3話 図書室でお勉強(軟禁中)
赤ん坊の成長というのは早いもので、ついにハイハイができるようになりました。
「だっふ~(じゃじゃ~ん)」
誰に対してやってるわけでもないけれど、どやポーズをつかまり立ちで決めてみて、そのままぼてっと尻餅をついた。
まだまだ両手を離しては立てぬようだ。
自分の成長を我が子の成長のように感じながら、ここぞとばかりにいろいろ実験中。おかげで家族全員からお転婆の烙印を押されてしまった。
ただちょっと赤ん坊はどれだけ高速でハイハイできるのか、とか、階段下りるときはどうやったら一番早いか、とか試してみただけなんだけどね。
さすがに『池田屋階段落ち』を決め込んだときは結構悲鳴が上がって、今はあんまり部屋から出してもらえなくなってしまった。
つまんな~い。
あ、そうそう。名前が決まりました!
高木佐奈改め、シャナ・リンスターと申します。
何故名前の響きがほぼ同じままなのだ…。
ここは異世界! 名前と言えばジョセフィーヌとかマーガレットとかあるでしょーが!
新たな名前に期待したのに!
と思ってた時期もあったけど、よくよく考えて今更マーガレットとか呼ばれたらこしょばゆくて仕方がないわ~と思い至ったので良しとする。
さて、そんな私の最近のお気に入りプレースは図書室だ。
なんと我が家は『貧乏』、『落ちぶれ』が前に付くけれど貴族! しかも領主だというのだ。そして、その屋敷には図書室があり、膨大な本が眠っていた。
本好きとしましてはこれを制覇せんと乗り込み、現在エルネストお兄ちゃまの膝の上で文字を覚えながら共に勉強中です。
この部屋に閉じ込めておけば大人しいというのはもう家族全員が知っているから、一日のほとんどは図書室に連れてこられるようになったのだ。(軟禁ともいう)
お蔭で大分文字も覚えたよ。
「だぶぶ~(褒めて~)」
きゃっきゃっと笑いながらお兄ちゃまの膝の上で動く私を、彼は天使のような微笑みを浮かべて撫でてくれる。
至福ですな~
「ぎゃふ~(むふふ~)」
スリスリとお兄ちゃまにすり寄ると、彼はぶるっと体を震わせた。
「寒気が…」
そんな彼に抱っこされたまま私は彼がただ今勉強中の『これでバッチリ初歩魔法』に目をやった。
奥さん、魔法ですよ、魔法。
ついついどこかのテレビショッピング的なノリになってしまうのだけど、そうなっても無理はないでしょう。
何しろ魔法ですから!
魔力皆無の地球人のあこがれ! ビバ魔法。
言ってみたいでしょう。「魔法生活始めました」とか。
なんて盛り上がっても、現在赤ん坊ですからね。できるのは魔法の基礎をお兄ちゃまと共に本から学ぶだけです。
魔法の基本は想像。己の持つ魔力をいろんな形に変化させるその工程を想像で行うのだそうだ。
もちろん基本は己の持つ魔力が元になるので、威力は人それぞれ。でも、想像次第では相手の魔力をものともしない魔法が生まれることだってあるという。
たとえば、槍から身を守るのに氷の魔法を使ったとする。
薄い氷は壊れてしまうけれど、分厚い氷を想像すれば壊れませんよとそういうことだ。
まぁ、消費魔力も変わるのだけどね。咄嗟の時は想像力によって生死が分かれるともいわれるのが魔法だ。
妄想なら得意なんだけどなぁ。ダメかな。
「エル兄様。お父様が呼んでるわ」
お兄ちゃまの膝の上で至福の時を味わっていると、そこにひょっこり顔を出したのは、はかなげ美少女のお姉ちゃまだ。
目の弱い彼女だが、その分気配には敏感で、図書室にいたお兄ちゃまの位置をきちんと把握してこちらを向き、声をかけてきた。
「ありがとうレオノーラ。シャナをお願いしてもいいかな」
なんだかんだ言ってもお兄ちゃまもまだ子供。重たい私をよっこらしょっという感じで持ち上げ、私はレオノーラお姉ちゃまに抱っこされました。
ココからはお姉ちゃまとの至福の勉強タイム。
お任せ下さい。目の悪いお姉ちゃまのために私は今日も頑張りマスよ!
「シャナ、今日は何を読みましょうか?」
本をチョイスするのは私の役目です。
抱っこされたまま、見えないお姉ちゃまに適当な本をチョイスし、それを床に広げると、見えないお姉ちゃまのために朗読開始です。
「だばうぶぶぶばぶばば~(男は目力で落とせ)」
ぜひともお姉ちゃまにはどんな男もイチコロの清楚な悪女になってもらわねば!
「ぶばばばぶぶ~(最初の流し目が肝心)」
「まぁ。うふふふ」
全く朗読になっていない赤ん坊の朗読と、その赤ん坊の姿に喜ぶ妹の姿は微笑ましく、兄エルネストは赤ん坊のチョイスした微笑ましくない本の題名には気づかないのであった。
ちなみに、本日のチョイスは『悪女になるには』でした。