4話 お客様
さてさて、本日は私もおめかし中。
まだまだ赤ん坊ですからね、おめかしと言っても気持ちお洋服にフリルが付け足されたかな~という程度。
それでもこの一張羅はママンの手作りなので大事にしなくてはっ。
と、まぁ、なぜそんな一張羅を着ているかというと、本日はお客様が来るのです。そのため、いつもはいない使用人をバイトで雇って来てもらってますよ。
なぜバイトかって?
そりゃあ我が家は貴族と名は付いているものの、間違えようのない貧乏だから!
パパンの努力で屋敷はまめに修理保全し、外見は保たれている。ママンの器用さで大人も子供も着ている物がそれなりに貴族らしく見えるという古着改造術が施されている…という隠れた努力のなされているお家なのだ。
お友達はちゃんとした貴族だから使用人を雇ってそれなりにしなくちゃいけないのは悲し所。
無駄な出費だからほんとはお友達くんなーって思うけど、まぁお付き合いは避けて通れない。
そうこうしているうちにやってきたのはなんと公爵一家。
しかも友人であるご当主様は現王のお兄様!
セレブです。本物のセレブ。
あわよくば玉の輿にと思うけれど、ご当主様は一般人と結婚するために王位継承権を放棄したロマンスに生きる愛妻家。そこに入り込む隙は無いようだ。残念(本人赤ん坊というのを忘れている)。
「いらっしゃい二人とも」
ママンがそう言って出迎えた二人、というのは、先ほど言ったご当主と、奥様…と思いきや、奥様は現在風邪を引いて療養中だそうで、息子さんがやってきました。
お兄ちゃまと同い年だそうですよ。よいお友達になるといいですねぇ。
見事な赤い髪に蒼い瞳の何とも背の高いおっさん…げふんっ、おじさまと、同じ色の髪に蒼い瞳をしたちょっと小生意気そうなガキ…げふげふっ、お子ちゃまです。
オジサマの方は年は30代後半くらいでしょうか、威厳がありそうな強面で、背中に棒でも入れているのではというほど姿勢が正しい。
あそこまでガチガチの空気を出されてしまうと、周りもガチガチになるんですよ。自然とね。
チラリとお姉ちゃまお兄ちゃまに視線をやれば、やはり緊張でガチガチになっている。
お姉ちゃまにいたっては繊細すぎる故に震えていらっしゃるではありませんかっっ。
ここは見た目は赤ん坊、中身は大人な私にお任せを!
「だぶぶぶぶぶ~(いらっしゃいませ~)」
ひょこひょこと手を伸ばしてオジサマにアピールすると、オジサマはパパンに抱かれている私に気が付いて柔らかく微笑んでくれました。
「この子がシャナだね。初めまして。うちは女の子が生まれなかったからアルバートが羨ましい」
頭を撫でられながら思い出したのですが、アルバートというのはパパンの名前ですね。
私も一瞬忘れていましたが。
「シャナは少し変わっていてね。大人しいかと思えば時々男の子のように何かをしでかすんだよ。目が離せなくて」
パパンがデレている!
て、そんなことはともかく、お兄ちゃまとお姉ちゃまはと視線を向ければ、お兄ちゃまはほっとしたように力が抜けていい感じだ。だが、お姉ちゃまはまだガチガチに緊張しているように見える。
移動中もよく観察していると、どうやらお姉ちゃまはオジサマと一緒にやってきたお子ちゃまが気になる様子。
見えてはいないかもしれないけれど、じっとその少年の方を見つめ、耳を傾けているその様子はいじらしく、初恋? とも思ったけれど、見受けられる様子はそんなあまずっぱいものじゃないようだ。
じゃああの子供に何が?
チラリと少年を見るが、やはり生意気そうな雰囲気をぷんぷんさせたお子ちゃまだ。なんというか、アニメや漫画に出てくるような父親の威厳を笠に着てますよ、的な雰囲気が前面に押し出されている。
私の好みじゃないなっ! 間違いなく!
うんうんと頷き、私達は比較的お金になりそうな調度品の残る応接室へと入った。
腐っても貴族。体面を護れるよう、それなりの物は残してあります。
他の部屋の物はほとんど売り払ったので、この応接室の調度品のみ立派ともいえるけれど、元々趣味はいいのだ、その部屋も調度品の高い安いさえ気にしなければ過ごしやすい部屋ばかりである。
我が家の高級部屋に全員が落ち着き、バイトメイドさんがぎこちなくお茶を用意する。
その手がカタカタと震えるのはご愛嬌。
彼女達にしてみれば一生のうちにお目にかかることなどないような雲の上の人々だ、緊張するなと言う方が酷というものだろう。
ハラハラしながら見つめていたが、何とか全員にお茶が行き渡り、私はほっと肩の力を抜いた。
「さて、それでは本題だが」
どうやらただ遊びに来たわけではないらしい。
オジサマがちらりと見たのは子猫のようにプルプルと震える愛らしいお姉ちゃま。
嫌ですねーおじちゃま、私の愛するお姉ちゃまをガン見したいのならばこの私を倒してもらわねば。
私はパパンの膝を離れ、お兄ちゃまの膝を乗り越えてお姉ちゃまの膝の上に座った。
もちろんこの場所からおっさんを睨み返すためだ。
さぁ! 今こそ出てこい、目からビーム!
もちろん出ません。しかもオジサマ気が付きませんでした。
がっかり…
「レオノーラ、うちの息子のお嫁さんに来てくれるだろうか?」
オジサマがお姉ちゃまを熱心に見つめながら告げたのは嫁にこいや宣言でした。
にゃんと!
本題とは子供同士の婚約。つまりは政略結婚でしたか!
「だううぅぅ~!(だめです~!)」
私はお姉ちゃまが返事するよりも先に反対した。
言葉になっておりませんが、いつか通じるはず!
何事も初めが肝心よ。
自由恋愛推奨!
うちの子を愛してくださるお方にしかうちの子はやれませんからね!
子供を持ったことはないけれど、愛する子供達(兄と姉)のためにここは何とかして見せましょう!
立つ…ことはまだ無理なので、ぐっと拳を握ると鼻息荒く、私は少年とオジサマを睨んだのだった。