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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
始まり編
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6話 塔

 兄様に抱っこされて嬉しさのあまりへらへらと笑っていた私は、門に着いた瞬間、その顔のまま固まってしまった。


 明らかに周りの人々がドン引きしそうな顔だったが、周りもそれどころではない。


「見ちゃダメっ」


 兄様が私の目を覆ったけれど、私はバッチリ見てしまいました。

 傷だらけで血まみれの兵士を。


 すでに駆けつけていたパパンが兵士をゆっくりと馬から降ろし、ママンが回復呪文を唱えているので大事には至らないだろうけれど、こんな辺境の平和な場所に現れた変事に、心臓がバクバクと恐怖で鳴り響きます。


 平和な世界で育った平和主義な私は、兄様に目いっぱい引っ付いてプルプル震えた。

 コアラの赤ん坊のようだ。

 でも、離れませんっ。普通に怖いからねっ。


「父様、母様、一体何が起きたんですか?」


 兄様はシェールがうちに挨拶に来た後くらいから都の学園に通うようになった。

 今は戦時で家に帰されているが、ある程度の戦争の情報があるのだろう。そのせいか、緊張はしているけれど私のようなプチパニックは起こしていない。

 

「まぁ、シャナ。血を見て怖かったのね…」


 ママンの(いたわ)りの声に、涙目の私は振り返ったが、そこにいたのはけが人の血で汚れたママンとパパン。

 ふぅっと意識を失いそうになり、慌てて兄様ががちっとホールドしてくれました。

 

「母様っ、その血を落とさないとっシャナが怖がるっ」


 11歳に3歳の私は重いけど、兄様もう少し頑張ってっっ。


 実は、腰が抜けました・・・・


_______________


 けが人はその後パパンと私を姉様に渡した兄様によって運ばれ、家族全員が部屋に集まります。

 私のことは現在姉様が見ていてくれて、大分落ち着いてきた。


「フリードリヒが行方不明だ」


 一瞬、誰だっけ?と首を傾げて、あぁと思い出す。

 フリードリヒ・ヘイム・パルティア。シェールの父親で公爵の、おっさんと私が心の中で呼ぶオジサマのことだ。


「父様がお出になられるのですか?」


 兄様が硬い表情で尋ねる。

 この家から父様がいなくなったら没落貧乏貴族と言えど跡取りは兄様だ。自然その小さな肩にあらゆることがのしかかってくる。


「捜索にだけ加わる。友人としてな」


「父様は戦争には加われないのよ。知ってるでしょう?」


 ママンの言葉に私は首を傾げます。

 パパンは足を怪我したとかそういうことなのかな? すでに負傷兵なので戦争に参加できない、召集されない。もしくは実は別の国の王子様で…


 イカン…ここは妄想を走らせる場面ではなかったよ。


「パパンが行けないのはどちて?」


 あ、思わずパパン呼びしちゃいました。



「・・・・・・」


 無言が気になってちらっと周りを見れば、パパンがこぶしを握ってふるふると震えたかと思うと…


「シャナァァァァァッ! なんて可愛いんだ私の娘はっっ! もう一度呼んでごらんっ?」


 ぎゅうううううっと抱きしめられた。


 なんかパパンのスイッチ押したらしいよ!


「パ、パパン?」


「お、おおおおおぉぉぉぉぉっ」


 パパンは私から離れて滂沱の涙をこぼしつつ床に(うずくま)っている!


 パパンがやばい人に!!


 チラリとママンを見上げれば、ものすごく呆れておりますっ。そしてチラチラ私を見るのはひょっとして期待しているのだろうか…。


「マ…ママン…」


 呼んでみれば、ふわりと浮かぶ妖精の笑み。

 神々しさにクラっときましたっ。


「可愛いわ。でも、今はそれどころじゃなくてよ」


 ぺしっとパパンの頭を叩いたママンは膝を折り、ソファに腰掛ける私と目線を同じにして真剣な表情で告げます。


「あなたにも読み聞かせしたお話があったでしょう。5つの塔のお話」


 カパッと口を開けたまま数秒。

 

「あら、覚えてないのね?」


 ばれた!

 ママンにばれました!


 よく寝る前にママンやパパンがいろんなお話をしてくれるのだけれど、興味のない話はすべて夢の中へと吸い込まれるのだ。


「では簡単に言うけれど、その塔は世界に5つあって、そこに住む魔法使いは世界を守っているって言うお話なの」


 ざっくり行きましたね、ママン。わかりやすいですけれども。

 お咎め無しにほっとしながらも、思わず心の中で突っ込んでしまう。

 ママンはそのまま続けます。


「その魔法使いには身を護ってくれる守護者がいてね、お父様は昔その守護者の一人だったの」


「お母様に惚れて塔を離れたけどな」


 でれでれとデレるパパンを見上げ、すごいのかどうなのかわからなくなる。


「守護者も魔法使いも特別な存在。本来ならば国に関わってはいけないの。だから、戦争には行けないのよ」


 詳しいことは大きくはしょられましたが、要するに、塔に関わる人間は国に関わってはいけないという決まりがあるということでいいだろう。


 まぁ、3歳の子供に国がどうの守護者とはどうのと言っても普通は理解できないものだから説明もこんな所が妥当ということかな。


 あ、塔と言えば。


「お外にある白くてピカピカしゅるのが塔でしゅか?」


 窓の外、例の灯台と睨んでいたえらく高い塔を指さすと、パパンとママンがびしぃっと音を立て(ような気がした)、固まった。


 あり? なんかまずいこと言った…カナ?

 


 

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