81話 王子? 王女?
温泉破壊に女風呂に男性乱入。
それはもーこってりと温泉の支配人に怒られました。大の大人が…ぷぷぷっ。
あ、私はまだ子供ですからね、見ていただけですよ。そして一人叱られる大人達を堪能しました。
…その後母様にお尻ぺんぺんされましたがね…。
ちなみに修理費は覗きしたセアンが悪いということで彼の給料と王城から出させることに。
「無一文に! しかもクビになる!」
そんなこと知ったことかと全員に睨まれてがっくりと項垂れていたけれど…。
後から聞いた話、彼等第6騎士団は命の危険度の高い仕事ゆえに給料はとても高く、多少の破壊も任務の経費に含まれるので問題ないのだそうだ。
覗きのくせに、優遇されてるね…。
「まぁ…覗きが原因と報告されたらどうなるかはわからないけど」
とは同じ騎士団の兄様の言だ。
さすがに同じ騎士として少しだけ同情したような節があったものの、ターゲットが私達親子と知った後、罰は甘んじて受けよという態度に変わった。
私はそんな兄様のお膝に座り、本日はいつ大人に戻っても良い様にだぼだぼのワンピースを着ている。
大人サイズなので袖は折り、スカート部分はピンで半分に折って留めてある。首の襟ぐりから肩が時々ずり落ちそうになるのが難点だ。
この衣装では暴れまわれないのでじっと大人しくして…
はっ、まさかそれが狙いでこの服??
大人しくしてなさいと言う母様の無言の圧力を感じる…。
「ところで、今日は何かあるのでしゅか?」
朝食の時から皆どこかそわそわしていたが、現在大部屋でのんびりお茶をしているというのに今度はピリピリしている。口数も減ってるようだ。
「セアンが原因ではあるんだが…」
兄様の言葉に思わず顔をしかめる。
セアンめ…、原因作りすぎじゃなかろうか? まだ内容は知らないけど。
「ルアールとノーグの王族が来ている」
「カティアとアデラのことでしゅね?」
そんなことかとほっと息を吐くと、兄様は首を横に振った。
来ているのはその二人だけでなく、彼女達の兄も来ているのだそうだ。
聞けば、どちらも塔の存在を憎んでいるような節があり、ノーグの王子に至っては暗殺者を送り込んできている張本人かもしれないというのだ。
「それならハーンに聞けば早いでしゅよ~」
私は言うなり、ピリピリする雰囲気の中で唯一のんびりとソファに寝そべっている獅子、もといハーンを手招きした。
「ハーン、ハーン」
のそりとハーンがこちらへやってくると、そのまま私をひょいと抱き上げる。
ハーンは私を腕に座らせると、アメジストの瞳で私をじっと覗きこむので、私は照れて「むふっ」と笑うとその首にしがみ付いた。
「で、要件は何だ?」
おぉ、押しの弱い日本人に立ち戻っている場合じゃなかったよ。
もう一度見つめあって今度は尋ねる。
「ノーグの王子しゃまはあんしゃつ犯でしゅかね?」
「あんしゃつ? あぁ、暗殺か。そうだな。俺に塔のカギとなるものを殺せと命じたのはあの男だな」
「塔のカギ?」
私は首を傾げた。
塔に入るには先の赤の塔を見てもわかるように、塔の主がいなければいけない。そういう意味での鍵ならば、塔の主達ということになるが…。
「ローシェンの言っているのは塔の主達が守るモノのことだろう。シャナのことだ」
アルディスはそういうと私の頭をぐりぐりと撫でる。
つまり、そのノーグの王子様は皆を脅す為にも私を捕えて…とそこで思い直す。たしかハーンは殺せと言われたのだった。
「殺したら脅せましぇんね。何が目的でしゅか?」
「塔の主を一国に留めぬためだろうな。おそらくは」
ディアスが会話に参加する。
塔の主が一国に集まることにより、周辺諸国がその国に脅威を覚えるのだ。だが、だからと言って攻撃を仕掛けようという奇特な人間はそうそういないらしい。
攻撃しても塔の主に勝てるはずがないからね。
「私が死ぬと皆ばらけちゃいましゅか?」
「普通は塔の主が集まることなんて百年に一度あればいい方だよ」
ヘイムダールが答える。
私が来る前は人間ともほとんど関わることのなかった主達は、現在の変化を戸惑いながらも喜び、しかしどこかで消えぬ不安を感じてもいるようだ。
失われる日が怖いのだと。
・・・・・つまり?
「わたしゅの胸でお泣き」
私が全て受け止めてやりますよ。ヘイ・カムオン! の姿勢でいてほしいということか?
私が振り回しているおかげでこの生活が成り立っているというのならばだけど…それはそれで失敬な話だが。
私が両腕を伸ばすと、ディアスは呆れ、ヘイムダールは苦笑し、ノルディークとアルディスは私の頬にキスをした。
「シャナがいなくなったら塔の主は確かにばらけるし、ヘタすればその悲しみで押しつぶされることもある。もしシャナが殺されれば、少なくともここにいる誰もが殺した人間とその国を憎み破壊するだろうね」
私の命が国の存続にかかわる重大なものに!
「一人の体ではないんでしゅね…」
ぽつりと呟くと、緊張の為かうろうろしていた父様がくわっ! と目を見開いて食いついてきた。
「シャナ、またもや腹に子が!?」
父様、今回は自ら聞いてきたよ。しかもまたって…、前回は冗談なのだけれども…。
「今度はたくさんできたようでしゅ」
とりあえず返してみる。
「まさか、双子か!」
おぉ、とんちんかんな返答が!
「落ち着いてくださいませ、あなた」
興奮する父様の後頭部に母様の手刀が落ちた。
今回はこれからノーグの王子の挨拶を受けるということで手加減したようだが、父様は頭を抱えて蹲ってしまった。
「人類皆兄弟、仲良くできないものでしゅかね…」
「あれ相手に仲良く…」
ハーンの呟きに男達が同意する。
…一体どんな王子なんだノーグの王子!
一人悶々とノーグの王子像を脳内に立ちあげていると、部屋の扉がノックされ、部屋の空気に緊張が走った。
「どなた?」
のんびりと答えたのはリアナシアおばあ様だ。
本日は朝からおばあ様に戻っていた彼女は、ゆったりと椅子に座って微笑んでいるが、やはりどこか緊張した空気を持っている。
「クリセニア第6騎士団セアン・マッケイです。リンスター卿に御引合せ願いたいという方々をお連れしました」
セアンがどこまで塔の主達の存在を掴んだかはしらないが、表向き私達の代表は父様だ。
父様はすくっと立ち上がると、表情を改め、全員の頷きを確認してから答えた。
「お会いしよう」
なんだかもったいぶった言い方だが、貴族というものはこういうモノらしい。
私はじぃぃっとドアが開くのを見つめた。
「お目通り感謝いたしますリンスター卿。私はダレン・ノーグともうします。この度は…」
部屋に一番に入ってきたのは美女だ。
赤毛は長く腰まで伸び、その毛先はやはりアデラ同様くるんくるん。瞳は紺色で、着ている衣装は少しだぶついた学者風の衣装…。
あれ? 王女だった?
首を傾げるが、どう見ても美女である。男には見えない。声は確かにハスキーだけれど、そんな声の女性はいるよね、という範囲のハスキーボイスだ。
私はハーンの方を叩いて注意を促し、床に降ろしてもらうと、そのまま彼女の前に立ち、わしっと足にしがみ付いた。
「! …あの、なにを?」
驚く彼女、もしくは彼の体をシャカシャカと登ると、そのままそのだぶついた衣装の襟をぐいー! と広げ、ボスっと顔を突っ込んだ。
「シャナ! それは見た目美女でも美女じゃなくて、危険な男だから!」
シェールが慌てて叫び、ハーンが私の足を掴んで引っ張る。
その間にも私は頭から肩、腰と服の中へと入っていく。
「どこまで潜る気だ」
「お胸がぺたんこな女性もおりましゅ! 下! 下を確認させてくだしゃい!」
「下!?」
ダレンの悲鳴と男達の驚きの声が重なり、じたばた暴れる私はそのままだぶついた学者風の衣装の中にするりと…
入り込めず、ハーンに逆さに吊るされました…。
「そういうのは、外から掴めばわかるだろうが」
「・・・そうでしゅね」
コクリと肯いた私に、男達は一斉に叫んだ。
「「おかしなことを覚えるな!!」」
・・・・手っ取り早い方法なのに・・・
そして皆ナゼ前かがみに応えるんですかね…?




