77話 赤の塔を暴け 3
「さて、アルディスを弄りまわしたことでしゅし、次へ参りましょうか」
ぐったりしている新旧の王族を尻目に、怪獣尻尾を動かしながらサカサカと歩く。
アルディスが言うには、ここはまだ迷宮の中なのだそうだ。
あの怪しい部屋はこの迷宮を作った最初の持ち主の部屋で、その前にあった普通の部屋は、時折地下を点検するときにアルディスが使っていた部屋なのだそうだ。
ちなみに私が発見するまであの部屋の存在に気が付いていなかったらしい。
そんな風に言われて信じると思います? ねぇ? そこの奥様っ
結局、心の内で『アルディスは一人あの部屋で楽しむという趣味を持っているのだ』と誤解しておくことにした。もちろん表面では彼を信じると言いましたよ? イイ女ですからね、いくらでも美形の味方のふりはしますとも。フリはね。
怪しげなエロ本だけでもきっと楽しんでいたと思うのよ。若いんだし…。うん。
「ところで、どうしてこれだけある扉のほとんどが開かないんだ?」
シェールは部屋にあったシャツを拝借して着替え、媚薬の影響と生着替えをガン見(もちろんシャナが喰い付くように見ていた)されていたことでちょっとぐったりした様子ながらも疑問に思っていたことを尋ねた。
確かに廊下に等間隔に並ぶドアは多く、そのほとんどは開かない。
「半分以上は見せかけ…と言いたいが、下層でどれだけ扉を開くかによって上の階の扉の開く数が決まるらしい。それらは全て命にかかわるような仕掛けが開けた者を襲うようになっているのだが、下層で開けられた数によって凶悪さが増すのだそうだ」
「さっきの部屋が一番あんたの命にかかわりそうな凶悪さだったな」
アルディスの補足にハーンの突込みが入ると、全員がそっとアルディスから視線を逸らして笑うのを堪えた。
アルディスはハーンを一睨みした後、廊下の先の開いたドアを指し示した。
「とりあえずあそこから登って行けば塔の地下からは出られ…シャナ?」
私はすたたたた~っと走ると、開いたドアの手前のドアのノブに飛びついてガチャリと回した。
開かない、と思われた扉は私の体重でも簡単に開き、キィッと小さな音を立てて開く。
「開く扉もあるんだな」
ハーンが興味津々で私より先に部屋の中を覗き込んだと思うと、一瞬目を見開き、私を抱えて扉の横へと思いきり飛んだ。
「うお?」
廊下に転がる直前に目に映ったのは、スローモーションのように先程までぶら下がっていた扉が粉々に壊れ、部屋の中から扉と同じサイズの長方形の鉄球…ならぬ鉄柱? が飛び出し、廊下の壁にめり込んだ姿だった。
「シャナ! ハーン! 無事か?」
ディアスが駆け寄り、鉄柱に触れると、一瞬でその塊は粉々に砕け散る。
「おぉ…」
さすがは塔の主の一人、と今感動しちゃったよ。
「仕掛けは止まっているんじゃなかった?」
ヘイムダールが首を傾げ、部屋の中を覗き込む。
「そのはずだが…」
アルディスは同じように部屋の中を覗き込み、私とハーンはディアスの手を借りて立ち上がり、私は…
「シャナ、少し落ち着くということを覚えようか?」
ものすごく黒い笑みを浮かべたノルディークに捕まると、有無を言わさず怪獣コスチュームを脱がされ、かぼちゃパンツとキャミソールの姿にされ、さらに…さらに!
「おちりぺんぺんは駄目でしゅうぅぅぅぅぅっっ」
廊下で公開生おちりぺんぺんの刑に処されました…。
なぜだ…。私こう見えても16歳なのに。
中身は52歳だけど…。
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「はうはうはうはう~」
公開お尻ぺんぺんの後、私は一人歩き厳禁となり、皆に抱っこされながら歩くことと相成りまして、現在ノルディークの腕の上で羞恥の涙を流しております。
「それは泣き声なのか…?」
再び着せられた怪獣コスチュームの尻尾をビタンビタンっと動かしながら、私の不機嫌さを尋ねたディアスにアピールする。
これは間違いなく泣き声です!
私達は現在塔の上層部に出て、温室となっている階を歩いている。
咲き乱れる花、流れる小川に色鮮やかな蝶や鳥。
まるで外のような光景だが、これは全て先代の時代から引き続き塔の主に仕えてきた使い魔であり、アルディスのふりをして人々を死に追いやってしまったソフィアが丹精込めて育てたものらしい。
花を育て、愛でる心があっても狂ってしまったということなのだろう。
こんな私ですらストレス社会の現代日本の中では30越えたあたりから生きるのが辛いと思ったことは数知れず…。だから、何百年、何千年を越えた彼女が狂ってしまうのは無理もないように思える。
人を巻き込んだのは間違いだと思うけど。
私達がこのソフィアの育てた庭園を歩くことになったのは、あの鉄柱の部屋で、アルディスも驚くある物を見つけたせいだった。
アルディスは温室庭園の奥へ行くと、一番日の当たる(人口の魔法光だが)場所に穴を掘り、あの部屋で見つけた物を埋めた。
それは、ソフィアがアルディスを冥界に閉じ込める前辺りまで肌身離さず身に着けていたというペンダント。
高い物でも名のある技術者が作ったものでもないどこかの屋台にでもありそうな花のモチーフのペンダントは、常にきれいに磨かれ、保存の魔法をかけられ、彼女の首をいつも飾っていたらしい。
「不甲斐ない主ですまない」
アルディスはそういうと目を閉じ祈るような仕草をする。
この世界では十字を切るでも日本のように手を合わせるでもなく、手を組んで祈るように死者を送る。
けれど、この場でそれができるのは主であるアルディスだけ。
他の主は彼女の罪を許してはならず、死を悼むことはしてはいけないらしい。
心で黙祷し、しんみりしながら私達はその場を立ち去った。
そうしてようやくたどりついた最上階。
そこにあったのは、巨大な赤い水晶である。
「売ったらいくらしましゅかね!?」
現在アルディスの腕の上で目を爛々と輝かせ、金勘定してしまうのはもう身にしみついた貧乏人の性だ。
「これが…世界の魔力を抑制する装置?」
シェールも興奮するように尋ね、ハーンはつんつんと水晶を突いている。
「こんなものの制御が魔物の侵入を押さえてるのか?」
「一般的にはそう知られている。魔狼は主を護りつつこの水晶を護らねばならない、と」
ディアスが説明すると、シェールの背筋がピンと伸びる。だが、ハーンは変わらず自然体だ。
「一般的でないのは?」
ハーンは鋭い。いろんな場所でいろんな勘が働くようだが、こういう時も真実を見抜くようだ。
ディアスは息を吐くと、水晶を軽く叩いた。
「塔の者ならば分かるな。真実魔力を抑制しているのはこんな石ではなく、我等塔の主だ」
水晶は囮だ。
もしも、襲撃を受けた時、水晶を壊されても主さえ無事ならば世界は…、人間の住む大陸は、魔力に潰されることなく、魔物に襲われることもない。
だが、主の方が死んだときは…。
「守護塔の主はかなりの力があるだろう? それでも護衛を必要とするのか?」
ハーンの質問にディアスは頷く。
「今は昔ほど必要としないゆえに魔狼を常に傍に置くモノは少ない。だが、いざ人間と争いが起きた時、我等は戦えないのだ」
「なぜ?」
シェールが首を傾げた。
チートなのになぜ戦えないのか。それは…?
「塔の主は主となった瞬間に人間を愛するようになる。人間に憎悪を持たぬよう、彼等を護っていけるよう。心を保つために人間との関わりを断ち切るくらいに」
ノルディークがディアスの代わりに告げ、私に向けてにこりと微笑んだ。
と…いうことは!
「私のこのハーレム…げっふんっ、博愛主義はそのせいでしゅたか!」
「「「いや、それは違う」」」
全員に即行否定されました…。
ナゼ…。
シャナ「博愛主義(ハーレム主義)が塔の影響ではないと何故言えるのでしゅ!」
ディアス「歴代の主にそこまで色ボケしてる者はいない」
ヘイン 「色ボケ…」
シャナ 「…ディアスだって姉しゃまに色ボケしてるくしぇに~!
お触り禁止令だしましゅよ!」
ディアス「いや…それは…」
ディアスは焦っている!
ノルさん「シャナが出したお触り禁止令で動揺するくらいには色ボケてるね」
ヘイン君「やっぱり色ボケてるんだ…。そしてディアスにシャナの禁止令は効力が無いということを教えては…あげないのだね…」
ヘイムダールの呟きに、ノルディークはにっこりとほほ笑むのだった。




