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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
45/160

45話 戻りました

「ぐほぉう!」


 現実世界に戻り、止まった息の残りかすを吐いて呼吸を思い出し、すぐに吸い込む。

 目を開ければ、掌分の厚みしかない至近距離にヘイムダールの爽やか美形顔があった。


 こ…これはっ


「よかった。目が覚めたな」


 すっと体が引かれ、私は確認のために顏だけきょろきょろ動かして友人のシャンティを探し、そこでみつけた彼女は、残念そうに首を横に振った。


 未遂!


「ヘイン君! もう一回! もう一回やり直しを要求します! さぁ、その熱いベーゼで人工呼吸を!」


 何故か濡れ鼠、さらにはいまだ整わぬ呼吸をぜぇぜぇと吐きながら地面をずりずり這いずり、やり直しを要求すれば、なぜか皆がずさっと音を立てて私から離れた。

 

「シャナ、少し落ち着いて。契約の空間に飲み込まれかけていたせいで錯乱しているんだ」


 いや、頭は冴え冴えとしているのだよヘイン君。


「見た所契約もできなかったようだし、ショックを受けてるのかもしれない」


 いやいや、私としては爽やか美形との初ちっすをたった今逃した方がショックなのだけど…。

 じぃぃぃぃ~っとヘイムダールを見つめていると、彼は目を逸らした。

 なぜ逸らす…。


「とりあえず契約の授業は終わり、次はその契約した子達とどう付き合っていくかを教えるから皆は教室に戻って。シャナは保健室な。あれも来たし」


 あれ?


 ふとヘイムダールの見ている方向を見やれば、バタバタと駆けてくるノルディークと兄様と…なぜかシェール。

 まぁ、クラスが同じだからノルディークが不穏なことを言えば二人が付いてくるのもありなのかもしれない?


「シャナ、また無茶したよね」


 ノルディークはそう言ってびちょぬれの私を抱き上げ、私は「うへへ」と誤魔化すように笑う。

 …ん?ちょっと笑い方がまずかったかな?


 兄様とシェールは私の笑いを見て一瞬ひきつったが、とりあえずホッと息を吐いた。そして、余裕ができたからかぞろぞろと教室に向かう子供達を見やり、ぎょっと目を見開く。


「な…」


「なんであんなに使い魔が!?」


 そう驚かれると気になって私もちらりとクラスメイトに目を向けた。


 すべて小ぶりだが妖精だったり精霊だったり動物だったりが一人一人にくっついている。契約できなかった子供はいなかったのだから当然だろう。


「すごいな…、ひょっとして全員契約を?」


 ノルディークは微笑ましそうに子供達を見やり、ヘイムダールは首を横に振った。


「シャナ以外は」


 そう言われてようやく気が付いたのだけれど、私、ヘイムダールに誤解されている? 

 

「ノルさん、ちょっとだけ降ろしてください」


 確認のためにノルディークに一度降ろしてもらったが、なぜか自力で立ったり座ったりできず、座った状態でぐにゃんぐにゃんしていると、シェールがノルディークに代わって背を支えた。

 

 なぜシェールがと言えば、何か起きた時に塔の二人と、実はとっても強い兄様が対処できるようにという布陣らしい。

 信用無いですね~。何にも起きたりしないのに。


 ちなみにシェールも兄様同様に強いらしいのだけれど、実力の程はわかりません。




「では~、呼びます」


 なにを? という顔をされたが、説明は面倒なので、思うままに目の前の開けた場所にケルちゃんの姿を思い描いて叫んでみた。


「ケルちゃ~ん!」


 この呼び方で合っているという保証はなかったが、まぁ間違って変なものが出てきても皆が何とかしてくれるというノリで気軽に呼び出してみる。

 すると、目の前のグラウンドにぴちょんっと水の音が響き、グラウンドに黒い水が一滴跳ね、次の瞬間には大きな沼が広がった。


「「なんだこれは!」」


「死せる者の封牢?」


「いやいや、それはありえないぞセレン」


 兄様とシェールは沼から顔を出し始めた犬の頭の毛に目が釘付けだ。

 ノルディークとヘイムダールは瞬時に何があっても良い様に構える。


「あ、大きすぎるの無しね、子犬姿で」


 私が思い出したように言うと、おどろおどろしい雰囲気の中、一度毛が引っ込み、次には沼からにょきりと子犬の足が現れ、沼の表面に手をかけ、よじよじと登ってきたのは頭が三つあるふさふさの灰色の毛と胸元が白の毛の長毛わんこ。もちろん子犬サイズだ。


 か、可愛い!


 そう思った瞬間、呆然として私を支えるのを忘れてしまったシェールが手を離し、私は後ろにどてっと倒れた。


「のぉうっ! 痛い!」


「あ、悪い」


 絶対悪いって思ってない!

 私はぷりぷり怒りつつ、もう一度体を起こされ、ふと思い出してそのまま前に倒れると、ずりずりと這いずって池の上に顔だけ出し、ザポリと顔だけを池に沈めた。


 美形が見えないかなー


 どこかにいるはずと目を凝らしてみるが、まっ黒で視界も悪く、声も聞こえない。

 中に入ってしまわないと無理かな? なんて思ったとたん、ぐっと力強く首根っこを掴まれ、気が付けば子犬のケルベロスに引き起こされていた。


『我を呼び出しておいて無視するとは何事だ、主(仮)よ』


「(仮)とは何事だ、私のわん子よ」


 同じノリで返せば、ぺっと襟首が離され、私はごろりと地面に転がる。

 すでに沼は私が顔を出した時点で消されていた。


『我は冥界の門番』


「使い魔ケルちゃんです」


 長ったらしい口上が続きそうだったのでそれを遮り紹介すれば、まるで計った様に、男達は同時に諦めたような溜息を吐いたのだった。


 

   

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