75話 赤の塔を暴け 1
「赤の塔へぴくにっきゅ?」
温泉でぐったりした後、私は母様特製怪獣コスチュームを着て朝食だ。
顔の部分が開いている茶色の怪獣コスチュームは、何と母様とお針子さんメイドが、姉様嫁入り事件に一晩中嘆く父様を放ったらかしにして徹夜で作った代物だった。
これは嬉しいのだけれど、父様はちゃんと復活できるのだろうか心配だ…
朝食の席の部屋の片隅で小さく蹲り、今にもキノコを生やしそうな父様をちらりと見た後、私は爽やかにほほ笑む母様を見て…
父様は見なかったことにした。
頑張れ父様、これは父親の試練よ。
と、心でだけエールを送っておく。
「シャナもだけど、シェールとハーンも塔を知っておいた方がいいだろう?」
話は戻るが、赤の塔のピクニックを提案したのはどうやら色ボケディアスではなく、ヘイムダールだ。
今回は塔を知らない私、シェール、ハーンの三人に塔を学ばせるつもりらしい。
「シャナの塔は白だろう? 赤でもいいのか?」
シェールが不思議そうに尋ねる。
それは私も思ったが、白の塔はちら見をした限りこれと言って変わったものは無い殺風景な塔だった。部屋はたくさんあったけどね。
まぁ、塔の中身はそこに住む主の個性が出るから、殺風景だったのはノルディークがあまり物を置かない主義なだけだろう。
「それほど変わりはないよ。塔の役目はどれも同じだし」
やはり赤の塔も殺風景なのだろうか?
内装云々はともかく、見物しに行こうという話だ。
「ちゅまり…愛人宅…もとい、我が別荘の下見をしておいでということでしゅね」
きらんっと目を輝かせると、ヘイムダールが引きつった笑みで「そうだね」と答え、アルディスが「愛人宅…」とぼやいていた。
気楽に見に行けばよさそうだ。
朝食のホットミルクを飲み干し、白ヒゲ怪獣になりながら、私はにんまりとほほ笑んだ。
エロ本とか見つけられますかね…?
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温泉街からほど近く…ではなく、砂漠や火山を乗り越えたところにある赤の塔へは、主であるアルディスの転移によって移動する。
この転移魔法は、使う人間が一度行った場所でないと使えないのが不便だ。
「ぬぅあちゅー!」
転移した瞬間に襲いかかってきたマグマの熱気に、私は悲鳴を上げた。
「あぁ、すまない。・・・おいでシャナ」
ほんの少し考え込んだと思ったアルディスの差し出す腕の中に飛び込み、怪獣コスチュームの私は早く、早くと暑さから逃れたくてアルディスを急かす。
アルディスは苦笑すると、そのまま顔を近づけ…
ん?
なんでしょ、と思った時にはチュッと唇に唇が軽く触れた。
すぅっと体は涼しくなるが、バードキスはいつもハードキスをする身には恥ずかしくて顔が火照る。
「うへへへへ~」
頬を押さえ、きゃっ、きゃっと羞恥に身をよじる私に、満足そうな笑みを浮かべたアルディスが立ち上がり頷く。
顔を手でパタパタと煽ぎ、そんな様子を背後で見ていたハーン、シェールは何とも言えない表情をした。
「まさかと思うが、それを俺達にもするつもりか…?」
ハーンが尋ねると、アルディスはぎょっとして目を丸くし、様子を窺っていたノルディークとヘイムダールがぶふっと噴き出した。
「するわけないだろう!」
アルディスが片手を振ると、二人を襲う熱気は消えたようで、暑そうに手でパタパタと顔を煽っていた動きは止まった。
「これも自分でできるようにならないとね」
ヘイムダールの言葉に「特訓か…」と呟いたのは姉様から離れてちょっと色ボケから回復したディアスだ。
「まったく…、とりあえず中に入ろう」
とりあえず確認してみるが、周りはゴポゴポとマグマが蠢く溶岩地帯。塔らしきものは見えない。
マグマの中にあるという話だが、どのマグマも本物に見えるし、触れようと手を伸ばそうにも熱すぎて無理だった。
というこはやはりマグマの中ではないのかもしれない。
まさかと思うが、己の塔以外の存在は見えないとかそういうことだろうか…?
不安げにアルディスを見上げ、ノルディークに視線を移すと、二人は優しく微笑んだ。
いや、微笑みでなくてできれば説明が欲しかったのだけど…
如何したものかねと遠い目をしていると、ひょいっとアルディスが私を抱き上げ、すたすたとマグマの池となっている場所に近づく。
熱さが消えているのでなんだか作り物めいて見えるが、本物のマグマだ。
「この中に入る」
ほほぉ、この中に…
「このにゃか!?」
私はぎょっとしてマグマの池を見下ろした。
やはりマグマ!?
しかし、一歩でも踏み込めば一瞬にして人間丸焦げ…というか、溶けてなくなるのでは!?
振り返れば、シェールは青ざめ、ハーンは「ほぅ」と感心している。
なぜそこで感心出来るのだハーン…
「じゃあ、行こうか」
そう言うとアルディスは平然とマグマの中に飛び込んだ!
当然腕に抱かれる私も一緒だ!
「無理心中うぅぅぅぅぅ~!」
ぎゃああああああ!
ギュッと固く目を瞑り、我が人生オワタ…と絶望にうちひしがれていたが、熱さも痛みも感じず、すとんっとどこかへ降り立ったような軽い衝撃を感じてそろそろと目を開けた。
「うわああああ!」
目を開けると、目の前にシェールが落ちてきた。
おそらく、上で行く行かないとすったもんだした挙句、誰かに蹴り落とされたのだろう。
十中八九次に降りてきたハーンだろうけど…。
シェールだけがベチッと腹打ちして着地し、それ以外の男達は軽やかに着地した。
「シャナ、赤の塔へようこそ」
ふりかえれば、マグマのドームのようなものに覆われた空間の中に、巨大な赤い塔が聳えていた。
「ふおぉぉ。ファンタジーでしゅっ。アルしゃんっ、見損ねたのでもう一回マグマに飛び込むところからお願いしましゅよ!」
「もう一回て…」
目をキラキラさせると、アルディスは私を降ろした。
「それは次の機会にしような…」
アルディスはぶーたれる私を撫で、全員が塔に近づくと、重そうな門扉を開き塔の中へと…
「一番でしゅ!」
「あ!」
「シャナ!」
門の中へと飛び込んだ私の姿に男達がなぜか焦った声を出し、私は一歩塔の床に足を…
その床が足がつく寸前に消えた。
「おぉう?」
床がない場合は落ちますね。間違いなく。
落ちるぜ、ひゃっほぅっと暢気なことを考えていると、ギリギリのところでガシリとお腹に腕が回り、落下は食い止められた。
一番近くにいたアルディスの助けが間に合ったのか、と思いきや、振り返ると、そこにいたのは何とシェールで、しかも…
ズルリ…
勢いよく助けに来てバランスを崩し、そのまま頭から穴にダイブ!
「意味無いでしゅ~! おたんちん~! ちん~ ちん~…」
声を木霊させながら、私達は穴の中へと落ちて行った。
その時、地上では唖然とする男達が、ぼそりと呟いた
「木霊ですらシャナだな…」
と。
ちなみに、シェールのバランスが崩れた理由は、予想外に私が重かった…わけでは決してないのであしからず!
おたんちん=「間抜けな人」や「のろまな人」を罵る言葉です。




