41話 色々と手遅れです…
「一体何があったんだシャナ!?」
ようやく外の音が聞こえなくなって静まり、私がむすぅっとした顔で外に出ると、駆け寄るなりそう声をかけてきたのは兄様だった。
叫ぶ気持ちもわかるよ。だって、今現在外に立ってるノルディーク、兄様、謎の美少女はぴんぴんしてるのに、私だけ血だらけなのだから。
だからここは訴えよう!
「襲撃を受けたのです」
「あ…うん、受けたけど」
「ドアの襲撃を受けたのです!」
そう言ってびしぃっとノルディークを指さすと、ノルディークは首を傾げた。
くっ…あの時何があったかわかっていないとはっっ!
「シャナは外に出ようとした所で扉を閉められてぶつかってしまったのよ」
うちひしがれる私の後ろから、姉様がそっと外の様子を窺いつつ現れ、私に起きた不幸な出来事を説明した。
「ノルさんに閉められて鼻血ブーなのですよ!」
ぶふっとノルディークが噴出した。
オノレ奴め・・・私を鼻血ブーにしておきながらウケるとは何事か。
ギラリと睨めば、ノルディークは苦笑しつつも「ごめんね」と謝った。そんな様子に兄様が呆れたように溜息をついた。
それにしても…と私は周りを見渡す。
王都の町中でごくごく普通の町民の格好をした大人が10人以上転がっている。
てんてんてんと指を指し数を数えたら見えるだけで17人もいた。
美少女の言っていたことが本当なら、その内何人かがプロだということだけど。
私は首を傾げる。
「何が狙い?」
『こちらも制圧完了した』
「うひょほうっ!」
突然頭の中に響いた声に私は飛び上がり、ついでに目の前にいた兄様の足に飛びつくと、兄様が驚きながら首を傾げる。
おや? 今の声は聞こえていなかった?
兄様の成長途中の顔をじっと見つめ、見つめあって、その喜びにニヒャッと笑い崩れると、兄様はなぜか私をノルディークの方へ押しやり、男達を縛る作業へと行ってしまった。
ナゼに?
『チビ娘も聞こえるのか?』
「うひゅっ…その声はディアスですね。なんで頭の中に響くのですか」
尋ねるが返事がない。
ノルディークを見つめれば、彼はにこりと微笑んで答えてくれた。
「普通に話しているわけではないのですよ。魔法で繋がっているので、繋がっている時は頭の中で考えたことが会話になります」
要するに、これは頭を携帯電話に見立てた通信方式だということか。
ただし、口ではなく頭の中で会話するということは、色々筒抜けになる危険性がある…とか?
『ケイタイデンワ?』
さっそく繋がっていた!
しかし、この会話方法、頭の中に声が響くたびに何やらざわざわする。
ここはいっそ…
ぎらんっと目を輝かせた。
『甘い言葉を吐いてください』
その声で悶えたいの~。
『頭の中が残念すぎるぞチビ娘』
甘い言葉でさらにゾクゾクざわざわしたかったのに、辛辣な言葉が来たよっ。
子供に優しくないわ~。
ちぇ~っと軽く拗ねていると、ノルディークが私を抱き上げてにこっと微笑む。
『君の全てが見てみたい』
ノルディークからキター!
ノリがいいね、さすがは我が愛人一号っ。
ふんふんと鼻息荒くノルディークを見やれば、彼はくすくすと笑っている。対して、頭の中ではディアスが非常に呆れかえっていた。
私がノルディークに抱っこされた状態で、ぐりぐり額を彼の肩に押し付けて身悶えていると、今度は違う方向から声がかかった。
『セレン遊び過ぎ。そんな性格だったのか? それより、こっちも粗方片付いたけど。情報は?』
ヘイムダールからだ。
ヘイムダール、ディアス、ノルディークと全員違う場所にいるようだから、この様子だと3か所で襲撃を受けたということになる。
そう考えたところで、ディアスから『違う』と告げられた。
『3か所じゃない。学生用乗合馬車が全て襲われている。我らが対処したのは高等科と専門科の生徒の乗っていない馬車だ』
全部!
ということは襲撃者の数がすごいことになりますが、どこかの傭兵軍団ですか? それともごろつき集団? でも、中にプロがいるなら何か目的があるよねぇ?
『どこでプロがいると知った?』
ディアスがすかさず突っ込んできて、思い浮かんだのは本を読むあの美少女だ。
今は兄様と共に黙々と男達を縄でふんじばっている。その手並みも鮮やかだ。
『あぁ、そういうことか。チビ娘、その子供はカティア・ルアイーゼ。ルアール王国の第3王女だ』
またもやリアル王女!
こちらはあのよくしゃべる赤毛のツンデレ姫と対照的に、寡黙で、静かな印象を受ける黒髪に薄紫の瞳の美少女だ。
美人で強いって素敵。 ぜひお近づきに…
『なるな』
バッサリと禁止された!
『各国の王族がこぞってこの国に探りを入れに来ている』
『この襲撃はどこかの国の人質を取るためのどこかの国の差し金と、俺達の…塔の人間の確認をしたかった奴等が意気統合したってとこだろうなぁ。国のトップ達はすでに俺達のことに気が付いてるからね』
ディアスの忠告に続き、ヘイムダールの言葉を聞いて私の目はビカーッとこの上なく輝いた。
只今輝きマックス!
つまり! この国には現在私自ら赴かなくても獲物達が集まってきているということ!
『獲物って、ひょっとして各国を敵に回すつもりなのかいシャナ?』
不思議がるヘイムダールの言葉に、私ははっとして未来計画を悟られぬよう、心を隠すことを必死に頑張った。
それはもう、今までの人生で最高に頑張った!
けれど、聞いてしまったチャンスに顔は否応なく崩れ、心はハーレムへと飛んでしまったのだ。
レッツ王族狩り!
心は正直に、ウキウキとその言葉を叫んでいた。
『『・・・・・』』
頭の中に、ひどく残念な感じの空気が流れた。
『もう手遅れだね』
くすくすとノルディークは笑うと、楽しそうに私を撫でるのであった。




