59話 社交界デビューです!
53話の後に人物紹介入れました。よろしくお願いします。
結局、お料理教室では刃物を奪われ、それならば魔法を、と挑戦してみたのですが…
皮むきに挑戦した人参が粉になった時点で魔法も禁止されてしまった。
無念…
しかし、それでは時間も人手も足りないのではないかということで、この厨房に乗り込んできた兄様とシェールを問答無用で引きずり込み、振る舞う料理を決めて、前日作れる料理は前日に作ると言う形をとることになった。
おかげでパーティー前日はこの上なく忙しく働き、少しでも料理できる女の子は問答無用で捕まえて協力させることになった。
そうして何とか料理は前日の夜中に完成!
そして、遂にやってまいりました、パーティー当日!
社交界デビューは、身内だけのようなパーティーを1日目、完全なる社交の場が広がるパーティーを2日目と言った感じで実は2日間開催される。
初日のエスコートは、同じクラスの男の子となるのが通例で、着るものも男女ともに穢れなき者という意思を示す白を着る。
ちなみにデザインは皆同じだ。
一生に一度の制服みたいなものらしい。
「姉様のデビューの時はすごかったのです。王様の挨拶の後、顔を上げた姉様に目が釘付けになる貴族てんこ盛り。2日目のパーティーで老若男女アタックかけてくるので害虫駆除には苦労しました」
ゴトゴトと揺れる馬車の中、6年前の時の話をする。
あの時もある程度爵位がなければデビューする者より年下は入場できなかったので、姉様に寄ろうとするスケベオヤジを叩きのめすのに仲間の人数が足りなくて苦労したのだ。
シャンティ達学友がいればかなり早く処理できるのにと何度思ったことか。
「そんな楽しそうなことが…」
スケベオヤジ倒し放題だったという話題に、現在同席中の友人のシャンティ、そばかすオリン、筋肉アルフレッドが非常に残念そうな顔をする。
『そこは喰い付くとこなのか?』
何かおかしくないかと尋ねるケルちゃんの尻尾を私は軽く踏んでやった。
本日は全員使い魔連れである。
これもデビューする子供達の実力を貴族達に披露するために必要らしいが、一クラス全員連れているのはたぶん珍しいのではないだろうか?
『シャナ、尻尾は私も痛いわ』
「ありゃ、ごめんねスーちゃん」
慌てて足をはずし…かけたところでがたんっと馬車が止まり、席から落ちないよう私がそのまま足を踏ん張ったために思い切りケルベロスの尻尾を踏んでしまい、城に付いた途端に私達の馬車から野太い悲鳴が響き、城の人々をぎょっとさせたのだった。
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「目立ってたな」
馬車から降りた時のことだろう。
同じクラスの仲間達はくすくす笑って手を振ってくれたが、そうでない者達は何が起きんだと私達を見ていた。
あの叫び声で変事でもあったかと一時兵士に囲まれたのだから仕方がないけど。
「忘れましょうっ。それが良いのです」
入り口から無駄にサプライズしていては意味がないのよ。
本番はこれからなのだから。
エントランスで受付し、コートを預けた少女達は、白い肩のないシンプルなドレスのスカートを翻らせながら時間までは友人達と話す。
男性も騎士の制服に似た衣装に身を包み、談笑中だ。
こんな姿は日本の成人式を思い出す。
こちらの方が華やかだし、やることいっぱいだけれど。
「シャナ」
少し遠くから声がかけられ、ざわりと周りの一部がざわめく。
「お~、ルイン君。準備の進み具合は?」
現れたのは皆と同じ白い衣装に身を包んだこの国の第2王子ルイン君だ。
彼は王族で、すでに何度も社交界に出ているので同じ格好をしなくてもいいのだが、仲間意識が強いのか、それとも今回の企画に合わせてなのか、皆と同じ衣装である。
「準備はいいよ。ただ、厨房の人間が料理に興味を持ってしまってつまみ食いしてたから、ちょっと料理は減ったかも」
「ぬかりました…先に賄賂が必要だったですね」
「まぁ、一口制限はしたし、今回味見は上の者だけって言っておいたから大丈夫だろう」
それなら問題ないかな。
私が頷くと、ちりりりり~んと済んだベルの音が響き、ルインは始まるから行くねと告げて去っていく。
彼は王族席が用意されているのでそちらに行くのだ。
「じゃあ」
「おう、手」
私は差し出されたアルフレッドの手に手を乗せ、シャンティはオリンの手に手を乗せ、ダンスホール入口に集まる。
ここからの流れとしては、列を作って入場し、会場内で整然と並んで頭を垂れ、王様のお話を聞いた後、ダンス披露が始まる。
曲は全部で5曲。そのうちの2曲をサプライズにする。
「入場!」
執事の声が響き、私達はドキドキしながら入場していく。扉を潜るまでの間、皆がステップを軽く踏んでいたり、互いに目配せし合ったり・・・かく言う私もシャンティと目を合わせて頷き合い、遂に会場の扉を潜ることとなった。
会場に入ると、ひときわ目立つ一団に皆目がいってしまう。
ダンスホールに集まっているのは本日は身内ばかり。我が家の身内の面々と言えば塔の4人、父様、母様、姉様、兄様、シェールと華やかな人間ばかりで・・・・
「主役達より目立ってますね」
にこやかにほほ笑みながら私があまり口動かさずに、口調だけはむすりと呟くと、アルフレッドと周りで聞こえたらしい友人達が苦笑する。
「今更だ」
「・・・・それもそうか」
素直にうんと頷いた私は、ふと視線に気がついてちらりと目をやり、一人の青年と目が合った。
栗毛に蒼い瞳の少し可愛らしい青年。
ふむ…年下ですかね? 初めて見ますが…
私のハーレム候補リストに載っていないということは違う学校の生徒かもしれない。
そう思って思わずまじまじと見ていると、彼はやけにキラキラした目をし始めて…
思わず目を逸らした。
「シャナ?」
アルフレッドが首を傾げる。
「変なものが釣れた気がしますよ」
「・・・・・・とりあえず後にしよう」
「そうしましょう」
私はアルフレッドのの提案に頷くと、出来るだけそちらを見ないようにすることにした。
ものすごく背中に視線が刺さってますけどね!




