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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
34/160

34話 青の主

「だーるーまーしゃーんーが、こーろーんーだ!」


 つんつんとパパンと三人の男達を突いていけば、彼等ははっとしたように凝固状態から解除された。

 しかし、そのうちノルディーク以外がくるりと背を向けて部屋を出て行こうとする。


「アルバート、あなたの可愛い娘を紹介してくださらないのかしら?」


 名指しされ、パパンはビタッと動きを止めると、錆びついた機械のようにぎぎぎぎっと振り返る。

 視線の先にいるのは、とても品のよい一人のおばあ様だ。

 

 一体何をそんなに怯えることがあるのかと私はパパンを見上げ、青の塔の主リアナシアをもう一度振り返った。


「我が…君、お久しぶりでございます」


「えぇ、そうね。結婚式と子供達の誕生の日以来かしら。わたくし、離れていても我が魔狼(フェンリル)とは繋がっているものだと自負しておりましたのに、なぜかしら、先日王都でとてつもない魔力を感じてからこちら、我が魔狼からは全く連絡もなく、本日手紙を受け取りましたのよ。なぜかセレンディアから」


 ひらんひらんと手紙らしき紙をどこからか取り出して揺らすリアナシアからは、少しずつ不穏なオーラを感じる。


 パパンはそれを一身に受けているせいか、だらだらと目に見えて冷や汗をかきだした。

 

 ちらりとノルディークを見れば、涼しい表情でにっこり微笑んでいる。どうやら自分に火の子は降りかからないと思って安心しているように見える。

 手紙は保身の為にこっそり書いておいたものかもしれない。そういう所はちゃっかりしてそうだ。


 そして、他の2人はと言えば、まだまだ危険だと思っているのか、部屋の扉の向こう側から顔だけ出してこちらを窺っていた。


 このおばあ様の何が怖いの? どう見ても普通の品のいいおばあ様に見えるけど。


「我が君、ナーシャ様、その、今回の件は」


 おばあ様はがたりと椅子を鳴らして立ち上がると、とってもにこやかなのに、なぜか背中にごごごごごと立ち込める暗雲を背負い、告げた。


「もっと早く連絡を頂きたかったのよ。もちろんセレンディア、あなたからも」


 「ひっ」と男達が息を飲んだ瞬間、空気がびりっと震え、何事?と首を傾げた時には、ばちん!と妙な音がして、男達4人がパンチパーマになっていた…。


 …パンチとな!?


「あ…あたちの美形がアフロディーテに~!」


 驚きのあまりよくわからない叫びをあげてしまった…。



_________________


 青の塔の主リアナシア。

 

 物腰柔らかく、塔の主の中でも最年長。しかも唯一の常識人ともいえる性格…のはずだったけれど、私の塔の記憶も案外あやふやみたいだ。

 どうやらこのお人、怒らせる(拗ねらせる)と怖いらしい。


「「「「申し訳ありませんでした」」」」


 パンチパーマの4人の男は彼女の前で床に跪いて謝っていた…

 絵面がかなりシュールだ。

 

「こんな楽しいことからワタクシをのけ者にするからです」


 リアナシアはソファに腰掛け、男達を軽く睨んで拗ねたようにそっぽを向いた。


 ちなみに私は彼女の前で床にぼちょりと座り、エグエグ泣いている。

 理由はもちろん美形が残念パンチになってしまったからだ。


「あなたには怒っていませんよシャナ」


 にっこりとほほ笑まれるが、問題はそこではないのよおばあ様。


「違いましゅ~ パンチが駄目なのでしゅ~ 美形でも駄目なのでしゅ~」


「パンチ?」


 首を傾げられたので私はパパン達の頭を指さした。


「ちりちりでしゅ」


「「「ちりちり・・・・」」」


 なんだか男達がガクリと項垂れたが、ショックを受けているのはこっちなのよ! 幼い子供にトラウマを植え付けるとは何事か!


「あらあら、そうなの。では戻しましょうか」


 リアナシアがパンッと手を叩くと、一瞬で皆の髪が元に戻り、感激のあまり私は一番近くにいた緑のヘイムダールの顔にべしょっとへばり付いた。


「よかったでしゅね~。これで安心してわたちの愛人に戻れましゅね~」


 本音が駄々漏れたが今は気にしないことにする! 祝・元のサラサラヘアー。


 ディアスが首を傾げ、パパンがショックを受け、ノルディークが苦笑し、ヘイムダールは酸欠でタップをはじめ、リアナシアは「あらあら」とにこやかにほほ笑んだ。





「…あのぅ、母様?」


 実は、この部屋にはずっと静かにお茶を飲んで我関せずなママンと、ハラハラと様子を見守っていた兄様、それから何が起こっているかわからないまま、騒動にびくびくしながらぎこちなくお茶を煎れてくれる子供メイドと、騒動を無視して彼女達とにこやかにお話しする姉様がいたのだ。


 ようやく一騒ぎ終えたとみて、兄様がママンの顔を窺えば、ママンはティーカップを置いて兄様ににこりと妖精の微笑みを浮かべて応えた。


「父様のご挨拶も終わったようなので紹介しましょうか。エルネストは2度ほど会っているけれど覚えていないわね。こちらの方はお父様の育ての親。そうね、あなたたちのおばあ様になるわね」


 その言葉にリアナシアは目をキラキラと輝かせ、それはそれは嬉しそうに酸欠でぐたりとしたヘイムダールから私をばりっと引きはがし、ぎゅむっと抱きしめた。


「ありがとうイネス。最高の紹介ね。わたくしはリアナシアよエル、ノーラ。ナーシャでもおばあ様でも、お婆ちゃんでも好きに呼んで頂戴ね、可愛い子供達」


 にこにこと嬉しそうに答えるリアナシアはぎゅむぎゅむ私を抱きしめたまま兄様と姉様をキラキラとした目で見つめた。


 どうやら子供好きみたい・・・


 …なのはよくわかったけど、ちょ、ちょっと力緩めてもらえませんか!


「ぢ…ぢぬ~っ」


 

 見た目は品の良いおばあ様ですが、どうやらこのおばあ様、一部はっちゃけた部分がありそうな予感です…


 そして、ものすごく力は強かった…がくり。




 私はその後も、嬉しさで舞い上がったリアナシアが我に返るまで、彼女のホールド攻撃と戦い続けたのだった。

 

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