73話 自覚
目が覚めると、そこはまさに天国だった!
「こ…これこそが温泉ハーレムっ」
浴衣で肌蹴た胸をさらし、しどけなく(普通にしてるだけだがシャナにはそう見える)座る男達、そして、同じく浴衣に身を包み、色っぽい項を見せる姉様と母様…。
しかも!
しかもですよ! 姉様の浴衣の丈が膝上と短いのです! 何と言う破廉恥!
そのスラリとした生足、見えそうで見えないその丈の絶妙さ加減…。
なんていい仕事をするのだ我が母とお針子メイド達よ…
「シャナ? 目が覚めたか?」
どうやら私は大部屋の幾つも並んだベッドの上で眠っていたらしい。
父様に顔を覗き込まれ、相変わらず格好いい父様の顔をじっと堪能してからにへらと笑みを浮かべた。
「おはようございましゅ~」
布団からひょいっと腕を伸ばすと、父様が蕩けるような笑顔で私を抱き上げてくれる。
やはり子供の姿はイイね。たっぷり甘えたい放題だ。
「おはよう私の天使。気分はどう?」
スリスリ頬ずりされるのでそれをそのまま返し、「元気でしゅっ」と答えた後、私ははたと我に返った。
「私、服着てましゅね?」
子供用だが、浴衣を着ている。
一瞬、一体いつの間に子供用の服を用意したのだろうという別の疑問が浮かび上がったが、それよりも気にするべきはやはり『誰が着替えさせてくれたのか』だ。
チラリと男達を順番に見やる。
ディアス・・・ならば面倒臭そうに替えるか、姉様に預ける。
ヘイムダールは・・まず手を出さないだろうな。
だとすると、ノルディーク? いつも通り爽やかに淡々と作業をこなした? 非常に絵面が似合わないけど…
アルディスとシェールならきっと顔を真っ赤にして、見てる方がイケないものを見ているような気分になるほど遅々として作業が進まず、私の体は湯冷めしていったろうし、ハーンならばおそらく見た目が危なすぎて他の誰かが見るに見かねて奪ってそうだ。
「服を着せたのはローシェンです」
予想外の答えだった…
ノルディークの言葉に私は驚いて目を丸くし、ハーンを見やった。
彼は特に動揺するでもなく、浴衣を着崩して色気大爆発な姿で椅子に腰かけ、名を呼んだこちらに視線をむけた。
「着替えか? それなら砂漠の子供の相手をよくするからな、同じように…」
「こ…子供の相手でしゅかっっ」
「シャナ、たぶんおかしな方向へ想像がずれてるよ」
お、おぉ、イカン。最近妄想ぶりが半端ないわ。
この世界で何の制限もなく伸び伸びと生きてきたらこんな危険な思想になるモノなのね。気を付けないと。
首を横に振って妄想を広げている脳をリセットしていると、その様子を眺めながらハーンがにやりと笑みを浮かべた。
「そうだな、砂漠ではあまり歓楽街がないからそう言う遊びも流行ってはいるな」
「お・・・おぉぉぉ?」
目をギラリと輝かせて涎を垂らしそうな勢いでハーンを見つめると、彼は椅子から立ち上がり、私の頭をぐりぐりと撫でまわした。
「そのうち教えてやる」
・・・・・・・・
・・・・・
大人の色気大・爆・発!
あぁ、いい…
ハーンのあの野獣っぽい感じもどっきゅんどっきゅん来ますね。
「あ、お着替えありがとうございましゅた」
にっこりほほ笑むと、ハーンはおもむろに父様の腕から私をひょいっと抱き上げ、そのまま腕に乗せて頭を撫でた。
「これは可愛いな」
「そうだろう! 私の天使だからな」
なぜか父様が胸を張っている。
「もらってもいいか?」
「もちろんっ」
お? いいのかな父様?
「嫁に」
「いぃ…いやっ、待て待て、どう見てもそれは犯罪だろう!」
やっと我に返ったらしい。
「犯罪ではないだろう。成人している」
あぁ、確かに。この姿は3日間限定だよね。
父様は一瞬ぐっと詰まった後、首を横に振って手を伸ばした。
「うちの天使はまだまだ誰にもやらん!」
私を掴もうとした父様の手は、すっとハーンによって避けられた。
「魔狼ならずっとともにいられるぞ? 普通の男は駄目だろう? すぐに死んでしまう」
その瞬間、塔の関係者全員がびくっと震えた。
父様も伸ばした手を宙で彷徨わせ、力なく降ろす。
ディアスは姉様をちらりと見て、シェールは兄様を…。
て、ちょっと待てぇいっ
「シェール! ましゃか姉しゃまじゃなくて兄しゃまを!?」
「どっからそんな話になった!」
暗い雰囲気が一気に吹き飛び、シェールが間髪入れずに叫ぶ。
私はと言えば、ハーンの腕の上で胡乱な目をシェールに向ける。
「だって、兄しゃまを見つめましたよ」
「そういえば早かったですね、彼を視界に入れるのが。まるでディアスのようです」
ノルディークがにっこり微笑みながらさらりとディアスの追及もする。
ディアスは名前が出てきょとんとした後、首を傾げた。
まさかとは思っていたけれど…自覚無しなのディアス!?
呆然とディアスを見やると、彼は皆の視線にさらに首を傾げる。
「ヘイン、受け取れ」
ハーンは一番近くにいた父様…ではなく、その次に近い場所にいたヘイムダールに向けて私を投げると、ヘイムダールはぎょっとして腕を伸ばした。
が
私はそのまま弧を描き、ヘイムダールの顔にべちょりと張り付いた。
「むごっ」
「おぉ、根性だなシャナ」
「美形とは張り付くためにあるのでしゅ」
むごむごお腹の辺りで言っているヘイムダールを無視して親指を立てると、ハーンはにやりと笑ってそのまま姉様の前に立った。
何をするのかと皆が見つめる中、ハーンが身をかがめ、姉様に顔を近づける。
あまりの近さに姉様が仰け反ると、ハーンはまたもや口の端を上げて何かをたくらむような笑みを浮かべ、姉様の生足に触れた!
「きゃっ」
「何をしている!」
ディアスを焚きつけようという魂胆ですね。
ハーンはスッキリしないのは嫌いな性格のようだ。
ディアスが駆け寄り、肩を掴もうとしたのを避け…
「姉しゃまの生太腿に触れるとは何事でしゅかー!」
神のごとき素早さで飛んできた私の全身張り付きアタックを顔に受けてバランスを崩し、背中から倒れた。
ヘイムダールに続きごもごも言っているが知ったことかー!
必死にはがしにかかるのをこちらも必死に張り付いて耐え、暴れまわるのでどちらも浴衣が肌蹴てあられもない姿だ。
ちなみにちゃんとかぼちゃパンツは穿いておりましたよ。今更だけど…。
「ぶはっ! 殺す気か! そこの煮え切らない男をたきつけただけだろうが!」
わずかにはがされ、ハーンの首にまたがる状況だ。
「焚き付けでも私の姉しゃまに触れていいのは私だけでしゅ!」
がるるるると唸り、がぶぅっとその首に噛みついてやると、ハーンは痛みに顔をしかめ、私の首根っこを掴んでさらに引きはがした。
私はハーンの片腕に首根っこを掴まれ、ぷら~んとした状態でまだ唸りながら歯をカチンカチンと鳴らして威嚇する。
そこへ…
「あらまぁ、これは何の騒ぎかしら?」
部屋の中に湯上りのリアナシアおばあ…もとい、リアナシアお姉さまが現れ、部屋の中を見回して首を傾げた。
「「「げっっ」」」
男達が悲鳴を上げ、リアナシアお姉さまは「まぁ」と声を出し、瞳を輝かせた。
「よかったわねぇアルバート、良い御婿さんが来たじゃありませんか。ひ孫は近いうちに見られるかしら」
婿?
私は威嚇をやめて寝転がったままのハーンを見下ろすが、彼は疲れた顔で首を振り、私の背後を指さした。
いまだハーンの片腕で吊るされている私は、顏だけそちらに向けて…
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「ぎゃあああああああ~! 姉しゃまが喰われてる~!」
振り返った私が見たのは、ディアスに抱きしめられ、熱烈キスを受けてトロトロに溶ける姉様だった!
ちなみにこの時、父様は白く染まり、ガラガラと崩れ落ちた・・・・
シャナ 「なんてことでしゅか!!」
イネス(母様)「シャナ、あなたはノーラを心配するより自分を心配なさい」
シャナ 「にゃぜ?」
シェール「すごいことになってるからだろう…」
彼等の目に映っていたのは、色っぽい男の浴衣を肌蹴させ、その上首に歯形を残して襲いかかった幼女の姿であった…
これを確認した父様はさらさらと砂になったという…




