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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
31/160

31話 壊れた

これでも食って大人しくしてろっ!」


 歯型の付いたリンゴを渡され、どこかの地下にある小さな物置のような場所に転がされた。

 リンゴは私が攫われるときに口に突っ込まれたものだ。だからこの歯形は私の者なので、スカートでキュッキュッと表面を磨くと、齧りついた。


「ねーしゃまも半分食べましゅか?」


 しゃくしゃくとリンゴをかじりながら尋ねると、姉様が不安そうにしながら首を横に振る。

 

「それよりもシャナ、ここはどこ? 私達はどうなったのかしら?」


 姉様は部屋の中をきょろきょろ見回し、手に当たった木箱をじっと見つめている。「リンゴ…」と呟いたので、箱にはリンゴと書かれているのだろう。暗くて私の場所からは見えないが。


 姉様から目を逸らし、暗がりの部屋をん~と呟きながら見まわすと、部屋の片隅にきらりと対の目が幾つか…


「おぉぅっ! いたのでしゅか…」


 部屋の片隅、木箱が積み上げられたその影に、子供達が体育座りして蹲っていた。

 皆縛られている様子はなく、どこか諦めたような表情をしている。


「リンゴ食べましゅか? 齧りかけでしゅけど」


 尋ねると、私と同じくらいの幼い女の子が手を伸ばしてきたので渡してあげた。

 部屋の中に、女の子がリンゴをかじる音が響く。


「姉しゃま。部屋に子供が4人おりましゅよ。皆縛られてはいましぇん。でも、扉は閉められてましゅね」


 ためしに扉に飛びついて押したり引いたりしてみたが、がちがちっと音がして開かないところを見ると、鍵がかけられているらしい。


「幾つぐらいの子? 皆は大丈夫?けがはないかしら?」


 さすがは姉様。自分のことよりも皆を心配する辺り聖女のようだ。

 私はちゃかちゃかと姉様に近づくと、その胸に飛び込んだ。


「シャナも大丈夫?」


 撫でられ、存分に至福の時を味わう。


「皆大丈夫でしゅよ。現代っ子には試練でしゅがね、大丈夫でしゅよ。何とかしてここから出てあのぼんくら達を叱りつけてやりましゅ」


 ぼんくらというのはもちろんノルディーク、兄様、ついでにディアスだ。特にノルディークは叩きのめしてくれる。

 

 とりあえず、元現代っ子としてはこれはかなり恐怖だけれど、クダを巻くか、悪態つくか、飲むしかできない乙女であった昔の自分とは違うのだ。対抗手段は…暴走の危険ありだけど自分の中にあるから大丈夫…のはずだ。

 

 子供達を助けるのはこのヒーローシャナちゃんなのだ!


 と、決意を新たにしたところで、姉様から離れて扉にピタリと耳を付ける。

 残念ながら扉の外の音はよく聞こえない。人が数人いて話し込んでいるような音はするけれど。


「敵が何人いるかが問題でしゅね」


 誘拐されたときにいた実行犯は二人。けれど、この部屋には子供が私達を含めると6人。子供が一斉に飛び出しても抑えておけるだけの人数がいるとして、少なくとも6人はいると思った方がいいだろうか。

 

「お前らも職を無くしたんだろ? 何で暴れてるんだ?」


 きょとんとした不思議そうな表情で子供の一人が尋ねてきた。 

 まだ暴れてはいないけれど、部屋の中にいた少年にはあがく私の姿が滑稽に映ったようだ。

 となると、ここにいる子供達は同意の上でここにいるのだろうか。だから縛られていないとか?


「えぇと、みなしゃんはなんでこんなところにいるのでしゅか?」


 根本的なことを聞いてみれば、帰ってきたのは仕事を見つけるため、だった。

 どうやら、私達を攫った男達は、養子に出されたがうまくいかなかった、もしくは孤児院から住み込みの仕事を見つけたが追い出されたと言った子供達に仕事を斡旋する斡旋業者らしい。

 表向きは。

  

 彼等は彼等のやり口がどういうものなのか把握しきれないような年端もいかない子供に契約書のサインを書かせ、同意を得た上でその身を売り、自分達はその報酬を受け取り、子供達は過酷な仕事を得るという仕組みだ。

 中にはそういう手を使ってでも子供が欲しいという家もあるそうなのだが、そんなのは稀だろう。


「よろしいでしゅかー! たとえバイトでもコツコツ働けば何とか生きられるんでしゅっ。ビールだって飲めるんでしゅっ。ちなみにいろんなバイトを経験している人は経験値も高いんでしゅっ。つんつんした社会人よりずっと優しいんでしゅよ!靴磨きでもいいから仕事をもぎ取ってくるでしゅよ~!」


 あぁ、ビールが飲みたい…

 思わず熱く語りながら頭の中では懐かしのビールに思いをはせ、行き着いたのは…


「ドライは飲みたいけれど、奴隷はいかんとでしゅー!」


 ふっ…我ながら…ドライとドレイ… 

 似てるだけでダジャレにもならんかった…。

 

 子供達にも全く通じなかったので、ひとしきり打ちひしがれた後、一人気を取り直して、そこからこんこんと数十分間仕事斡旋業者の異常性を説き、姉様にも手伝ってもらって、ようやく全員が逃げる決意を固めたところで、作戦を考え着いた。


 捕まったら、逃げ出すためにできる技と言えば、色仕掛け…はまだ(・・)無理なので、お腹が痛ーい作戦決行!


 まずは扉が開いた瞬間に攻撃できる場所に移ります。これは部屋にある木箱の上にしましょう。

 よじよじと木箱に上り、下にいる子供に扉を強く叩いてもらった。

 そして、大きく息を吸う


「お腹が痛いでしゅー! 〇んちがもれるでしゅよー! ここを開けないと大変なことになりましゅよ~!」


「シャナ、下品です」


 うぉうっ、まさかの姉様からダメ出しがっ。しかし、扉はゆっくりと開き…


「助けに来たぞ、子供た…どわぁ!」


 思いっきり男の顔に取り付き、ポッコリお腹による圧迫を加えて窒息を狙ってみた。

 男は何とか私をはずそうとばたばたと右へ左へ動く。


「今の内でしゅよ子供達! 姉しゃまを連れて、いじゃ走れ~!」


 ほぼ勢いに押されるかのように子供達が階段を駆け上がっていく。

 とにかく外に出ればなんとかなる…はず?


「ぶはっ!」


 考え事している間に私の服の背中辺りを掴まれ、思い切り引きはがされてしまった。

 かくなるうえは暴走してでも魔法をぶっ放し…なんてことを考え、拳法のような適当な型で威嚇しながら男と相対していると、彼は静かに告げた。


「俺は助けに来ただけだよ。怪我がなければいい」


 ・・・助け?

 どうやら助けが来ていたみたい?


 きょとんと金髪碧眼のさわやか系な青年を見つめていると、階段上の方から姉様と思しき悲鳴が聞こえ、私は男の手を振り切って床に降り、子供とは思えないスピードで階段を駆け上がった。


「ねーしゃま!」


 扉を抜けると、小汚い路地に転がる姉様と、姉様に群がる子供達。

 姉様は…


 殴られたようだ!


「よくもねーしゃまを! 全員覚悟しゅろ~!」




 どんっ



と体に鈍い衝撃が走る。

 

 あ、まずいな、これは暴走したな、と思ったけれど、止まらないし止める気はなかった。


 圧縮された空気が男達に襲いかかり、重い空気に押しつぶされて男達が転がった。魔力がどんどん溢れて止まらない。


「ぐ・・・あああああっ」


 男達にどんな変化が起きているのかはわからないが、全員胸を掻き毟って泡を出している。


 背後からは階段を上ってきたらしい先ほどの男の足音が聞こえ、ひゅっと息をのむ声がした。


「おちびさん! 魔力を押さえるんだ!」


 まぁ、なんて素敵な提案。


「む~り~で~しゅ~っ」


「無理じゃなくて…」


「ただいま暴走中でしゅ~!」


「なにぃ~!?」


 魔力がグングン膨れ上がるのだけはわかる。

 次第に自分の周りの石畳に亀裂が走り、倒れた男達はすでにガクリと気絶している。

 子供達と姉様の様子が怖くて見られません・・・。


 そのうち、体の中で何か引っかかる気配がして、打ち止め?と思った瞬間には、その引っかかる何かに亀裂が走った。


「あ…さらにやばい感じでしゅよ」


「ちょっ! まて!」


 バキン! と身の内で音がしたかと思うと、押さえつけられていた魔力が一気に放出される。

 その影響なのか、私の周りの一画に竜巻が起き、誘拐犯がぐるんぐるんと風に乗って回転している。どうやら姉様達は男によって守られているような気がするが、気配を感じ取るので精一杯。

 ただ今縫い止められたように動けません。


「くそ! どういう魔力だ!」


 あ、再びあの体の中にあった押さえる感じが今度は外側からする。

 これはおそらく後ろの男が私の魔力を押さえているものと見た。


 しかぁし! 

 

 チートたるもの、これぐらいで抑えられるようなやわな魔力はしてないと思うんだけど、どうかな諸君!


 ふざけてないよ? 真剣に焦っているんだけどどうにもならんのよ、これが。

 何しろ幼等科では魔法のコントロールどころか魔法自体使ってないからね。初等科入るまでは皆の庇護もあるし、大丈夫という考えが仇になったようだ。


 膨れる魔力はぎしぎしと男の押さえつける魔力をきしませる。


「こ~わ~れ~ま~しゅ~!」


「少しは抑える努力をしろ~!」


 轟々と風が強くなり、遂には周りの家を崩し始めた。


「練習したことありましぇんから~!」


「マジかー!」


 あ…壊れた…


 そう思った時には、辺り一面真っ白に染まった。


 


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