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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
学園編
28/160

28話 何か起きているようですが…

第二の男視点です ちょっとだけ先のお話

 空は快晴。雲はゆるりゆるりと流れ、窓から見上げる景色に、一つの都市がはっきりと見えていた。


 パルティア王国の首都クリセニアである。

 

 かの国は世界でも3指に入る大きな都市で、その背を雄大で険しい山に守られ、海に面し、肥沃な穀物地帯をいくつも持つ、貿易、交易、生産、防衛において最も理想的な場所に建つ都市である。

 都市の一画は学業にも力を入れており、この国から排出される研究者が世界各地で活躍しているという実績もあるというあらゆる面で恵まれた都だ。

 それもこれも全て、ここ3代ほど政治手腕に長けた立派な王を輩出しているからである。


 男は口元ににんまりと弧を描くと、急いで外へと駆けだした。

 途中、文官のような細身の青年にすれ違う。


「あっ! ヘイン! どこに行くつもりですか!」


「王都だよ、王都! 今下に来てるんだ!」


 男、ヘイムダールこと、通称ヘインは、そう言うと金糸の髪を揺らし、碧眼をキラキラといたずらっ子のように輝かせて飛び出していった。

 残された文官風の男は大きくため息をつく。


「少しは黒の主を見習って大人しくしてほしいものですね…」


 このボヤキもいつものことだが、男は切に願い、窓の上にちらりと見える、賑やかそうな小さな街の姿を見上げてやれやれと肩を竦めたのだった。


 




 人々が住む地上より遥か上空、人の目には映らぬ緑の塔が逆さまの姿で空を移動していることを知っている者はほとんどいない。

 ここは移動する守護塔『緑の塔』。またの名を風の塔とも呼び、世界の空と風を見守っているとも言われる。


 この塔の主はこの上ない人間好きで、塔が街や村に近づくたびに地上に降りては人間と街を堪能して帰っていく。

 

 そんな塔の主、ヘイムダールは、空に浮かぶ塔を支える大地の上に立ち、上空に見える街を見上げた。

 塔は逆さまで上空を移動しているので、塔側から見れば街は上だが、ある程度の塔の管轄範囲を抜けると、ぐるりと世界は反転して街は下に存在することになる。この塔は少し変わっているのである。


 ヘイムダールはいつものように塔から抜け出すと、人の目の届かない場所を選んで地上へと降り立つ。


 他の塔の主と違って、世の中の流行には結構敏感な方だ。服装が変に時代遅れだったり、野暮ったかったりなどはしていないと胸を張って言えるため、街に入ってしまえば他の塔の人間の様には目立たない。(顔がいいので結構目立つことを本人は自覚していない)


 いつものように旅人を装い、街の入口では旅券を見せて堂々と首都クリセニアの街に入る。

 チラチラと女性達が自分を見る視線はいつものことであるため、気にすることなく、時折手を振ったり美味しいものを扱う店を聞いたりしてぶらついた。


「おじさん串焼き3つ頂戴」


「はいよ~っ」


 女性達に聞いたうまいものランキング第一位の(10人中4人が推薦した)タレの付いた熱々の鶏肉の串焼きを頬張り、店を冷やかして歩く。

 

 ちょうど3本目を食べ終わり、串をゴミ箱に捨て、果物を絞った冷たいジュースを買って飲みながらぶらついていると、ふと周りの空気が変わった。


魔力だな…まだ弱々しいけど


 少しずつ少しずつ、調節するかのように慎重に流れ出す魔力の気配が、目の前に幾つもの糸のように張り巡らされていた。

 ヘイムダールはその一本をひょいと掴んでみた。


「!?」


 ヘイムダールだからこそ気がついた糸だが、見た目は高位の魔道士でも気が付かないような弱々しい魔力の糸だ。しかし、一度その魔力の糸を握ってしまうと話は違う。

 

 少しずつ調節されている魔力糸は一度それを掴めば、その魔力の源へ近づくにつれてだんだんと強くなっていく。それも尋常じゃない強さだ。


 おいおい、どこのどいつだよ。こんな高魔力を糸みたいに細くして外に放出するって…。


 大きく広がる魔力ではない。魔力を糸のように細く束ね、その糸を掴んだものにだけその源がわかるようにしてある。

 

 元々魔力というのは大きく噴出させて使用する。でなければ扱いが難しく、魔力を小さくまとめて使おうとすれば、箱に詰めきれなくなった綿のように噴出し、箱ごと壊す…つまり、爆発する恐れがあるのだ。

 だから、これだけ繊細に細く、しかも高位魔道士を越えるほどの魔力を込めるなど尋常ではなかった。


 ヘタすりゃ辺り一面火の海の大暴走だぞ!


 この魔力の持ち主の精神力が切れた瞬間、高魔力が噴出して辺りを襲う想像にぞっとしてヘイムダールは走り出した。



_____________


 辿り着いたのは魔道士の多く集まる研究院やギルドなどではなく、下街の人通りの少ない路地だ。そこに、数人の男達が忙しなく出たり入ったりする建物の裏口があり、男達が何か話している。


 絶対面倒事だよな、これ。


 人は好きだが、面倒事は好きじゃないヘイムダールはそれでも放っておけずにパチリと指を軽く鳴らす。

 これで小さな声も聞こえるのだ。


「兵士が動いているって話だぞ」


「こんな時に厄介な。さっさと売りに出しちまおう」


「今焦って動けば奴らの思うつぼだ。場所はばれてない。とにかく子供達が騒ぎ出さないようにしてほとぼりが冷めるのを待とう」


 会話から推測するに人身売買と言ったところだろうか。

 しかし、捕らわれた者の中に化け物がいることにここの男達は気が付いていない。


 街が吹っ飛ぶ前にこの魔力の放出を止めさせないと。


 恐怖のあまり尋常じゃない魔力を放出しているというのならば早々に止めねば暴走はすぐそこだ。

 

 ヘイムダールはスッと音もなく暗がりから飛び出すと、見張りの男達を一瞬で気絶させ、中へと入って行く。




 建物の裏口は地下へと降りる扉だったらしい。

 慎重に降りていくと、子供達の鳴き声が聞こえる。


 胸糞悪い。


 人身売買はどの国も禁じている。だが、いまだにどこかで繰り返され、こうして子供達が泣いている。


 自分の幼い頃を思い出し、苛々しながら地下の扉の前の見張りを倒して横に移動させていると、鉄の扉が強く叩かれた。


「お腹が痛いでしゅー! 〇んちがもれるでしゅよー! ここを開けないと大変なことになりましゅよ~!」


 子供の声にガクリと脱力する。

 誘拐されているわりにやけに元気な子供だ。まぁ、子供は元気に限るが。


「ちょっと待て。今開けてやるから」


 ヘイムダールは見張りの男を邪魔にならない場所に転がすと、その腰に付いた鍵束を手にし、鉄の扉を開いた。


「助けに来たぞ、子供た…どわぁ!」


 目の前に飛んできたのは小さな子供だ。

 3等身ぐらいの3・4歳の子供が顔面めがけて飛びつき、ヘイムダールの顔にへばり付いた!


 窒息する!


「ふぐーっ」


「今の内でしゅよ子供達! 姉しゃまを連れて、いじゃ走れ~!」


 バタバタと階段を駆け上がっていく足音。俺は必死に子どもの背中の服を掴み、ばりっと引きはがした。


「ぜぇぜぇっ…こ、殺す気かっ」


「悪人にゃらばやりましゅっ」

 

 子供ながらに決意の固そうな目をして両手を上げ、なんだかよくわからないポーズというか、型?のようなものをとって威嚇してくる。 

 

「俺は助けに来ただけだよ。怪我がなければいい」


 その言葉に子供はきょとんとした表情をした。



「きゃあっ!」



 しかし、次の瞬間あがった悲鳴に、目の前の子どもはヘイムダールの手を振り切るとものすごい勢いで階段を昇って行き、そして…



「全員覚悟しゅろ~!」


 


 小さな子供の怒声に慌てて階段を駆け上がったヘイムダールが見たのは、大きすぎる魔力に包まれた幼い少女と、その魔力に当てられて胸を掻き(むし)る男達の姿だった。

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