダレンにむふむふと萌えていたのに誰だ水を差すのは! と振り返れば、青白い雷を辺りにまき散らし、合気道のような動きで父様を沈める母様の姿が!
母様強し…
ディアスとヘイムダールの二人は、現在魔力を暴走させている母様の魔力を抑えにかかっている。
塔の主なのだから母様の一人や二人と思っていたら意外や意外、なぜか二人は手こずっているのだ。
「三人がかりでもイネスを倒せないのかしら?」
困ったわねぇとリアナシアおあばあ様が全く困った様子を見せずに呟き、父様をちらりと見た。
そこには「早く何とかなさい」という無言の圧力がっっ
「うぅ・・・努力します」
父様は再び母様を力でねじ伏せようとするが、そこはさすが元冒険者で父様の妻なだけある。ひらりふわりと優雅に父様の手を躱し、ついに腕を掴まれた! と思えば、いつの間にかその体勢が逆になり、父様の腕が背中で捩じられていた。
母様の動きは合気道の達人のようだ。
父様も全力で飛び掛かっているわけではないのだが、一筋縄でいかない母様にてこずり、力加減に迷っているようだ。
「かあしゃますご~い!」
母様を褒めたたえて手を叩けば、男達にギラリと睨まれてしまった。
皆余裕なさすぎ…。
「体術はともかく、魔力が抑えられないのは妙だね」
ノルディークが参加するために私を降ろす。
4人がかりとはすごいわ母様。実はチートなのではないかしらん?
わくわくしながら見ていると、母様の電撃はまるで威嚇をするかのようにノルディークに襲いかかった!
「のっひょ~うっ」
当然傍にいた私にもその余波が飛んできたので、結界を張るより先に横っ飛びして床に転がり、間一髪電撃を避けた。
避ける際に間抜けな叫びをあげたのはもちろん私である。
ノルディークだったら面白いのだけどね。
母様の雷だが、威力はそれほど強くないのだが、だからなのか、私の髪が下敷きで摩擦されたようにぶわぁ~っと逆立った。
「髪に悪そうでしゅ」
「そういう問題か?」
見学するハーンから突っ込みが飛んできたので、私は彼の足からよじよじと上り、その腕の特等席に納まった。
「それにしても、なんであんなに苦戦するでしゅかねぇ?」
塔の主が3人がかり。ついでに父様も参加しているのに、相手をしている母様はまだまだ魔力も体力も余裕そうだ。
不思議に思って首を傾げていると、私の横にヘイムダールが一時退却してきた。
ロックバンドのお兄ちゃんの様に電撃の影響で髪が立ち上がっているヘイムダールを見ると、ハーンがつげる。
「塔の主とは思えない余裕のなさだな」
そうハーンに突っ込まれ、ヘイムダールは苦笑いする。
「あの魔力、イネスのモノじゃなくシャナのモノなんだよ。だからすごく強い」
母様のモノでなく私の魔力とな?
どういうことかと尋ねる前に、ヘイムダールがこれは仮定だけどと前置きして話す。
「異物を外に出そうという体の中の魔力が侵入したシャナの魔力にぶつかった反発で魔力酔いを起こし、体内から排出されない魔力が大きくて魔力暴走につながったようだ」
「ちゅまり…中身が溢れそうな鍋に蓋をしたら、爆発して蓋が吹っ飛んだということでしゅか?」
「…そのたとえはよくわからないけど、とりあえずシャナ、元は君の魔力なのだから何とか吸い取れないかな?」
吸い取る…
吸い取るということは、当然一度体内に入ったものを
「吸い付けと!?」
「吸い付くのではなくて吸い取って…」
ヘイムダールの言葉を最後まで聞かず、私はハーンの肩をバシバシ叩いた。
「さぁ! 私を母様に向けて投げてくだしゃい!」
ハーンはいぶかしげな顔をし、ヘイムダールをちらりと見た後、何をするのかと好奇心いっぱいの目で見上げるヘイムダールを見て諦め、私を片手でつかんだ。
「じゃあ投げるぞ…」
「よろしくでしゅ!」
「は? あの、本気だったのか? ちょっ、二人とも待て!」
待て、と言われてもすでにシャナ剛速球は投げられ、私は母様に向けて両手を広げた。
「かーしゃまー!」
「・・・・シャナ! 父様が浮気したぁぁぁ~! うわぁぁぁ~ん!」
おぉっ、母様、なんて可愛い顔で泣くのだっ! 危うく撃沈しそうになったではありませぬかっっ。
そして父様、何母様泣かせてるんですかっ。
飛びながら父様を睨むのは忘れない。
私は喜怒哀楽の哀に入ったらしい母様に飛びつくと、そのままむっちゅぅぅぅぅぅう~っと、宣言通り頬に吸い付いた。
「そんなので魔力酔いが治るわけないだろうっっ」
ヘイムダールが背後から叫び声を上げたが、私の意見は違う。
吸い付いた頬から私の魔力が吸い上げられ、私の中に溜まった感触があるのだ!
これは、イケる!
「シャナ! なんて羨ましい!」
父様が本音駄々漏れで叫び、私はにやりと笑みを浮かべると、ちゅぽんっと口を離した。
「大変おいしゅうございました」
合掌。
パチンっと手を鳴らした瞬間、母様の表情がはっと我に返ったようである。
「私、今、何してたのかしら…??」
呆然と立ちすくむ母様に、ビジュアルバンドの人の様に髪が立っているノルディーク、ヘイムダール、ディアスは愕然として口をカパーッと開けっぱなしにする。
口、乾燥しますよ?
「…魔力酔いって…吸い取れば治るのか?」
ディアスが呆然と呟き、ヘイムダールが答える。
「もしそうなら、魔族との戦いの被害が減る」
・・・・・・・・
・・・・魔族との戦い方って、この流れで行くと吸いつき大会ですかね…???
「魔族と戦うと唇が腫れあがりそうでしゅね」
リップがいるかもと思いながら呟けば、周りの男達に首を傾げられた。
「「何する気だ?」」
・・・・たった今、吸い付いたら戦いの被害が減ると言ったのはどこの誰ですかー!!




