5話 婚約は断固阻止!
うちの精霊のような妖精のようなお姉ちゃまをただで渡すわけがありませんっ!
キシャーッと猫の子のように威嚇するも、オジサマにはスルーされ、お子ちゃまにはふんと鼻で笑われました。
許すまじ…
とはいっても赤ん坊では何もできないんだな、これが。何か手を講じねばなりませんな。
「焦る必要はない。君と息子はまだまだ子供だからね。ただ、約束だけしておこうというだけだよ。正式な発表は…」
オジサマ改めおっさんはずんずんと先の話を進めていきます。
こういう所はやり手なのだろう。ここぞという隙を見せたらこちらが何を言う前に全て終わらせるのが交渉のプロだ。
別名押し売りの天才ともいうが…。
「シェール・ヘイム・パルティアだ」
お子ちゃまがぞんざいにお姉ちゃまに手を差し出してきたのを、私はぺちぃんと叩き落とした。
「シャナ?」
腐っていても彼は公爵家の跡取りだ。しかも継承権を放棄していなければ王太子だった人物。
詳しいことはわからなくても、なんとなく逆らってはいけないという雰囲気を子供達は感じているのだろう、お兄ちゃまが慌てて私を抱っこした。
その瞬間私の喜び度が跳ね上がる。
「だぶぶきゃっ(これはイイネっっ)」
子供時代というのは貴重だ。ショタコンの気はないと思うけども、ブラコン街道まっしぐら中の私はべちょっとお兄ちゃまにすがりつく。
と、いかんいかん。あの子供をお姉ちゃまから引き離すという使命を忘れるところだった。
「うるるるる~っ」
言葉が話せぬなら威嚇だ。
お兄ちゃまに抑えられながらもお姉ちゃまに触るなとばかりに威嚇してやったともっ。
「変な子」
ぼそっとシェールが呟いた瞬間、部屋にブリザードが吹き荒れたっ!
子供達は皆一様にきゅっと縮こまる。
ちなみに発生源はママンでした。
子供を甘やかしてはいけませんよママン。子供は些細な言葉の攻撃を受け、受け流し方を知り、日々強くなっていくのです。という教育論は横に置いておいて…。
これをきっかけに、ママンには逆らうなと私の脳および子供達全員にはインプットされたのだった。
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姉さまに(仮)婚約者が現れるという一大(?)イベントから3年!(いろいろすっとばしたっ!?)
「シャナ 3しゃい!」
びしぃっと指を3本…おっとしまった、4本立ってたよ。
3本立てて、ビシリッと再び目の前にかざすと、パパンがニコニコ顔で頭を撫でてくれました。
最近言葉も話せるようになり、ストレスもだいぶ減って(話せなかったストレスです)、ルンルンで過ごすある日のこと。
庭を駆けずり回る私が目にしたのは、ずーいぶんと背の高い真っ白な塔。
いや、前からあるのは知ってたんだけど、最近妙な点滅をするので気になっているのだ。
あれはきっとあれだ、え~と…そう、灯台!
飛行船とか飛んでるは見たことないけど、雲の上まで伸びた塔なんだから最上階から照らせばかなり遠くまで光が届くものなんだろう。魔法のある世界なんだし。
で、都の竜騎兵のパレードがどうのこうのと先日シェールが謎の自慢話をしに来てたから、最近あの塔がちかちか輝くのは遠い都の戦争に関わることなのかもしれない。
そう、シェール!
あのおこちゃまっ、いや、あのガキ!
ことあるごとに遊びに来ては姉さまにちょっかいをかけるものだから、近づかせまいと戦う私の苦労は計り知れない!
しかも、私の抵抗を楽しんでいる節があるのだ。
つい先日もおっさんとやってきて散々引っ掻き回していった。11歳にもなって大人げないったら。
思い出してぷりぷり怒る私を見て、兄様が苦笑する。
「シャナはシェールが嫌いなの?」
「嫌うとちやうのよ。ねーちゃまに近づくのがゆるしぇないのでしゅ」
「でも、婚約してるのだから仲良くしないとだめだろう?」
お子ちゃまたちは婚約や夫婦というものが良くわかっていないのだ。
11歳になる兄様とシェールはなんとなくわかり始める年頃なのだとしても! 自由恋愛を知らぬうちからこういうものだと決めてかかってはいかんのだ! 特に美人の姉様には、何よりも姉さまを愛してくれる最高の大人の男でなければ私は認めません!
おこちゃまなんて眼中に無いのよっ。
「ねーちゃまも学園に通えばシュキな人ができましゅ。決められたしとを選ぶのは最終手段でいいのでしゅ」
「…シャナは時々子供らしくないよね。誰にそんなこと習うの」
それはもう飲むのが大好きでだらだら過ごすのが趣味の高木佐奈その人に習ってるのよん。ていうか、その辺りの考え方は前世のままってことかな。
恋愛に関してはまだまだ素人の域だけどね。
誤魔化すようにむふふと微笑み、抱っこをせがむと、兄様は私を抱き上げてくれた。
「にーちゃま大シュキ」
「シャナは秘密主義だよね」
おっと、誤魔化しはばれたらしい。
でも、ちがいまーす。言っても誰も信じてくれないだけでーす。
二人で見つめあい、ふふふふふと微妙な感じで笑っていると、屋敷の門から馬の嘶きが聞こえてきた。それと同時に男の叫び声も。
これって
「イベント発生でしゅよ、にーちゃま」
きらりと目を輝かせると、兄様は首を傾げた。
「イベント?」
「さぁさぁ、屋敷の門までゆきましょう。何が起きるか楽しみでしゅね」
わくわくしながら兄様と向かった屋敷の門で聞かされるのは、わくわくとはかけ離れた事件であることをこの時の私はまだ知らなかった…。