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守護塔で引き籠ります!  作者: のな
始まり編
22/160

22話 新居

「お帰りなさいませ、マスターとリンスター家の皆様」


 王都の貴族街、その中程にある一等地付近で、一度シェールを降ろして別れた私達は、貴族街のはずれにある錆びた門を潜り、草ぼうぼうのお化け屋敷のような庭を通って新たな屋敷の前にピタリと馬車を止めた。


 そこで迎えてくれたのはノルディークの使い魔、クラウである。


「? クラウ? なぜここに?」


 クラウの役目は塔の管理。本来ならば塔にいるはずの彼の姿に、ノルディークが首を傾げる。


「少々用がありまして」


 チラリとクラウが私を見るが、私は素知らぬ顔をする。ここでばれてはいけない。

 クラウはノルディークと話をし始め、余計なことは言うなと視線で釘を刺しておいた。


 それよりも、今は新居です!


 私は屋敷を見上げ、テンションが駄々下がった…


「ぼろいでしゅねぇ…」


 パッと見洋風お化け屋敷のようだ。

 白亜の壁は薄汚れびっしりと蔦がはっている、それに、人が何年も入っていなかったためにあちこち痛んでいそうな箇所が建物全体に見て取れる。綺麗なのは、業者さんがはめなおしたという窓ぐらいだ。


「本当にお買い得物件なんでしゅかね?」


 実はここを勧めたのはノルディークだ。

 彼曰く、この屋敷は元々白の塔の主の持ち物で、現在見た目と中身に難ありで買い手がつかないようになっているらしい。だが、元々はこの上なく住み心地のいいお屋敷だという話で、手を加えればすぐに住めるという話だったのだ。


 手を加えればって次元の話かなこれ? それに、中身に難ありってどういうこと?


 私はぴょんぴょんと跳ねるように玄関前の小さな段差を飛び越えて両開きの巨大な玄関の取っ手に手を伸ばした…


「とどきましぇん」 


 まさかの子供に厳しい造り!


「開けてあげるよ」


 優しい兄様が手を伸ばすと、ドアの取っ手はふっと姿を消した。

 

 ・・・・消えたっ?


 私と兄様は顔を見合わせてドアをじっと見つめる。と、取っ手は間違いなくそこに姿を現すのに、兄様がつかもうとすると消えるのだ。

 兄様が何度か空気を掴んでいると、馬車の御者さんが父様から運賃を貰い受け、荷物を降ろしながら会話するのが聞こえた。


「この屋敷は子供は入れず、大人は悪夢にうなされる幽霊屋敷ですよ。こんな所を買いなさったとは酔狂な貴族さん達だが、どうするね? 今なら別の場所にも送り届けてやれるが」


 どうやら親切心で日が暮れないうちに別の場所に移動した方がいいと言ってくれているようだ。

 しかし、そう言われてはいそうですかと引き下がれる女でないのよ、私は。


 むきっと腕まくりをし、助走をつけて玄関の取っ手に飛びつく。


「とぉうっ」


 しかし、取っ手は非情にも私の目の前から消え去る…とどうなるか。

 当然掴むところの亡くなった私は飛び上がった勢いのまま扉自身にどごんっとぶつかり、そのまま扉に跳ね返されて玄関に尻餅をついた。


「お…おおぉぉぉぉぉぉ~っ」


 痔になったらどうしてくれるっ!


 結構な衝撃に涙目で打ち付けたお尻をさすっていると、慌てて父様が駆け寄り、私を抱き上げた。


「大丈夫か?」


「平気でしゅ~」


 そのままパパンの首に腕を回して包容を堪能。


「あ、とすみません。今仕掛けを解除します」

 

 ん? 仕掛けとな?


 ノルディークは今の今までクラウと話し込んでいたらしく、ようやく事態に気が付くと、屋敷の前に立って何やら魔法陣らしきものを木の枝で地面にガリガリと描き出した。

 

 初めて見る魔法陣を興味津々に見つめていると、私の脳裏に浮かび上がる魔法陣の意味。

 

『解除の魔法陣』


 あらゆる物質にかけられた魔法効果を解く。効果と範囲は術者による。


 当然効果も範囲もノルディークならば並み以上。

 発動した小さな魔法陣は白い輝きを帯び、その光の魔法陣はそのまま地面に描かれた魔法陣から浮かび上がって上空へと飛び上がったかと思うと、屋敷の上空の中央部分にクルクル回転しながらとどまり、一瞬でその大きさを屋敷を中心に門までの広範囲に広げた。


「うわぁ~っ」


 空を覆う魔法陣に、馬車の御者達も呆気にとられて口を開けたまま空を見上げている。

 

 魔法陣はそのまま輝きをとどめながらまっすぐ平行に降りてきて、すっと地面に吸い込まれ、幻であったかのように跡形もなく消えた。


 何が起きたのか、と聞くまでもなく、周りの景色は先程とは一変していた。




 草ぼうぼうの前庭がすっきりした芝生に覆われ、荒れた花壇の花は生気を取り戻し、見事なバラ園に。

 建物を振り返れば、ぼろぼろのお化け屋敷が、新築のようなお屋敷に変身していた。

 当然白亜の壁は白く、蔦も剥がれて消えている。


 馬車の御者も私達も呆然。


「…少し、周りが明るくなった気がするわ。それに薔薇の臭い。母様、何があったの?」


 姉様の言葉にはっと我に返り、私は急いで塔の主の記憶を検索した。


『青の館』


 王都がまだ町規模だった時からある大きなこの屋敷は、始めの王様のお兄さんが建てた館だ。それを当時の白の塔の主が貰い受け、妻と共に過ごした思い出の場所らしい。

 

 塔にこもる前に保存の魔法をかけ、朽ちることがないように手を加えたこの屋敷は、その後一度泥棒に荒らされかけたため、ゴーストハウスになるよう魔法がさらにかけられたようだ。

 それであのおんぼろの姿だったらしい。


 ちなみに築2000年近い。状態は築5年~10年だけど。


「ねーちゃまっ、おやちきがうつくしゅくなりましゅたっ! ご案内しましゅよっ」


 パパンの肩をトントン叩いて降ろしてもらうと、私は戸惑う姉様と手を繋いで導く。

 今度は屋敷の扉の取っ手も子供が引ける高さまであるので、問題なく扉を開き…




「やっと見つけたぞ! 白の…」



 バタン!


 すぐに扉を閉めた。


 屋敷の中に、すでになんかいたよ…

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