61話 彼の目的は
音楽が静かなものに変わると、お食事タイムの始まりだ。
そしてやってまいりましたサプライズ第一弾!
地球の世界のご飯を提供!
「本日は皆様にデビュタントの考案した料理をご賞味いただきたく、ご用意させていただきました」
料理が次々と並べられる中、ルインが凛と澄んだ声を響かせて料理の説明をする。
見たこともない料理に貴族達は興味津々だ。
ちなみにその中には極辛カレーなる恐ろしい存在も隠れていたりする。その威力は数時間唇がたらこになるという恐ろしいものだ。
「これかー、女達がダンスの後作ってたって言うヤツ」
アルフレッドも興味津々に覗き込み、皆思い思いの料理を皿に盛って行く。
ビュッフェ式であり、提供されている人間が貴族なので皆遠慮がちにしか盛っていない。
まぁ、我が友人達はそれに当てはまらず遠慮無しだけれど…。
誰もが初めて見る料理になかなか手を出さないでいると、少し遠くから声が上がった。
「うわっ…おいしい」
おやん、挑戦者は誰かしらんとそちらを向いた私は、輝くような笑みを向けられ、アルフレッドの大きな背中に隠れた。
あの怪しい青年である。
彼は皿を置くと、我が友人達に考案者を尋ね、友人達はこちらをちらりと見てにんまりと笑みを浮かべた。
あれは絶対楽しんでいる目だ! 私を売ったな!
青年は相変わらずキラキラと目を輝かせ、それとなくノルディーク達が立ちはだかったのだが、持ち前の身軽さでするするとそのガードを抜け、目の前ににょきりと顔を出した。
ひぃぃぃぃぃぃっ
びきゃっと固まる私に、目をキラキラさせる青年はにっこりほほ笑む。
「初めまして小さな淑女。私は第6騎士団所属セアン・マッケイと申します」
すっと胸に手を当ててお辞儀した青年に、私はいまだアルフレッドの背中に隠れ、少し顔を出して彼を見ながら、小さく答える。
「シャ…シャナ・リンスターデス」
どこにでもいるというか、この国ではごくごく普通の栗毛に蒼い瞳の青年は、人懐こい笑みを浮かべて私を見下ろす。
間に立たされているアルフレッドは面倒臭くなったのか、私の肩をグイッと押して前に出すと、にんまりと楽しそうな笑みを浮かべて「頑張れ」と一言言い残し、見物組の輪の中に入って行った。
あとで見ておれ~!
もうこうなったら淑女の仮面でもなんでもかぶってやり過ごすことにする。
なんだかよくわからないけれど、この男は危険! て気がする。
「あの…」
青年はじっとわたしを見つめたまま、目をキラキラと輝かせている。
ふん、若僧め、いつまでも脅えるシャナ様と思うなよ。こちとら心がうん十年生きてるんだい。
にっこり微笑んで見せる。
「料理を褒めていただけてとても嬉しいですわ。それで、どのようなご用でしょう」
料理を褒めてもらったことは受け取ったから用がないなら帰れーっ!とばかりににっこりにこにこしていると、私を知る周りの人々から微妙な視線が向けられた。
「猫被ってる…」とか呟いたのは誰だっ。後で絞めちゃる・・・。
「あの、はい、その、シャナさん!」
ギュッと両手をとって握られ、私はぞぞぞぞぞ~っと背筋に悪寒が走った。
「は・・い?」
鳥肌やらなんやらいろいろなものを押し隠して必死に笑顔を保つと、青年は顔を近づけ、真剣な表情で…でも目はキラキラさせて
「結婚してください!」
「娘は嫁にやらん!」
ずがん!と彼は蹴られて床にうずまった…。
ものすごい速さで起きたことが理解できず、何が起きたのかと緩慢な動きで顔をあげれば、どうやら事の成り行きを見守っていたらしい父様が、般若のごとき顔で立っていた。
「父様」
「シャナにはまだ早いからな」
「それだと姉様…」
「あれはあの子を守る保険だから」
「父様…」
おもいっきし本音暴露してますよ。そして周りの男性の耳が今ぴくぴくと動きましたよ。
あぁ、また害虫が増える…。
この余計な男のせいで。
姉様の安全を確保せねば。姉様は・・と
「姉さ…なぬー!?」
姉様を振り返った私は、姉様がディアスとヘイムダールにエスコートされ、ビュッフェを楽しむ姿を見た。
いつの間に!
「ノルさんっ、アルさんっ 参りますぞ!」
ノルディークとアルディスを引き連れ、私はあの二人に極辛カレーを食わせるべく追いかけた。
もちろんキラキラ男は忘れ去って。
「負けません!」
数秒後、ガバリとセアンは起き上がり、呆気にとられる一同の中をすり抜けて再びシャナへアタックし、ヘイムダールとディアス同様極辛カレーを食わされ、口がたらこになっていた。
ちなみに、サプライズごはんで辛いカレーを選んだ人々は、パーティーの間中口がたらこのように赤かったという…。




