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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
青春!?編
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66話 酔っ払い VS 謎の人

「くふふふふふふ…」


 笑いが止まらないとはこのことだ!

 

 本日のパーティーは夕方から始まり、深夜まで行われる盛大なものなのだが、昨日よりも大きな会場に美形軍団を引き連れて入るなり、私達は取り囲まれたのだ。


 昨日のデビューのサプライズを計画したということで注目を浴びたのだが、それにしたってかわるがわる挨拶に来る人々の美味しそうなこと!

 

 若くして男爵とか、伯爵とか、他にもクリセニアの元学生だとか、下は10代から上は40代まで選り取り見取り! どの人を(さら)ってしまおうかとにっこり笑顔の下で悩んでしまう。


 ちなみに止まらぬ笑いはこれでも押さえているのだ。

 あまりに堪え切れなくなったときは、恥ずかしがるふりをして兄様の背中に顔を隠し、笑いを堪えてやり過ごしている。

 お蔭で一部男性には恥ずかしがり屋なシャナちゃんで通ったはず。


 兄様は呆れていたけれど…。


「すまない、通してくれないか?」


 ざわりと人々がざわめき、人垣が割れると、そこに現れたのは私と同じく昨日の功労者である赤茶色の髪と蒼い瞳をしたルイン王子だ。

 今日はデビュタントではないので、金の糸で刺繍の入った長い丈の紺色の上着と同じ生地のベスト、同じ生地のズボンとブーツと言った出で立ちで、まぁ、貴族の正装と言う点では父様やシェールと同じだけれど、胸元に何やら徽章(きしょう)がジャラジャラと付いている。


 売ったらいくらになるかな…


 思わずそう考えてしまうのは元貧乏人の悲しい性ね。


 そのルインの背後には、珍しい黒髪に和と中が融合したようなファンタジーな衣装を身に纏った美形が続いた。


「ルアールの王族ですね」


 スッと傍にノルディークが立ち、ぽそりと呟いた。

 ルアール国と言うと、馬車襲撃事件で活躍したおかっぱストレートの美少女王女カティア・ルアイーゼの国だ。


 よくよく見ると、そこそこ背の高い男達の間に、静かに佇むカティアの姿がある。

 相変わらず無表情な美女だ。


「昨日のパーティーをこっそりのぞいたそうで、男女逆転のダンスの発案者に挨拶がしたいと言われてね。彼はクァエン様。ルアールの第二王子だよ」


 今まであった美形の中には無いどこか危険と言うか、野性味を感じさせる美形は、私の前に立つと、拳をもう一方の手で包み、胸の前において礼をする拱手(きょうしゅ)をして、その真紅の瞳で探るようにこちらを見つめた。


「カエンと言う。お見知りおきを」


「クァエンじゃなくてカエンさん? シャナ・リンスターです」


 クァエンとルインが言ったのはどうやら発音が難しい為らしい。ルインが照れながらそう告げ、カエンはほんの少し目元を和ませて続けた。


「我が国の発音は難しいと言われるが、どうやらあなたには問題ないらしい。よほどの教育がなされているのか」


 そう言うと、彼はチラリとノルディーク達を見やる。


 これはひょっとするとあれかな?

 塔の主達とお近づきになりたいのですよ攻撃。


 だとすると私は付属品扱いされるのだよなぁ…

 でも、この人はワイルド美形だからお近づきになりたいし…


 眉根を寄せてうむむむむと唸っていると、スッと私とカエンの間に小柄な人が割り込んで…て


「ナーシャおばあ様!?」


 いついかなる時も傍観を決め込むリアナシアおばあ様がドレス姿でにっこりとほほ笑み、カエンを睨む。


『余計な詮索をするでない。我等はどこに属すわけでも誰の味方をする者でもない。これは遥か昔よりの決まりである』


 何やら不思議な発音の言葉をリアナシアおばあ様が発するが…不思議だねぇ…全部日本語に聞こえるよ。


『決まりなどいつでも破られよう。現に、赤は裏切ったではないか』


『あれは赤本人ではない』


『確かにそのような文書は10年前に受け取っているが、それをどう証明したと言うのだ。偽物の赤は姿形もなく滅んだのだろう?』


 わずかにリアナシアおばあ様の眉が跳ねた。



 何やら雲行きが怪しくなってまいりました。

 カエンもただお近づきになりたいって雰囲気じゃないし、皆の警戒も一段と上がっている。


 それにしてもリアナシアおばあ様もカエンもなかなか周りを騙すのがお上手だ。口調も表情も別段争ってる感は無く、言葉がわからない者にはその国の言葉でにこやかに談笑しているように見えるだろう。


 二人はにこにことほほ笑みながら応酬を続ける。その横で、王族が現れたのが合図だったのか、城のメイドや執事が飲み物を運んでいる姿が見られ、周りの者も談笑を始めていた。

 

 挨拶だけで結構時間が経っていたようだ。そう感じると喉も乾き、あちこち忙しなく飲み物を運ぶメイドさんや執事に目がいった。


 目の前を通り過ぎるのはシュワシュワと泡の出ている…これは、もしかしなくてもシャンパンですね。


 きらんっと目を輝かせ、ようやく体も大人と認められた私は、遠慮なくトレーの上からシャンパンを取り上げると、おばあ様が謎の敵と戦っていることに気をとられている皆からこそこそっと離れた。


 とりあえず咎められなさそうな場所…この時間ならまだ庭に出てアバンチュールを楽しむ者はいませんね、とどこかで読んだ小説の内容を鵜呑みにしながら庭に出ると、広い庭にあったベンチに腰かけてうっとりとシャンパンを見つめた。


「ビ~ルがいいけど我慢します。16年ぶりのお・さ・け。ぬふふっ」


 いざ、いただきます!


 グラスに口を付け、それを傾けると


「一人は危険ですよ、我が天使」


 ずさっと音がして目の前に逆さ状態で例の男、セアンが現れた!


「ぶっ!」


 驚きのあまり古典的に噴出してしまったじゃないか…。


「なんでここにいるのですか!? ・・しかも逆さ!」


 よく見れば、セアンは木の枝に足をひっかけて逆さづりになっている。


「あなたに会うためです。わが妻よ」


「天使からさりげなく妻にしないでください。監視ですか?」


 おかしな口説き文句で騙されないように彼の目的をこちらで絞って尋ねると、セアンはあっさりと頷いた。


「上から何人か招待客を監視するよう言われているのです。我が天使は何をして目をつけられたのかな?」


 木から降りるとベンチの隣に座り、セアンは私の頬を手で挟んでうっとりと微笑んだ。

 

「あぁ、可愛い」


「姉様ほどではないですよ」


 べしんっとセアンの額を叩いて距離を作ると、私は先程噴出してしまったシャンパンの残りを口にした。

 懐かしのお酒もこの男の横では少々味気ないものになってしまったようで不機嫌にむっすりとした表情になる。


「クァエンともう一人、ノーグからも王子がきているのだけど、どちらも狙いは君達のようだよ」


 突然明日の天気でもいうように隣でぽつりと言われ、私は横を向く。

 

「狙い?」


「君の回りの男達はとても強いからばれてるかもしれないけれど、僕はいろいろ探るのが得意でね。君達も探ってみた」


 私の警戒心が5段階ぐらい一気に上がり、身を固くする。

 おかげですっかりシャンパンの味が吹っ飛んでしまった。16年ぶりのお酒だったというのに!


「結果は?」


 セアンは苦笑すると、ぱしぱしと己の腰の辺りを叩く。


「見事に上司に見つかって尻を叩かれたよ。子供の時以来だ。真っ赤になってると思うよ。見る?」


「おさるのオケツに興味はないです」


 食指が動かないのでつんつんと対応すれば、にょきっと目の前にはシャンパンのまだ開けてないビンが現れた。


「実は仕事が終わったら飲もうと思ってくすねたんだけど」

 

 私の目はきららんっと輝き、ビンに釘付けだ。


「褒めて差し上げます。ついでにうちのわん子としてなら飼ってもいいですよ?」


 しゅばっと奪い取り、ビンを開けると、持ってきたグラスに中身を注いで一杯飲みほした。


 おぉぉぉ、久しぶりのお酒の味はやはり格別だね。しかも貴族が飲むモノだからきっとお高いかと思います!


「わんこもありがたいけどね。できれば君の夫の方がいいかな」


 するりとすり寄り、キスをねだろうとするセアンのおでこに、私はシャンパンの瓶の底をごいんっと当ててやった。あ、瓶の口は指で塞いであるのでこぼしはしませんよ、もったいないですからね。


「寝言は寝て言え。やぁ~、なかなかうまいですよこのシャンパン。さすがは貴族様~。久しぶりでドキドキしちゃう」


 セアンは額をさすりながらベンチから立ち上がって、くるくる回りだした私を捕えようと手を伸ばす。


「僕もドキドキしちゃう。度数は高いけどお酒まわるのはやいね、天使」


「いつもより多く回っております!」


 ちなみにこれは現在まわっている自分の回転数のことだ。

 楽しくなってきた!


「何やら危険だし、僕があの男達に殺されそうだからそろそろ目を覚まそうか?」


 セアンが少々焦った様子で捕まえようとするのをひらりひらりと(かわ)し、私はむふふふと笑い出した。


「あの男達は全て私のモノなのです!」


 ピタッと立ち止まり、宣言すると、シャンパンのビンをそのまま口に持ってきてごっきゅごっきゅと喉に流し込む。

 そう言えば空きっ腹にアルコールは危険だよなぁと一部理性を保ちながら、蒼白になっていくセアンにびしりと指を指す。


「欲しければ奪うのです! それこそ赤ずきんちゃんと狼さんの法則ですよ!」


「それは願ったりだけど…ちょっとそのビン手放さない?」


「奪えばいいんですよ~。情熱的なのが良いのです~!」


 クルクル回りながらむふふふと笑い、ラッパ飲みを続けるドレスの少女…。はたから見ればかなりシュールである。




「では、情熱的に奪おうか?」


 クルクル回る私はどすんっと何かにぶつかって顔を上げた。


「おぅ?」


 月明かりに照らされる髪の色は銀。キラキラと輝いて綺麗な長い髪は緩く三つ編みされ、リアナシアおばあ様のようだ。

 

 随分と背の高い彼は少々腰を曲げて屈むと、にへへと笑う私に笑った。


「情熱的に奪ったら何をくれる?」


「満足させられたらデスヨ。そうしたら私の狼さん認定して差し上げます」


「狼?」


「私の魔狼(フェンリル)です」


 にゅへへへへと笑うと、ぼんやりとして霞んで見える男は、どうやら笑ったようだった。


「それは願ったりだ。満足いくまで相手をしよう」


「勝負ですね」


 私は男の頬を挟み、男は私の頭の後ろと腰に手を回すと、共に食いつくように口づけた。


 ふっ…精神年齢52歳の私に勝てると思うなよ、若僧め!

 






 勝負開始!

 

 

(何かいろいろまずい気がする! なんであの人がここに出てくるのか知らないが、天使の保護者に連絡しないと!!)

 

セアンが踵を返したその後ろで、酔っ払いシャナは佐奈根性丸出しで男に喰らいついていた。


シャナ・・大ピンチ!?

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