54話 成長したら・・・です!
それは王都の静かな裏路地…
人通りの少ないその場所で、今日も犯罪は行われる。
周りを気にしながら、男は縦長の麻袋を肩に担ぎ、人気のない方へと足を速める。
まるで何かに追われているかのように、男は人の気配がすると物陰に隠れてやり過ごし、さらに先に進むというあまりにも怪しすぎる行動を繰り返している。
そんな男の動きを逐一見張り、やれやれと肩を竦めるのはさらさらした金髪に蒼い瞳をしたそばかす顔の可愛らしい顔立ちの青年である。
彼は少し離れた屋根の上にいる同じ髪色と瞳の色をした筋肉質な友人に手を振って合図し、筋肉質な青年は屋根の上から下でのんびり休憩中の少女二人に合図した。
…が、二人は話に夢中で気が付かない。
仕方なく精霊に命じると、少女二人は重力に軽く押しつぶされ、「ふぬぅっ」と声を上げてそれを振り払うと頭上を見上げた。
「オリンが見つけたってよ」
ものすごい形相で睨んでくる少女達にそう報告すると、少女達がそれぞれ青年に攻撃を繰り出してくる。
すらりと背の高い爆発気味な金髪ウェービーヘアーで青い瞳の少女は光の精霊なるおっそろしいモノで咄嗟に避けた青年の足元を焦がし、もう一人、珍しい黒髪に黒目の背の低い美少女は、青年の精霊をむんずと掴むと、ものすごい勢いで投げつけてきた。
どちらの攻撃も避けた…かに思われたが、投げられた精霊は追尾型ミサイルとなるよう少女に脅されていたらしく、青年の背後でぐにんと軌道を変え、そのまま青年の後頭部に激突した。
「「ザマーミロ~!」」
けらけら笑う少女達に、青年はため息しか出ない。
「攻撃する相手は俺じゃねぇだろうが! 早くしないとまた盗られるぞ!」
少女達は笑いを収めると、すっと手で合図して路地の中に消えていった。
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シャナ・リンスター 現在16歳! 高等科在籍。
長い黒髪、神秘的な黒の瞳。すらりと伸びた手足にきゅっと締まった腰。胸は小ぶりだけども、そこは目をつむっても有り余る美貌と、人々が称賛する魔力を兼ね備えた天才少女である!(自称)
まぁね、ここまで育つのには紆余曲折悲喜交々ありましたよ。
たとえば例の生徒襲撃事件。
馬車を狙ったあの襲撃事件はあの後も何度か起こり、精霊と契約している初等科の子供達が大暴走を起こし、後に精霊パニックと呼ばれる王都精霊だらけの状態を引き起こしたり、社会科見学という名の騎士団見学では少女達が遠慮なしに騎士にラブアタックをかまし、嫉妬の嵐やロリコン疑惑が起きたり。
とにかく、ゴシップには事欠かない日々であった…
思わず思い出して遠い目をしてしまうわ…。
現在は、とにかく持てあます力を発散させようというディアスの案に乗っかって、専門科の学生がやっている町の取り締まりを自発的に手伝うようになったのだ。
まあ、ここ最近はどちらが先に事件を解決できるか競争になってきているのだけれど。
でも、おかげで我が友人達の暴走は大分治まり、最近は有望株が揃っていると各方面の人々が狙っている…らしい。
そんなわけで現在、私達は町の治安のために本日も専門科を出し抜こうと東奔西走しているのである。
「アルフレッド君は最近熱血気味ですね」
専門科の生徒に事件を盗られまいと特に必死な元小太りアルフレッドは現在筋肉質な長身の青年だ。
近々騎士試験を受ける気らしく、筋力に磨きをかけている。
騎士と筋力ってどうなんだろう…?
「あれはほら、カティア・ルイーゼを意識してるのよ」
「あぁ、姉様と同い年の・・・」
いまだ油断すると爆発してしまうウェーブヘアーの親友シャンティと並んで狭い路地を走りながら、私達は世間話を続ける。
小太り改め、筋肉アルフレッドはどうやらルアール国第3王女、おかっぱストレートをした黒髪に薄い紫の瞳をした美少女に気があるらしい。
彼女は、昔、馬車襲撃の時に私と同じ馬車に乗り合わせ、兄様と共に敵をふんじばっていたあの強者だ。
ちなみに私達と獲物の取り合いをする専門科の学生の一人が彼女らしい。
私が顔を合わせる前にはなぜか姿を消すので、あの襲撃の時以来あまり顔を合わせたことがないのだが。
「目標~、300メートル先~」
オリンの気の抜ける声が頭上から聞こえ、私とシャンティがわかったという合図を送る。
ここからは声を出さないように、慎重に・・・
「あ、今回は騎士が来た」
「「「なにぃ~!?」」」
オリンの声に私達の声がはもり、ごぉっと音を立ててアルフレッドが空から降ってきた。
「先行く!」
慎重に作戦終了ですね(早!)では、殲滅戦決行でまいりましょう。
アルフレッドは言うなり走り出し、私は胸に下げた小さな笛を口に咥えると、思い切り吹いた。
ぴひょ~っっっ
少々間抜けな音が響き、行く先の屋根、路地、物陰、あらゆるところから友人達が顔を出す。
「皆様! 騎士がまいります! その前に…被害者と犯人を確保するのです~!」
合図と共に全員がわっと動き出す。
連携がとれているのかいないのか、命じてる私にもわからないが、たぶんそこそこ連携をとって皆で一斉に破壊行動していると思う。
これが町の人に学生ギャングと呼ばれ、私達の通った後には草一本残らないと言われるのだけど。
一体どういう意味でしょね?
そんな私達が一斉に動き、叩き潰す今回の目標は人攫いとそのアジトの壊滅だ。
まずはアジトを包囲。
これはすでに多すぎるくらいの人数で完了済み。
ついで被害者の確保。
これはあらゆる精霊が現在護っている。
では、最後に突入!
ずがん! どかん! がららららら! がっしゃああああああんん!
ものすごい音にご近所さんが何事かと顔を出し、私達の顔を見てバタンと戸を閉めた。
失敬な…これでも悪人しか取り締まっておりませんよ。
あなた、悪人ですか?
アジトの周りに土煙があがり、崩壊した建物から無事学生達と、呆然とした被害者が姿を現すと、ちょうどそこへ正規の騎士達が走ってくる。
専門科の学生より、この騎士達の方が実は面倒である。
「またお前等かー!!」
かつて我が学園を警備してくれていたマックスさんはじめ、卒業生、兄様、シェールなどが現在働いている騎士団は、全速力で私達を追ってくる。
そして、本日も私達学生ギャングと騎士団の追いかけっこから王都の朝が始まるのである。
「え・・・ええと、助かったの?」
学生ギャングに確保され、助けられた被害者達は、瓦礫と化したアジトの上に立ち、命の恩人達が騎士に追われて逃げていく姿を見送ったのであった。
悪を退治したのに・・・・なぜいつもこうなるかな???
シャナ「成長したら学生ギャングになりました!」
シェール・兄様「一般の悪人よりもたちが悪い!」
シャナ・友人ズ「失敬な!!」




