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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
53/160

53話 長閑な一日?

「なんでここにいる!」


 背後のディアスの叫びに、遅っと心の中で突っ込む私は現在姉様のお膝枕でゴロゴロしております。

 

 一部の少年少女がちらちらと羨ましそうに視線を送るけれど、彼等は現在至福な私の代わりに生首に追われているので嫉妬をぶつけるどころではないのだ。


「ところでシャナ、これは一体なんだ?」


 そう尋ねる兄様が持っているのは摸擬刀と呼ばれる日本で言う木刀のようなものだ。

 こちらの摸擬刀は木でなく、本物の剣の刃を潰して使っているので木刀よりも危険なのだけど、鉄でできているから丈夫で、少しくらいなら魔法を乗せても壊れたりしない仕様になっている。


 で、現在兄様はその摸擬刀に魔力を乗せ、地上の光で弱った生首をぼとぼとと叩き伏せ、それを足で転がしつつ尋ねてきたのだけど・・・


「兄様、現在シャナは怪しいものを目に入れることができない状態なのです。その質問はあそこで痺れている4人組にお聞きください」


 私の背後の方向を指さすと、兄様は微妙な表情を浮かべた。


 それもそのはず、4人の最強メンバーは現在痺れて立てず、膝をついた状態でぎゃんぎゃんと騒いでいるのだ。

 特にディアスが。


「一人増えているみたい。またお兄様が増えるのかしら?」


 お兄様! 姉様あの3人をお兄様なんて呼んでいたのですか!

 

 血の繋がらぬお兄様…

 身近に暮らし、常に陰日向で自分を支え、見守ってくれる人達…


「萌ゆる! 姉様萌ゆるわそのシチュエーション! ぜひ私のことはお姉様と!」


「お前は妹だろうが」


 べしんっと額に何かが飛んできて跳ねて飛んで行った…


「痛い…」


 額をさすりさすり起き上がると、目の前には宿敵シェールが生首ボールを振り回しながら呆れたように私を見下ろしていた…


 て…


「うぎょわああああああ~! それ捨ててきなさい! そんなモノ持つんじゃない! て言うかさっき私に飛ばしたのはそれなのかー!!?」


 動揺した私は久しぶりに佐奈の地が出ているのにも気が付かず、姉様のお腹にがっちりしがみ付いて叫んだ。

 子供の声なのでキンキンするらしく、シェールは生首ボールを放り投げて耳を両手で塞ぎながら首を傾げる。


「何の魔物かしらんがそんなに強くないぞ。お前の犬コロも喰ってる」


 喰ってるぅぅぅ~?


 何の話だとばかりにケルベロスを見やれば、沼を閉じた巨大なままのケルベロスが、宙を飛び交う生首を大口開けて飲み込んでいた。


「ケルちゃん、ベロちゃん、スーちゃん! そんなもの食べたらお腹壊します! ペッしなさい! ペッ!」


 地面をべちべち叩いて促せば、ケルちゃんはごくりと飲み込んだ後、軽くげっぷをしつつこちらを見た。


『奴らは冥界の牢番。あるべき場所に帰すのも我等の役目ぞ』


 ・・・その言い分で行くと、私が潜った沼の中はケルベロスの腹の中となりますが…


 うん、考えないことにしよう。


「じゃあ全部片付ける方向でよろしくです」


 私が許可を出すと、ケルベロスはご機嫌に鼻歌を歌いつつ地面を揺らして中庭を闊歩し、生首を潰す、もしくは喰うと言った行為で片付けていく。


 ほんとに食事じゃないのだろうか…?

 

 ちょっとばかしおぞましい光景になっている方は見ないようにして、我が友人達の方へ目をやれば、彼等はすでに綱から離れ、いつだったか小さい時に教えたドッジボールに夢中になっていた。

 

 ただし、ボールは生首だ…。


 なんて逞しい友人達…。


 でも、そのボールはボールじゃなくてお化けだから、生首だから…。


 そんな感じで私だけが脅え、がっくりと項垂れる中、着実に生首軍団は捕えられ、もしくはボール扱いされ、さらには喰われて消えて行ったのだった・・・。



__________________


 数十分後…


 先生や生徒たちの精霊の力を使い、大方元の姿に戻った中庭にて、オバケから解放された私はすがすがしい気分でアルディスを皆の前に立たせ、じゃんっと彼を両手で指し示した。


「本日釣れましたのは、こちらの愛人2号です!」


 わ~、ぱちぱちぱちと響く歓声と拍手の中、打ちひしがれるのは愛人2号こと、アルディスだ。


「釣れたって…、その紹介はちょっと…それに名前はアルディス…」


 ノルディークの事情説明で、完全な黒ではないけれど、白とも言い切れないと判断されたアルディスは現在、ヘイムダールの監視付きで私と共にいることになった。

 

 で、今何をしているかというと、あの大騒ぎの後でも普通に始まった授業に私達と共に参加し、本日の釣果として我が友に紹介されたところなのだ。


「お魚は食べられるけど、その人食べられる?」


 純粋に何ら裏もなく訪ねてきたのは爆発ウェーブな頭のシャンティさん。

 今現在光の精霊が一生懸命彼女の寝癖と癖っ毛を撫でつけているが、効果としては…逆に爆発がすごくなっている気がする。


「ちょっ」


 アルディスが裏の意味もとったのか、ぎょっとして声を上げる。

 そこへすかさず私が割り込んだ。


「よい質問ですシャンティさん! もう少し私達が熟したら存分に味見ができます!」


 もちろん私は大人ですから、裏も表もがっつり含んで答えますともよ!


 なんとなく察したアルディスはガクッとその場に膝をついた後、ヘイムダールの胸ぐらをつかんだ。


「一体どんな教育をしているんだヘイン…」


 うちひしがれたアルディスは赤い髪を振り乱してヘイムダールを睨みつけたが、監視役になったヘイムダールは首を横に振った、


「俺はまだ何にも教えてないよ。それにねぇアル、さっきも言っただろう?」


 私は二人の会話に耳をダンボにします。

 なぜか子供達全員私を真似てダンボにしてますが…。


「シャナに関わった時点で一蓮托生。平和な人生は終わったと思った方がいいって」


 にゃぬ~!?


 さっき、というのは4人で痺れていた時だろう。よもやそんな話をしていたとは!

 

 私は姿勢を低くし、猫のようにお尻をフリフリ、ターゲットをロックオンすると、そのままアルディスにタックルをかまし、友人達が同じようにヘイムダールにタックルして二人を引き倒した。


「グッジョブです! では、思う存分…吸い付く(・・・・)べし~!」


「「ちょっと待てぇぇぇぇ~!」」





『くああぁ~』

『暇だな』

『ちょっと! アタシもあれに混ざりたいわっ』


 子犬が欠伸(あくび)し寝そべる長閑な昼下がり、静かな校庭に、男達の悲鳴が響き渡るのであった…。



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