57話 死なば諸共! 恥も諸共!
「ふっ…能ある鷹は爪をにょっきり~!」
人差し指を一本立てて、どうだとばかりに頭上に掲げた私は、遂にやり遂げました!
なにを?
そ・れ・は!
姉様によるダンスレッスンであります!
もう、手取り足取り腰取り教えてもらいましたよ。
おかげで何度腰砕けになりかけたことか。
で、驚くことにディアスの奏でるピアノというのかな、少し音がチェンバロのような楽器の音色に合わせ、クイック・クイック・ターンとホールの中を自由に動き回り、音が途切れるのと同時にピタリと止まってご挨拶。
「完璧ですね」
拍手するノルディークに、私は勝利のポーズを掲げた。
…というわけなのだ。
「・・・・でも、シャナが覚えてしまったのは男性の踊りだわ」
姉様がぽつりと呟く。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
私は自分がやってしまったことに今気が付いた!
「しまったのです! 姉様と踊りたいがために男性パートを覚えてしまったのです!」
今更気がついて、日数を数えてみれば、男性パートを完璧に覚えるのに10日。
社交デビューの日まであと4日! 間に合う気がしません!
「なぜ皆指摘してくれなかったのですか!」
「『姉様と踊るのはこの私』」
「『姉様の腰をとっていいのもこの私』…でしたね」
ディアスとノルディークが10日前に私が放った言葉を返してきた。
う…うぅぅぅぅ…反論の余地なしです。
何しろ、ダンスレッスンが始まって、最初は赤のアルディスが姉様の手と腰をとったのだけど…
密着したのだもの
姉様の微笑みを間近で見ていたもの
なにやら嫉妬で燃え上がったもの!
だから、私は姉様をとられてはなるまいと姉様のパートナーに名乗りを上げたのだ。
でも・・・・そもそもそこが間違っていたのねぇぇぇ!?
これぞ、ザ・後の祭。
「4日…4日で今度は女性パートを覚えろと…」
ガクリとその場に膝をつき、私はだらんと頭を下げた。
「シャナ、大丈夫よ、今度は一緒に女性パートを覚えましょう」
優しい姉様はまるで天使のようです。
まるで、じゃなくてきっと天使様なのだけど…。
「むふ…」
「シャナ?」
ノルディークが私の小さな声に反応して不思議そうに声をかけてきた。
「…むふふふふふふ…転んでもただでは起きませんよ! 良いことを思いついたのです! 今すぐお電話です!」
この世界に電話はないので、電話と言ったら超特急便だ。
なんだかわから無いものの、私の視線を受けて執事達がバタバタと動き出す。
さっと紙とペンが用意され、私はサララッとそこに文とは名ばかりの携帯メールのような文章を書き、それを覗き込んだディアスが眉根を寄せた。
「シャナ」
「なんですか、文章は友人に送るモノなのですから砕けていても問題ないですよ。今までもそうでしたし」
「そうではない」
ディアスは私を見下ろし、ふぅとため息を吐いた。
「字が汚い」
「・・・・でっかいお世話ですよ!」
私はヒールの踵でディアスの足先を踏んづけてやりました!
文字なんて、読めればよいのです!
女性の字がキレイであるべきなどという定義はないのです!
ちなみにこれは佐奈時代もよく言ったなぁ・・と思い出す。
何しろ佐奈は自他ともに認める悪筆だったのだから。
翌日
「見回り休んで集合って、一体何があったのシャナ?」
早朝。学園の登校時間の前にいつもは町へとパトロールに出かける私達だが、本日は我が家のホールへと集まってもらった。
「すごいな、これが青の館か…」
本日は赤茶の髪に蒼い瞳をしたこの国パルティアの第2王子、ルイン・セイル・クリセニアが混ざっている。
彼は時折城の者の目を盗み、町のパトロール隊に参加するようになった。
なぜか王様から「止めてくれ…」と手紙が我が家に来るのだが、この年になったらどうするかは子供の意思にお任せでしょう。
この世界の16歳は大人ですからね。
そんな彼は歴史にも詳しいらしく、歴史の古い我が家の中を見ては、感嘆の溜息をついている。
本日集まったからには彼にも協力してもらいましょう。
「皆さんを呼んだのは他でもない。死なば諸共作戦を決行するためです!」
死なば諸共=お前らも道連れじゃあ~ 作戦!
「それはどういうモノなの?」
シャンティが首を傾げるので、私はちっさな胸を反らし、声高に発表した。
「我等が社交界デビューを、これまでにない驚きのデビューで飾ろうではありませんか!」
その瞬間、友人達の目がギラリと光る。
さすがは私の育てた若紫達。
ここで、なぁに?と可愛らしく首を傾げる姉様とは大違いの喰い付きっぷり!
「皆様、4日…いえ、3日で自分の性別とは反対のダンスを覚えてもらいますよ!」
全員が「は?」と首を傾げた。
「華々しき社交界! 我々はそのデビューの日に、男女逆転ダンスを披露するのです!」
恥をかくならお前らも道連れじゃあ~という意味の死なば諸共作戦である!
私だけヘタな女性ダンスを踊る気はありません! 全員下手くそになってもらいます!
ただでは起きぬ私の言葉に、少年少女達は互いに顔を見合わせた後にんまりと笑みを浮かべ、そして全員が口元に指を立てた。
「もちろん」
「「「内緒で!」」」
さすがは我が友人達。ノリがいい。
全員が頷くと、わっと盛り上がり、ノルディークは苦笑、ディアスは肩を竦め、姉様はくすくすと笑いだした。
では、特訓開始です!
能ある鷹は爪をにょっきり
⇒能ある鷹は爪を隠すの逆で、才能あるんだから見せつけてやりますともよ~!
というシャナことわざです。
実際にはそんなことわざはありません。




