72話 男達の会話
とある人物視点ですので所々におかしな描写が入ります…。
「考えられん贅沢だな」
ローシェン・ハーンは胸に大きくひきつれたような痕のある体を惜しげもなくさらし、両腕を広げてゆったりと湯に浸かっていた。
元々活動拠点が砂漠であるハーンにとって、全身を浸ける事のできる水と言うものはとても贅沢である。それゆえに、多くの砂漠出身者はたっぷりと使われる水に遠慮がちなところがあるのだが、ハーンはあまり気にしていないようだ。
ハーンらしいと言えばらしいが…。
「砂漠で水は貴重だからな…」
濡れた赤い髪をかきあげ、オールバックにし、腕の筋肉と胸の筋肉を艶めかしく湯に濡らしながら、アルディスが呟く。
腰より下が湯から出ていないところがまた色っぽい。
「アルディスの塔から北西には砂漠が広がっていたな」
ディアスが地理を思い浮かべながらぽつりと呟いた。
基本的に塔と言うのは過酷な場所に建っているものが多い。
ディアスの黒の塔は人の入れぬ魔の森の中、ヘイムダールの緑の塔は風と共にあちこちへと移動し、時に現在のような遥か上空へとあらわれることもある。
アルディスの塔はと言えば、近くに今過ごしているような温泉地はあるものの、塔自体は火山の、それもマグマの中にあり、その火山に辿り着くには今ディアスが呟いたような砂漠などの不毛な地を越えねばならないのだ。
「昔、ナーシャに砂漠の真ん中に捨てられたことがあったな…」
「あ、それは俺もある。塔の主になりたければちょっと歩いて来いとか言われて」
ディアスに続いてヘイムダールが思い出したように答える。
ディアスは普段、着やせするのか、立ち上がったその背の筋肉は意外とすごい。ちなみにお尻もよく引き締まっている。
ヘイムダールはと言えば、こちらも無駄な筋肉は無く、引き締まっているが少し細めだろうか?
甘めの顔立ちであの肉体。きっと迫られたら蕩ける乙女たちは数多いことだろう。
「セレンはナーシャと同じぐらいの年だろう? 砂漠に放り込まれたりは?」
ヘイムダールの問いにノルディークはしばし考え込んだ。
ノルディークはたっぷりのお湯に浸かっているため、筋肉美は見えないが、その顔立ちはやはり周りの女性をひきつけてやまない美丈夫ぶりだ。
シェールやエルネストと同じように成長してきたふりをしてきたので、以前のような子供の姿に戻すとしたらおそらくは塔に戻ってからだろう。
「砂漠に放り込まれたことはないよ。あの頃はナーシャもそこそこ若かったから、一緒に魔大陸で修業したかな。ナイフ一本で」
「「「魔大陸…」」」
ディアス、ヘイムダール、アルディスが何とも言えない表情になる。
魔大陸と言うのは魔王や魔族が住む危険な土地で、その土地で塔の主とはいえ、人間がナイフ一本で修業と言うのは無茶にもほどがあるのだ。
だが、だからこそこの男は塔の中でも最強と言われる力を持つのだろう。
もっとも、それを遥かに凌ぐ危険人物が存在するが・・・。
全員ふとその存在に行きついたのか、表情が微妙になった。
「そういえば、なんだかんだと言ってうちのシャナに付き合ってくれているようだけど、その、本当に愛人とか…」
シャナの兄エルネストが金の髪から水を滴らせ、頬を少し紅潮させて尋ねた。
シャナの兄として、ずっと皆の気持ちに疑問を持っていたのだ。シャナが愛人愛人と連呼してはいるが、当人たちはどうなのか、と。
『愛人』と言うモノの意味を知ってからは特に。
それには今まで黙って聞いていたシェールも耳をピクリと動かす。
シェールもエルネストもここにいる男達ほど出来上がった体はしていないが、若さ特有と言うか、未発達な分、その細さや筋肉の付き具合がまた色っぽい。
「シャナには確かに驚いたな。最初は冥界の牢から出してもらった恩もあるから、妹に対するように付き合っていたんだが、最近は…」
「綺麗になったよね?」
ぽつっとヘイムダールが答えると、ギラリと男達の視線がヘイムダールに向かう。
「俺は狙ってないっ。妹みたいに可愛いけど」
ヘイムダールが慌てて両手を横に振り、違うとアピールすると、男達の視線もそらされ、彼はほっと息を吐く。
「セレンはあのチビ娘にべったりだが?」
ディアスが尋ねると、ノルディークはいつものようににこりと微笑む。
「もちろん大好きだよ。何が出てくるかわからないびっくり箱みたいで可愛いね」
いつものようになんとなくはぐらかされる。
いつもはっきりさせないのがノルディークだ。
この男が本気になったらどうなるのか、とわずかに恐ろしくなるディアスだが、たとえ彼が暴走するようなことになったとしても、ここには恋敵がたくさんいるのでおそらく大丈夫だろう。
「ローシェン、お前はどうなんだ? 会って間もないだろう?」
ハーンは水底をじっと見つめていたが、「あ?」と返事して顔を上げた。
「シャナか? あれはかなりキスがうまいぞ。意識が持って行かれそうになるぐらいにな」
にやりと笑うその色気ある笑みと共に発せられた言葉は、ノルディーク、シェール、アルディスにあのエロちっすを思い起こさせたのだろう、ノルディーク以外は顔を赤くして口元を押さえ、なんとなく前かがみになった。
「父が聞いたら卒倒しそうだ…」
エルネストは微妙な表情である。
「そう言えばシェールはどうなんだ? 一応レオノーラの婚約者だが」
エルネストに問われたシェールは、赤くなった顔を誤魔化す為なのか、それとも気分を落ち着けるためなのか、温泉に肩まで浸かると顔をしかめた。
「確かにノーラの婚約者だが、それとこれは別だ…。シャナのことは…その」
迷っているのか、言葉に詰まる。
ただし、その表情は雄弁で、うっすらと頬を紅潮させ、目を潤ませるその様子は、誰の目にも惚れているのだなとわかる。
自覚についてはまだまだ微妙だが。
その様子を見つめ、ノルディークは苦笑した。
「赤の血筋は純情で奥手で一途でむっつりだねぇ」
ヘイムダールがちらりとアルディスを見ながらにんまり微笑んで告げると、アルディスはむすっとした表情になる。
「むっつりは余計だ」
「でも、シャナを押し倒したいほどには好きだよね?」
「ヘイン!」
アルディスが怒鳴り、男達がじゃれ合う。
美形の戯れとは何とも萌え心をくすぐるものだ・・・。
そしてチラチラ見えるお尻もまた・・・。
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「…ところで、この水死体はひょっとしてシャナか?」
度々水底を見つめていたハーンは、ついにぷかりと浮いてきた、黒い毛玉にも見えるうつ伏せの小さな子供を指さして全員に尋ねた。
魔狼としての勘が当たってるならば、この気配は間違いなくシャナなのだが、いかんせん体が小さい。
「!? シャナ!?」
男達は驚いて腰に布を巻いただけの姿の小さな子供の元に集まり、エルネストが長く広がった髪を避けながらその体を抱き起すと…
「にゃかにゃかに…素晴らしい肉体美でごじゃいましゅた」
のぼせ上がっているシャナは、「ぐふふふふふ」と不気味な笑いを放ち、ぷぴっと鼻血を噴いて親指を立て、「目に焼きつけましゅた」と呟いた後、ガクリと気を失った。
「「「…覗き、か」」」
男達は溜息を吐き、幸せそうにぐふぐふ言いながら眠る小さなシャナを見下ろし、何とも言えない表情になったのであった…。
シャナの覗きを入れながらの1話でした。
シャナ「おちりの引き締まりが!
ふぉぉぉぉっ、見えそうで見えないそのライン!」
堪え切れなくなったシャナは水の魔力を使い、温泉の中に潜んでいた!
(ハーンだけが微妙な気配に気が付いていた…)
シャナ「(お湯の中は視界が悪くてみえません! そして息が続かぬ~!)」
そして、息が続かなくなったシャナは魔力も解けて土左衛門に…
至福のまま気を失った彼女に服を着せたのは一体誰…?




