55話 姉様の初恋?
「ただいまなのです、父様、母様、そして姉様!」
学園に登校する約1時間前。町から戻ってきた私は、玄関の扉をばばん!と開くと、挨拶をする。
が、この時間は皆忙しいので返事が返ってくることは稀である。
ちなみに兄様はすでに騎士団へ出勤中。先程まで追いかけられていたのでただいまの挨拶は不要だ。
「お帰りシャナ」
「「おかえりなさいませお嬢様」」
私を出迎えてくれたのは、いつものように気配を察して玄関に現れたノルディークと、屋敷内で働くメイドや執事だ。
「・・・・今日はにゃんこの日ですね」
きっちりと腰を折る角度を揃えたかつての孤児達は、現在我が家のママンが制作したメイドのフリフリエプロンドレスと、萌え率の高い燕尾の執事服に…猫耳猫尻尾付き姿である。
この間は犬でした。
最近ママンは動物ファッションに目覚め、我が家の執事とメイドはママンの作るあらゆるコスチュームに着替え、いつでも私をのた打ち回らせることに成功している。
猫耳は定番なので、鼻を押さえるだけで何とかなったが…、いつだったか私が悪戯に紙に描いたバニーガールの時は、私がだくだくと鼻血を流す中、ディアスが吠えた。
「破廉恥だー!」
あの声は屋敷にびりびりと響き渡ったが・・・私は知っているのだよ。実はディアスが口と鼻を押さえ、興奮していたのを…。
実はその日以来、母様が張り切ってしまって、魅せる相手がディアスになったようなのだ。
母様曰く
「シャナみたいに鼻血を吹いてもらわなくちゃ」
なんて張り切っているのだから恐ろしい。
まぁ、そのおかげで少し抑え目の露出なコスプレ大会になっている。
私としましてはバニーちゃん並みの格好も可愛くてよいかと思いますのよん。
「ノルさんはコスプレしないのですか?」
基本全員参加だ。だが、今日のノルディークは耳を付けていない。
「いや、実は持っているのだけど、どうせなら一緒に付けようかと思って」
そう言って取り出したのは可愛い黒の猫耳に紫のリボンが付いたカチューシャだ。
ノルディークの分ももちろんあり、そちらにはシンプルに白の猫耳だけが付いている。
「尻尾は無しね」
尻尾は使用人用の特別品なのだそうだ。
私にカチューシャをはめると、ノルディークは私の頬にキスをくれる。これは10才頃から習慣化したお出迎えの挨拶だ。
「お二人とも、朝食の準備ができておりますよ」
声をかけられ、淑女のごとくノルディークの差し出す手に手を重ね、歩き出すと、ちょうど廊下を姉様が横ぎっ
「ぐふぅっ!」
プピッとさっそく鼻血が飛び出し、床を汚さないようすかさず猫執事がタオルを顔にべしりと投げつける。
良い仕事ですが、扱いがひどくありませんかね…
鼻を押さえて正面を見ると、そこには亜麻色の髪を結い上げて項が眩しく、白のふわもこぬいぐるみタッチな生地でできたトップスと、同じ生地で出来たスリットの入ったスカートを着て、チラチラ見え隠れする長く細い白い脚が艶めかしい色香漂う22歳の白にゃんこ姉様がおりました!
「シャナ、お帰りなさい。ケガはない?」
長い指で頬を撫でられると、でれでれと顔が笑み崩れてしまう。
姉様は14歳のころから精霊や妖精の純粋さに魔女のごとき色香を兼ね備えるようになり、現在では姉様のファンが山盛りで、社交に出た日には、少しでも姉様に近づこうという輩で姉様の周りは黒だかりになるのだとか。
そんなとき、シェールが牽制しているかと思いきや、奴は公爵を受け継ぐ準備に入ったため、領地を飛び回っていて姉様にかまえず、役に立っていないのだ。
でも、姉様は気にせずにこやかにパーティーに出るのだ…。しかも、その度に少しウキウキしている姉様を見ると、どうも最近、姉様に好きな人ができたんじゃないかと思う。
信じたくはないけれど!
「ただいま姉様。そういえば今日も招待状がたくさん来てたよ」
私の疑問はともかく、姉様に招待状の束を渡す。
その厚みは国語辞典並みだ。
多くは姉様と結婚したいなどとぬかすヒヒ爺ばかりなので、半分以上は没収済み、それでも国語辞典の厚みなのだと思ってもらえればその人気ぶりがわかるだろう。
「そう言えばシャナもそろそろお披露目ね。誰がエスコートするのかしら? やはりノルディークさん?」
猫耳姉様、首を傾げないで!
萌えて鼻血がヤバいです!
慌てて後ろを振り返ると、半歩後ろを歩く執事がタオルを持ってかまえており、さらに一枚増やして私の顔に当ててくる。
どんだけ出血すると思っているのかしら…?
タオルで鼻を押さえつつ再び前を向く。
「僕だと嬉しいのですが、シャナは候補が多いですから」
ノルディークはにっこり微笑んだ。すると、ほんの少しだが姉様の表情に影が差した。
「そうね。シャナには沢山エスコートしてくれる男性がいますね。それで、どなたにするかはきめたの? シャナ?」
儚げでどこか心配そうな姉様!
思わず姉様に抱き着くと、そのぽわんぽわんな胸の上にそっと頬を寄せ、私は微笑む。
「ぐふふふふ」
あ…これは微笑むとは言わんかった…。
「そこの怪しい約一名、やめないか」
まだ姉様の胸を堪能し始めたばかりだったのに私は脇の下辺りを持たれ、ひょいっと持ち上げられてしまった!
しかも、この年になってプランプラン持ち…。
これは別に背が小さいからではないのよ!
断じて小さいからではないから!
「…アルさんおはようございます」
ちょっと悲しい気持ちで私が持ち上げられたまま答えると、「おはよう」といって赤い髪に青碧の瞳の赤の塔の主アルディスが私を降ろした。
私は降ろされるとすぐに後ろを振り返って彼の首に抱き着く。
当然反撃はしておかねば。
「おはようのちっすプリーズですっ」
でも、これもいつものことだっったりする。
ちなみにチラリと姉様を確認すれば、姉様もとても微笑ましげに見ているので、アルディスは姉様の夫候補にはならないようだ。
「はいはい。おはようシャナ」
額にキスをもらい、満面笑顔の私は、もう一度姉様を見る。
「姉様もおはようのキスをもらうといいですよ」
姉様の中でこの二人はおそらく兄のはず。
「まぁ、シャナ、私は別にいいのよ。それにとても恥ずかしいし」
頬を赤く染めて手で押さえる猫耳姉様破壊力抜群! 萌ゆる…
そんな姉様にノルディークとアルディスは紳士的な頬キスを姉様にプレゼントし、姉様は頬を染めながら二人ににこりと微笑んだ。
「ありがとうございますノルディーク兄様、アルディス兄様」
おぉぉぉぉっ!
ワタクシ、キュン死にしますよ姉様!
ずだだだだっと廊下を走り、その角に蹲ってタオルで鼻を押さえつつはぁはぁと息を乱す。
何あの笑顔っ 何あのハニカミっ 何あの兄様ってぇぇぇぇ!
全てが萌え!
「・・・今度は何の変態大会だ?」
蹲りながら「ぐふっ」「むふっ」「うへへ」と小さく悶えていると、くっと襟首をもたれて立たされた。
振り返った所には、黒猫ディアスと、茶色の耳を生やしたヘイムダールが立っておりました。
「お耳ふにふにさせてー!」
興奮のあまりがばちょっとディアスに飛びつくと、私はディアスのお耳を・・・と言ってもカチューシャの方ではなく、本物の両の耳たぶをふにふにと連続で揉んだ!
人間、興奮しすぎると我を忘れるようだ。
揉んでいるうちに少しず~つ冷静さが返ってくる。
「セレン! ヘイン! 止めろ!」
あ、ディアスは冷静じゃなくなりつつあるね。
騒ぐディアスに、ノルディーク達が近づき、ノルディークはいつものようにくすくす笑う。
「愛情表現なのだから甘んじて受けてあげてよディアス」
「愛情じゃない! これは変態表現だろう! この間は」
私はディアスの耳にふぅぅっと息を吹きかけ、ディアスはぞぞっと身を震わせる。
「それは秘密デスよ」
まぁ、秘密と言っても、寝ぼけた私がディアスを捕まえて夢見心地に襲い、その耳をご飯と間違えてハムハムしただけなんですけどね。
なんて思っていると、ぱちんっと手を叩く音がして、私は振り返った。
「姉様?」
どうやら手を叩いたのは姉様のようだ。
「シャナ、朝食に遅れてしまうわ。急ぎましょう」
姉様はそういうと、ヘイムダールとディアスに丁寧に朝の挨拶をし、私の腕をとって歩き出した。
おっとりした姉様が、ちょっといつもより早足だったのがきになるのだけど…
あと、耳がちょびっと赤くなって、目が潤んでいたのが気になるのだけど…
あれぇ?
まさか…ね?




