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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
30/160

30話 王都激震

シャナ…の前に兄様視点です

「速い…」


 はぁはぁと息を荒げながら、エルネストは赤毛の少女が落とした財布を手に、ちらちらと人ごみの中に見え隠れする彼女の髪の色を頼りに追いかけていた。


 少女の年頃はレオノーラと変わらない。体力の限界は来ていそうなのに、何かよほどのことでもあるのか、止まる気配がなく、一直線にどこかへ向かっているようだった。


 この先は…?


 ずっとまっすぐに行けば城がある。だが、一般人がやすやすと入れる場所ではないし、彼女の身なりはそこそこいい物ではあったが、馬車にも乗らず、共も着けずでは怪しすぎてたとえどこかの令嬢であっても門番に止められるのは間違いないだろう。

 

 では他に行くところがあるのかと言えば、やはりこの先には城しかなく、選択肢はなかった。


 エルネストは一度足を止め、はぁと大きく息を吐いた後、再び少女を追った。


____________


「誰でもいいの! 誰か話を聞いてくれそうな兵士か騎士はいませんか!」


 エルネストが城に辿り着くと、案の定城の門の下で少女が警備兵と一悶着起こしていた。

 

「せめて身分証明をしろと言っているだろうっ」


 どうやら赤毛の少女は身分証明すら持っていないようだ。いや、もしかしたら今自分が持っている財布の中かもしれないと思い、エルネストは彼女に駆け寄ると、その肩に手をかけた。


「君、これを落としたよ」


 少女は突然声をかけられて驚いて振り返り、目の前に差し出された財布を見て目を丸くしている。

 興奮している所に突然落し物が届けられれば、誰だって戸惑うだろう。少女はしばらく目をきょろきょろと泳がせた後、エルネストの手から財布を受け取った。


「あ、ありがとう」


 エルネストは頷くと、とりあえず話を先に進めるために自分の身分証を門番に見せた。


「父が登城しているはずですが、取り次いでもらえますか?」


 門番は戸惑っている少女をちらりと見た後、エルネストの身分証を見て頷き、門番の詰め所にいるらしき仲間に声をかけた。


「少し待てる? 何か大事な話らしいから、父に相談してみたらどうかな。身分証明書があるなら、城で働いている親戚とか、そう言った人に取り次いでもらえばいいと思うけど」


 少女ははっとして首を横に振り、振ってからこれでは何を伝えたいのかわからないだろうということに気が付いて言葉にした。


「親戚はいないの。働いていたお屋敷も追い出されてしまったから身分証明書もなくて、それで、行くあてもなくて、知り合いに相談したら仕事を紹介できるって言われたのだけど…それが、人買いに身を売ることだったらしくて…それを知ったのは朝で、弟はすでに一人でふらふらと約束の場所に出かけてて…追いかけたけどすでにいなくて…」


 息継ぎはあるものの、ものすごい早口でまくしたてられ、エルネストは慌てるが、彼女の話の中の不穏な単語をいくつも拾い、なんとなく彼女が焦っていた状況を知った。


 人身売買。

 

 当然そんなものは禁止されているが、周りの目をかいくぐってそんな行為をしている一団があるのかもしれない。

 

 門番もエルネストと同様話を聞いていて、すぐにもう一度詰所に駆け込むと、今度は騎士か兵士長を呼んで来いと怒鳴っていた。

 話の分かるいい人のようだ。


 そうこうしている間に、父が何かあったのかとばかりに慌てた様子でディアスさんを伴って現れた。



「エルネストッ! 一体何があったんだ? シャナ達は?」


「シャナ達は大丈夫です。彼女がシャナ達とぶつかったときに財布を落としたので追ってきたんだ。シャナ達はベンチで休憩してます」


 だから大丈夫という話に、父はほうっと息をつき、逆に少女ははっと息を吸った。


「それっ! まさかあのお店ですか!? あのお店の前のベンチですか!?」


「えぇと、君の言うあのがどのお店かはわからないけれど、さっき僕より少し下の女の子と小さい女の子にぶつかったよね、そのお店の前のベンチだよ」


 少女の顔色はみるみる蒼白になっていく。


「どうしよう! 私と同じくらいの女の子と、弟くらいの女の子だったわ! ひょっとしたら人攫いに間違えられて連れて行かれてるかも!」


 よっぽど気が動転しているのか、少女はどうしようと繰り返し、辺りをグルグルと歩きまわる。


「もう一人僕ぐらいの男の子が付いているから大丈夫だよ。彼は優秀な魔法使いだし」


 学校でのクラスは違うが、ノルディークの魔法成績はかなりいいと聞いている。それに、魔法成績だけでなく、剣の腕前もかなりのモノらしいと評判だ。少し悔しいが、信頼に足る少年なのでエルネストは少女を宥める。


「人攫いとは穏やかじゃないな。お嬢さん、ゆっくり話してごらん」


 父は落ち着きのない少女にゆっくりと話しかけ、ポンポンと肩を叩く。

 少女はずっと目をきょろきょろさせていたが、父がじっと見つめている間に少しずつ正気に返り、ぽつぽつと先程まくしたてた話をもう一度繰り返した。


「なるほど、つまり、合法的に人身売買をしているわけか。相変わらず汚い世界だ」


 ディアスさんがぼそりと呟く。


「合法、ですか? 人身売買なのに?」


 尋ねると、ディアスさんは頷く。


「仕事を紹介していたと言われたらそれまでだ。どういった方法でどういう人間にどういう者達をなんていうのは後ででっち上げられる。最初に子供達自身が承諾しているのだからな。子供達を軟禁、または監禁している現場を押さえない限りは証拠がない」


「そんなっ…」


 エルネストは少女同様に青くなった。




「…アルバート…セレンが来た。何かあったんじゃないか?」

 

 ディアスさんがぼそっと父に告げた瞬間、すぐ傍の空間がぐにゃりと曲がり、そこから小さな子供を抱えた白い髪にアイスブルーの瞳の美少年が姿を現した。


 高位魔法の『転移』だ。ディアスがこれを使って館にやってきているのは聞いていたが、実際に人が現れるのは初めて見た。

 学園の教師だってこれをやってのけるものは少ない。


 突然現れたノルディークを呆然と見つめていると、少女がはっとしてノルディークに駆け寄った。


「カイン! 無事だったのね!」


「ねーちゃっ」


 ノルディークが抱えていたのはどうやら少女の弟のようだ。

 人攫いには合わなかったらしい。

 エルネストはほっと息と吐いたが、ノルディーク、ディアスさん、そして父の表情は険しかった。


「白、小娘達はどうした」


 ディアスが尋ねた言葉に、エルネストの心臓がドキリと跳ねる。


「すみません。見失いました。気配を追ったのですが途中で途切れてしまって」


「途切れた!? 二人に何かあったのか!?」


 父が珍しく取り乱し、食ってかかる。

 まさか…妹達は…?


「出かける前に結界は張ってあります。よほどのことがない限り大丈夫ですが、問題は…」


 


 どぉぉぉんん!



 爆発のような響きと共に、辺りの空気に電気が走ったかのように肌がぴりぴりと痺れ、次いでぐらっと一瞬大きく地面が揺れた。


「地震っ?」


 王都に断層などはない。だとしたらこの地震は?

 

「…何の冗談だ」


 ディアスさんが苦い表情で街の方角を見つめる。


「…あぁ…封印まで破ってしまってます…」


 ノルディークが項垂れるように呟き、父がすくっと立ち上がる。


「エルネスト! ここで聞いた話を騎士か兵士に話し、国王に危ないから近づくなと進言するよう言っておきなさい」


「は、はいっ!」


 父の言葉に慌てて姿勢を正したエルネストは、父に少女とその弟を託され、城から動くなと命じられた。その間にもずんっと何度か体に響く振動を感じ、不安になる。


「とりあえず…町が滅ぶのは止めねばならんか…」


 ディアスさんの不安な言葉にエルネストは青くなり、それを見たノルディークが彼の肩をポンッと叩き、「大丈夫」と告げて彼等は走り去っていった。


 しかし、彼等が離れてすぐ、ひときわ大きな地響きが襲いかかり、エルネストがディアスの見ていた方向を見た時、そこには信じられないものがあった。


「…塔…?」


 七色に輝く塔のような柱が、天に向かって伸びていた・・・。

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