25話 意外な展開へ?
「うむ、帰って寝直せば目が覚めるやもしれんな」
ディアスは頷くと、あっけにとられる私達を置いて部屋屋を出て行こうとする。
「どこまでボケたおしゅ気でしゅかー!」
思わずつっこんじゃったよ…。
私の突込みにはっと我に返ったのは、彼と同じ経験を持つパパンだ。
パパンはすぐにしがみついている私をしっかりと抱き直すと、少しぼうっとしているディアスの前に立った。
「信じられぬのも無理はない。こんな幼くて可愛くて、天使のような・・」
言いながら娘自慢のスイッチが入ってしまったようで、呼び戻すためにスリスリ頬ずりするパパンの頬を、ぺちぺちと叩いた。
「パパン。脱線してましゅ」
「失礼」
ゴホンッと咳を一つ入れ、パパンは続ける。
「これだけ幼いと本来ならばありえないことだが、シャナは塔の全てを受け継ぎ、吸収している」
「あれが生きておるのにそれを信じろと?」
ディアスが見たのはノルディークだ。
本来塔の主はその全てを次代に譲ったところで果てるもの。白の塔の記憶の中にもこれまでの歴史にその例外は一例もなく、黒の塔の歴史の中にもその例外はないだろう。
ノルディークは「不思議ですよねぇ」と暢気に呟いてにこにこ微笑んでいる。
だが、ディアスの表情はどちらかと言えば凄みを増していっているようだ。
「もし、それが本当だとしたらあまり良くない」
真剣な表情で言われると、私でも少し不安になる。
何かまずいんだろうかとパパンとノルディークを見やれば、二人は私を安心させるように微笑み、パパンは私の背をポンポンと叩いてくれた。
「僕の主をいじめないでください。見ての通り彼女はまだ幼いのですから」
中身は36歳越えておりますがね。この世界での年を足すともうすぐ40だよ。
アラフォー! いやっアラフォーならぬジャストフォー!
ん?現在の年齢ももうすぐジャストフォー(4歳)だ! ばっちり合ってる~って、なぜか喜べないわ…
別の意味でずずぅんと項垂れると、それを見たディアスが、初めて動物を触る人のように、おずおずと私の頭を撫でた。
「お前は巻き込まれただけだ、気にするな」
子供にまで真剣フォローを入れるなんて、なんて真面目な人なんでしょうかね、このお人。
将来禿げないか心配だ。
「だいじょぶでしゅ。まだ若いでしゅから、たぶん若いでしゅからね…気になりましぇん」
ディアスは『良くない』と言った言葉に落ち込んでいると思ったらしいが、私は年齢に落ち込んでいたので会話はちぐはぐだった。
それでも、気にならないという部分は伝わったらしい。
「…よくわからんが。そうか」
笑った~!
ディアスにふんわりと優しく微笑まれ、その微笑みと普段のいかつい表情とのギャップにギャップ萌えなるものが発動し、ずきゅんっと胸を撃ちぬかれた。
思い立ったらすぐ行動。
両手を伸ばし、パパンの腕から必死にアピールすると、ディアスが戸惑いながらも怖々と私を抱っこする。
子供に慣れていないそのぎこちなさもまた萌える…。
首に腕を回し、ぎゅむっと抱き着いてむふっと笑みを浮かべた。
「おや、気に入られましたね?」
「うちの天使は誰でも受け入れる懐の広さを持つからな」
うんうんと頷くパパンの声は少しだけ涙声だが、今はこのギャップ萌えする彼を堪能したいから我慢してね。
でれでれと顔のしまりが悪くなるのを隠すためにディアスの肩に顔を埋め、スンスンと甘い男の香りを堪能する。
ノルディークの大人の姿も良かったけれど、あちらはホワイトチョコ、こちらはビターチョコといった感じで大人の雰囲気がまた堪らない! 至福~。
デレデレの私の背を怖々ポンポンと叩きながらディアスはノルディークに向き直る。
「とにかく、能力を移しても生きていられるとなると、その力を悪用するものがこの先でるかもしれん。塔の知識は能力などなくても人を凌駕するからな」
モノによっては国を揺るがす能力を手に入れることもできる。
人と関わらずに暮らしてようやく精神と力の安定を図っているような人々が、力のくびきから解き放たれて外へ出て、知識を振るったらどうなるか、というようなことをディアスは心配しているようだ。
「大丈夫ですよ。こんなことはシャナしかできませんし、私も知識や能力を悪用しようとは思いません」
ノルディークははっきりと断言すると、笑いながら私の腰に手をかけた。
「シャナ、 暴走してますよ」
ん? 暴走?
指摘されてはっと気が付けば、いつの間にかディアスの顔にべったりとしがみ付いていた。
お腹の辺りでディアスがふがふが抗議しているのがちょっとくすぐったい。
べりっとはがされ、堪能し足りなくて思わず目と手とついでに足もディアスを追いかける。
「心配ならあなたもシャナと共に学校に行きますか?」
「学校?」
ディアスが訝しげに眉根を寄せ、私ははっとしてずっとだんまりを決め込んでいたノルディークの使い魔、クラウを見やった。
「お返事っ、お返事はどうでしゅかっ?」
クラウは「あぁ」と少し遠い目をしながらも何やら分厚い封筒を取り出し、それをパパンに渡す。
王様からの手紙にしては少し大きい気もすると見つめていると、封筒から取り出されたのはいろんなサインの書かれた何枚かの紙と、小さな手紙、それからパンフレットのようなものだ。
パパンはそれを一読し、「やられたっ」と呟いて項垂れた。
私を抱っこするノルディークがそれに近づくので、私も手紙を覗き込めば
『白の塔の意向に沿うよう我が国が誇る最高の学園を用意した』
と手紙の冒頭に書かれていた。
ついでに、たくさんの署名はぜひ教員として子供達を教えてくれないだろうかという嘆願書だ。
「しゃしゅが王しゃまでしゅね~。ただでは動きましぇんでしたか」
ダメで元々でもギブアンドテイクを求めてきたようだ。
それにしても教員かぁ…
「グッモーニングエブリワンでしゅね。ガッコに通ってしぇんしぇもやるなんて両立できましゅかね~」
学校の教壇に立つ大人な自分を想像(妄想)してニマニマ微笑む。
先生である私を巡って子供達が争奪戦。
私のために戦わないで~! なんて事件も起きたりして?
「むふふふふふ」
「シャナは教員にはなれませんよ。魔法のコントロールを覚えなければいけないんですから」
がが~んっ
めくるめく教師と生徒の禁断の愛の夢が散った…
ばふっとノルディークの肩に顔を埋めて拗ねていると、ノルディークが背中をポンポンしてくれる。
皆ポンポン好きだねぇ。私もされるの好きだけど。
「そういうことか…。ならば、その教員役、私が引き受けよう」
何やら一人で納得したらしいディアスの声に、私は顔を上げた。
そこには、うんうんうなずくディアスと、唖然茫然とした表情のパパンとノルディークがいた。




