42話 6歳の子供達?
クリセニアの学園の生徒達が襲撃された翌日、送迎の馬車と学校の敷地内になんと! 騎士様が付くことになりました!
城並みの警備の強化は、やはりこの学園に通う子供達に要人の子供が多いことと、塔の主が集っているための監視ということらしい。
実は襲撃されたその日、襲撃されて間もなくリアナシアおばあ様が独断で王様に手紙を書き、学校側が連絡をつけるよりも早く王様が軍を動かしたのだそうだ。
塔って国に関わっちゃだめなのでは? と思わず聞けば、おばあ様はさらっと告げた。
「学園を守るのは国ですよ。それに、孫を守るための祖母の精一杯の努力もいけないとは皆言いませんわね?」
塔の面々に向けた、ある意味の脅しのような言い様に、全員口を閉じた。
まぁ、その後大人組で何やらゴニョゴニョ話していたのでひょっとしたらリアナシアおばあ様も少しは怒られたのかもしれないが…。
とまぁ、昨日はいろいろあったけれど、とりあえず事は順調に私の時代に向けて滑り出している。
レッツ王族ハンティング~…の前に、ちょっと騎士様にも唾をつけときましょうね。
るんるんとスキップを踏みながら、朝の授業前の校舎を歩いていると、前方に赤茶色の髪に蒼い瞳をした少年、ルイン王子を発見。彼はおあつらえ向きに知り合いであろう騎士と何か話していた。
お近づきになるチャ~ンス。
抜き足、差し足・・はしないけれど、にょきっと彼の横に顔を出せば、なぜかにょきにょきにょきっと縦一列に顔が続いて現れ、トーテムポールができた…。
「わっ!」
ルインは別の意味(不気味さ)で驚いたような気がする…
「皆気配消すのがうまいですね。いつから後ろにいたですか」
腰に手を当てて肩を竦めて尋ねる。
私の後をついて来たのは、同じクラスの子供達。全員この国に一番多い金髪に青い目をした貴族の子だ。
小太りアルフレッド、そばかすオリンに、女の子でウェーブヘアのシャンティだ。
「シャナがこっそりしてるときは大抵面白いこと考えてる時なのよね」
「そうそう。オリンが気が付いて追っかけてきた」
「僕目がいいから」
やれやれだ。
トーテムポールはきちんと立つと、くるりとルインの方を向き、男の子は胸に手を当て、女の子は軽く足を曲げて略式の挨拶をした。
「「「「おはようございます」」」」
もちろん私も挨拶する。すると、呆気にとられていたルインが慌てて背筋を正し、挨拶を返した。
背の高い30代ぐらいかな? 騎士も同じように挨拶を返してくれた。
「皆何してるの?」
互いに挨拶を終えたところで、ルインに尋ねられると、3人は「シャナに付いて来た」と言い、私はハンティング…とは言ってはまずいので、「お散歩」とだけ答えておいた。
「ところで、この人はだあれ?」
子供らしい興味津々な表情で騎士様をキラキラと見つめる。
子供達全員が同じ顔をしているので、たとえ私の腹の中に一物あろうと、お子様純粋ビームの威力が強くてばれたりはしないだろう。むふふふふ。
「うん、城の騎士の一人でマックスというんだ」
「マクスウェルと申します」
胸に手を当て、挨拶する姿からは誠実そうな印象を受ける。
「シャナ・リンスターと申します。よろしくお願いします」
一瞬「あなたが…」という顔をされたので、何か騎士の間に通達があったのかもしれない。
護衛対象か、警戒対象か、はたまた監視対象かはわからないけれど、騎士に顔を覚えさせるという表向きの理由を使ってガンガンとアプローチをかけても大丈夫そう。
ますますうまくいきそうだと笑み崩れそうになるところを何とか堪える。
「時間があったら警備してくださってる皆様にもぜひ挨拶がしたいです」
うふふと姉様直伝の微笑みでマックスを見上げると、なぜか彼は一瞬身震いした後、きょろきょろと辺りを見回し、首を傾げ、気のせいだったかという顔をして再び私に向き直り、にっこりとほほ笑んだ。
「可愛いお嬢さんに挨拶していただけるならば騎士達も喜びます」
任せてマックスさん。ちゃんと騎士たち全員に声をかけるからね。
うんうんと頷いていると、ちょうど廊下にカラ~ンと言う音が響き渡った。
「あ、授業が始まるね」
オリンがおっとりと告げる中、私はしゅばっとルインの手を握り、反対側の手をしゅばっとシャンティがとった。
共に顔を見合せてにんまり微笑む。
『わかってますな、シャンティさん』
『もちろんよシャナさん』
と心で言いあったかどうかは私の想像なので不明だが、何かを通じ合わせた後、私達はルインを挟んでマックスに向き直り、にっこりほほ笑む。
「じゃあルインは連れて行きます。また今度皆さんを紹介してくださいね~」
空いてる手をフリフリ、私とシャンティはダッシュし、ルインはそのまま有無を言わさず連れて行かれた。
王子が消えた後、恥じらいなくどたばたと走って行った貴族の少女達の勢いに、マックスは唖然とし、ぽかんと口を開けっ放しにする。
残されたシャナの同級生、小太りのアルフレッドがその横でぽつりと告げた。
「気を付けた方がいいぜ~。女は魔性だからな」
マックスはぎょっとしてアルフレッドを見下ろし、その隣のそばかすのオリンが首を傾げる。
「それ、シャナがよく言ってるけどどういう意味なの?」
どんな答えが返るかとマックスがドキドキして見下ろしていると、アルフレッドは「ん~」と唸った後、あっさり告げた。
「知らん」
二人の少年は笑いながらシャナ達の後を追って行った。
「最近の貴族の子供達というのはどうなっているんだ…?」
廊下に残されたマックスは、6歳のはずの子供達が消えた廊下を見やり、ぽつりと呟いた。
自分が子供の時代の貴族は手を繋ぐのもためらわれ、女子は楚々として廊下を走らなかったものだったが…。
時代は変わるんだなぁ…と、ちょっとオヤジクサイことを考えたマックスは、彼等が規格外だとは知らずに思い耽るのだった。




