7話 運命の日のシャナ
「まさか、シャナ、あれが見えるのか?」
パパンが指差すのは窓の外にでで~んと聳え立つ塔です。
私はもちろんとばかりに頷きます。皆も見えてるでしょう?
確認の為に兄様とママンに目をやれば、二人は信じられないという目をして首を横に振りました。
これは、まさか…
「ふりゃぐがたった?」
私には世界を守るという使命ができたのかもしれない!
ありとあらゆる力を持って、この世の筋肉と愛らしい娘さん達を虜にするという崇高な使命が!(あれ?)
目の前がぱあぁぁぁぁぁっと明るく輝きます。
「ふりゃぐが何のことかはわからないが、あの塔が見える人間は多くないんだ。シャナは魔力がとても高いということだね」
頭をナデナデされて、むふふふっと至福に浸っていると、話はそこで終わってしまった。
あれぇ? ここから塔に連れて行こうという話になって、そこで伝説の武器とか手に入れて、そなたは勇者だとかなって、そんでもってわしの娘と筋肉美形達(?)を頼むーって王様にお願いされるのではなかったの??
「いつかあの塔のことをちゃんと話してあげるからね」
パパンはそういってにこやかに笑うと私を抱き上げてチュッと頬にキスをくれました。
キスは嬉しいけれど、なんだか不完全燃焼っ
フラグはどこ行ったっっ。私のバラ色ハーレム人生は!?
むむむむむぅっと唇を尖らせていると、そんな私を見て兄様が私を抱っこしてくれる。
「父様と母様は準備をなされるから、シャナと僕達は邪魔にならないところにいようね」
結局、その時は塔についてはうやむやにされてしまった。
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めげては生きられぬ!
翌朝、戦地へと友人を探しに行くというパパンのお見送りに屋敷の門まで出た私は、本日のとある計画を頭の中でシュミレーションしながら胸当てを付けた軽装の戦士のようなパパンを見てデレておりました。
「パパンすてちっ」
賞賛の嵐ですっ。大興奮っ。
戦士のような恰好がこれほどパパンに似合ったとはっ!
いつもの文官染みた貴族服よりずっとイイっ。
「いやぁ、照れるなぁ。久しぶりにこんな格好したよ」
そこで照れてはマイナスポイントですが、本当に似合っている。
これで筋肉を唸らせて剣を振り、獣のような目で敵を屠るなんて…想像したらぞくぞくしちゃうっ。(想像上の血は大丈夫)
あの胸の筋肉にかぶりつき…ハッいかんっ、またもやパパンに欲情をっ? 痛すぎる子だわっ。
「じゃあ、行ってくる」
「パパン、パパン。行ってちますのチュウはっ」
ぴょこぴょこ跳ねて催促すると、パパンは馬の鐙に足をかけたところではっとしてママン、兄様、姉様と続いて、私を抱っこし頬にキスをしてくれます。
「パパンにおっきな幸運をっ」
パパンの肩によじよじと登るようにしてその額にチュウッとキスすれば、頭の奥でリィンッと鈴の音のようなものが聞こえた。
ん? なんでしょね?
これが後々パパンと友人を救うのだが、この時の私はこれが何かは知らない。
「行っちゃったわね」
パパンが馬で駆けていくのを見送り、皆がぼんやりとその背を見送っているうちに私はさっそく本日の計画、塔を見に行こうの行動開始っ。
塔の姿は見えるのだ、きっとすぐにたどり着けるさーっ
3歳児の足の遅さを考えなかったのは誰だっ!
巨大な建造物というのは遠くから見ても近くにあるように感じるものだと忘れていたよ。
森の中で塔を目指してちょぼちょぼと歩くことかれこれ2時間ほど。
いつもならお昼寝の時間です。
目がしょぼしょぼしてきたけれどあの塔の麓まではと足を動かし続けている。
でも、一向に近づいた感じがしないのだけど、今日中に着くかなぁ?
幼児の頭の中に帰りの道はないらしく、すっかりそのことを忘れていた私は、ひたすらに塔に向けて歩く。
「にゃんだかおしょらが暗いね~」
独り言を言い、雨は降るなよ~と祈りながら歩き続ける事さらに2時間ほど。
おそらく屋敷では私がいないことに気が付いたママンが何かしらの魔法で探索している頃かと思われます。
いそがなきゃっと茂みをかき分け、よいせっとその茂みを抜けると、少し開いた空間へと転がり込んだ。しかも、そこは先程まで見上げていた白い塔の目の前だ。
もう少し距離があったと思うけど、突然塔の下に出れたということは…あれだな、どこかに結界が張ってあったとかそういうことだな。
うんうんと頷きつつ塔に近づき、空を突き抜けそうな巨大な塔を見上げる。
「でっきゃい塔でしゅー」
ピサの斜塔のような塔だ。巨大であるのに根元が太いというわけではないらしい。
ほえ~っと塔を見上げていると、背後でかさりと音がして振り返った。
すぐの後ろに、少年が大人の男性に支えられながら立ち、何事か男に告げて近づいてきた。
白い髪の美少年だ。
獲物が来ましたよっ
むふっと心の中で笑い、下心は隠して少年の顔を覗き込む。
「けぎゃしてりゅの?」
そう尋ねれば、少年は私に手を伸ばして泣きそうな笑みを浮かべた。
「ごめんね」
なにが?
そう思った時、頭に触れた少年の手からばちっと電流のようなものが走り、ついで自分の物ではない膨大な記憶と知識が流れ込んで脳を締め付ける。
激痛に顔を歪めたが、すぐに私は頭の中に巨大な棚をイメージし、その膨大な記憶をそこにファイリングしながら詰め込んでいくという方法をとった。
そのイメージが功をなしたのか、激痛はすぐに消え、今必要のない知識や記憶はきっちりファイル分けして棚に吸い込まれていく。
で、その中からこの状態の説明となりそうなものを選ぶと、『継承』の二文字が浮かぶ。
要するに、私はこの塔を受け継いだと…そういうことらしい。
つまり!
「ふりゃぐが立った?」
私は倒れ行く美少年を見つめてぽつりと呟いた後、むふっと笑みを浮かべた。
なぜか、目の前で様子を見ていた男の人にドン引きされたけど…
失礼なっっ